はかりごと)” の例文
ここによきはかりごとこそあれ、頃日このころ金眸きんぼう大王が御内みうちつかへて、新参なれどもまめだちて働けば、大王の寵愛おおぼえ浅からぬ、彼の黒衣こくえこそよかんめれ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「いや。君のお旨を、よく申し聞かせ、はかりごとのためなりと、得心とくしんの上で、仮の獄舎ひとやへ移しておくなら、なんのさまたげもないでしょう」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現に日清戦争にっしんせんそうの時にも、種々のはかりごとけんじて支那政府の採用さいようを求めたる外国人ありしは、その頃の新聞紙しんぶんしに見えて世人の記憶きおくするところならん。
病気のためにも病床の慰みにもまた死後のはかりごとの足しにもならないこういう高価の大辞典を瀕死の間際まぎわに買うというは世間に余り聞かないはなし
町の者母の無情つれなきを憎み残されし子をいや増してあわれがりぬ。かくて母のはかりごとあたりしとみえし。あらず、村々には寺あれど人々の慈悲めぐみには限あり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人は二十日はつか足らずの目のさきに春を控えた。いちに生きるものは、忙しからんとしている。越年おつねんはかりごとは貧者のこうべに落ちた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが——何うして討ったかと聞かれたら?——それは、尋常では討てんから、はかりごとにかけた、と、いえばいい、そうだっ
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これ婆羅門バラモン、かくのごとくはかりごとをなす。迦葉かしょうの曰く、『なんじがもしねむるとき、神識じんしき出入す、傍人見しやいなや』なきなり
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
千頭萬頭のはかりごとを索め竭し考へ究めて、そして海涸れ底現はるゝ的の光景に至つて初めて一石を下すに及ぶのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
中原ちゅうげん、また鹿をうて、筆を投げすてて戎軒じゅうけんを事とす。縦横のはかりごとらざれども、慷慨こうがいの志はお存せり。つえいて天子にえっし、馬を駆って関門をず。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
庄太夫大いによろこび、二八よくも説かせ給ふものかな。此の事我が家にとりて二九千とせのはかりごとなりといへども、香央かさだは此の国の貴族にて、我は氏なき三〇田夫でんぷなり。
嗚呼、王侯の前に屈せざりし首よ、人を殺し火を放つはかりごとを出しゝ首よ、深山みやまの荒鷲に似たる男等の首よ。今は靜に身を籠中に托すること、人に馴れたる小鳥の如し。
……よくとしよりがつてかせた。——ひるがへつておもふに、おのづからはゞかるやうに、ひとからとほざけて、渠等かれら保護ほごする、こゝろあつた古人こじん苦肉くにくはかりごとであらうもれない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はひそかいましめて多く夜でず、内には神を敬して、得知れぬ教会の大信者となりて、奉納寄進に財ををしまず、唯これ身の無事を祈るに汲々きゆうきゆうとして、自ら安ずるはかりごとをなせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おもえば女性の身のみずかはからず、年わかくして民権自由の声にきょうし、行途こうと蹉跌さてつ再三再四、ようやのち半生はんせいを家庭にたくするを得たりしかど、一家のはかりごといまだ成らざるに、身は早くとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
従って衣食のはかりごとを立てることは僕等の目前に迫っていた。僕はだんだん八犬伝を忘れ、教師きょうしになることなどを考え出した。が、そのうちに眠ったと見え、いつかこう言う短い夢を見ていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
体の弱い自分のはかりごとをしなければならぬということが、いつになく深くお増の心に考えられた。それからそれへと移って行くらしい、男の浮気だということも、思わないわけに行かなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今日はおぞくも伏兵のはかりごとに陥れるを、またいかんともするあたわざりき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
再度のはかりごとくわだてられ、その最初の手段として、この年早々に法勝寺の円観、小野の文観、南都の知教、浄土寺の忠円、教円などという、名だたる高僧知識をして、北条家調伏の修法をせしめた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同志のはかりごとの一端をさえ話して聞かせるのだった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「こんどの戦には、始終玄徳を扶けてきた従来の帷幕いばくのほかに、何者か、新たに彼を助けて、はかりごとを授けていたような形跡はなかったか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
を弾きながら山を彷徨さまようた。勿論、このはかりごとは成就した。山の夜更けの三味の音は、甚七の注意をくに充分であった。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
煩悶はんもんきょくそこいらを迷付まごついている血がさかさにのぼるはずである。敵のはかりごとはなかなか巧妙と云うてよろしい。むか希臘ギリシャにイスキラスと云う作家があったそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刃傷にんじょうでもすれば喧嘩両成敗、氏郷も政宗も取潰とりつぶされて終うし、自分も大きな越度おちどである。二桃三士を殺すのはかりごととも異なるが、一席の会合が三人の身の上である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自から頼む所がなくなってはさるはかりごともしはせまい、憎まれものの殺生ずきはまた相応した力もあった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃某の貴公子この若草手に摘まばやとてさま/″\のてだてを盡しゝに、姫の餘りにつれなかりしかば、公子その恨にえたへで、果はおそろしきはかりごとをさへめぐらしつ。
社の方でも山田やまだ平生へいぜい消息せうそくつまびらかにせんと具合ぐあひで、すき金港堂きんこうどうはかりごともちゐる所で、山田やまだまた硯友社けんいうしやであつたため金港堂きんこうどうへ心が動いたのです、当時たうじじつ憤慨ふんがいしたけれど
