はなは)” の例文
川中島に於ける上杉謙信、武田信玄の一騎討は、誰もよく知って居るところであるが、其合戦の模様については、知る人ははなはだ少い。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかりといえども、本校の恩人大隈公は余を許してその末に加わらしめ、校長・議員・幹事・講師諸君もまたはなはだ余を擯斥ひんせきせざるものの如し。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
両性の関係はかくの如く重つ大なるものあるにかかわらず、古来この問題が如何いかほど研究されたかというに、はなはだ怠られて来て居る。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
世の伝うるところの賽児の事既にはなはだ奇、修飾をらずして、一部稗史はいしたり。女仙外史の作者のりてもって筆墨をするもまたむべなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俳句は宿命として絵画とはなは似通にかよったものである。絵画が色や線で形を現すと同じく、俳句は文字を以て景色や事件を現すのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
先生はこの頃になって酒をこうむること益々ますますはなはだしく倉蔵の言った通りその言語が益々荒ら荒らしくその機嫌きげん愈々いよいよむずかしくなって来た。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はなは唐突とうとつでありまするが、昨年夏も、お一人な、やはりかような事から、貴下あなたがたのような御仁ごじん御宿おやどをいたしたことがありまする。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「人妻ゆゑにわれ恋ひにけり」、「ものもひせぬ人の子ゆゑに」、「わがゆゑにいたくなわびそ」等、これらの例万葉にはなはだ多い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
こうして、長い時の間、弁信はお雪ちゃんにお喋りの株を譲って、自分は全く争うことをしなかったが——そのはなはだ長い時間の後に
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はなはだ勝手な申分であるが、私は正月の元旦といえども、ふだん着のまま寝ころんでいたりして、つねのままな顔がしていたいのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
こふに取次出來れば越前守申さるには夜中やちうはなはだ恐入存ずれど天下の一大事に付越前ゑちぜん推參すゐさん仕つて候何卒中納言樣へ御目通おめどほりの儀願上奉るむね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
国の開鎖かいさ論を云えばもとより開国なれども、はなはだしくこれを争う者もなく、唯とうの敵は漢法医で、医者が憎ければ儒者までも憎くなって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いえ」と女中は言ひにくさうに一寸膝の上を見つめた。「はなはだ申し兼ねますが、乃木さんのお手紙を二本ばかし戴かれますれば……」
しも読者にして、ゆっくり味読みどくさるるならば、の分量の少なきを憂えず、得るところむしはなはだ多かるべきを信ずるものである。
性来、特に現在はなはだ人間嫌いになった私にとってもこの人が島へくることは一尾のますおよいできたような喜びを与える。——追記。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
女は別にこばむ色もなく、小女を呼び返して、喬生のうちへ戻って来た。初対面ながらはなはだうちとけて、女は自分の身の上を明かした。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
かつ如此かくのごとき事をこゝろみし事なし、こゝろみてそのはなは馬鹿気ばかげきつたる事をみとめたれば全然ぜん/\之を放棄はうきせり、みちおこなことみちく事なり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
はなはだ興覚めのものであるから、もう一升、酒屋へ行って、とどけさせなさい、と私は、もっともらしい顔して家の者に言いつけた。
酒ぎらい (新字新仮名) / 太宰治(著)
されば谷川のこの猿ヶ石に落合うものはなはだ多く、俗に七内八崎ななないやさきありと称す。ないは沢または谷のことにて、奥州の地名には多くあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
皆の顔を見て会釈して、「遅くなりましてはなはだ」と云いながら、畳んだ坐具を右のわきに置いて、戸川と富田との間の処に据わった。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
結局けつきよく麻雀界マアジヤンかいから抹殺まつさつされるにいたつたなどははなは殷鑑ゐんかんとほからざるものとして、その心根こゝろねあはれさ、ぼくへてにくにさへならない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
自體彼の頭腦の中にはくさツたガスのやうな氣が充滿いつぱいになツてゐて、頭がはなは不透明ふとうめいになツてゐる、彼はく其れを知ツてゐるから
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼ははなはだ事態を楽観しているのである。その言うところによれば、明後日までには、われわれはとざされた氷から脱出することが出来る。
私の好みはメニューインに傾き過ぎたきらいもあるが、バッハをひいては、この若い天才ヴァイオリニストに及ぶ人ははなはだ少ない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その頃はお政も左様さようさネと生返事、何方どっち附かずにあやなして月日を送る内、お勢のはなはだ文三に親しむを見てお政もついにその気になり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
