むか)” の例文
新字:
もしそれ正しき刑罰を不義の快樂けらくむかはしめつゝ、罪のつくれる空處を滿みたすにあらざれば、人その尊さに歸ることなし 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我と此男とは暫しむかひ坐して語を交ふることなく、男は手を額に加へて物案ずるさまなりしが、忽ち頭を擧げて我面をまもりたり。
彼は女性が、男性にむかつてかうした調子で話をしようとは思つてもゐなかつたのである。私にとつては、この種の話は氣樂きらくだつた。
そこから細徑ほそみちを少し行くと、俄然として路は巖端いははなに止まつて、脚下は絶壁の深澗になり、眼前のむかひの巖壁に霧降の麗はしいすがたは見えた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
うたで置くべきやと一心をこめて君太夫にむか其許樣そのもとさまには常々吉原へ入込いりこみ給へば私しの身を遊女になさ代金しろきんにて母の身の上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今更何處どこに下げて吾等にむかひ得るなど、後指うしろゆびさして嘲り笑ふものあれども、瀧口少しも意に介せざるが如く、應對等は常の如く振舞ひけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
風呂敷ふろしきすこちひさいので、四隅よすみむか同志どうしつないで、眞中まんなかにこまむすびをふたこしらえた。宗助そうすけがそれをげたところは、まる進物しんもつ菓子折くわしをりやうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ微笑びせうもつくるしみむかはなかつた、輕蔑けいべつしませんでした、かへつて「さかづきわれよりらしめよ」とふて、ゲフシマニヤのその祈祷きたうしました。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ロレ 灰色目はひいろめあした顰縮面しかめつらよるむかうてめば、光明ひかりしま東方とうばうくもいろどり、げかゝるやみは、かみまへに、さながら醉人ゑひどれのやうに蹣跚よろめく。
そして無言のまゝ竿を並べて瀬にむかつた。自分は久しいこと巖蔭の冷たいところへ寢てゐなくてはならなかつた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
そのやうなつまらぬかんがへをつて、つまらぬ仕向しむけをいたしまするつまへ、のやうな結構けつこうひとなればとて親切しんせつむかはれましやうか、お役所やくしよから退けておかへあそばすに
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
千代松夫婦は、臺所の巖乘がんじような長火鉢にむかひ合つてゐたが、妻のお安は治郎作の聲を聞くと、立つて自分の坐つてゐた場所を道臣の席にするやう座蒲圃を敷いたりした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
最後には女神めがみイザナミの命が御自身で追つておいでになつたので、大きな巖石をその黄泉比良坂よもつひらさかふさいでその石を中に置いて兩方でむかい合つて離別りべつの言葉をかわした時に
わたくし斷言だんげんする、この海底戰鬪艇かいていせんとうてい一度ひとたび逆浪げきらう怒濤どたうつて縱横無盡じゆうわうむじん隱見出沒いんけんしゆつぼつ魔力まりよくたくましうするときには、たとへひやく艦隊かんたいせん大戰鬪艦だいせんとうかん彈丸だんぐわんあめらしてむかつたとて
今度の事件は、一面警察の成功で有ると共に、又一面、警察乃至法律といふ樣なものゝ力は、如何に人間の思想的行爲にむかつて無能なもので有るかを語つてゐるでは無いか。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
帝王ていわう世紀せいきにありといふ。あやしきをきこえたる羿げいかつ呉賀ごがきたあそべることあり。呉賀ごがすゞめして羿げいむかつてよといふ。羿げい悠然いうぜんとしてうていふ、生之乎これをいかさんか殺之乎これをころさんか
術三則 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わが心の雄誥をたけびむかひて、この幼兒をさなごのさし伸べたる手にむかひて、全く無力なればなり。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
朝に夜に、茶のけむりほのぼのと立てて、在りむかす、これの老樂おいらく
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
殿上、奧深く、神壇にむか
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ほゝゑみてうみむかへり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
苑にむかへる渡殿わたどの
