むな)” の例文
といってそのむなもとへ、石火せっかにのびてきた朱柄あかえやり石突いしづきは、かれの大刀が相手の身にふれぬうちに、かれの肋骨あばらの下を見舞みまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神将は手に三叉みつまたほこを持っていましたが、いきなりその戟の切先きっさきを杜子春のむなもとへ向けながら、眼をいからせて叱りつけるのを聞けば
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云いながら、突然いきなり國藏のむなぐらを取って、奥座敷の小間へ引摺り込みましたが、此の跡はどう相成りましょうか、明晩申し上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
みちのつよきひとなればむなぐるしさえがたうて、まくら小抱卷こがいまき仮初かりそめにふしたまひしを、小間こまづかひのよねよりほか、えてものあらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「堪忍して頂戴」……桃割の少女が、死に臨んで、若い恋人のむなもとに囁いたこの一句は、男一人の命には代へられない。
命を弄ぶ男ふたり(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
学んで風呂のあがり場から早くも聞き伝えた緊急動議あなたはやと千古不変万世不朽のむなづくし鐘にござる数々のうらみを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それは奇妙きみょうな音色をあげつつ、かわっていった。と、二人はにわかむなさきがわるくなって、はきそうになった。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうすると葉子はいきなり立ち上がって貞世のむなもとをつかむなり寝台から引きずりおろしてこづき回した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
よき折から京方かみがたに対し、関東の武威をあらはすため、都鳥をて、こうはねたかの矢をむなさきに裏掻うらかいてつらぬいたまゝを、わざと、蜜柑箱みかんばこと思ふが如何いかが、即ち其の昔
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あっ! 張り切った二個の乳房、むなもといっぱいにもり上がっている。まさしく変装した女である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ふしぎなことって、どんなことだね。」と、博士はかせも、なんとなく、むなさわぎをかんじました。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やるせない涙がクッとむなさきにつっかけて来た。梓は、ほんとうに死ぬかも知れない。妹もあの時そうだった。いよいよ最後の決心をしなければならない時が来たと思った。
「どうしたのでござりましょうな。いかなお兄上さまでも、少しおかえりがおそうござります。それにお招きなさった方は、素姓すじょうが素姓、わたくし何だかむな騒ぎがしてなりませぬ」
その間からお酒にむな焼けのしている皮がはみだすのを、招き猫のような手附きで話をしながら、時々その手で、衣紋えもんを押上げるのだった。羽織のひもかんぬきのように、一文字に胸を渡っていた。
「やつらはやつらの仲間でない者は人間じゃないと思っていやがる。心の腐った者だと思っていやがる。ふむ、羊の皮をかぶったやつらの謙遜けんそんぶった傲慢ごうまんさくらいむなくそのわるいものはないよ。」
この日の朝、三輪の里なる植田丹後守は、しきりにむなさわぎがします。
見るやいな直樣すぐさま横町にかくれ候事三度に及び候故餘り殘念に存じ其翌日より千太郎のもどり道に待受をり漸々やう/\面會めんくわい致し候間土手下より中反圃までむなぐらを取て連行つれゆきくやしいやらかなしいやらにて夢中むちうに成萬一もし手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君を見てびやうのやなぎ薫るごときむなさわぎをばおぼえそめにき
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なまめかしむなおしろいを濃く見せて子に乳をやる若き人妻
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
にわかにむなさわぎがして、くら予感よかんがしてきた。
と堀口生はいきなり正三君のむなぐらを取った。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おきつ鳥二三 むな見る時
「半分実をいって、半分いわずにおいては、なにやらむなつかえがしてならん。事のついでになにもかも吐いてお聞かせするがの、裏方」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この権衡つりあひうしなはれたる時においむなづくしを取るもおそからずとは、これも当世たうせう奥様気質也おくさまかたぎなりとらまきの一節也せつなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
