すえ)” の例文
光はすえひて竹村の姉のもとへ、天神様のはとを見になど行き候。かしこに猿もあり、猿は行儀わろきものゆえ見すなといひきかせ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
更にそのすえが裾野となって、ゆるやかな傾斜で海岸に延びており、そこに千々岩ちぢわ灘とは反対の側の有明ありあけ海が紺碧こんぺきの色をたたえて展開する。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「きっと、あげるよ。今月こんげつすえまで、ってくれない? ぼく新聞しんぶん配達はいたつしているのだから、おかねをもらったら、すぐっていくよ。」
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その河原は、春木のいるところからは右手に見えていたが、その川は芝原水源地しばはらすいげんちのあまり水が流れていて、すえ湊川みなとがわにはいるのだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何百年来のこの古い関係をもう一度新しくして、すえ頼もしい寿平次を半蔵の義理ある兄弟と考えて見ることも、その一つであった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それも八月のすえには、みんなめいめいの持主もちぬしもどってしまうのです。なぜなら、九月には、もう原の草がれはじめ水霜みずしもが下りるのです。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「わたくしは、二の丸に、つい先頃から、おすえ奉公をいたしております、於通おつうと申すものでございまする。夜ぶんあがりまして」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腹部おなか病気びょうきでございました。はりされるようにキリキリと毎日まいにちなやみつづけたすえに、とうとうこんなことになりまして……。』
その谷川の早いすえがロアール川の支流しりゅうの一つへ流れこんで行く、その岸の小さな家で、わたしは子どもの時代を送った。
こうして、ちいさなたにしから出世しゅっせしたおむこさんは、たにしの長者ちょうじゃとよばれて、やさしいおよめさんと一緒いっしょに、すえながくさかえましたと、さ。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これはほとんど完全に保存せられた板本はんぽんで、すえに正保四年と刻してある。ただ題号を刻した紙が失われたので、ほしいままに命じた名が表紙に書いてある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人々のうちにて一番早く心を推鎮おししずめしは目科なり彼れ五六遍も嚊煙草の空箱を鼻にあてたるすえくだんの巡査に打向いて荒々しく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかしそれだけにここの仕事には危険が多く、技のすえに陥って、特に花籠はなかごの如きはいやらしいものさえ少くありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
十一月もすえであった。こがらしがしずかになったと思うと、ねずみ色をした雲が低く空をとじて雪でもるのかしらと思われる不快ふかい午後ごごであった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
其の向うは、わにの泳ぐ、可恐おそろし大河おおかわよ。……水上みなかみ幾千里いくせんりだか分らない、天竺てんじくのね、流沙河りゅうさがわすえだとさ、河幅が三里の上、深さは何百尋なんびゃくひろか分りません。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この下屋敷には、大町備前のほかに、侍が七人いるほか、男は小者だけで、あとは奥女中十三人、おすえ端下はした四十七人という、女ばかりの生活であった。
或時あるときがつすえ、ドクトル、ハバトフは、院長いんちょう用事ようじがあって、そのへやったところ、おらぬのでにわへとさがしにた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もとを忘れてすえに走った議論である。或る一時の人気取りの議論であると云われても仕方があるまいと思われる。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もううしこく、あんまりすえかたのことが思われて、七兵衛待遠しさに眠れないので、お松は、かねて朋輩衆から聞いた引帯ひきおび禁厭まじないのことを思い出した。
深更しんこうに及んで狼にでも出られちゃア猶更と大きに心配した、時は丁度秋のすえさ、すると向うにちら/\と見える
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いろいろ奔走したができないんだからしかたがない。やむをえなければ今月すえまでこのままにしておこう」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しんたのむねからちあげられて、すこしくもったそら花火はなびがはじけたのは、はるすえちかいころのひるでした。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
漫然まんぜん世と推移おしうつりて、道理上よりいえば人事の末とも名づくべき政事政談に熱するが如き、我輩は失敬ながらもとを知らずしてすえに走るの人と評せざるを得ざるなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やっとのことで、おかあさんやぎは、泣くことをやめて、すえっ子やぎといっしょに、そとへ出ました。
さかのぼって当時の事を憶出してみれば、初めおぼろのがすえ明亮はっきりとなって、いや如何どうしても敗北でないと収まる。
藤作 けど弟さんのすえさんが町の学校でようできるんやけに、旦那もあきらめがつくというもんやな。
