あじ)” の例文
そこで、まえにちょうづめがやったように、なべのなかにはいって、おかゆのなかをころがりまわって、あじをつけようと思ったのです。
わたくしはだんだんそんなふうかんずるようになったのでございます。いずれ、あなたがたにも、そのあじがやがておわかりになるときまいります……。
武州ぶしゅう高尾たかおみねから、京は鞍馬山くらまやま僧正谷そうじょうがたにまで、たッた半日でとんでかえったおもしろい旅のあじを、竹童ちくどうはとても忘れることができない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっそく、すいたおなかを満足まんぞくさせて、残りをポケットにいっぱいつめこみました。それにしても、パンのあじはすばらしいものでした。
お三根を殺傷さっしょうした凶器きょうきは、なんであるかわからないが、なかなかあじのいい刃物はものであるらしく、頸動脈はずばりと一気に切断されていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「くるときに、このまちで、サフランしゅんだが、そのさけあじわすれることができなかった。どれ、ひとつゆっくりとさけんでいこう……。」
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふくろじゃねえよ。おいらのせるなこの中味なかみだ。文句もんくがあるンなら、おがんでからにしてくんな。——それこいつだ。さわったあじはどんなもんだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして自ら生命としてゐた藝術も忘れて了ツて、何時とはなくあじの薄い喰物にも馴れて行くのであツた==平民の娘は次第に彼の頭を腐蝕ふしよくさせた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
試みに煮てみようと言うので、五串ばかり小鍋に入れて、焜爐こんろにかけた。寝る時あじわってみたが骨はまだかたかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
然るに過般来かはんらいしょくあじ無く、且つ喰後は胃部には不快を覚えたるも、今や進んで喰するを好むも、然れども注意して少量にして尚空腹を覚ゆるを耐忍せり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
こういって、外套室がいとうしつへかけ出した。このとき小使こづかいがベルのボタンをしたので、あじもそっけもない広い校舎こうしゃじゅうへ、けたたましいベルのおとひびき渡った。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
かかる理財のあじは、上士族の得て知るところに非ず。この点より論ずれば上士も一種の小華族というてなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
折々不愉快ふゆかいなことのあるあいだにも、かくのごとき小な事が、燈明とうみょうのごとく輝いて、人生のあじを甘からしめる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
二人は、お手伝いのミリーよりも早く起きて、いつものように穴蔵あなぐらにしこんだビールにサルサこんからとったえきをまぜ、いちだんとあじをよくしようというのだ。
市※の若旦那もナカ/\あじをやる。甘くたくんだ。僕は久子さんの件で菊太郎君の頭を押えていたが、今度は物の見事に押えられてしまった。しかし五分々々だ。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
到底のんどくだるまじと思いしに、案外にもあじわいくて瞬間にべ尽しつ、われながら胆太きもふときにあきれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ある建具はやぶれた此の野中の一つ家と云った様な小さな草葺くさぶきを目がけて日暮れがたから鉄桶てっとうの如く包囲ほういしつゝずうと押寄おしよせて来る武蔵野のさむさ骨身ほねみにしみてあじわった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また武蔵野のあじを知るにはその野から富士山、秩父山脈国府台こうのだい等を眺めた考えのみでなく、またその中央につつまれている首府東京をふりかえった考えで眺めねばならぬ。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
下司あじの、はるかに一流料理を、引き離して美味いものは、数々ある。おでんを見よ。
下司味礼賛 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
与次郎老人があじなことを言い出しました。弁信はその声を聞いたけれども、その物を見ることができません。茂太郎はその物を見ているけれども、その言葉を悟ることができません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両者の音韻に於ける切れあじは、すくなくとも鋭利な刃物と鈍刀ぐらいの相違がある。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
時々ときどき老人ろうじんが、縁側えんがわ一人ひとりきりで、たのしそうにチビチビとやつているのをていましたから、ぼたんのはちつてつたとき、わざと半分はんぶんみかけのやつを、とくべつにあじがいいのだからといつて
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
殺した人は別に有とは誰人たれびとにや其許樣そこもとさまが御存知ぞんじならば何卒なにとぞをしへて下されと言ば忠兵衞莞爾につこわら然樣さういはるゝならば教へもせんが然れども其處そこ肝要かんじんかな魚心うをごころ有ば水心とあじことばにお光はほゝ強面つれなくなさばかくさんときつと思案しあん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それに代用あじもとをどっさり振りかけ
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なじよなあじだた。」
