こく)” の例文
そして、もう一こくもここにいるのが危険きけんになりましたときに、二人ふたり相談そうだんをして、どこか安全あんぜんなところへのがれることにいたしました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黄色いほこりですぐ知れた。空地の草ッ原では、はや執行の寸前とみえ、正午しょううまこくの合図を待って、首斬り刀に水をそそぐばかりらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
基康 わしの前で内輪うちわの争いは、見るにえぬわい。さるこくまでに考えを決められい。猶予ゆうよはなりませぬぞ。(退場。家来つづく)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
こく——亞尼アンニーかほ——微塵みじんくだけた白色檣燈はくしよくしようとう——あやしふね——双眼鏡さうがんきやうなどがかはる/\ゆめまぼろしと腦中のうちゆうにちらついてたが
四月三十日のひつじこく、彼等の軍勢を打ち破った浅野但馬守長晟あさのたじまのかみながあきら大御所おおごしょ徳川家康とくがわいえやすに戦いの勝利を報じた上、直之の首を献上けんじょうした。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かくのごとき前世紀の紀念を満面にこくして教壇に立つ彼は、その生徒に対して授業以外にだいなる訓戒を垂れつつあるに相違ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一昨日、十七日の夜のうしこくのころ、自分は五、六発の砲声をまくらの上で聞いた。寄せ太鼓の音をも聞いた。それが東の方から聞こえて来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お前は默つてゐろ。——ところでお美乃さん、もう聽いてゐるだらうが、お處刑は明後日の正うまこくだ。正直のところ、それまでに、小三郎を
なん御用ごようぞんじませんが、一こくはやくお師匠ししょうさんにおにかかって、おねがいしたいことがあると、それはそれは、いそいでおりますんで。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひとつ所を行きつ戻りつして暫くは捕手の眼を逃れていたが、その夜のいぬこく(午後八時)頃にとうとう縄にかかった。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あぐる程のものならんとおほせありしことなりころ貞享ていきやう甲子きのえね正月廿日こく玉の如くなる御男子ごなんし誕生たんじやうまし/\ければ大納言光貞卿をはじめ一家中いつかちう萬歳まんざい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「今日のうしこく、あの寺の正門からずかずか入って往け、それにはここの祠の中を開けると、お前の着て往く物がある、それ、これを持って往け」
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
海の波は、こく一刻と高くなり、はげしくあわをとばしています。まるで、たがいに高くなりっこをしたり、あわのとばしっこをしているようです。
もううしこく、あんまりすえかたのことが思われて、七兵衛待遠しさに眠れないので、お松は、かねて朋輩衆から聞いた引帯ひきおび禁厭まじないのことを思い出した。
このみち今は草木にふさがれてもとめがたしといへり。絶頂ぜつてうにも石にこくして苗場大権現なへばだいごんげんとあり、案内者は此石人作にあらず、天然の物といへり。俗伝なるべし。
それはキリストけう教會けうくわい附屬ふぞく病院びやうゐんなので、そのこといては、大分だいぶ異議いぎ持出もちだしたものもあつたが、この場合ばあひこくも、病人びやうにん見過みすごしてことはできなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
風はこくこくはげしく吹き加わり、横なぐりの大粒おおつぶの雨がほおをうった、とはげしい電光が頭上にきらめいた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
だんこくを移して、いとまを告げて去らんとすれば、先生なおしばしと引留ひきとめられしが、やがて玄関げんかんまで送り出られたるぞ、あにらんや、これ一生いっしょう永訣えいけつならんとは。
されどそこもとには、天草にて危急の場合を助けられ候恩義有之これあり、容易にやいばを下し難く候については、此状披見次第さるこくまでに早急に国遠こくおんなさるべく候。以上
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして一こくずつにくらくなって行くその平地を見ていると、心に来てなにかものを言うものがあるようだ。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
だんだんとあやしい人間は近づいて来ます。私は兄の腰にシッカリすがりついていましたが、こわいもの見たさで、眼だけはその人間から一こくも離しませんでした。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
誰だか知らないが白い衣を著たへんな人がうしこく参りをして、私にかたどった人形ひとがたに呪いと共に瞋恚しんいの釘を打ち込んでいるのではあるまいかという妄想に襲われたりした。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