屋上の狂人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それで考えたすえ、あの結論になった訳だけれど、わかってみれば子供だましみたいなもんだね——。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それが赤松家の遺臣にあざむかれて、お二方の宮はたれ給い、ついに全く大覚寺統のおんすえの絶えさせられたのが長禄ちょうろく元年十二月であるから、もしそれまでを通算すると
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大層鄭重ていちょうあつかってれたので、私も非常に満足して、主人公はおいでになっているのかと尋ねると、「イエまだおいでにはなりませんが、当月すえにはおいでなさるにちがいありません」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
棚の上には小さき、の長き和蘭陀オランダパイプをななめに一列に置きあり。その外小さき彫刻品、人形、浮彫のしなとうあり。寝椅子のすえの処に一枚戸の戸口あり。これより寝間ねまる。
今日の金港堂は強弩きょうどすえ魯縞ろこう穿うがあたわざる感があるが、当時は対抗するものがない大書肆だいしょしであった。その編輯へんしゅうに従事しその協議にあずかるものは皆錚々そうそうたる第一人者であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さんざん考えあぐんだすえ、いっそ人のあまりまいらぬ神社おみやにしようと、一人できめました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
正徳より享保のすえ末昔すえのむかしと呼び看板道具等美を尽し狂言むづかしくなりたる時代にて
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
是には自分はただ上代のすえかた、たとえば山城やましろの京への都遷みやこうつしが企てられ、これに伴のうての幾つかの政治改革が進みまたは押し返されていた期間に、国の中央の言語のうえにも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
七月すえか、八月初か、麦も仕舞しまい、草も一先ず取りしもうたほどよい頃を見はからって、月番から総郷上そうごうあがり正月のふれを出す。総郷業を休み足を洗うて上るの意である。その期は三日。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十一月すえにはすべてで四万以上の小屋がけが出来、十七万人の人々がはいりました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
私はまたこの晴れた日の大江たいこうしものあなたを展望した。長堤は走り、両岸の模糊もこたる彎曲線のすえは空よりやや濃くくろんで、さて、花は盛りのべにと白とのこの庭の百日紅さるすべりの近景である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ああとんだことをしたと思った時は、もうおそい。どうせすえげぬ縁と知りながら、これまで隠していたのは重々そなたに申訳ないが、これも前世の約束事と、どうか諦めてもらいたい
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ころは春のすえということは庭の桜がほとんど散り尽して、色褪いろあせた花弁はなびらこずえに残ってたのが、若葉のひまからホロ/\と一片ひとひら三片みひら落つるさまを今も判然はっきりおもいだすことが出来るので知れます。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
母は今度病気が重くなってから すえさ 末さ と姉を呼んでばかりいる。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
まことにすえを見透せし明ありと嘆息の外なし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
身をそばだてゝの句、颯爽さっそうよろこし。そのすえ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
十二月のすえ、かれはついに床についた。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
ゆくすえだれはだれんべにはな ばせを
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そんな事は、すえの話であった。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
はるからなつにかけては、まことに景色けしきがようございましたけれども、あきすえからふゆにかけては、まったくさびしゅうございました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これはことによると——」と辻永はよどんだすえ「例の三人の青年はユダヤ結社のものにやっつけられたのじゃないかと思う」
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはかくも、わたくし神様かみさまからなにのぞみのものをえとわれ、いろいろとかんがいたすえにたったひとつだけ註文ちゅうもんしました。
夫人の気持を知っている侍女こしもとすえまでが、御表の物音を聞くと、常には、静かな足も走って、つい、声までが癇走かんばしって欣びを告げるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとそのころ、ほうぼう外国がいこく島々しまじまをめぐってかえってた人があって、いろいろめずらしい、ふしぎなおはなしをしたすえ
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)