人知ひとし)” の例文
も勤め此家の番頭ばんとうよばれたるちう八と云者何時いつの程にかお熊と人知ひとしらぬ中となりけるが母のお常は是を知ると雖も其身も密夫みつぷあるゆゑかれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むまじき事なりおとろふまじき事なりおとろへたる小生等せうせいらが骨は、人知ひとしらぬもつて、人知ひとしらぬたのしみと致候迄いたしそろまで次第しだいまるく曲りくものにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
解釋かいしやくしたとき御米およねおそろしいつみをかした惡人あくにんおのれ見傚みなさないわけかなかつた。さうしておもはざる徳義上とくぎじやう苛責かしやく人知ひとしれずけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人知ひとしれずしのんできた同じようなくるしみとおたがいあわれみの気持きもちとが、悲しいやさしみをもって二人をむすびつけていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
面當つらあてがましくどくらしい、我勝手われがつて凡夫ぼんぷあさましさにも、人知ひとしれず、おもてはせて、わたしたちは恥入はぢいつた。が、藥王品やくわうぼんしつゝも、さばくつた法師ほふしくちくさいもの。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きにつけ、しきにつけ、影身かげみいて、人知ひとしれず何彼なにかとお世話せわいてくださるのでございます。
御同僚ごどうりよう奧樣おくさまがたのやうにおはなのおちやの、うたのとならてたこともなければ其御話そのおはなしの相手あいて出來できませぬけれど、出來できずは人知ひとしれずならはせてくださつてもむべきはづ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
槍先やりさき功名こうみやうよつ長年ながねん大禄たいろく頂戴ちやうだいしてつたが、これから追々おひ/\なかひらけてるにしたがつて時勢じせい段々だん/\変化へんくわしてまゐるから、なにに一のうそなへたいと考へて、人知ひとしれず医学いがくを研究したよ。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
六部ろくぶはそれから道々みちみちも、人身御供ひとみごくうげられるかわいそうなむすめのことや、大事だいじ一粒種ひとつぶだねられていく両親りょうしんこころおもいやって、人知ひとしれずなみだをこぼしながら、やがてむらを出はずれました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
人知ひとしれず松葉屋まつばやの前を通つて、そつとおいと姿すがた垣間見かいまみたいとは思つたが、あたりが余りに明過あかるすぎる。さらばのまゝ路地口ろぢぐちに立つてゐて、おいとが何かの用で外へ出るまでの機会を待たうか。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これは矢張やはなにやら人間以上にんげんいじょうくしびなちから人知ひとしれずおくほうはたらいているのではないでしょうか。
なんぞやあともかたもこひいそあはびの只一人ひとりものおもふとは、こゝろはんもうらはづかし、人知ひとしらぬこゝろなやみに、昨日きのふ一昨日をとゝひ雪三せつざう訪問おとづれさへ嫌忌うるさくて、ことばおほくもはさゞりしを
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
多日たじつやまひしようして引籠ひきこもり、人知ひとしれず諸家しよか立入たちいり、内端うちわ樣子やうすうかゞるに、御勝手ごかつてむなしく御手許おてもと不如意ふによいなるにもかゝはらず、御家中ごかちう面々めん/\けて老職らうしよく方々かた/″\はいづれも存外ぞんぐわい有福いうふくにて
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日影ひかげよは初冬はつふゆにはまれなるあたゝかさにそろまゝ寒斉かんさいと申すにさへもおはづかしき椽端えんばたでゝ今日こんにちは背をさらそろ所謂いはゆる日向ひなたぼつこにそろ日向ひなたぼつこは今の小生せうせい唯一ゆいいつの楽しみにそろ人知ひとしらぬ楽しみにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
いまからわたしさへあらためれば、のおひととてさのみ未練みれんおつしやるまじく、おたがひにあさ交際つきあひをして人知ひとしらぬうちにけがれをすゝいで仕舞しまつたなら、いまからのちのあのかたためわたしため
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おそらくうして神界しんかいから、人知ひとしれずわたくしからだきよめてくださるのでございましょう……。
またつね琥珀こはくもつおびとして、襲衣しふいうち人知ひとしれずつゝみてむ。立居たちゐたびになよやかなるたまほねひとつ/\こといとごと微妙びめうひゞきして、くもののし、にくくだかしめき。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まをさばそのこゝろうらみなり父樣とゝさま惡計わるだくみそれおあそばすにおこたへのことばもなけれどそのくやしさもかなしさもおまへさまにおとることかは人知ひとしらぬ家具やぐえり何故なにゆゑにぬるゝものぞなみだいろのもしあらば此袖このそでひとつにおうたがひはれやうものひとあなけものとはあまりのおほせつもりても御覽ごらんぜよつながれねど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)