四年あとになりますが、正午まひるというのに、この峠向うの藪原宿やぶはらじゅくから火が出ました。正午しょううまこくの火事は大きくなると、何国いずこでも申しますが、全く大焼けでございました。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう一こくに云うものではないよ。……どんな人間にだってよいところはあるよ。……お前の攻撃しているその男だって、今に大功をあらわすよ。……それよか物騒な大鉞を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瀧口胸愈〻轟き、氣もなかば亂れて飛ぶが如く濱邊はまべをさして走り行く。雲に聳ゆる高野の山よりは、眼下に瞰下みおろす和歌の浦も、歩めば遠き十里の郷路、元より一こく半晌はんときの途ならず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ゆうべとりこくさがりに長橋のおばあさまが亡くなられた。長命な方で、八十七歳になっておいでだった。御臨終は満ち潮のしぜんと退いてゆくような御平安なものだったという。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こくに有馬浦へ上陸、角蔵三吉其他男女十六名を摘め取り島原へ連行したが、北岡といふ所でこの者共を船に積込んでゐると、信者二百余名が跡を追ふて暇乞ひにやつて来た。
島原一揆異聞 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ひらいて見れば、金無垢きんむくの観音の立像りつぞうでございます。裏を返して見れば、天民てんみんつゝしんでこくすとあり、厨子の裏に朱漆しゅうるしにて清水助右衞門としるして有りますを見て、清次は小首を傾け。
忠之はたとひ身の破滅は兔れぬにしても、なるべく本邸で果てたいと云ふので、内藏允が思案して、忠之の駕籠かごを小人數で取り卷き、素槍すやり一本持たせて、夜こくに神奈川を立たせた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
晩春ばんしゅんの夜、三こく静寂せいじゃくやぶって、とつ! こぶ寺うらに起る剣々相摩けんけんそうまのひびきだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一人の女と一人の女形おやま、その美しい円味まるみ、匂いこぼれるようななまめかしさ、悩ましさはともかくとして、おりふし「青楼十二時」でもひもどいて、たつこくの画面に打衝ぶつかると、ハタと彼は
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そんぢやこつちのおとつゝあん、お八釜敷やかましがした、わしやけえりませうはあ、一こくちや邪魔じやまでがせうから、こつちのおとつゝあんも邪魔じやまんねえはうがようがすよねえ」おつたは洋傘かさひらいて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
〔譯〕一そく間斷かんだん無く、一こく急忙きふばう無し。即ち是れ天地の氣象きしやうなり。
欽慕きんぼあまついに右の文字をもいしこくしたることならん。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
山行きて零れし朴のたなぞこに露置くこくとなりにけるかな
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
禅院の日時計のこく傾きてかへり出づべき千山ならず
「あなたはうしこく参りのわら人形よ」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「こ、今夜、こく前に——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「もうこんなみじめな下界げかいには一こくもいたくない。」といって、いもうとはふたたびはとの姿すがたとなって、天上てんじょう楽園らくえんかえってしまったのです。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
うまこくを期して、一舟いっしゅううかべ、敵味方の見る中で腹切らん。そのときをもって、和議を結ばん、毛利家を万代の安きにおすえ下されよ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この市街戦はその日ひつじこくの終わりにわたった。長州方は中立売なかだちうり、蛤門、境町の三方面に破れ、およそ二百余の死体をのこしすてて敗走した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから、れいこく一件いつけんいては、水兵すいへい一同いちどうわたくしおなやうに、無※ばかはなしだとわらつてしまつたが、ひとり櫻木大佐さくらぎたいさのみはわらはなかつた。
「冗談じゃありません、生臭なまぐさ坊主や心中の片割れを見に行きゃしません、今日のうまこくに、日本橋の上に、神武以来の珍しい見世物があるんですぜ」
搖上ゆりあ搖下ゆりおろ此方こなたたゞよひ彼方へゆすれ正月四日のあさこくより翌五日のさるこくまで風は少しもやま吹通ふきとほしければ二十一人の者共は食事しよくじもせす二日ふつか二夜ふたよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
現在はこくをきざんでわれを待つ。有為ういの天下は眼前に落ちきたる。双のかいなは風をって乾坤けんこんに鳴る。——これだから宗近君は叡山に登りながら何にも知らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このみち今は草木にふさがれてもとめがたしといへり。絶頂ぜつてうにも石にこくして苗場大権現なへばだいごんげんとあり、案内者は此石人作にあらず、天然の物といへり。俗伝なるべし。
「今夜すぐにこの火をもやすのではない。今から数へて百日目の夜、時刻はやはりこく、お忘れなさるな。」
まず、その小風呂敷に目がつくと、紫縮緬むらさきちりめんのまだこくなのに、五七の桐が鮮かに染め抜いてあります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ふふふ。おめえたち、あんまりかなぎるぜ。おせんちゃんにゃ、おせんちゃんのようがあるんだ。野暮やぼめだてするよりも、一こくはやかえしてやんねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。さるこくさがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)