きたな)” の例文
おくっていただいた、うつくしい雑誌ざっしともだちにせると、みんなが、うばって、たちまち、きたなくしてしまいました。残念ざんねんでなりません。
おかめどんぐり (新字新仮名) / 小川未明(著)
いったい蓮華は清浄しょうじょうな高原の陸地にはえないで、かえってどろどろした、きたな泥田どろたのうちから、あの綺麗きれいな美しい花を開くのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
きたな階子段はしごだんを上がって、編輯局へんしゅうきょくの戸を開けて這入はいると、北側の窓際まどぎわに寄せてえた洋机テーブルを囲んで、四五人話しをしているものがある。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其處そこふるちよツけた能代のしろぜんわんぬり嬰兒あかんぼがしたか、ときたならしいが、さすがに味噌汁みそしるが、ぷんとすきはらをそゝつてにほふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼等の歩きっぷりなどから、あることを想像しないでもなかったが、それにしては、皆三十四十のきたならしい年寄りなのが変だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朝野は煙草のやにで黒くなったきたない歯をむき出して笑った。——朝野は以前いい小説を書いていたが、この数年何も発表しなくなった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
かくして我等は乾ける土と濡れたる沼の間をあゆみ、目を泥を飮む者にむかはしめ、きたなみづたまりの大なる孤をめぐりて 一二七—一二九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
時雄は京都嵯峨さがの事情、その以後の経過を話し、二人の間には神聖の霊の恋のみ成立っていて、きたない関係は無いであろうと言った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いつ見てもきたないといわれ、それが大々的にお化粧けしょうをした時でさえそうなのだから、彼は一番よごれたところだけけばいいのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
雨がれると水に濡れた家具や夜具やぐ蒲団ふとんを初め、何とも知れぬきたならしい襤褸ぼろの数々は旗かのぼりのやうに両岸りやうがんの屋根や窓の上にさらし出される。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はちきたないものではりません。もしお前達まへたち木曾きそでいふ『はち』をれて、あたゝかい御飯ごはんうへにのせてべるときあぢおぼえたら
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その小さな、きたない、湿気の多い村は、A川に沿っていた。その川向うは、すぐその沿岸まで、場末のさわがしい工場地帯が延びてきていた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むかしひとは、しらみとなじみがふかかつたゝめに、なんでもなく、かういふうたつくつてゐます。そしてきたならしいあの昆蟲こんちゆうにくんでばかりもゐません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
全く弱つて仕舞しまつた。しかしそこには僕のでないきたない下駄は一足あつたのである。それを欲しいと思つた。とりたいと思つた。
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうするとこれを聞いたこなたのきたな衣服なりの少年は、その眼鼻立めはなだちの悪く無い割には無愛想ぶあいそう薄淋うすさみしい顔に、いささか冷笑あざわらうようなわらいを現わした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
塗りのはげた黒い板に、金文字で書かれた看板の字が、やっと「香山飯店こうざんはんてん」と読めるくらいで、きたならしい、料理屋とは名ばかりの安食堂だった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あまり美しければ拾い上げたれど、これを食器に用いたらばきたなしと人にしかられんかと思い、ケセネギツの中に置きてケセネをはかうつわとなしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
良助に案内されて行つたのは、裏の三疊、大してきたなくはありませんが、地味で實際的な太吉の部屋らしく、何の飾りもない殺風景極まるものでした。
追々おい/\ひらけると口吸こうきゅうするようになると云いますが、是はきたないように存じますが、そうなったら圓朝などはぺろ/\めて歩こうと思って居ります。
あわれにも彼のテント店は雨にたたかれてきたない色と化し、みすぼらしさを加えた、そればかりか両隣りょうどなりもお向いも、みんな本建築になってしまったので
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家の掃除そうじをさせている間、梶は久しぶりに一人市見物に出ていった。すると、あれほど大都会の中心を誇っていた銀座は全く低くきたなく見る影もなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それらの弱い醜い貧しいきたなみじめな者たちを、くつかかとのすり切れたしらみだらけの従僕を、重々しく窓に押しかけてる無格好なおびえてる顔つきの者どもを
綾さんの家は西方町の椎の木界隈のきたない長屋に引込むで、一二年は恩給で喰ツてゐたが、それでは追付おつかなくなツて、阿母さんの智慧で駄菓子屋を始めた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
虎答う、身を挙げて毛皆きたなし、猪汝が臭我を薫ず、汝闘うて勝ちを求めんと欲せば、我今汝に勝ちを与えんと。
穴の無い笛を吹いているきたないお爺さんで、その次に寝ころんでいるのは絶えず振り子の無い木の鈴を振り立てている、眉毛も髯も無いクリクリ坊主である。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
