うす)” の例文
「すると、門前の豆腐屋がきっと起きて、雨戸を明ける。ぎっぎっと豆をうすく音がする。ざあざあと豆腐の水をえる音がする」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
屋根からごろごろうすのお見舞い、かの猿蟹合戦、猿への刑罰そのままの八方ふさがり、息もたえだえ、魔窟の一室にころがり込んだ。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うすもころがしてました。おもちにするおこめ裏口うらぐちかまどしましたから、そこへも手傳てつだひのおばあさんがたのしいきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
間もなく病的に蒼褪あおざめたうすのような馬の大きな頭が、わたしの目路めじちかくに鼠色とはいえ明色ではない悒々ゆうゆうしい影をひいてとまった。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
鼠(ねずみ)の上の処はうすなり。しかるにこの頃ろうの字を書く人あり。後者は蠟獵臘などの字のつくりにて「ろふ」「れふ」の音なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おつぎは浴衣ゆかたをとつて襦袢じゆばんひとつにつて、ざるみづつていた糯米もちごめかまどはじめた。勘次かんじはだかうすきねあらうて檐端のきばゑた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
米搗こめつききねが一斉にうすの中に落ちたり上つたりするやうな具合にまでは行つてゐなかつたやうであるが、当今ではあんな風にまで発達した。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「二かいればねずみがさわぐ。うすなかはくものだらけ。かまの中はあたたかで、用心ようじんがいちばんいい。そうだ、やっぱりかまの中によう。」
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
赤いうすのような頭をした漁夫が、一升びんそのままで、酒を端のかけた茶碗ちゃわんいで、するめをムシャムシャやりながら飲んでいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
木人はそれを刈ってんで、たちまちに七、八升の蕎麦粉を製した。彼女はさらに小さいうすを持ち出すと、木人はそれをいて麺を作った。
パン屋のかまどの跡や、粉をこねたうすのようなものもころがっていた。娼家しょうかの入り口の軒には大きな石の penis が壁から突き出ていた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一々言立ことだてをするのや、近年まであったカチカチ団子と言う小さいきねうすいて、カチカチと拍子を取るものが現われた。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
となりとなりうへしたならんで、かさなつて、あるひあをく、あるひあかく、あるひくろく、おようすほどの、へんな、可厭いやけものいくつともなくならんだ。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
米を水に浸し柔げてのちに、うすで粉にくということの第二の便宜は、またこれをもって色々の物の形象を作り得る点にあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一幅淞波いっぷくのしょうは誰剪取たれかせんしゅせん 春潮痕しゅんちょうのあとは似嫁時衣にたりかじのい」とうたった詩人石埭せきたい翁をしてあのうすを連ねたような石がきを見せしめたら、はたしてなんと言うであろう。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その音がうすに綿でも入れて掲くように静かに聞えれば、その年は豊年だが、空臼をつくような音だと、その年は冷害などで穀物がとれぬという。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
謙吉が土間に轉つてゐる木うすに腰かけて、湖の方に眼をやりながら、ぼんやり考へこんでゐる。近くにお銀が立つてゐる。
「ははは。麦ぢやない、これはお米だよ。この外套を一々うすで磨り落して、それからまたしらげ上げたあとでなくつちやお互の口にのぼらないんだ。」
それから、彼女の足は、ダブダブと肥え太った男のからだじゅうを、まるでうすの中のもちを踏むように踏みつづける。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水車すいしゃは、「カタン—コトン、カタン—コトン、カタン—コトン。」とまわっていました。小舎こやなかには、二十にんこなひきおとこが、うすってました。
きねを持って、紺の布を、うすく仕事は、若い娘たちの仕事として、染屋の垣の内から、どこかの浜へ聞えてゆく。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傘が触って入口ののきに竿を横たえて懸けつるしてあった玉蜀黍とうもろこし一把いちわをバタリと落した途端に、土間の隅のうすのあたりにかがんでいたらしい白い庭鳥にわとりが二
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あの物置の細工場で細工物をして居るところへ、頭の上からうすが落ちて來たんですつて——昨夜のことですよ」
重兵衛も自ら庭に降り立って、芥子のうすを踏むことがあった。そこで豊住町の芥子屋というこころで、自ら豊芥子ほうかいしと署した。そしてこれを以て世に行われた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ごろごろ坊主頭が鉄のうす、鉄のきねひどい鬼にたたぶされて苦しんで居るのを見たが、それでもまあ普通の坊主は地獄の中でも少しはまた楽な事がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
