夜風よかぜ)” の例文
今まで蒸熱かった此一室ひとまへ冷たい夜風よかぜが、音もなく吹き込むと「夜風に当ると悪いでしょうよ、わたしは宜いからお閉めなさいよ、」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かたむけて見返みかへるともなく見返みかへ途端とたんうつるは何物なにもの蓬頭亂面ほうとうらんめん青年せいねん車夫しやふなりおたか夜風よかぜにしみてかぶる/\とふるへて立止たちどまりつゝ此雪このゆきにては
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
垣根かきねのきわにわっているみかんのが、黒々くろぐろとして、夜風よかぜわたるたび、つきひかりにちかちかと、がぬれるごとくえました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もちおもりのする番傘ばんがさに、片手腕かたてうでまくりがしたいほど、のほてりに夜風よかぜつめたこゝろよさは、横町よこちやう錢湯せんたうから我家わがやかへおもむきがある。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しづかなよひで、どことはなしに青をにほはせたかぐはしい夜風よかぜには先からながれてくる。二人のあひだにはそのまましばらくなんの詞も交されなかつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「ああ、こんな多遅比たじひの野の中にるのだとわかっていたら、夜風よかぜを防ぐたてごもなりと持って来ようものを」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
行燈あんどんながかげをひいた、その鼠色ねずみいろつつまれたまま、いしのようにかたくなったおこののかみが二すじすじ夜風よかぜあやしくふるえて、こころもちあおみをびたほほのあたりに、ほのかにあせがにじんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そう考えるだけでも、ふさふさした黒髪くろかみ夜風よかぜ逆立さかだちそうだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風よかぜの青き
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほとほと遠く、物ごゑの夜風よかぜに消えて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
消燈喇叭せうとうらっぱ夜風よかぜいてひびわた
夜風よかぜとどろきひのきはみだれ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
夜風よかぜやぶ屏風びやうぶうち心配しんぱいになりてしぼつてかへるから車財布ぐるまざいふのものゝすくなほど苦勞くらうのたかのおほくなりてまたぐ我家わがやしきゐたか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのうちに、まつ都会とかいけむりや、ほこりがかかって、だんだん元気げんきがなくなりました。夜風よかぜくと、まつはあの海岸かいがん岩山いわやまをなつかしくおもいました。
海へ帰るおじさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
て、よくはわからぬ、其処等そこらふか、ほこらふか、こゑつたへる生暖なまぬる夜風よかぜもサテぼやけたが、……かへみちなれば引返ひきかへして、うか/\と漫歩行そゞろあるきのきびすかへす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はな夜風よかぜって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の夜風よかぜまじ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
糸織いとおり小袖こそでかさねて、縮緬ちりめん羽織はおりにお高祖頭巾こそづきんせいたかひとなれば夜風よかぜいと角袖外套かくそでぐわいとうのうつりく、ではつてますると店口みせぐち駒下駄こまげたなほさせながら、太吉たきち
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜風よかぜは、えだたって、かすかにおとをたてています。そして、あたりは、まったくよるとなってしまった。みんなは、ようやく気味悪きみわるさをかんじはじめたのです。
木に上った子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、夜風よかぜも、白露しらつゆも、みなゆめである。かぜくろく、つゆあかからう。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのばん二人ふたりは、すみをたくかまどのかたわらでかたかしました。夜風よかぜわたると、るようにが、小舎こや屋根やねにかかりました。けて、おとこかけるときに
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
中村なかむらさんと唐突だしぬけ背中せなかたゝかれてオヤとへれば束髪そくはつの一むれなにてかおむつましいことゝ無遠慮ぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあと同音どうおんわらごゑ夜風よかぜのこしてはしくを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にいよいよ動悸どうきたかく、みしめるそでなみだこぼれて、令孃ひめ暫時しばらくうちしてきけるが、吹入ふきい夜風よかぜたがたましひか、あくがるヽこヽろ此處こヽたへがたく、しづかにつて妻戸つまどせば
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしちいさい時分じぶんには、この、えのきのをたまにして、たけ鉄砲てっぽうつくったものです。」と、おじさんは、夜風よかぜに、さらさらとのそよいでる、えのきの見上みあげました。
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて、そのひづめのおとが、こえなくなると、あとには、夜風よかぜそらわたおとがかすかにしました。しかしこうして、ひづめのおとは、夜中よなか家々いえいえまえをいくたびも往来おうらいしたのであります。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
覺悟かくご今更いまさらなみだ見苦みぐるしゝとはげますはことばばかりれまづはらまぶたつゆえんとするいのちさてもはかなし此處こゝ松澤まつざは新田につた先祖累代せんぞるゐだい墓所ぼしよひるなほくら樹木じゆもくしげみを吹拂ふきはら夜風よかぜいとゞ悲慘ひさんこゑ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生憎あいにく夜風よかぜさぶく、ゆめのやうなるかんがまたもやふつと吹破ふきやぶられて、ええわたしそのやうな心弱こゝろよわことかれてならうか、最初さいしよあのうち嫁入よめいりするときから、東二郎とうじらうどのを良人をつとさだめてつたのではいものを
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)