はだ)” の例文
商人は、なにしろはだの下まで雪がしみとおっていたので、かまわずの火でからだをかわかしながら、ひとりごとのようにいいました。
ものゝかんかた非常ひじやう鋭敏えいびんで、はなみゝはだなどにれるものをするどることの出來できめづらしい文學者ぶんがくしやであつたことをせてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
二郎じろうは、自分じぶんをそのきゅうりにきました。きゅうりのあおいつやつやとしたはだは、二郎じろうこうとするふでさきすみをはじきました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雖然けれども顏の寄麗きれいなのと、體格の完全くわんぜんしてゐるのと、おつとりした姿と、うつくしいはだとに心をチヤームせられて、賤しいといふ考をわすれて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
關館と大木おほきと兩方から土手をきづき出して、まん中に橋をけた處まで來ると、馬のはだよりも黒い若い衆が一人裸でうまを洗つてゐた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
この名ある御用聞から、はだを脱いで見せろ——とでも言はれたらどうしよう、と言つた處女らしい恐怖に、思はず尻ごみをしたのです。
そこでは、芝生しばふはもう緑に色づいていたのですが、まわりのやぶや木々は、まだ、はだかで、褐色かっしょくの木のはだを見せているのでした。
そばにいてのぞき込んでいた、自分の小児こどもをさえ、にらむようにして、じろりと見ながら、どう悠々ゆうゆうと、はだなぞを入れておられましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はだざわりがよいとか、着心地がよいとか、わるいとか、いうのはそれです。「触」とはふれるという字で、英語のタッチに当たります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ぼくは涙を浮べて君の花にくちづけする。花はここに、ぼくの心臓の上にある。ぼくはそれを、こぶしを固めてはだの中に押しこむのだ。
沖の百万坪へスケッチにいった帰りで、洗いざらしの単衣ひとえは汗のためはだへねばりつき、尻端折しりっぱしょりをしなければやすらかには歩けなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半蔵は宿屋のかみさんが貸してくれたのりのこわい浴衣ゆかたはだざわりにも旅の心を誘われながら、黙しがちにみんなの話に耳を傾けた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下からその太腕を見あげると、なりは黒麻に茶柄ちゃづかの大小をさし、夏ではあるが、黒紗くろしゃの頭巾に半顔をつつんで、苦み走った浪人の伝法はだ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その二尺にしやくほどした勾配こうばい一番いちばんきふところえてゐる枯草かれくさが、めうけて、赤土あかつちはだ生々なま/\しく露出ろしゆつした樣子やうすに、宗助そうすけ一寸ちよつとおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひるまのうちは歩くとじっとり汗ばむほどの暖かさであったが日が落ちるとさすがに秋のゆうぐれらしいはだ寒い風が身にしみる。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのゆったりした肩にはあかい光のあるもやがかかって、かっ色の毛きらずビロードをたたんだような山のはだがいかにも優しい感じを起させる。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はだにはシャツもつけず、足にはくつもはかず、身をおおう屋根もない。まったくそういうものを持たない空飛ぶはえのようである。
千穂子の赤ん坊は月足らずで生れたせいか、小さい上にまるで、さるのような顔をしていて、赤黒いはだの色が、普通ふつうの赤ん坊とはちがっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
豹の檻の前の土間に、一人の若い女が、髪を振り乱し、服は裂けて、はだもあらわに、両手で何かを防ぐ恰好かっこうをして倒れている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
藪は随分しげつてゐるが、雨はどしどし漏つて来る。八は絆纏はんてんのぴつたりはだ引附ひつついた上を雨にたたかれて、いやな心持がする。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
薄物の単衣ひとえを着て横たわっている姿からは暑い感じを受けなかった。可憐かれんな小柄な姫君である。薄物に透いて見えるはだの色がきれいであった。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
食物、睡眠、衣裳、暖かい庭、暇のある勤めはたちまち筒井を美しくふとらせ、毎日の沐浴もくよくはつやつやしたはだに若返らせた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
黒青い、大うねりのある海には、外には一そうの船もなかった。空気は甘く、恋人のはだのようににおった。空は海一杯を映した鏡のようだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
近年ファーブルのものをしきりに飜訳していたが、この種の文学的乃至ないし学術的興味を早くから持っていて、主義者はだよりはむしろ文人肌であった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
逆に言えば陶器のはだの感触には生きた肉の感じに似たものがある。ある意味において陶器の翫賞がんしょうはエロチシズムの一変形であるのかもしれない。
青磁のモンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山門の所からはすぎ森は暗いほどにしげり、おくへ行くにしたがってはだがひやりとするような寒い風が流れるようにいて来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
