しる)” の例文
首をくくりつけた板は、明かに舟にしたもので、その船首に当る箇所には、船名のつもりか、筆太に「獄門舟」としるされてさえいた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
神事かみごとはすべて児戯じぎたること多し、しかれども凡慮ぼんりよを以て量識はかりしるべからず。此堂押にるゐせし事他国にもあるべし、しばらくしるしてるゐしめす。
その位地に応じて番附面にその役名と芸名とをしるすのが習いで、その番附面の位争いというものがすこぶる面倒であったとか聞いている。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余は本篇の諸所に於て現存げんぞんのエスキモが好くこの石器時代人民に似たりとの事をしるし置しが、古物、遺跡、口碑を總括して判斷はんだんするに
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
諸大名宿泊のおりの人数、旅籠賃はたごちんから、入り用の風呂ふろ何本、火鉢ひばち何個、燭台しょくだい何本というようなことまで、事こまかにしるしつけてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
己が名(我已むをえずしてこゝにしるせり)の呼ばるゝを聞きてわれ身をめぐらせしとき、我はさきに天使の撒華さんげにおほはれて 五八—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と博士はしるせり。中にも鶯横町はくねり曲りて殊に分りにくき処なるに尋ね迷ひてむなしく帰る俗客もあるべしかし。(一月十八日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
南北朝頃の諏訪大明神絵詞に、当時の北海道における蝦夷に三種あることをしるして、その一種に「日の本」と云うのがあるとある。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
何をどう書き飛ばすにせよ、さうは註文に応じ難ければ、思ひつきたること二三をしるしてやむべし。幸ひに孟浪まんらんとがむることなかれ。
テレーゼは自分の肖像をベートーヴェンに贈ったがその献辞に「稀有の天才、偉大な芸術家、善き人に。T・B・(34)」としるした。
それからまたどく』としるしてあるびんから澤山たくさんめば、それが屹度きつとおそかれはやかれからだがいになるものだとふことをけつしてわすれませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
わたくしは抽斎の師となるべき人物を数えて京水けいすいに及ぶに当って、ここに京水の身上しんしょうに関するうたがいしるして、世の人のおしえを受けたい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
諸君の中には近頃一読せられた人もあろうと思うが、清水文弥翁の『郷土史話』には、野州やしゅう那須なすの農村における実験がしるしてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「われにこそつらさは君が見すれども人にすみつく顔のけしきよ」とんだ故事があって、源氏の言葉はそれにもとづくよししるしてある。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『小児が六歳までの間に死にます数は実におびただしいものでワッペウ氏の表には平均百人のうち十五人三分としるしてござります』
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
所在しよざいしるすのに、日本にほんでは、くに府縣ふけんちやう番地ばんちだいよりせうるに、歐米おうべいでは、番地ばんちちやう府縣ふけんくにと、ぎやくせうよりだいる。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
本船ほんせんより射出しやしゆつする船燈せんとうひかりでチラとみとめたのはその船尾せんびしるされてあつた「海蛇丸かいだまる」の三、「海蛇丸かいだまる」とはたしかにかのふね名稱めいしやうである。
多少あかになった薩摩絣さつまがすりの着物を着て、観世撚かんぜよりの羽織ひもにも、きちんとはいたはかまにも、その人の気質が明らかに書きしるしてあるようだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
右にしるしぬるは先祖を尊むと、神明を崇むると、親族を陸じくすると、以上三事なり。これが子供を育つるには大切なる事なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さきには、荒木を征伐し、いままたこの戦果をうけ取ったので、安土は凱歌がいかに沸いた。「信長記」にはその状況をしるしてこういっている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食後の津田はとこわきに置かれた小机の前に向った。下女に頼んで取り寄せた絵端書へ一口ずつ文句を書き足して、その表へ名宛なあてしるした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひと余輩よはい所謂いわゆる藩の岸上に立つ者なれば、望観ぼうかんするところ、或は藩中の士族よりも精密ならんと思い、いささかその望観のままをしるしたるのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
下部かぶ貝塚かひづかが、普通ふつうので、其上そのうへ彌生式やよひしき貝塚かひづかかさなつてるとか、たしかそんなことであつた。いま雜誌ざつし手元てもといのでくはしくはしるされぬ。
なさったのでございます。死んで行くわたしは定まる縁でありますが、生きて残るあなた様のお身の上が心配としるしてあるそうでございます
