白壁しらかべ)” の例文
ある冬の日の暮、保吉やすきち薄汚うすぎたないレストランの二階に脂臭あぶらくさい焼パンをかじっていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂ひびの入った白壁しらかべだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのおうちが、わたしうままれたいえです。どこへいったかえりでも、この白壁しらかべにはいると、わたしは、もうおうちへかえったようながしました。
白壁のうち (新字新仮名) / 小川未明(著)
うつくしき君のすまいたるは、わが町家まちやの軒ならびに、ならびなき建物にて、白壁しらかべいかめしき土蔵も有りたり。内証はいたく富めりしなりとぞ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福山すなわち松前まつまえ往時むかしいし城下に暫時ざんじ碇泊ていはくしけるに、北海道にはめずらしくもさすがは旧城下だけありて白壁しらかべづくりの家などに入る。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
はじめてみさき赴任ふにんしたときでも、もう明日にも人手に渡りそうなうわさだったその家は、くら白壁しらかべが北側だけごっそりはげていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
今では白壁しらかべのように白い絹の上を、どこまでも同じ幅で走って、尾頭おかしらともにぷつりと折れてしまう黒い線を認めるだけである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
娘は半里ほど湖上を渡って行く、城のある出崎の蔭に浮網うきあみがしじゅう干してある白壁しらかべの蔵を据えた魚漁家の娘だった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
金魚鉢きんぎょばち位置いちから、にわかえでがくれではあるが、島本医院しまもといいん白壁しらかべえていて、もしそのかべあながあると、こつちをおろすこともできるはずである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
畑にはようやく芽を出しかけた桑、眼もさめるように黄いろい菜の花、げんげやすみれや草のえているあぜ、遠くに杉やかしの森にかこまれた豪農の白壁しらかべも見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
敗れた埃及軍を追うて、いにしえ白壁しらかべの都メムフィスに入城した時、パリスカスの沈鬱ちんうつな興奮はさらに著しくなった。癲癇てんかん病者の発作ほっさ直前の様子を思わせることもしばしばである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これはどうしたことだろう、何もなかった白壁しらかべには、ポカリと畳一畳ぐらいの大きな穴があいたではないか。博士のからだは、音もなくその穴の中へと、吸いこまれて行った。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白壁しらかべ消炭けしずみで描いた丸に四角、あれを錢形と氣のつくのは、廣い世界にもお前だけさ」
そして上流の左の岸に上市かみいちの町が、うしろに山を背負い、前に水をひかえたひとすじみちの街道かいどうに、屋根の低い、まだらに白壁しらかべ点綴てんてつする素朴そぼく田舎家いなかやの集団を成しているのが見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山川の骨は、白や、薄鼠や、テール・ド・ナチュレルの枯葉の褐色をまぜた、ユトリロの描く白壁しらかべ枯淡こたんな味をみせ、風吹かば飛ばんという洒脱なスタイルで、鉄板のうえに載っている。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は白壁しらかべ王を立て、左大臣永手、兄の参議良継と謀議して、宣命使をかたらひ、大市を立てる宣命に代へて、白壁王を立てる旨をらせ、先帝の御遺詔であると勝手な文句をつけたさせた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
例の通りに白壁しらかべのように塗り立てた夫人とクッつき合って、傍若無人に大きな口を開いてノベツに笑っていたが、その間夫人は沼南の肩をたたいたりひざゆすったりして不行儀を極めているので
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
天じょうの白壁しらかべや、キャベツの玉のような形の大きい、すりガラスの電燈を見ていると、とつぜん、顔一面に、だッとなにかあついぬれたものをのせられて、目も見えなくなってしまいました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
新緑のあざやかな中に赤瓦あかがわら白壁しらかべの別荘らしい建物が排置よく入り交じっている。そのような平和な景色のかたわらには切り立った懸崖が物すごいような地層のしわを露出してにらんでいたりする。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白壁しらかべが新緑の中に突き出していた。後ろの低い垣の中に菜畑があった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ギルバート群島の中の何と云う島かしら小さいけれども白壁しらかべの教会もあった、その島の近くに僕は行ったねえ、行くたって仲々容易じゃないや、あすこらは赤道無風帯ってお前たちが云うんだろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
雪ほそく山のかげより覗けりと見ゆる旅順の街の白壁しらかべ
靜かに今見よ、園の白壁しらかべにぞ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
白壁しらかべのはてしなきを。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白壁しらかべによるならはせに
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