はだは白魚のようにきとおり、黒瞳こくとうは夢見るように大きく見開かれ、額にかかる捲毛まきげはとの胸毛のように柔らかであった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私が前に述べた原始人のごとき不思議な生気は変らないが、金色のはだの光りは、ほの暗い御堂に在って更に異様であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ごくよい意味にとる時に女丈夫といつたものも含んでゐるし、サラリとした氣風をも籠めて、あねごはだといふやうだが、事實はすこし異つてゐる。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
そのとき向こうの河原のねむの木のところを大人おとなが四人、はだぬぎになったり、網をもったりしてこっちへ来るのでした。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私は女のはだにしがみついて、私の苦しみをやる道を覚えました。人は私を放蕩者ほうとうものと呼びます。私はその名に甘んじます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
きたまくらに、しずかにじている菊之丞きくのじょうの、おんなにもみまほしいまでにうつくしくんだかおは、磁器じきはだのようにつめたかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
内田は熱心なキリスト教の伝道者として、憎む人からは蛇蝎だかつのように憎まれるし、好きな人からは予言者のように崇拝されている天才はだの人だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして松の木も今は皆見事に大きくなり、こずゑの方に赤いはだを見せたりして仰ぎ見るばかりに堂々たるものとなつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
旅宿やど三浦屋みうらやと云うに定めけるに、ふすまかたくしてはだに妙ならず、戸は風りてゆめさめやすし。こし方行末おもい続けてうつらうつらと一夜をあかしぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ぶん酩酊よつぱらつたあし大股おほまたんで、はだいだ兩方りやうはうをぎつとにぎつて、手拭てぬぐひ背中せなかこするやうなかたちをしてせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
暑さ寒さもはだに穏やかで町全体がどこか眠ってでもいるかのような、瀬戸内海に面したある小都市の刑務所から、何か役所の都合ででもあったのであろう
(新字新仮名) / 島木健作(著)
ベルリン——ロオマ行の急行列車が、ある中位な駅の構内に進み入ったのは、曇った薄暗いはだ寒い時刻だった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
黒漆喰で下塗りをして、その上に黒に青味を持ったちょうど大仏の青銅のはだのような色を出すようにという注文……それが五十円で出来るというのでした。
高い塀に取り囲まれている静かな栽庭にわにそろそろ日が影って、植木のすみの方が薄暗くなり、暖かかった陽気が変ってうすら寒くはださわるようになってきた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
桜のしげみに毛虫がつく時分に、お作はバッタリ月経つきのものを見なくなった。お作は冷え性の女であった。くちびるの色も悪く、はだ綺麗きれいではなかった。歯性も弱かった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
川上に家は一軒もなく、ちろちろの水はきれいだった。山から流れてきてはじめて、ここで人のはだにふれる水は、おどろくほど、つめたくみきっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
藤色ふぢいろ薔薇ばらの花、決着けつちやくの惡い藤色ふぢいろ薔薇ばらの花、波にあたつて枯れ凋んだが、その酸化さんくわしたはだをばなるたけ高く賣らうとしてゐる、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たとえばふかふか穴蔵あなぐらおくったような具合ぐあいで、空気くうきがしっとりとはだつめたくかんじられ、そしてくらなかに、なにやらうようようごいているものがえるのです。
渡良瀬川わたらせがわの渡し場から中田に来る間の夕暮れの風はヒュウヒュウとはだすように寒く吹いた。灰色の雲は空をおおって、おりおり通る帆の影も暗かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこへゆくと新富支店は、本店の主人に従っていたためかいささか、この方にイナセな名人はだというものを受け継いでいる。まぐろの切り方が第一それである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
敷き蒲団の下に入れておいた金包みをはだへ巻くには、音のしないように気をつけなければならなかった。もうどうしても人を信じられない気もちになっていた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さして急がなくても歩きさへすれば直ぐ、少少は汗ばむはだになる程のいい天気だつた。終点で電車を捨てて、二里余りの野路と山路を歩かなければならなかつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
三島江の枯れ蘆の葉には薄霜のほの白い頃、昼となれば芽をふくほどの春風のほの温いはだざわりである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
奥坐舗の長手の火鉢ひばちかたわらに年配四十恰好がっこう年増としま、些し痩肉やせぎすで色が浅黒いが、小股こまた切上きりあがッた、垢抜あかぬけのした、何処ともでんぼうはだの、すがれてもまだ見所のある花。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)