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
なほ父をして子にむかひてやぶさかならしむる者、人の己をそしるを聞き、事のまことさだかにせんためクリメーネのもとに行きしことあり 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
未だ數彈ならざるに、むかひの家の扉は響なくしてき、男の姿は戸に隱れぬ。想ふに此人を待つものは、優しき接吻と囘抱となるべし。
申べしと云ばおきく得心とくしんして出たりけりさて大岡殿おほをかどの利兵衞にむかひ如何に利兵衞其方そのはうくしかんざし證據しようことして與兵衞供々とも/″\吉三郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ロレ さゝ、わしと一しょにござれ。はやすましてのけう。慮外りょぐわいながら、たふと教會けうくわい二人ふたり一人ひとり合體がったいさするまでは、さしむかひでゐてはなりませぬのぢゃ。
私は自分の義務と信ずる所を行ふ外には、あはれみも悔いも知らぬ男にむかつて訴へた。彼は續けて云つた——
そして又宿志の蹉跎として所思の成就せざるを恨み歎くのが常で有り、それから又年首には、屠蘇の盃を手にし、雜煑の膳にむかふに及んで、今年こそはと自ら祝福して
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さて山城のワカラ河に行きました時に、果してタケハニヤスの王が軍を興して待つており、互に河を挾んでむかい立つていどみ合いました。それで其處の名をイドミというのです。
小池は初めて氣がついたらしく、肩からひざあたりへかけて、黒い塵埃ほこりの附いてゐるのを、眞白なハンケチでバタ/\やつて、それからむかひ合つてゐるお光の手提袋てさげぶくろの上までを拂つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
甚之助じんのすけかぎりなく口惜くやしがり、父君ちヽぎみなげ母君はヽぎみめ、長幼ふたり令孃ひめあたりあるきて、中姉樣ちうねえさまいぢすことヽらみ、ぼくをも一處ともにやれとまり、令孃ひめむかへばわけもなくあまへて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くもはなれると、つきかげが、むかうの窓際まどぎはすゝけた戸袋とぶくろ一間ひとま美人びじんそで其處そこ縫留ぬひとめた蜘蛛くもに、つゆつらぬいたがゆるまで、さつ薄紙うすがみもやとほして、あきらかにらしす、とに、くもつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みなぎらふ夏の光も過ぎにけりわがむかふ池の薄らさざなみ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほゝゑみてうみむかへり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ララは我にむかひて起ち、聲振り絞りて、我に光明を授け給へ、我に神の造り給ひし世界の美しさを見ることを得させたまへと祈願したり。
さてこれらにむかひつゝ、汝のうしろに一の光を置きてこれに三の鏡を照らさせ、その三より汝の方に反映てりかへらせよ 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
見ておどろきたるていなりしが其盜賊はまつたわたくしなりの者は御助おんたすけ下さるべしと申けるをきゝ伊兵衞は八にむかひ汝は我が先達さきだつて寸志すんしむくはんとて命をすてて我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ヂュリ ほんこと讒訴ざんそとははれぬ、ましてこれは後言かげごとではない、ぢかかほむかうてうてゐるのぢゃもの。
見るとそれは陽炎かげろふのヴェイルを頭にかけた小さなものだつた。私の傍へ來るようにと招くと、直ぐに膝の上に來たのだよ。私はちつともそれにむかつて口をきかなかつた。
煙草を詰めた煙管を空しく弄りながら、むかう河岸の美しい灯の影を眺めてゐた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
むかひゐて兵卒はにほひはげしけれ街道に遇ふ縱隊のにほひ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
我を慰むるもの全く我にむかひていふ。何ぞなほ疑ふや、汝はわが汝と共にありて汝を導くを信ぜざるか 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
むかう岸の家で欄干に赤い裏の蒲團を干してゐる女は、白い顏に笑ひを浮べて、竹丸に小手招きなぞした。背後うしろの賑やかな通りでは、人音がざわ/\聞えて、太鼓の響や喇叭らつぱの聲が絶えずしてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
われは白、かくてむかひぬ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)