片膝かたひざ)” の例文
もすそは長く草にあおつて、あはれ、口許くちもとえみも消えんとするに、桂木はうあるにもあられず、片膝かたひざきっと立てて、銃を掻取かいとる、そでおさへて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
佐吉は暗いかきの木の下にしゃがみ、土の上に片膝かたひざをついて、変わり果てた旧主人が通り過ぎるまではそこに頭をあげ得なかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
男は片膝かたひざをついて、(自分は御存じないものである。あまりに寒さにえないので、おしになっている衣物を一つ二つたまわりたいのである)
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一方の足の先を一方の上に重ねて、片膝かたひざを「く」の字なりにすぼめながら立ってなさるのんが、哀れにも美しゅう思えました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
庸三はきまりがわるくなったので、にわかに茶の間へ出て行って見た。葉子は姐御あねごのようなふうをして、炉側ろばた片膝かたひざを立てて坐っていたが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
吉原兵太郎は何故か片膝かたひざ立てたのだ。彼の頬肉ほおにくはぴくぴく動いていた。神山外記は唇をとがらかしてそそくさと立って行った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何卒なにとぞゆるください、陛下へいかよ』二點ツウきはめて謙遜けんそんした調子てうしつて片膝かたひざをつき、『わたしどものりましたことは——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あたりを片付け鉄瓶てつびんに湯もたぎらせ、火鉢ひばちも拭いてしまいたる女房おとま、片膝かたひざ立てながらあらい歯の黄楊つげくし邪見じゃけん頸足えりあしのそそけをでている。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
片膝かたひざおりに、戒刀かいとうさやを横にはらった龍太郎、銅の九りんも斬れろとばかり、呂宋兵衛の足もと目がけてぎつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめいた団兵衛、身を交わしざま、槍のけらくびをつかんで引くのと、片膝かたひざ立てに刀の鯉口を切るのと同時だった。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
片手に自分の帽子を持ってにこにこしながら傍まで来てから、男はサーカスの使い手のように両手を大きく翼形に開き、片膝かたひざをつく姿勢で最敬礼を一度した。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
押しつけたまゝ殺されるわけだ。下手人は片膝かたひざを働かせ乍らやるから、隨分女子供にも出來ないことはない。鬼三郎は中風でそれをハネ返す力もなかつたことだらう
片膝かたひざをついて、私は彼の身体を起そうとした。首が、力なく向きをかえた。無精鬚ぶしょうひげをすこし伸ばし、閉じた目は見ちがえるほどくぼんで見えた。弾丸は、額を貫いていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「わたしは式部官として、すべてが規定通り行われるよう宰領さいりょうせねばなりません。ムッシュー・ヴォルデマール、片膝かたひざをおつきなさい。そういう決りになっているのです」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ペンネンネンネンネン・ネネムは、恭々しく進んで片膝かたひざを床につけて頭を下げました。
わたくしこれにはすこぶ閉口へいこうしたが、どつこひてよ、と踏止ふみとゞまつて命掛いのちがけに揉合もみあこと半時はんときばかり、やうやくこと片膝かたひざかしてやつたので、この評判へうばんたちま船中せんちゆうひろまつて、感服かんぷくする老人らうじんもある
和尚おしょうの室を退がって、廊下ろうかづたいに自分の部屋へ帰ると行灯あんどうがぼんやりともっている。片膝かたひざ座蒲団ざぶとんの上に突いて、灯心をき立てたとき、花のような丁子ちょうじがぱたりと朱塗の台に落ちた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せはしげに荒尾は片膝かたひざ立ててゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
坐ったのもあり、立ったのもあり、片膝かたひざ立てたじだらくな姿もある。長襦袢ながじゅばんばかりのもある。頬のあたりに血のたれているのもある。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不憫ふびんにも帽子屋ばうしやは、茶腕ちやわん牛酪麺麭バターぱんとをおとしてしまひ、片膝かたひざついて、『おたすくださいませ、陛下へいかよ』とはじめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ずるずると、引きもどされた伊那丸は、声もたてなかった。だが、とっさに、片膝かたひざをおとして、腰の小太刀こだちをぬき打ちに、相手の腕根うでねりあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう節子は岸本に話しかけながら、母の側で片膝かたひざずつ折曲げるようにして、谷中まで行って来た足袋のこはぜを解いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
片膝かたひざを立て、刀のつかに手をかけ、そして、藩士らが目をみはったのと、すべてが同時であった。阿賀妻の袴のまちが高くひらめいた。足先で蹴あげたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
茶店の床几しょうぎを払って半太郎を招じる、一同ぐるりと取巻いてつく這った。吉蔵が地面へ片膝かたひざをついて
