丹精たんせい)” の例文
……一体いつたいが、天上界てんじやうかい遊山船ゆさんぶねなぞらへて、丹精たんせいめました細工さいくにござるで、御斉眉おかしづきなかから天人てんにんのやうな上﨟じやうらう御一方おひとかた、とのぞんだげな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何人の丹精たんせいで、こんな花園があるかと思われるくらい、地べた一めんに高山植物が花をつけて、ひろい野原に、赤、黄、むらさきと
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おまえが、もらってきてえたのが、親木おやぎになって丹精たんせいしたから、こんなにいい子供こどもまれたんです。」と、ははこたえられました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
御意ぎょいに御座います。先生様の御丹精たんせいといい、その場を立たせぬ御決断とお手のうち……拝見致しながら夢のように存じました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
幾度も同じ事を繰返して、そのたびに実の集めた道具は言うに及ばず、母が丹精たんせいして田舎いなかで織った形見の衣類まで、次第に人手に渡ってしまった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
曽祖父の丹精たんせいした植木園は見る影もなく荒れていた。母屋の西側にあった二棟の倉は壊されて、跡にはねぎが作られていた。
彼は先刻からりそろえておいた七、八冊のさし絵入りの漢書——それは皆彼の父が丹精たんせいして手に入れたものであった——を風呂敷ふろしきに包み、また
その半面には、いかに男の子や孫たちには、彼が人知れず育成の丹精たんせいをこめているか、世に送り出す苦労をしているか、思いやらるるものがあった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さま/″\の浪言らうげんをのゝしりて家内かないくるひはしるを見て、両親ふたおや娘が丹精たんせいしたる心の内をおもひやりてなきになきけり。
せっかく丹精たんせいした息子が、自分のいなくなったあとで卒業してくれるよりも、丈夫なうちに学校を出てくれる方が親の身になればうれしいだろうじゃないか。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まへ新網しんあみかへるがいやなら此家こゝ死場しにばめてほねらなきやならないよ、しつかりつておれとふくめられて、きちや/\とれよりの丹精たんせいいまあぶらひきに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十世紀にできた宇治うじ鳳凰堂ほうおうどうには今もなお昔の壁画彫刻の遺物はもとより、丹精たんせいをこらした天蓋てんがい、金をき鏡や真珠をちりばめた廟蓋びょうがいを見ることができる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ええかい、おまえがおとっさまの丹精たんせいで、せっかくこれまでになッて、天子様からお直々じきじきに取り立ててくださったこの川島家もおまえの代でつぶれッしまいますぞ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私は生来せいらいそうした手細工に興味を持っておりますので、数日の間コツコツとそればかりを丹精たんせいして、結局申し分のない携帯覗き眼鏡めがねを作り上げたことでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この朝顔はね、あの婆の家にいた時から、お敏さんが丹精たんせいした鉢植なんだ。ところがあの雨の日に咲いた瑠璃色るりいろの花だけは、奇体に今日までしぼまないんだよ。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おじいさんがいつもはたけに出てはたらいていますと、うらの山から一ぴきのふるだぬきが出てきて、おじいさんがせっかく丹精たんせいをしてこしらえたはたけのものをらした上に
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私達わたくしたち丹精たんせいしてつくったものが、すこしでも人間にんげんのおやくつとおもえば、かえってうれしうございます……。』
と正三君はあやまりながらきおこした。照彦てるひこ様は刺繍台ししゅうだいをつぶしたことに気がつくと、正三君を突きのけて逃げていった。ご丹精たんせい芙蓉ふよう落花狼藉らっかろうぜきになっている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ねじけた彼にとって、市民をやっつけることは、またとないよろこびだったのだ。彼が丹精たんせいして飼育したその毒蠅は、チンドンと鳴らして歩くその太鼓たいこの中にウジャウジャ発見された。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
そんな不量見な女はどうならうと私も構はないと先日こなひだきつぱり言ひ切つて來たのだけれど、折角丹精たんせいして育てたものが、今一時といふ間際になつて、こんな不面目なことになつちや
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
薙刀なぎなたかゝへた白衣姿の小池と、母親が丹精たんせいこらした化粧けしやうの中に凉しい眼鼻を浮べて、紅い唇をつぼめたお光とが、連れ立つて歸つて行くのを、町の人は取り卷くやうにして眼をそゝいだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それからお前にいうておくことがある、おれにもたいした事はできんけれど、おれも村のやつらに欲が深い深いといわれたが、そのおかげで五、六年丹精たんせいの結果が千五百円ばかりできてる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「私の乳母うば丹精たんせいして大事に大事に育てたのです」と婦人がほこに口を添えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
康頼 わしはけさ卒都婆そとばを流しにいって、岸辺きしべに立ってさびしいことを考えました。わしはわし自身が丹精たんせいしてほりつけた歌を今さらのように読み返しました。何たるさびしい歌だろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
九月になってから急に涼しくなって、叔母が丹精たんせいしてい直してくれた古袷ふるあわせも、薄寒く見えますが、当人は案外呑気で、膝小僧のハミ出すのも構わず、乗出し加減に一とかど哲学するのでした。
おさなきより学問を好みしかば、商家には要なしと思いながらも、母なる人の丹精たんせいして同所の中学校に入れ、やがて業をえてのち、その地の碩儒せきじゅに就きて漢学を修め、また岸田俊子きしだとしこ女史の名を聞きて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
