草鞋わらぢ)” の例文
從妹いとこのお光と、小僧一人の世帶ですが、小僧は店の次の間で寢て居るし、喜太郎は久し振りで草鞋わらぢの夜なべを休んで、奧で遲くまで
わらちひさなきまつたたばが一大抵たいていせんづゝであつた。の一わらなはにすれば二房半位ばうはんぐらゐで、草鞋わらぢにすれば五そく仕上しあがるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ぢいやは御飯ごはんときでも、なんでも、草鞋わらぢばきの土足どそくのまゝで片隅かたすみあしれましたが、夕方ゆふがた仕事しごところから草鞋わらぢをぬぎました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
恐くは伊沢に往き、狩谷に往つたであらう。伊沢氏の口碑に草鞋わらぢを脱いだと云ふのは、必ずしも字の如くに読むべきではなからう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
遍路のはいてゐる護謨底ごむそこの足袋をめると『どうしまして、これは草鞋わらぢよりか倍も草臥くたびれる。ただ草鞋では金がつてかなひましねえから』
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
このしづくに、横頬よこほゝたれて、腕組うでぐみをして、ぬい、とつたのは、草鞋わらぢつたみせ端近はぢかしやがんだ山漢やまをとこ魚売うをうりで。三まいざる魚鱗うろこひかつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
良寛さんは、草鞋わらぢをぬいで上にあがると、行燈あんどんに火を入れる気力もなくて、菫の花束をひざにのせたまま、ぼんやりすわつてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
貧家に人となつた尊徳は昼は農作の手伝ひをしたり、夜は草鞋わらぢを造つたり、大人のやうに働きながら、健気けなげにも独学をつづけて行つたらしい。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其話では、——菊池君は贅澤にも棧橋前の「丸山」と云ふ旅館に泊つて居て、毎日草鞋わらぢ穿いて外交に𢌞つて居る。そして、何處へ行つても
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あくる朝、友の強ゐてとゞむるをさま/″\に言ひ解きてていのぼる。旅の衣を着け、草鞋わらぢ穿うがち、藺席ござかうぶればまた依然として昨日きのふの乞食書生なり。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
土地の橐駝師うゑきやが昔の名匠の苦心を雜草の中に學ばうとして、新らしい草鞋わらぢを朝露にじと/\させながら、埋れた泉石せんせきを探り歩いてゐることもあつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この連れの男といふは水練の名人にて、藁と槌とを持ちて水の中に入り、草鞋わらぢを作りて出て来るといふ評判の人なり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
きゝ番人作兵衞は勝手より這出はいいで旦那樣不思議ふしぎの事が御座ります三丁目の番の所にて云々と話せば同心は夫と九助を呼寄よびよせ吟味ぎんみなすに其の品は昨夜草鞋わらぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「狐と間違へられては大変ですネ」と篠田は莞然くわんぜんわらひ傾けつ、かまちに腰打ち掛けて雪にこほれる草鞋わらぢひも解かんとす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
待つて居るのもつまらぬと思つて荷物を通運会社に托し、行ける所まで行く積りで素足に草鞋わらぢを穿いた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
達二は、明後日から、また自分で作った小さな草鞋わらぢをはいて、二つの谷を越えて、学校へ行くのです。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その根方ねがたところを、草鞋わらぢがけの植木屋うゑきや丁寧ていねいこもくるんでゐた。段々だん/\つゆつてしもになる時節じせつなので、餘裕よゆうのあるものは、もう今時分いまじぶんから手廻てまはしをするのだといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
果し合ひの最中に草鞋わらぢの紐を結ぶやうな手である。負けるを承知にしても、なんと不逞々々ふてぶてしい男かとあきれるくらゐの、大胆不敵な乱暴さであつた。棋界は殆んど驚倒した。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
一行の誰かが先年農科大学の池野成一郎博士が欧洲へく時、アルプス登山は草鞋わらぢに限るといつて、五十足ばかり用意して往つたが、草鞋は一向役に立たず、色々持て余した末
初めは快く歩き出したものゝ、ものゝ一里も歩いて來ると早や草鞋わらぢの裏が痛くなつた。
「そんな事だつたら、何で脚絆きやはんだ、草鞋わらぢだつて穿かせてやることがあらうば。」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
言葉の如く庫裡に入りてきふを卸し、草鞋わらぢを脱ぎて板の間に座を占め、寺男の給仕する粟飯を湯漬ゆづけにして、したたかに喰ひ終り、さて本堂に入りて持参の蝋燭を奉り、香を焚きて般若心経
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これも平生へいぜい下駄げたをはいたものでありませうが、この時分じぶんひとおほくは草履ぞうり草鞋わらぢのほかにかはつくつたくつき、またこんなかたち下駄げたあめふりなどにはいてゐたことがわかります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
“並木町——いにしへ、松、桜、榎等の列樹、路をはさんでありしを以て名くと云ふ。慶安頃まで、樹間に草舎くさやありて、草履草鞋わらぢなどひさぎしのみなりしが、後漸く人家稠密に及び、遂に今の街衢をなす。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
