ぎは)” の例文
わかぎはに父は、舎費を三ヶ月分納めたので、先刻さつき渡した小遣銭こづかひせんを半分ほどこつちに寄越よこせ、宿屋の払ひが不足するからと言つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
学期の始まりぎはなので新らしい高等学校の帽子を被つた生徒が大分通る。野々宮君は愉快さうに、此連中を見てゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
千代子は夜ふけの風のまだ寒かつた晩、店のしまひぎはにふと見かけた人の姿は他人の空似そらにであつたのかも知れない。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すると、發車間ぎはに慌てゝのつたらしい、かばんを持つた、えい利會社の外交風の男が二人、金太郎のうしろの、も一つうしろのボツクスにこしおろして何か話し出した。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
大燒原おほやけはらつた、下町したまちとおなじことほとん麹町かうぢまち九分くぶどほりをいたの、やゝしめりぎはを、いへ逃出にげでたまゝの土手どて向越むかうごしにたが、黒煙くろけむりは、殘月ざんげつした
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしおしなんだとき野田のだへのぎはがよくなかつたことを彼自身かれじしんこゝろにもゆるところがあつたのでひていや勘次かんじ挨拶あいさつをして一時いつときなりとも肩身かたみせまくせねばならないのを
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さうしてあたまひやくすりと、桂梅水けいばいすゐとを服用ふくようするやうにとつて、不好いやさうにかしらつて、立歸たちかへぎはに、もう二とはぬ、ひとくる邪魔じやまるにもあたらないからとさうつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「恭やんのぎはえい生え際やえな。富士額えな。妾のと変つて居たらよかつた。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
其子そのこ昨年さくねんくれチプスにかゝつてんださうにきゝました、をんなはませなものではあり、ぎはにはさだめし父樣とゝさんとかなんとかふたので御座ござりましよう、今年ことしれば五つになるので御座ござりました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かしつかはしたるが着替きかゆる時に一寸ちよつと見し懷中ふところの金は七八百兩と白眼にらんだ大膳が眼力がんりきはよもたがふまじ明朝みやうてうまで休息きうそくさせ明日は道案内みちあんないに途中まで連出つれだしてわかぎはに只一刀だいまいの金は手をぬらさずと語る聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
恐れ乍ら、御墨附と短刀は、此御屋敷の中にあるに相違御座いません、——御屋敷中の物で、私の調べの屆かない品と申せば、殿樣御出發ぎは錠前をおろされた御手元の御用箪笥だけで御座います。
ぎはのあわたゞしさの中でも、彼を思ひ、是を思ひ、時に朦朧もうろうとした、時に炳焉へいえんとした悲しみに胴を顫ひ立たせ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
勿論其の住民の階級職業によつて路地は種々しゆ/″\異つた体裁をなしてゐる。日本橋ぎは木原店きはらだな軒並のきなみ飲食店の行灯あんどうが出てゐる処から今だに食傷新道しよくしやうじんみちの名がついてゐる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いまわかぎはこゑけられたので、先方むかう道中だうちう商売人しやうばいにんたゞけに、まさかとおもつても気迷きまよひがするので、今朝けさちぎはによくた、まへにもまをす、図面づめんをな
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて又動く気になつたので腰をげて、立ちながら、靴のかゝとを向け直すと、岡ののぼぎはの、うすく色づいた紅葉もみぢあひだに、先刻さつきの女の影が見えた。ならんで岡のすそを通る。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そんなこといはねえでいくつでもつてけよ、なほぎはけねえぢやえかねえもんだから」勘次かんじ漬菜つけなはなして檐下のきしたた。あしでたやうにあかくなつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
れはらねどむねにやきざまれし學士がくしひしことばごん半句はんくわすれず、かへぎは此袖このそでをかくらへてつとしかばいまかへりんとわらひながらにおほせられしのおこゑくことは出來でき
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はしむかぎはに、あさきしながれのぞんで、たばがみ襟許えりもとしろく、褄端折つまはしよりした蹴出けだしのうすあをいのが、朦朧もうろうとして其處そこ俯向うつむいてあらふ、とた。大根だいこんとはちがふ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
与次郎と敷居ぎはちがつて、原口さんが這入つてた。原口さんは仏蘭西式のひげやして、あたまを五分刈にした、脂肪の多い男である。野々宮さんよりとしが二つ三つうへに見える。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その子も昨年の暮チプスに懸つて死んださうに聞ました、女はませな物ではあり、死ぬぎはには定めし父様ととさんとか何とか言ふたので御座りましよう、今年居れば五つになるので御座りました
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
婦同士をんなどうし見惚みとれたげで、まへ𢌞まはり、背後うしろながめ、姿見すがたみかして、裸身はだかのまゝ、つけまはいて、黒子ほくろひとつ、ひだりちゝの、しろいつけぎはに、ほつりとあることまで、ようつたとはなし
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
莊子さうしてふゆめといふ義理ぎりまこと邪魔じやまくさしぎはまではとひきしむる利慾りよくこゝろはかりには黄金こがねといふおもりつきてたからなき子寶こだからのうへもわするゝ小利せうり大損だいそんいまにはじめぬ覆車ふくしやのそしりも梶棒かぢぼうにはこゝろもつかずにぎつてはなさぬ熊鷹主義くまたかしゆぎ理窟りくつはいつも筋違すぢちがひなる内神田うちかんだ連雀町れんじやくちやうとかや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のちに——丸山まるやま福山町ふくやまちやうに、はじめて一葉女史いちえふぢよしたづねたかへぎはに、えりつき、銀杏返いてふがへし、前垂掛まへだれがけ姿すがたに、部屋へやおくられてると、勝手元かつてもとから、島田しまだの十八九、色白いろじろで、のすらりとした
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)