ぢい)” の例文
「そんぢやぢい砂糖さたうでもめろ」とおつぎは與吉よきちだい籰棚わくだなふくろをとつた。寡言むくち卯平うへい一寸ちよつと見向みむいたきりでかへつたかともいはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まるでおぢいさんが穏かに孫を訓すやうな態度なので、三人とも『まづまづ退校は免れたな』と思つて、漸く安らかな気持になつていつた。
浜尾新先生 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
この氷滑こほりすべりがゆきたのしみの一つで、とうさんもぢいやにつくつてもらつた鳶口とびぐち持出もちだしては近所きんじよ子供こどもと一しよゆきなかあそびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いえ、ロシヤの飢饉ききんの話ではありません。日本の話、——ずつと昔の日本の話です。食つたのはぢいさんですし、食はれたのはばあさんです。
教訓談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うと/\としてめると女は何時いつの間にか、となりの爺さんとはなしを始めてゐる。此ぢいさんはたしかに前の前の駅から乗つた田舎者いなかものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その道ばたに、白いひげのあるおぢいさんが一人かがみこんで、パイプの煙草たばこをふかしてゐました。エミリアンは近よつていつて、尋ねました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
きつかたき不足ふそくはせぬ。花片はなびらゆきにかへて、魔物まもの煩悩ぼんなうのほむらをひやす、価値ねうちのあるのを、わたくしつくらせませう、……おぢいさん
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さてその農民小屋のうみんごやにはひつてると爐邊ろへんにはまきやされてあつて、その地方ちほう風俗ふうぞくをしたぢいさんがたばこをいぶらしてゐたり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ぢいさんの指さす方を見ると、店のすみの方に、たんとはなかつたけれど、うす皮の真赤に熟した柿が山盛にしてあつた。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
あのぢいさんばかりはこの貧乏のくせに毎晩四合の酒を缺かさずに、肴の刺身か豚の鍋でも料理こしらへてゐないことはない。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
すると、ふしぎなことには、お城の中にゐるのは大女ではなくつて、長いごましほひげの生えた、きたならしい魔法つかひのぢいさんであることが分りました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
怒鳴どなつてぢいさんがあつた。の権幕が恐ろしいので、人々はそばにも寄りつかずにさつさと避けてとほつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
嘉吉と丸田は或る一棟ひとむねの倉庫の入口に消えて行つた。そこには猫背で胴体の馬鹿に短い、そして脚ばかりがひよろ長い、腕の片一方ない番人のぢいさんがゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
芝居で与一平よいちべいなどと云ふおぢいさん役の着て居ますあの茶色と一所いつしよの茶なんですものね。それは私のねえさんの袢纏だつたのを私が貰つたのだつたらうと思ひます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぢいさん、そいつはいけねえ、飮むなら向うの隅つこで一人でやんな、見せびらかすのは殺生だぜ」
『だつて、面白いぢやありませんか? あつ、つまづいた。御覧なさい、あの目賀田ぢいさんの格好。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぢいさんな、陰気ツ臭いのが何よりきれえだつて、いつも口癖のやうに云つてゐさしたつけよ。」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そのあわただしく翅をはためかすのを面白く眺めてると伯母さんは後ろから肩ごしに顔をだして 黒い蝶蝶は山家やまがのおぢいで、白いのや黄いろいのはみんなお姫様だ といふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
布はわるいが模様を見てもらひたい。絵も字も曾鉄誠といふぢいさんの描いたものだ。これにはちよつと奇談もある。好事家かうずかの君には一寸ちよつと向いてゐる。いづれ暇のをりにくはしく——
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
万作は多勢に見送られて、十二年前に越えて来た山坂を越えて自分の国へ帰つて見ますと、いつの間にか、お父さんはおぢいさんになり、おつ母さんはおアさんになつてゐました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
よく肥たおぢいさんが、おどけた調子でかういふと、みんなドツと笑ひました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
この大將たいしやう若樣わかさまなんなくさとしとりこになりけり、令孃ひめとのなかむつましきをるより、奇貨きくわおくべしと竹馬たけうま製造せいざうはじめに、植木うゑき講譯かうしやく、いくさ物語ものがたり田舍ゐなかぢいばあ如何いかにをかしきことひて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
俺は山盛りに賣るからよ、ぢいさんはどうする、と小僧は面白さうにきいた。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
なあんだ、越後にだつてあるぢやないか、おぢいさんやおばあさんが揺籠ゆりかごを揺すりながら、乳母車を押しながらうたふのと同じぢやないか。しかし、ちよつと違ふところもある。いややつぱり違ふ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「私共は、門番のぢいさんが殘していつた、あの小屋に住んでゐますの。」
「あの………。」おいとは急に思出おもひだして、「小梅こうめ伯父をぢさん、どうなすつて、お酒につて羽子板屋はごいたやのおぢいさんと喧嘩けんくわしたわね。何時いつだつたか。わたしこはくなツちまツたわ。今夜こんやいらツしやればいゝのに。 ...