なにしろ一刀ひとかたなとはまをすものの、むなもとのきずでございますから、死骸しがいのまはりのたけ落葉おちばは、蘇芳すはうみたやうでございます。いえ、はもうながれてはりません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あッと云って、真前まっさきに縁へげた洋服は——河野英吉。続いて駈出そうとする照陽女学校の教頭、宮畑閑耕みやばたかんこうむなづくし、ぼたんひっちぎれてすべった手で、背後うしろから抱込んだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今土手で五人の追剥おいはぎが出て己のむなぐらをつかまえたのを、払って漸く逃げて来たが、おみねは土手下へ降りたから、悪くすると怪我をしたかも知れない、うも案じられる
そういって葉子はむなくその悪いような顔つきをして見せた。二人はまたたわいなく笑った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
となりつま入來いりくるをるに、ふところにはまちいだきたり、らうむなさわぎのして、美尾みを何處どこまいりました、此日暮このひくれに燈火あかりをつけぱなしで、買物かひものにでもきましたかとへば、となりつままゆせて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのは、なんとなく、うち人々ひとびとむなさわぎのするばんでした。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、斬死きりじにの覺悟で對手のむなもとに飛込んでゆく。
こんな二人 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
フトむなぐるしい重みを感じて目をさました時には、すでに四、五人のあらくれ男がよりたかって、おのれの体に、荒縄あらなわをまきしめていたのだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし半之丞もお松にはよほど夢中になっていたのでしょう。何しろお松は癇癪かんしゃくを起すと、半之丞のむなぐらをとって引きずり倒し、麦酒罎ビールびんなぐりなどもしたものです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……じつは三あまり、仙境霊地せんきやうれいち心身共しんしんとも澄切すみきつて、澄切すみきつたむなさきへ凡俗ぼんぞく見透みえすくばかり。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それは結構。だがおれにはさっきの話がのどにつかえて残っとるて。むなくそが悪いぞ」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と云いながら孝助のむなぐらを取る。
わらふてむなぐるしさおもひにやせ手首たなくびりすがりておうらやましやおたかさまのおほそさよおめしあがりしか御傳授ごでんじゆきたしと眞面目まじめひと可笑をかしくはなくて其心根そのこゝろねうらやましくなりぬ人々ひと/″\かへてゝより一時間許いちじかんばかりつにはなが時間じかんながらくるまおとかどにもきこえずすてかれなばだしもなれどおちやまゐらせよお菓子くわしあがれ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
誰かのくちから、亡君という一語が洩れると、一同は、急にむなさきがつまって来て、眼がしらにうずのようなものがたぎった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此時このとき白襟しろえり衣紋えもんたゞしく、いお納戸なんど單衣ひとへて、紺地こんぢおびむなたかう、高島田たかしまだひんよきに、ぎん平打ひらうちかうがいのみ、たゞ黒髮くろかみなかあはくかざしたるが、手車てぐるまえたり、小豆色あづきいろひざかけして
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どぼうん! ……と真っ白な飛沫しぶきが、駈け寄った老先生の足もとから顔、むないたへ、びッしょりとかかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このいささかの音にも驚きたるさまして、足を爪立つまだてつつじっと見て、わなわなと身ぶるいするとともに、足疾あしばや樹立こだち飛入とびいる。。——懐紙かいしはし乱れて、お沢の白きむなさきより五寸くぎパラリと落つ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それのみでなく、女の度胸というものは、いつも男の意表外に出るもので、梅軒のむないたを突いたお通の手は、すぐ次の瞬間に、梅軒の帯びている野太刀のつかを握っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頭目、赤色せきしょくの指導者が、無遠慮に自動車へ入ろうとして、ぎろりと我が銑吉をて、むなさきで、ぎしと骨張った指を組んで合掌した……変だ。が、これが礼らしい。加うるに慇懃いんぎんなる会釈だろう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というと、はやぶさのように、相手のむなもとへとびかかって、ムズとえりをつかんだのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は、ほんとに怒って、遊女は性善坊のむなぐらをつかまえた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんと、むないたを突く。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)