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがて小夜子はき口の方に立って、髪をすいた。なだらかながた均齊きんせいの取れた手や足、その片膝かたひざを立てかけて、髪を束ねている図が、春信はるのぶの描く美人の型そのままだと思われた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女は張り出しへ片膝かたひざをかけて、屋根の上へノメリ出しながら、もう一度
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
嘉十かじふはよろこんで、そつと片膝かたひざをついてそれにとれました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
雪枝ゆきえ老爺ぢゞいこれかたとき濠端ほりばたくさ胡座あぐらした片膝かたひざに、握拳にぎりこぶしをぐい、といてはら波立なみたつまで気兢きほつてつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのすきに、忍剣のうしろに身ぢかくせまって、片膝かたひざおりに、種子島たねがしま銃口じゅうこうをねらいつけた者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾井幾兵衛となのる侍は、こう云ってそこへ片膝かたひざをついた。長威斎は遁世とんせいしているのであった。俗世と縁を切ったので、自分が長威斎である、と云う筈はなかった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると、かたわらにごろ寝していた小屋係りの一人がぎりぎりと歯をきしらせた。きぬをさくような険しい音が闇を貫いた。高倉祐吉は片膝かたひざついた中途はんぱな恰好かっこうで歯ぎしりする男をのぞき込んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
れて此処こゝとほりかゝると、いまわし御身おみまをしたやうに、ぬまみづふかいぞ、とけたものがある。四手場よつでば片膝かたひざで、やみみづ視詰みつめて老人らうじんぞや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
派手な柄の浴衣を着て、片膝かたひざを立て、立てた膝頭へひじをつき、その手にさかずきを持っていた。立てた膝前が割れて、水色のけだしがこぼれ、すんなりと白いはぎが見えている。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無人は片膝かたひざをすすめて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんな水玉模様の仕着しきせでなく、縞かめくら縞のふだん着で、あぐらをかいたり片膝かたひざ立てをしたりして、湯呑で冷や酒を飲みながら、茣蓙の上の花札に眼を凝らしていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
枯野かれのひえ一幅ひとはばに細く肩のすきへ入つたので、しつかと引寄せた下着のせな綿わたもないのにあたたかうでへ触れたと思ふと、足を包んだもすそが揺れて、絵の婦人おんなの、片膝かたひざ立てたやうなしわ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三之助はほどけかかっていた三尺帯を巻き直し、そこへ寝ころんで肱枕ひじまくらをした。男はそれを横眼で見た、その眼がきらっと光った。男は片膝かたひざを立て、きせるを持ち直した。
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女像によざうにして、もし、弓矢ゆみやり、刀剣とうけんすとせむか、いや、こし踏張ふんばり、片膝かたひざおしはだけて身搆みがまへてるやうにて姿すがたはなはだとゝのはず、はうまことならば、ゆかしさはなかる。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そう思うと、酔のために誇張された怒りで、彼は平生の慎みも忘れ、片膝かたひざ立てになって叫んだ。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なんと、と殿樣とのさま片膝かたひざきつてたまへば、唯唯ははおそれながら、打槌うつつちはづれさふらふても、天眼鏡てんがんきやう淨玻璃じやうはりなり、ぢよをつとありて、のちならでは、殿との御手おんてがたし、とはゞからずこそまをしけれ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あぐらの片膝かたひざを叩いた、「隠れるってのは江戸幕府の目付がやかましかったからで、いまはおめえ、ちょっとした都市へゆけば、どこにだってチャーチの二つや三つはあるじゃねえか」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いやな、気味の悪い乞食坊主こじきぼうずが、村へ流れ込んだと思ったので、そう思うと同時に、ばたばたと納戸へ入って、箪笥たんすそばなる暗い隅へ、横ざまに片膝かたひざつくと、せわしく、しかし、ほとんど無意識に
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人ははっと片膝かたひざを立て、突刺さったまま震えている、天床の矢を見あげた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
裾模様すそもようかろなびいて、片膝かたひざをやや浮かした、つま友染ゆうぜんがほんのりこぼれる。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盥は小さくはなかったが、片方が壁、片方に釜戸かまどがあるので、躯をながすには窮屈であった。彼は片膝かたひざを立て、手拭をぬるま湯に浸しては、そろそろと躯をしめした。するとおみやがのぞいた。
取留とりとめもなくわらつた拍子ひやうしに、くさんだ爪先下つまさきさがりの足許あしもとちからけたか、をんなかたに、こひ重荷おもにかゝつたはう片膝かたひざをはたとく、トはつとはなすと同時どうじに、をんな黒髪くろかみ頬摺ほゝずれにづるりとちて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまり博奕打の女房にょうぼうという鉄火てっかな自意識をさすのであり、そのためには、亭主の負けがこんでくると、片膝かたひざ立ちになって赤いものをちらちらさせるという、特技を演ずることも辞さなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)