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
抵当に入れた馬小屋見たよな家は、金主からつ立てられる、到頭たうとう村で建てて呉れた自分の息子の石碑の横で、夫婦が首をくゝつて終ひましたよ、ぢいばゝあ情死しんぢゆうだなんて、みんな笑ひましたが、其時もわし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(丸太小舍には此の頃忍び込む、例の赤裝束のおぢいさん。)
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
空子 児玉のおぢいさん、どんなことをいつて?
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ぢいさん、ばあさんハックッシヨとへば
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
このぢいさんはなにか向ふを畏れてゐる
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
白髪しらが頭のおぢいさん
秋の小曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
ぢいやは御飯ごはんときでも、なんでも、草鞋わらぢばきの土足どそくのまゝで片隅かたすみあしれましたが、夕方ゆふがた仕事しごところから草鞋わらぢをぬぎました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぢいさん。もう万年青おもと御手入おていれはおすみですか。ではまあ一服おやりなさい。おや、あの菖蒲革しやうぶがはたばこ入は、どこへ忘れて御出でなすつた?
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えねえのにさうだに押廻おしまはすなえ」瞽女ごぜあといて座敷ざしきはしまで割込わりこんで近所きんじよぢいさんさんがいつた。わか衆等しゆらたゞ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこはわづかふたつかみつつしか部屋へやがなく、ほんとうにちひさいもので、ぢいさんがたゞ一人ひとり、つくねんとしてばんをしてゐました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
生温なまぬるちやをがぶ/″\とつて、ぢいがはさみしてくれる焚落たきおとしで、つゞけに煙草たばこんで、おほい人心地ひとごこちいた元二げんじ
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は子供の時分のことを思ひおこす時、何よりもさきにひげぢいのすがたが目に浮んで来ます。
海坊主の話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
附紐つけひものひら/\と長くれたメリンスの着物にくるんだ赤ん坊を負ぶつた里行きらしいかみさんや、ぢいさんばあさんの老人づれ、背負商人、青服を着た職工、お坊さん、田舎娘
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ぢいさんにつゞいてりたものが四人程あつたが、入れかはつて、乗つたのはたつた一人ひとりしかない。もとから込み合つた客車でもなかつたのが、急に淋しくなつた。日の暮れた所為せゐかも知れない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(1)下の部屋には、いつでも留守番のおぢいさんか、おばあさんがゐるはずだが、ちよつとうちけたすきに、泥棒が入つて、何も持つて行く物がなかつたので、乱暴をして逃げたにちがひない。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
吾助ごすけ大層たいそう學者がくしやにてなにごともらぬことなく、西洋せいやうだの支那しなだの天竺てんじくなにかのこともりて、其話そのはなしが面白おもしろければ姉樣ねえさまにも是非ぜひかせまうしたし、從來まへかたぢいちがぼく可愛かあいがりて姉樣ねえさまめて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「親分さん方、——磯屋いそやぢいやが、申上げ度いことがあるさうですよ」
ある田舎に貧乏なぢいさんと、ばあさんとが二人きりで暮してをりました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「ではぢいさん、私をその国の殿様にしてれるのですか。」
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
エミリアンもおぢいさんの許しで、その夜警に加はりました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
おおおお、おぢいさん、ようおで。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
百姓のぢいさんの、よごれた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぢいさんはもう向ふへ行き
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
うちでは祖母おばあさんや伯母をばさんやおひなまで手拭てぬぐひかぶりまして、伯父おぢさんやぢいやと一しよはたらきました。近所きんぢよから手傳てつだひにはたらひともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)