細君さいくん)” の例文
「まあ、そう悪く云うなよ、可愛い男じゃないか、あんな男は家を持ったら、家のことはきちんとするよ、細君さいくんになる者は安心だよ」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細君さいくんから手移てうつしにしつけられて、糟谷かすやはしょうことなしに笑って、しょうことなしに芳輔よしすけいた。それですぐまた細君さいくんかえした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
薄暗い部屋へ入って、さっそくがくはだかにして、壁へ立てけて、じっとその前へすわり込んでいると、洋灯ランプを持って細君さいくんがやって来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
をりから、従弟いとこ当流たうりうの一とゝもに、九州地しうぢ巡業中じゆんげふちう留守るすだつた。細君さいくんが、その双方さうはうねて見舞みまつた。の三めのときことなので。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
砂きしみのする格子戸こうしどをあけて、帯前を整えながら出て来た柔和な細君さいくんと顔を合わせた時は、さすがに懐旧の情が二人の胸を騒がせた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
細君さいくんは日本人で子供が二人、末のはまだほんの赤ん坊であった。下女も置かずに、質素と云うよりはむしろ極めて賤しい暮しをしていた。
イタリア人 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
併しよくしたもので、春泥の細君さいくんというのが、仲々の賢夫人けんぷじんで、本田は原稿の交渉や催促なども、この細君を通じてやることが多かった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だん池谷いけのやしんらう骰子サイツ頭上づじやうにかざして禮拜らいはいする。ぼくなど麻雀マージヤンはしばしば細君さいくん口喧嘩くちけんくわ種子たねになるが、これが臨戰前りんせんまへだときつと八わるい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
読者中病身の細君さいくんを親切に看護かんごする者あれば、これをめる者があると同時に、彼奴きゃつかかあのろいと批評された経験もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何時いつにか細君さいくんの名をたがひに知つて仕舞しまつて居るので三浦工学士のペンを走らせて居るうしろから「たま子さんによろしく」などと声をかける者もある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
顔出しをしなかったのを根に持っているのかと思ったが、うでもない。招待することにめてあったと見えて、細君さいくんが支度をして待っていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
マシュウ・パッカアという男が細君さいくん相手に小さく経営している。狭い土間に果実が山のように積んであるので、店へ客がはいってくると邪魔じゃまになる。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
友達の眼の長く切れたがた細君さいくんと、まだ處女で肉付に丸味のある妹とは、その色白の肌に海水着の黒いのを着て、ボートの板子いたごに一緒に取り附いておよいだ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
可愛がっているものを褒められれば誰しも悪い気持はしませんが、細君さいくんが奥から出て来て講釈を初める。
両腕はまさに脱ける様だ。斯くして持ち込まれた水は、細君さいくん女中ぢよちうによつて金漿きんしやう玉露ぎよくろと惜み/\使はれる。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
全くの処、細君さいくんの水泳を砂地の炎天できものを預かりながら眺めているというみじめさはあわれむべきカリカチュールでなくて何んであるか。私は最近芦屋あしやへ移った。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
両腕はまさにける様だ。斯くして持ち込まれた水は、細君さいくん女中じょちゅうによって金漿きんしょう玉露ぎょくろおしみ/\使われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
口数の少ないかつての彼を見馴みなれてゐるわれわれは、それだけで十分満足した。やがて、交際ずきなHの細君さいくん奔走ほんそうで、知合ひの夫人や令嬢を招いての夜会になつた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
おもむろに質問すべき事こそあれと、あらかじめその願意を通じ置きしに、看守は莞然にこにこ笑いながら、細君さいくんを離したら、困るであろう悲しいだろうと、またしても揶揄からかうなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
大正当世の細君さいくんは金剛石の指環を獲んがためには夫君をして贓※ぞうととならしむるも更に悔るところがない。人心変移の甚しきは人をして唯唖然あぜんたらしむるのみである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
細君さいくんが席に呼び入れられた。そしてもし渋江道純の跡がどうなっているか知らぬかと問われて答えた。「道純さんの娘さんが本所松井町まついちょう杵屋勝久きねやかつひささんでございます。」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
細君はそれをひろげて見ても意味をさとることができなかったが、しかし促織が見えたので、胸の中に思っていることとぴったり合ったように思った。細君さいくんは喜んで帰って成に見せた。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
B ぼく友人いうじんには、旅行中りよかうちう毎日まいにちかならず三留守番るすばん細君さいくん葉書はがきひとがあるよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