義弟の郁之助を稽古におくりだし、姑のすぎ女と自分の食事をすませて、あとかたづけもそこそこに納屋へゆくと、良人はもうひとりでうすをまわしていた。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
淵沢小十郎はすがめの赭黒あかぐろいごりごりしたおやじで胴は小さなうすぐらいはあったしてのひらは北島の毘沙門びしゃもんさんの病気をなおすための手形ぐらい大きく厚かった。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
満蔵は二俵目の米を倉から出してきてうすへ入れてる。おはまは芋を鍋いっぱいに入れてきて囲炉裏いろりにかけた。あとはお祖母さんに頼んでまた繩ないにかかる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
炬燵こたつの中で小さい孫を膝にのせ、暑い夏の日、日陰の涼み台の上で、ある時はそら豆の皮などむきながら、またある時は孫と向い合ってひきうすを回しながら
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
赤蜻蛉あかとんぼう田圃たんぼに乱るれば横堀にうづらなく頃も近づきぬ、朝夕あさゆふの秋風身にしみ渡りて上清じやうせいが店の蚊遣香かやりこう懐炉灰くわいろばいに座をゆづり、石橋の田村やが粉挽こなひうすの音さびしく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつしか、まったく足音あしおとも、とだえてしまうと、うみおとが、うすをひいているように、ゴウロ、ゴウロとさびしいゆき野原のはらをころがって、こえてきたのです。
幸福の鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
立ち並ぶ仮屋に売り声やかましくどよんで、うす木鉢きばち手桶ておけなどの市物が、真新しい白さを見せている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「このあいだもこの人に『うすへ入れてき殺すぞ』っておっしゃいましたわ」とマリヤが口を添えた。
うすだとか船枕ふなまくらだとか煙草入たばこいれだとか、立派な形を木から刻み出しますが、中でも見事なのは舟で用いる垢取あかとりで、思わずその形の美しさに見とれます。材は松を用います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
然し、昇のはうす上石うはいしの樣だと思ふ。そして、また、あの大きな口が一文字に延びてゐると。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
我々はうすでその芽をつぶして胚乳の澱粉だけを人間の食料としているので滋養分も多いわけです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
月に十四、五両も上がるうす幾個いくつとかあって米を運ぶ車をく馬の六、七頭も飼ッてある。たいしたものだと梅ちゃんの母親などはしょっちゅううらやんでいるくらいで。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから力持、相撲のように太った女、諸肌脱もろはだぬぎで和藤内わとうないのような風をしているその女の腹の上へうすを載せて、その上で餅をいたり、その臼をまた手玉に取ったりする。
宋代そうだいには抹茶ひきちゃが流行するようになって茶の第二の流派を生じた。茶の葉は小さなうすいて細粉とし、その調製品を湯に入れて割り竹製の精巧な小箒こぼうきでまぜるのであった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
コゼットは彼らの間にあって、二重の圧迫を受け、うすかれると同時にくぎ抜きではさまれてる者のようなありさまだった。夫婦の者は各自異なったやり方を持っていた。
ただ向うの隅の水銀燈の下に、大きな大理石のうすみたようなものがあって、その中で天井から突出たモートル仕掛けの鉄の棒がガリガリガリガリと廻転しているだけなんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
探索隊の役人たちは、やむなく老夫婦をしばり上げ、むちうち、責めさいなんで、山から引きずりおろして来た。里に出て宿を取るときには、逃亡を怖れて老夫婦にうすを背負わせた。
そののち叔父はうすたれ、かれは木から落猿おちざるとなつて、この山に漂泊さまよひ来つ、金眸大王に事へしなれど、むかしとったる杵柄きねづかとやら、一束ひとつかの矢一張ひとはりの弓だに持たさば、彼の黄金丸如きは
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
殊に私を驚喜させたのは、その水田にうすづくところの、藁屋わらやの蔭の水車であった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
例年れいねん隣家となりを頼んだもち今年ことし自家うちくので、懇意こんいな車屋夫妻がうすきね蒸籠せいろうかままで荷車にぐるまに積んで来て、悉皆すっかり舂いてくれた。となり二軒に大威張おおいばり牡丹餅ぼたもちをくばる。肥後流ひごりゅう丸餅まるもちを造る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、彼の屋敷内の数多い倉の一つにも一人の人柱は用ゐてはゐない。一日に何こくびょうき出す穀倉のきねうすの一つでも、何十人のなかの誰の指一本でも搗きつぶしたことがあらうか……何にもない。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「あの、おれちよつと遅くなるから、今夜お前、うすいとけ。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
のうろにうすひく侏儒しゆじゆの国にかも
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もみうすつくるそまがはやわざ 水
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その太鼓をうすに使つて