われわれの不満を君に聞いてもらう——近来、君たちヤマ族の海中侵入かいちゅうしんにゅうはひどいではないか。われわれトロ族としてははなはだ不安である。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲「いえ/\誠に恐入りました、よいに乗じはなはだ詰らん事を申して、お気に障ったら幾重にもおわびを致します、どうか御勘弁を願います」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それで、天皇てんのう殉死じゆんし風俗ふうぞくはなは人情にんじようにそむいた殘酷ざんこくなことであるから、これはどうしてもやめなければならぬとおかんがへになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
宗助そうすけこの可憐かれん自白じはくなぐさめていか分別ふんべつあまつて當惑たうわくしてゐたうちにも、御米およねたいしてはなはどくだといふおもひ非常ひじやうたかまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それも神様かみさまのお使者つかいや、大人おとなならばかくも、うした小供こどもさんの場合ばあいには、いかにも手持無沙汰てもちぶさたはなは当惑とうわくするのでございます。
風呂場にれば、一箇ひとりの客まづ在りて、燈点ひともさぬ微黯うすくらがり湯槽ゆぶねひたりけるが、何様人のきたるにおどろけるとおぼしく、はなはせはしげに身を起しつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「チベット政府には従来我が日本の名さえ知って居る者がはなはだ少ない。だからその考えのここに出でぬのは当り前の事であります」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
具体的に云うと、はなはだしい場合には、彼女の父母は、半間乃至ないし一間の距離で蘭子の柔い肉塊を、ゴムまりみたいにほうりっこするのである。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
動物性毒に関する迷信もはなはだ数多いが、就中なかんづく毒蛇に関しては古来色々の伝説が行はれて居るからこゝれを説いて見ようと思ふ。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
江戸の開城かいじょうその事はなはにして当局者の心事しんじかいすべからずといえども、かくその出来上できあがりたる結果けっかを見れば大成功だいせいこうと認めざるを得ず。
どうもこれは、はなはだ心外な所で乗り合せたものですな。宮子嬢、これはわれわれの強敵のジー・イーだ。あんだ、左様か。……
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
されば殿ほどのお方の口より、智恵負けいたしたといわれましたこと、かえってはなはだ光栄の至り、名誉と存じますでござります。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は目的においては誠実なり、しかれども手段においては、はなはだ術策に富み、しこうしてその術策中、不謹慎ふきんしんなるもの一にして足らず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかかれ自分じぶんからはなはだしくいつゝあるらしいのをこゝろたしかめてひては追求つゐきうしようといふ念慮ねんりよおこなかつた。勘次かんじたゞ不便ふびんえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はなはだ低いが、鋭い声で云った。關内は茶碗の中で見て、呑み込んでしまった気味の悪い、美しい顔、——例の妖怪を今眼の前に見て驚いた。
茶碗の中 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
臥薪ぐわしん十年の後、はなはだ高価なる同胞の資財と生血とを投じてち得たる光栄の戦信に接しては、誰か満腔の誠意を以て歓呼の声を揚げざらむ。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しからば如何いかなる種類しゆるゐ食物しよくもつ適當てきたうであるかと具體的ぐたいてき實際問題じつさいもんだいになると、その解決かいけつはなは面倒めんだうになる。熱國ねつこく寒國かんこくではしよく適否てきひちがふ。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
これは自分としてははなはだ残念であった。最も努力した本だったのと、日本の手仕事の各部門の学問的記述もおこたらなかったので。
徳利式とくりしき貝塚土器かひづかどきは、東北とうほくおほくして、關東くわんとうにははなはすくない。——ないことはないが、たとしたら異例ゐれいつてもい。
弟子たちははなはだしく怖れて、「先生はなんという人だろう、風も海もしたがうとは!」と、互いに語り合ったのであります(四の三五—四一)。
私もまた人間の一人として、人間並みにこの時個性と顔を見合わしたに過ぎない。或る人よりは少し早く、そして或る人よりははなはだおそく。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれど、心ある幕将たちは、はなはだ心もとない顔いろをしていた。うかとは眠られぬ——というような緊張を顔から容易にかないのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「突然はなはだ失礼ですが、あんたさんは英語の避妊法の本を中川さんの奥様にお貸しになったことありますか」とけったいなことンねます。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
○水飴は半ば有益なる葡萄糖に変化したる糖分六割と糊精一割六分と少量の蛋白質を含み、滋養分はなはだ多く、最も小児と老人の食物に適す。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
実に近代の新しき抒情詩に比較する時、叙事詩や劇詩の長篇詩は、尚はなはだしく客観的で、真の純粋なる主観表現と言い得ない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)