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
番兵はじいっとがまんしていました。もうまえから、このあじを知っていたからです。けれども、ユダヤ人はひいひいきわめいて
「や、これはかたじけないが、じぶんは見らるるとおり僧形そうぎょうの身、幼少ようしょうから酒のあじを知ったことがない、兄貴あにき、かわってくれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰幽以来きゆういらいなんねんかになりますが、わたくしんな打寛うちくつろいだ、なごやかな気持きもちあじわったのはじつにこのとき最初さいしょでございました。
うつくしい品物しなものを、いっぱいならべたみせまえや、おいしそうなにおいのする料理店りょうりてんまえとおったときに、おとこは、どんなになかあじけなくかんじたでしょう。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この言をあじわうと夫婦間の親密とか貞操ていそうなるものは、自分ら以外の者のほとんど知るべからざるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「ひどいことがあるもんか。これからゆっくりかみしめて、あじようというところで、おまえこしされたばっかりに、それごらん、までこんなにきずだらけだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
血気の壮士らのやや倦厭けんえんの状あるを察しければ、ある時は珍しきさかなたずさえて、彼らをい、ある時は妾炊事を自らして婦女の天職をあじわい、あるいは味噌漉みそこしげて豆腐とうふ屋にかよ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
十二月は余の大好だいすきな月である。絢爛けんらんの秋が過ぎて、落つるものは落ちつくし、るゝものは枯れ尽し、見るもの皆乾々かんかん浄々じょうじょうとして、さびしいにも寂しいが、寂しい中にも何とも云えぬあじがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「うむ。恋愛場面ラブ・シーンのない小説はあじのついていないアイスクリームだ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あじいがたな。」
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくし今更いまさらながらにあまる責任せきにんおもさをかんずると同時どうじに、かぎりなき神恩しんおんかたじけなさをしみじみとあじわったことでございました。
「ハハア、竹童のやつめ、わしの背なかで旅をしたあじをしめて、なにか心にたくらみおるな。よしよし明日あすはひとつなにかでこらしておいてやろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鳥はくちょうは、子供こどもをなくして、しみじみとかなしみをあじわっていましたから、そのふえ音色ねいろをくみとることができたのです。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「きっと、きみのそのうすっぺらなしたを、まどからだしたときのようなあじがするだろうぜ。」
渋茶しぶちゃあじはどうであろうと、おせんが愛想あいそうえくぼおがんで、桜貝さくらがいをちりばめたような白魚しらうおから、おちゃぷくされれば、ぞっと色気いろけにしみて、かえりの茶代ちゃだいばいになろうという。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
尺を得れば尺、寸をれば寸と云う信玄流しんげんりゅうの月日を送る田園の人も、夏ばかりは謙信流けんしんりゅう一気呵成いっきかせいを作物の上にあじわうことが出来る。生憎あいにく草も夏は育つが、さりとて草ならぬものも目ざましくしげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また同氏の説明を見てますますこの一句のあじわいが理解せられた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
じつは、してくれる支那茶しなちゃあじわすれられなかったからです。支那茶しなちゃあじがいいってどんなによかったろうか。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ヘンゼルは手をぐっと高くのばして、屋根をすこしかきとり、どんなあじがするか、食べてみました。グレーテルは窓ガラスにからだをくっつけて、ポリポリかじりだしました。
酒のあじ……
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おじいさんのめしあがったあとさけは、あじがうすくなった。」といって、息子むすこは、そのさけ自分じぶんめみました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれどもそのサラダのあじが、どうしてもわすれられないほどうまかったので、翌日よくじつになると、まえよりも余計よけいべたくなって、それをべなくては、られないくらいでしたから、おとこは、もう一
ほとんど一しょううみうえらして、おもしろいこと、つらいことのかずかずをあじわってきましたが、いつしかとしって、船乗ふなのりをやめてしまいました。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女かのじょからだは、異郷いきょうつちなかほうむられてしまいましたが、そのとしのサフランしゅは、いままでになかったほど、いいあじで、そして、うつくしいあかみをびていました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつしか、砂漠さばくなかに、あかまちがあり、そこには、あじのいいサフランしゅがあり、きれいなおんながいるということが、伝説でんせつのように、世界せかいの四ほうひろがりました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)