となり同士どうしだから、時々ときどきくちをききなかで、ことに一昨日おとといは、わたし丹精たんせいしたぼたんのはないたものですから、それを一鉢ひとはちわけてつてつてやり、にわでちよつとのうち、立話たちばなしをしたくらいです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
られ兩人の丹精たんせいかたじけなく思ふなり家來けらいとは思はぬぞやとて夫より伊豆守殿より使者ししやあづか捨置難すておきがたければ親子しんし三人覺悟かくごなし只今既に忠右衞門切腹せつぷくするの所ろ兩人の歸着きちやくこそ神佛しんぶつ加護かごとはいへ全たく誠忠せいちうの致す所なりと物語ものがたられせがれ忠右衞門一代は兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ああ、おかねがなにになろう?」と、おばあさんは、せっかくおじいさんの丹精たんせいしたはなを、かねのためにったことにたいして後悔こうかいしました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
御尤ごもつともです……あんなに丹精たんせいをなさいましたから……でも、お引越ひつこしなすつたあとでは、水道すゐだうめたから、遣水やりみづれました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「森さんのおかあさんが丹精たんせいしてくだすったごちそうもある——下諏訪しもすわの宿屋からとうさんのげて来た若鷺わかさぎもある——」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だけど、お金はとれても惜しいもんじゃね。そのお前が丹精たんせいして造ったものが人の足に踏まれるんじゃと思うとな。」
老母は、それをもって、秀吉を教訓しようなどとは、ゆめ、考えてしているのではないが、秀吉は、時折に、そうした母の丹精たんせいを食膳に見せられると
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ゆえにこのような遊猟の獲物を描いたものや魚類果物くだもの丹精たんせいこめた彫刻をおくのであるか。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
さいは海軍かいぐん鳥居とりゐ知人ちじん素性すぜうるからで利發りはつうまれつきたるをとこあるよし、其方そなた異存いぞんなければれをもらふて丹精たんせいしたらばとおもはるゝ、悉皆しつかい引受ひきうけは鳥居とりゐがして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうして部落は毎年これらの旅商人に自分の丹精たんせいこめた労力の結果を奪われて行くのである。
金匁きんせんろんぜず、ことさらに手際てぎはをみせて名をとらばやとて、うみはじめより人の手をからず、丹精たんせい日数ひかずて見事に織おろしたるを、さらしやより母が持きたりしときゝて
これもある意味においてあなたの神話に丹精たんせいを盡したと同じ動機になるのではありますまいか。弱い神經衰弱症の人間が無暗むやみに他の心を忖度そんたくして好い加減かげんな事を申して濟みません。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
歌寿は彼女の天才をこの上もなく愛して、「歌寿」と彫った秘蔵の爪を譲り与えて丹精たんせいめて仕込んだが、いよいよ秘伝を授けるという段になって歌寿は重い喘息ぜんそくかかった。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
しかし、自分の懐かしい家は無くなり、美しい背広せびろも、丹精たんせいした盆栽ぼんさいも、振りなれたラケットもすべて赤い焼灰やけばいに変ってしまったことがハッキリ頭に入ると、かえって不思議にも胆力たんりょくすわってきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたし丹精たんせいかんがえてみるがいい。いくらかねになったって、この常夏とこなつは、れるものではない。」と、おじいさんは、あたまってこたえました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしの仕事なぞは貧乏人の子供対手あいてだ。これでずいぶん丹精たんせいはして造る。こんなあほらしいような絵草紙えぞうし一枚だって見かけよりゃ骨を折っとるんだ。
朝に晩に彼女の言い暮らしたのは、これまで丹精たんせいして来た植松の家にゆっくり父を迎えたいことであった。今となっては残念ながらそれもかなわない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おかど立ちのことほぎにと、奥方や老人どもが、いささか、丹精たんせいこらした膳部です。何もございませぬが、彼らの心根を召し上がっていただければ、どんなに歓ぶかわかりませぬ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
看護婦に聞くと、負ぶっているのは叔父で、負ぶさっているのはおいであった。この甥が入院当時骨と皮ばかりにせていたのを叔父の丹精たんせい一つでこのくらいふとったのだそうである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
利休は庭全体にそれを植えさせて、丹精たんせいこめて培養した。利休の朝顔の名が太閤たいこうのお耳に達すると太閤はそれを見たいと仰せいだされた。そこで利休はわが家の朝の茶の湯へお招きをした。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
白縮はうち見たる所はおりやすきやうなれば、たゞ人はあやあるものほどにはおもはざれども、手練しゆれんはよく見ゆるもの也。村々の婦女ふぢよたちがちゞみに丹精たんせいつくす事なか/\小さつにはつくしがたし。
「そうですとも、なかなかの丹精たんせいじゃありません。」と、八百屋やおや主人しゅじんもおかみさんも、おじいさんに同情どうじょうをしないものはありませんでした。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一頃は弘もよく引付ひきつけたりなどしたが、お婆さん始め皆の丹精たんせいでずんずん成長しとなって、めっきりと強壮じょうぶそうに成った。おまけに、末頼もしい賢さを見せている。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ああああ張合はりあいがないのね、それじゃ。せっかく私が丹精たんせいしてこしらえて来て上げたのに、肝心かんじんのあなたがそれじゃ、まるで無駄骨むだぼねを折ったと同然ね。いっそ何にも話さずに帰ろうか知ら」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)