矢張やはりをとここひしく、其学生そのがくせい田舎ゐなかから細君さいくんれてるまで附纏つきまとつたとふだけの、事実談じじつだんぎぬのであるが、ふみ脊負揚しよいあげ仕舞しまつていた一が、なんとなくわたし記憶きおくのこつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あかるい燈火ともしびしたで、エーは、細君さいくんはなしをしていました。二人ふたり家庭かていは、むつまじく、そして、平和へいわでありました。それにつけて、エーともだちのは、いっそう、かんがえさせられたのです。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人で話している縁側の上に、中老の品のいい細君さいくんは、岐阜提灯ぎふぢょうちんをつるしてくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その以来、邦原君の細君さいくんはなんだか気味が悪いというので、その兜を自宅に置くことを嫌っているが、さりとてむざむざ手放すにも忍びないので、邦原君は今もそのままに保存している。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
或は市中公会等の席にて旧套きゅうとう門閥流もんばつりゅうを通用せしめざるは無論なれども、家に帰れば老人の口碑こうひも聞き細君さいくん愚痴ぐちかまびすしきがために、残夢ざんむまさにめんとしてまた間眠かんみんするの状なきにあらず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また或る有名な大家が細君さいくんにでもやるような手紙を女郎によこしたのを女郎が得意になってお客に見せびらかしてるというような話をして、いわゆる大家先生たちも遊びに掛けると存外な野暮やぼ
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そう叙した事にってその細君さいくんの茄子をもいで居るさまも想像される。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
『え、きみ細君さいくん御子息ごしそく⁈』とわたくし意外いぐわいさけんだ。十ねんあひあひだに、かれ妻子さいし出來できことなに不思議ふしぎはないが、じついまいままでらなんだ、いはんや其人そのひといま本國ほんごくかへるなどゝはまつた寢耳ねみゝみづだ。
「ナニ、和田の宇津木の細君さいくんか、さいぜん妹だというたではないか」
一つは或玄人上くろうとあがりの細君さいくんの必ず客の前へいて来る赤児。
耳目記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
児玉 細君さいくんは?
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私は大方叔母おばさんの所だろうと答えました。Kはその叔母さんは何だとまた聞きます。私はやはり軍人の細君さいくんだと教えてやりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭の木戸きどをおして細君さいくんが顔をだした。細君はとし三十五、六、色の浅黒あさぐろい、顔がまえのしっかりとした、気むつかしそうな人である。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「愛子は」と口もとまでいいかけて、葉子は恐ろしさに息気いきを引いてしまった。倉地の細君さいくんの事までいったのはその夜が始めてだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは己の課長になる男から妹を細君さいくんにと望まれたが、その男は女に関してとかくの評判があり、もう三四人も細君を離縁していたので
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
留守るす細君さいくん——(評判ひやうばん賢婦人けんぷじんだから厚禮こうれいして)——御新造ごしんぞ子供こどもたちをれてからうじてなかをのがれたばかり、なんにもない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
重兵衛さんの細君さいくん喘息ぜんそくやみでいつも顔色の悪い、小さな弱々しいおばさんであったが、これはいつも傍で酌をしたり蚊を追ったりしながら
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
肺病やみの格太郎かくたろうは、今日も又細君さいくんにおいてけぼりを食って、ぼんやりと留守を守っていなければならなかった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
苦力達クウリイたち營營えいえいはたらくく、をんな——細君さいくんひたいために、ばくちをしたいために、阿片あへんひたいために。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
また家庭にありて一家団欒だんらんしている際は、寒ければ綿袍どてらを着ても用が足り、主人も気楽きらくなれば細君さいくんも衣服の節倹せっけんなりと喜ぶが、ふと客があれば急に紋付もんつきに取替える。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
風彩ふうさいからいえば、そのおとこのほうが、上役うわやくよりりっぱでした。頭髪とうはつをきれいにけ、はいているくつもかけるまえに、あわれな細君さいくんねんをいれてみがいたので、ぴかぴかとひかっています。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
其女そのをんなさいはたらき、勉強べんきやう出来できすぐれて悧巧りこうたちであつたが、或時あるとき脊負揚しよいあげのなかゝら脱落ぬけおちたをとこふみで、其保護者そのほごしや親類しんるゐ細君さいくんかんづかれ、一学校がくかうめられて、うち禁足きんそくされてゐたが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
細君さいくんは自宅から病院へ往ったり来たりして居た。甚だ心ないわざながら、彼等は細君にわかれを告げねばならなかった。別を告げて、門を出て見ると、門には早や貸家札かしやふだが張られてあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
格子こうしく音がした。茶の間に居た細君さいくんは、だれかしらんと思ったらしく、つと立上って物のすきからちょっとうかがったが、それがいつも今頃いまごろ帰るはずの夫だったとわかると、すぐとそのままに出て
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大尉は細君さいくんと女中との三人暮らしで、別に大した荷物もないらしかった。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「馬鹿だなあ。君はなぜ細君さいくんや子供をやぶくつのようにてたのだ。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)