このきたならしい場面の眞中まんなかに一人の男が坐つてゐる。握りしめた双の拳を膝の上に置き視線を地上に落してゐた。
ひさしぶりでかしらはうつくしいこころになりました。これはちょうど、あかまみれのきたな着物きものを、きゅうににきせかえられたように、奇妙きみょうなぐあいでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
或るものはきたない詰襟の夏服に巻ゲートルなぞを捲きつけ、或るものはまたちやんとしたアルパカの上衣に白のズボンといつた、会社の勤人つとめにんらしいふうをしてゐた。
フアイヤ・ガン (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
が、その人夫達はなるべく手足をらさないように、なるべくきたない思いをしないように、なるべく労力を費やさないように、手際てぎわよく引揚を、試みているらしい。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お宮は不貞た面をふくらして黙りこんでいたが、しばらくして私の顔をジロジロときたなそうに瞻りながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
上陸当初の日に一瞥いちべつして嘔吐おうともよおし、現代日本の醜悪面しゅうあくめんを代表する都会とののしり、世界のどんなきたない俗悪の都市より、もっと殺風景で非芸術的な都市と評した東京は
私たちの書生時代には、東京じゅうで有名の幾軒を除いては、どこの蕎麦屋もみなきたないものであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きのふの雨のやどりの御めぐみに、まことある御方にこそと九九おもふ物から、一〇〇今より後のよはひをもて一〇一御宮づかへし奉らばやと願ふを、一〇二きたなき物に捨て給はずば
一筋町を北へ、一町許り行くと、傾き合つたきたならしい、家と家の間から、家路が左へ入る。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たけなるかみをうしろにむすびて、ふりたるきぬになえたるおびやつれたりとも美貌びばうとはにもゆるすべし、あはれ果敢はかなき塵塚ちりづかなか運命うんめいてりとも、きたなよごれはかうむらじとおもへる
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ぶたきたない所が好きなのではなく、清潔な所をわきに作っておくとその方へ行くそうである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
優しい母が咽喉のどを突いて死んでしまったのか、あの大きな奥深い家から、突然、父親とたった二人、狭い小さいきたなびれた、裏長屋の一軒へ、移り住まねばならなかったのか、また
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いつも物置ものおきうしろの、きたな小舎こやなかにばかりゐたぶたが、荷車くるまにのせられました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それはこの国最大の歴史家ナブ・シャリム・シュヌ誌す所のサルゴン王ハルディア征討行せいとうこうの一枚である。話しながら博士のてた柘榴ざくろの種子がその表面にきたならしくくっついている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それは醜い女で、その女を呼んでくれと名を言うときは、いくら酔っていてもはずかしい思いがすると、S—は言っていた。そして着ている寝間着のきたないこと、それは話にならないよと言った。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
寄席よせの下の洋食屋同然にきたなかったその店は、中学の制服を着立てのわたしに
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
くませんとなし其せつに此眞向まむかひの棟割長家むねわりながや建續たてつゞけたる其中にも一そうきたな荒果あれはていと小狹せうけふなる家の中に五十四五なる老人一個ひとり障子一枚押開おしひら端近はしちかふ出物の本を繰廣くりひろげ見てゐたりしが今長三郎が手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
努力のかいあって、いままで二つ三つそういう口があったが、いつの間にかたち消えになってしまったのは、たぶんきたない腹を見抜かれたか、財産の点で折れ合いがつかなかったからであろう。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
きたないことを言うようだが銭を捨てるだけの話、本真ほんまにうまいもん食いたかったら、「一ぺんおれの後へいて……」行くと、無論一流の店へははいらず、よくて高津こうづ湯豆腐屋ゆどうふや、下は夜店のドテ焼
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ホーホケキョウの地声の外にこの二種類の啼き方をするのが値打ちなのであるこれは藪鶯やぶうぐいすでは啼かないたまたま啼いてもホーキーベカコンと啼かずにホーキーベチャと啼くからきたない、ベカコンと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いまにも泣きだしそうな空模様の下に、おもて通りの小間物屋のほし物が濡れたまましおたれ気にはためいているのが、窓のさんのあいだから見える……もの皆が貧しくてうすきたない瓦町の露地の奥。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それ、ごらんなさい、そのやましそうな。……ええ、もうきたならしい」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
收めたり夜具よるのものも清くして取扱ひ丁寧なり寐衣ねまきとてあはせいだしたれど我はフラネルの單衣ひとへあればこれにて寐んと一枚を戻せしにいかにあしくは聞取りけん此袷きたなしと退けしと思ひ忽ち持ち行きて換へ來りしを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「その女もこんなにきたないおばあさんですものねえ。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)