御寺みてら蔵裏くり白壁しらかべ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白壁しらかべ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
昼見るといつも天主閣は、蓊鬱おううつとした松の間に三層さんぞう白壁しらかべを畳みながら、そのり返った家根の空へ無数のからすをばらいている。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの、コロ、コロ、いうごえは、わたしが、ここからとおい、ひがしほうまちんでいるときに、白壁しらかべくらのある、ふるい、おおきな酒屋さかやがあった。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗助そうすけおほきな姿見すがたみうつ白壁しらかべいろなゝめにて、ばんるのをつてゐたが、あまり退屈たいくつになつたので、洋卓テーブルうへかさねてあつた雜誌ざつしけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのころ裏の林は夕日にかがやいて、その最後の余照よしょうは山門の裏の白壁しらかべの塀にあきらかに照った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白壁しらかべ——これやわが胸か。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
白壁しらかべのほのかなるつら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
御寺みてら藏裏くり白壁しらかべ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白壁しらかべ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
殊に紅唐紙べにとうしれんった、ほこり臭い白壁しらかべの上に、束髪そくはつった芸者の写真が、ちゃんとびょうで止めてあるのは、滑稽でもあれば悲惨でもあった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白壁しらかべ土蔵どぞうがあったり、たかやぐらのっているむらをもぎました。そして、翌日よくじつ昼過ひるすぎには、故郷こきょうちか停車場ていしゃばくのでありました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじの大道、炎天のもとひらけつつ、日盛ひざかりの町の大路が望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交う人は点々と蝙蝠こうもりのごとく
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田圃たんぼごとに村があり、一村ごとに田圃が開けるというふうで、夏の日には家の前の広場で麦を打っている百姓家や、南瓜とうなすのみごとに熟している畑や、豪農の白壁しらかべの土蔵などが続いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
白壁しらかべ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
子供こどもたちは、薬売くすりうりの小父おじさんのくれた絵紙えがみしてたりしました。そのには、白壁しらかべいえがあり、やなぎがあり、まちがあり、はしがありかわながれていました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やっと腰を起した主人は保吉と云うよりもむしろ父へ向うの白壁しらかべを指し示した。幻燈はその白壁の上へちょうど差渡さしわたし三尺ばかりの光りの円をえがいている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此路このみち眞直まつすぐまゐりますと、左樣さやう三河島みかはしまと、みちひとをしへられて、おや/\と、引返ひきかへし、白壁しらかべゆる土藏どざうをあてにあぜ突切つツきるに、ちよろ/\みづのあるなかむらさきはないたるくさあり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うっそうと、青葉あおばのしげったあいだから、白壁しらかべくらえたり、たのしそうに少女しょうじょたちのうたうくわつみうたこえたりして、だれでも平和へいわむらだとおもったからであります。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし薄蒼うすあおいパイプの煙は粟野さんの存在を証明するように、白壁しらかべを背にした空間の中へ時々かすかに立ちのぼっている。窓の外の風景もやはり静かさには変りはない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
晩方ばんがたわたし往来おうらいで、おともだちとあそんでいました。夕日ゆうひがあかあかと、とおく、白壁しらかべにうつっていました。
白壁のうち (新字新仮名) / 小川未明(著)
子供こどもは、白壁しらかべうえを、のすきまのあたりをじっとつめていました。このとき、そこから、しの悪魔あくまがありました。はじめ灰色はいいろくものようなものがはいました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、このうたをきくとかなしくなるの、東京とうきょうまれて、田舎いなか景色けしきらないけれど、白壁しらかべのおくらえて、あおうめのなっているはやしに、しめっぽい五がつかぜ
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夕暮ゆうぐがたひかりけて、そのとうは、なぞのように、白壁しらかべや、煙突えんとつや、その工場こうじょう建物たてものや、雑然ざつぜんとした屋根やねなどがえる、まちなかにそびえて、そこらを見下みおろしていました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
白壁しらかべかげにたって、ワンこうは、いもうえまったつゆて、空想くうそうにふけったのです。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)