反つてそれから来る温さに感謝して、秋の、冬の長い夜な夜なを、繩をうたり、草鞋わらぢを編んだりして、夜をかさねばならなかつた。家賃は四月目五月目位からとどこほり出した。畳はすり切れた。
間もなく近くの兵営から軍隊が駆けつけて、それ等の投降兵を吉賀町附近の寺院に一時的に収容した。彼等がそこにゐる間、附近の人達は毎日弁当持ちに草鞋わらぢばきで押すな押すなで見物に出掛けた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
はるばると金柑の木にたどりつき巡礼草鞋わらぢをはきかへにけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
このみち草鞋わらぢがけであるいたものである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこへ草鞋わらぢ踏込ふみこんでおあたんなさいまし。
君を尋ねて草鞋わらぢで来れば
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
草鞋わらぢを穿いて後ろ向きに縁側にたどりつき、前から打合せのあつた伜の浪太郎に合圖をして、小用に立つたと見せて雨戸をあけさせ
ばうなはが七せんまうで一そく草鞋わらぢが一せんりんといふ相場さうばだからどつちにしても一にち熱心ねつしんうごかせばかれは六七せんまうけるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さあ、これからが名代なだい天生峠あまふたうげ心得こゝろえたから、此方こツち其気そのきになつて、なにしろあついので、あへぎながら、草鞋わらぢひも締直しめなほした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其話では、——菊池君は贅沢にも桟橋前の「丸山」と云ふ旅館やどやに泊つて居て、毎日草鞋わらぢを穿いて外交に廻つて居る。そして、何処へ行つても
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
就中なかんづく茶山は同じく阿部家の俸をむ身の上であるので、其まじはりが殊に深かつた。それゆゑ山陽は江戸に来たとき、本郷真砂町の伊沢の家で草鞋わらぢを脱いだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この日は船津川高山など云ふ被害の劇甚地を廻つた。大雪の翌日で、日は暖かく照つて居たが、殆ど膝へまで届く雪の野路を、皆な草鞋わらぢばきで踏んで歩いた。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
長い旅に良寛さんはせて、大きい眼は一層大きくなつた。衣の肩はにやけ、足には草鞋わらぢ胼胝たこができた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
長袖ながそであしにも肉刺まめ出來できることはあるまいとおもつて、玄竹げんちくほとんど二十ねんりで草鞋わらぢ穿いたのであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
やがて丑松は庄馬鹿の手作りにしたといふ草鞋わらぢ穿いて、人々のなさけに見送られて蓮華寺の山門を出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
草鞋わらぢをはいて歩いてゐたので、到るところの雨にぬれた山桜の花片はなびらが一面にその羽織にくつついて取れないので、それに興味を感じて歌をつくつたこともあつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
くんで差出すぼん手薄てうす貧家ひんか容體ありさま其の内に九助は草鞋わらぢひもときあしを洗ひて上にあがり先お里へも夫々それ/″\挨拶あいさつして久々ひさ/″\つもる話しをなす中にやがてお里が給仕きふじにて麥飯むぎめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
準備が思ひの外早く出来上つたので二時頃ひつぎが家を出た。平三は父や弟と同じ様に白装束に草鞋わらぢを穿いた。柩が家の周囲を一𢌞して野路へ掛るまで平三は肩を入れて居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
道は『雪解ゆきどけみち』になつて、朝のうちは氷つてもひる過ぎからは全くの泥道で、歩くのにまた難儀なのが幾日も幾日も続く。さういふ時には草鞋わらぢは毎日一足ぐらゐづつ切れた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
私は草鞋わらぢを愛する、あの、枯れたわらで、柔かにまた巧みに、作られた草鞋を。
「あん、て来る。行て来る。今草鞋わらぢ穿ぐがら。」達二ははねあがりました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
脚絆きやはん草鞋わらぢ足拵あしごしらへは、見てくればかり軽さうだが、当分は御膝許おひざもとの日の目せえ、拝まれ無え事を考へりや、実は気も滅入つての、古風ぢやあるが一足毎に、後髪を引かれるやうな心もちよ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
落ちたのは水溜みづだまりの中で、香川氏は草鞋わらぢのやうにづくづくになつてゐた。
「岡つ引におどかされて獲物を吐き出したとあつちや、この東作の名折れだ。今直ぐ長い草鞋わらぢ穿くまでも、そいつは御免蒙らうよ」
おつぎはひまぬすんでは一生懸命しやうけんめいはりつた。卯平うへいがのつそりとしてはしつのは毎朝まいあさこせ/\といそがしい勘次かんじ草鞋わらぢ穿はいようとするときである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
莞爾につこりして、草鞋わらぢさき向直むきなほつた。けむり余波なごりえて、浮脂きら紅蓮ぐれんかぬ、みづ其方そなたながめながら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)