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
卿は味方の公卿や僧侶や、武士達の気心を知ろうとし、そうして一方には六波羅方や、六波羅に心を寄せている諸臣の、猜疑さいぎの眼をたくみに眩ませて、自由に六波羅征伐や、北条氏討伐のはかりごとを語ろう。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて彼は差し当り独立のはかりごとをなさん者と友人にもはかりて英語教師となり、自宅にて教鞭きょうべんりしに、肩書きのある甲斐かいには、生徒のかずようようにえまさり、生計の営みに事を欠かぬに至りけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
時の大臣おとどともあろう方々が、女童おんなわらべの如く、日夜めそめそ悲嘆しておらるるのみで董卓とうたく誅伏ちゅうふくするはかりごとといったら何もありはしない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自活のはかりごとに追われる動物として、生を営む一点から見た人間は、まさにこの相撲のごとく苦しいものである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月丸とて、一流の使手ゆえ、女風情や、お前が、何う工夫したとて、討てるものではなし、要らぬはかりごとをして、月丸に侮られるより、立派に、太刀打をして、討たれましょう。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
方孝孺の門人林嘉猷りんかゆうはかりごとをもって燕王父子をしてあい疑わしめんとす。けい行われずしてむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またはかりごとなかるべからず、これたゞ初音はつねとりて、お香々かう/\茶漬ちやづるのならばことりよう。白粉おしろいかをりをほんのりさして、絽縮緬ろちりめん秋草あきぐさながめよう。無地むぢ納戸なんどほたるよう。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は三年来生殺なまごろしの関係にて、元利五百余円のせめを負ひながら、奸智かんちろうし、雄弁をふるひ、大胆不敵にかまへて出没自在のはかりごといだし、鰐淵が老巧の術といへども得て施すところ無かりければ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これしきのほりを越えるのにはかりごとを用いるなど、もどかしと見てひしめいていた後ろの将士は、そことはべつに、どうと前列を押して
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔のはかりごとを繰り返す勇気のなかった余は、口中こうちゅううるおすための氷を歯でくだいては、正直に残らず吐き出した。その代り日に数回平野水ひらのすいを一口ずつ飲まして貰う事にした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
廖鏞りょうよう廖銘りょうめいは孝孺の遺骸いがいを拾いて聚宝門外しゅうほうもんがいの山上に葬りしが、二人もまた収められて戮せられ、同じ門人林嘉猷りんかゆうは、かつて燕王父子の間に反間のはかりごとしたるもの、これ亦戮せられぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帷幄ゐあくさんして、蝶貝蒔繪てふがひまきゑ中指なかざし艷々つや/\しい圓髷まるまげをさしせてさゝやいたはかりごとによれば——のほかにほ、さけさかなは、はしのさきで、ちびりと醤油しやうゆ鰹節かつをぶしへてもいゝ、料亭れうてい持出もちだし)
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕がそばに居ると智慧ちゑを付けて邪魔をると思ふものだから、遠くへ連出して無理往生に納得させるはかりごとだなと考着くと、さあ心配で心配で僕は昨夜ゆふべ夜一夜よつぴてはしない、そんな事は万々ばんばん有るまいけれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小太郎は、前から企んでいたはかりごとだと感じた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「この渫陣せつじんの形は、決して善いと思っているわけでもないが、さりとて何のはかりごとがないわけでもない。まあ推移を見ておれ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂場から現われる時はこれに対するはかりごとがある、また流しから這い上るときはこれを迎うる成算もあるが、そのうちどれか一つにめねばならぬとなるとおおいに当惑する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燕王はかりごとに陥り、馬に乗じがいを張り、橋を渡り城に入る。大鉄板にわかに下る。たゞ少しく早きに失して、王の馬首を傷つく。王驚きて馬をえてせてづ。橋を断たんとす。橋はなはかたし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
劉填りうてんひそかはかりごとあんじ、せんめいじて鏡中きやうちう雙鸞さうらんつくらしむ、するところは、陽王やうわう寵姫ちようひかたいだき、ほゝ相合あひあはせて、二人ふたりニヤ/\としてまさねんとほつするがごときもの。したたるくしておもてくべからず。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いかに阿瞞あまん。もしこの許攸が、黄河ではかりごとを授けなかったら、いくら君でも、今日この入城はできなかっただろう」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから逃亡ちて見てもやっぱり過去に追われて苦しいようなら、その時おもむろに自滅のはかりごとめぐらしても遅くはない。それでも駄目ときまればその時こそきっと自殺して見せる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四城とはかりごとを合せて氏郷を殺し、一揆の手に打死を遂げたることにせんとしたる事、政宗方に名生の城の落武者来りて、余りに厳しく攻められて相図合期ごうごせざりしと語れる事等を訐き立てた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仲達は仰天して、それこそ蜀の間諜のはかりごとに過ぎないと、声を大にして言い訳した。そして、馬をくだり、剣も捨て、数万の兵も城外へのこして、単身
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実を云うと、彼は森本の予言通り、衣食のはかりごとのために、好奇家の権利を放棄したのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)