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
信濃町権田原しなのまちごんだわら、青山の大通を横切って三聯隊裏さんれんたいうらしるした赤い棒の立っているあたりまで、その沿道の大きな建物はことごとく陸軍に属するもの
念のために一つ一つ紙へ計算をしるして御覧なさい。エート、先ずサンドウィッチの原料として、食パン一きんすく切って二十きれにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ワタクシハかねテ世間ニ於テ人間ノ美ト醜トニヨル差別待遇ノはなはダシイノニ大ナル軽蔑ヲ抱イテイタ」とヒルミ夫人はその論文にしるしている。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
日記の第一項の日付けははっきりせず、その紙の上部は引き裂かれていたが、残った分には次のようなことがしるされている。
ともいい、日々の売上げ廿八、九銭よりよくて三十九銭と帳をつけ、五厘六厘の客ゆえ、百人あまりもくるため大多忙だとしるしたのを見れば
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あえてとがむるにらずといえども、これを文字にしるして新聞紙上におおやけにするに至りては、つたえまた伝えて或は世人をあやまるの掛念けねんなきにあらず。
又中には、何にも彫つてないのや、点や、コンマや、其他吾々の言葉をしるした種々の文字や符号のすべてと同じだけのいろいろの活字がある。
〔譯〕遠方えんぱうに歩をこゝろむる者、往往にして正路せいろすてて、捷徑せうけいはしり、或はあやまつて林※りんまうに入る、わらふ可きなり。人事多く此にるゐす。とくに之をしるす。
これは三年の前、小畑とゆうなるうたしるさんとくわだててつづりたるが、その白きままにて今日まで捨てられたるを取り出でて、今年の日記書きて行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
下手人は不明なれども、察するに貸借上の遺趣よりせるわざならんとは、諸新聞のしるせる如く、人も皆思ふところなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
甲斐は書状をひらいた。それには「首尾よく住み込むことができた」という意味が、簡単に書いてあり、署名は「玄」という一字がしるしてあった。
そして、舷側ふなばたにいて測鉛で水深を測っている男がどこでも海図にしるしてあるよりも水が深いと言ったけれども、ジョンは一度も躊躇しなかった。
けれども私が、それらの小説を本気で書きはじめたのは、その前年からの事であった。その頃の事情を「東京八景」には次のようにしるされてある。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
両様りやうやうともくはしく姿すがたしるさゞれども、一読いちどくさい、われらがには、東遊記とういうきうつしたるとおなさまえてゆかし。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
アストレイの書(上に引く)三巻三一〇頁に、ポルトガル王が、ゼブラ四疋に車を牽かせたとしるし、往年英人ゼブラに乗りおおせた者あると聞いた。
狐の首丘のはなしや、胡馬越鳥の喩の如きは、しばらく信ず可からずとするも、燕、雁、狗、猫の類の舊をしるし故を忘れざるは、又異とすべきである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
掲げ其中より取出とりいだしたる柳樽やなぎだる家内かない喜多留きたるしるしゝは妻をめとるの祝言にやあさ白髮しらがとかい附しは麻の如くにいとすぐとも白髮しらがまで消光くらすなる可し其のほかするめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この中岳なかたけ火口かこうまへしるしたとほり、南北なんぼく連續れんぞくした數箇すうこいけから成立なりたち、おもなものとして、北中南きたなかみなみみつつを區別くべつする。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それをむと、日本人につぽんじん朝鮮ちようせんめてつたことがしるされてありますが、多分たぶん神功皇后じんぐうこう/″\三韓征伐さんかんせいばつのときのことなどがいてあるようにおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
余はまたここにエベネゼル(助けの石)を立て、サムエルとともにこれにしるしていう「エホバここまで我を助け給えり」と(撒母耳サムエル前書七章十二節)。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ところが、彼の死後、私ははからずも獄中でしるした手記を手に入れたのです。之は彼の遺書と見らるべきものです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
本編雪のほかの事をのせたるは雪譜せつふの名をむなしうするにたれども、しばらくしるして好事かうず話柄わへいす。増修そうしうせつまたしかり。
するとA老人が逝去なくなった前夜、A夫人から電報が来て、九時に停車場ステーションに着くから迎えに来てくれとしるしてあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それは船長がやや少し若く描かれているほかは、この日誌にしるされたところと、まったく符合しているのである。
「取り返すことには致しまするが、その巻き奉書にはどのようなことが、しるされてあるのでござりましょうか?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
建設中止歎願書にしるされた、この明瞭な道理によって、反対運動が起されたのである。それが、うまく運ばない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)