ため)” の例文
旧字:
一年と二年とはどうやら無事で、算盤そろばんの下手な担任教師が斉藤平大の通信簿の点数の勘定を間違ったために首尾よく卒業いたしました。
革トランク (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
朕カ在廷ざいていノ大臣ハ朕カためニ此ノ憲法ヲ施行スルノせめニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順じゅうじゅんノ義務ヲ負フヘシ 
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
あの時、彼の顔が青ざめたのは、顔の向きを代えたために庭の青葉が映ってそう見えたばかりではないと北川氏は固く信じていた。——
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大体、三番のかじさんと、四番のぼくはならんで引くのが原則ですが、下手糞へたくそため、時々、五番の松山さんや整調の森さんとも引きます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
逆手さかてにとって万吉がパッと立った。お綱が蝶のように飛び離れると一緒に、三次、隼人はやとためなども、腰を立てて凶猛な気配りになる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わがすむ魚沼郡うをぬまこほりの内にて雪頽なだれため非命ひめいをなしたる事、其村の人のはなしをこゝにしるす。しかれども人の不祥ふしやうなれば人名じんめいつまびらかにせず。
男子のために作られた女でなくして、女自身のために作られた女、俺は貴女に接していると、ぐそう云う感じが頭に浮かんだのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
西尾にしをからひがしして小僧こぞう皆身みなみため年季奉公ねんきぼうこうと、東西南北とうざいなんぼくで書いてると、おまへ親父おやぢがそれをくにへ持つてつて表装へうさうを加へ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
氏の表面は一層沈潜ちんせんしましたが、底に光明こうみょうを宿してためか、氏の顔には年と共に温和な、平静な相がひろがる様に見うけられます。
善根をためにつかふといふのか、これはしたり、それはまた大したこつたな、さうともそれなら、うつちやるもんぢやないとも。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
私は物を持ちだして売り、何でも通帳で買ってジャンジャン人にやった。欲しくない物まで買った。私が使うためでなく人にやるためだ。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
たゞ其原因結果の発展が余りに人意のそとに出て居て、其ため一人ひとりの若い男が無限の苦悩に沈んで居る事実を貴様が知りましたなら
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なんためわたしだの、そらここにいるこの不幸ふこう人達ひとたちばかりがあだか献祭けんさい山羊やぎごとくに、しゅうためにここにれられていねばならんのか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わが子のレヤチーズを、フランスへ遊学にやったのも、一つには、王さまの恐しい穿鑿せんさくの眼から、のがれさせてやるためでもありました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
然し与次郎が何のために、悪戯いたづらに等しい慝名とくめいを用ひて、彼の所謂いわゆる大論文をひそかに公けにしつつあるか、其所そこが三四郎にはわからなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
然るに、社会に対する義務のためむを得ずして結婚をなす、舅姑は依然として舅姑たり、関係者、皆依然として渠を窮せしむ。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現実の復権だとか、汎神論はんしんろんだとかいう評言がチェーホフの在世中にも行われ、今なお頗る根づよいもののあるのはそのためである。
帝のためひそかに図る者をばたれとなす。いわく、黄子澄こうしちょうとなし、斉泰せいたいとなす。子澄は既に記しぬ。斉泰は溧水りっすいの人、洪武十七年よりようやく世にづ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おべんちゃらと、おためごかしを混合ごっちゃにして、けだもの茶屋の飲代のみしろぐらいは、たしかにお松からせしめていることは疑うべくもありますまい。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おれは、代々、僅少わずか扶持ふちをもらって、生きているために、人間らしい根性をなくしてしまった、侍という渡世とせいが、つくづくいやになったんだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わが越後のごとく年毎に幾丈いくじょうの雪を視ば何の楽き事かあらん。雪のために力を尽し財をついやし千辛万苦する事、下に説く所を視ておもひはかるべし。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これわたし竹馬ちくばとも久我くがぼう石橋いしばしとはおちやみづ師範学校しはんがくかう同窓どうそうであつたためわたし紹介せうかいしたのでしたが、の理由は第一わたしこのみおなじうするし
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「永年遠国えんごく罷在候夫まかりありそろおっとため、貞節を尽候趣聞召つくしそろおもむききこしめされ、厚き思召おぼしめしもっ褒美ほうびとして銀十枚下し置かる」と云う口上であった。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ためさあは、何をして六人の子供を育てて行くつもりだかしらねえけれど、取り着くまでには、まあよっぽど骨だぞえ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
側に泣きぬれた妹が、兄を慰めるために言つたであらう言葉は、おそらく私が、前に自殺した友に語つた言葉であつたらう。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ため筋により不埓ふらちの行動をした者は、その趣意が藩家お為にかなった場合、不埓の行動による罪を赦免されることがある。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長い年月の間に火事のために、地震の為、あるいは他の色んな変事の為に、立派な美しい家が無くなってしまったり、又お金持の家が貧しくなったり
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
キクッタは折角、自分が見付けたくまをチャラピタのために打取られ、おまけに生命いのちまでも救つてもらつたことになつたので、口惜くやしくてたまりません。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
村はずれに家を建ててすまうことになり、相当にお金を持って居たため、食うには困らず娘さんと二人で暮してりました。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
其れをまぎらすために目を開いて何か唱歌でも歌はうと試みたが、のど硬張こはゞつて声が出無かつた。と、突然低い静かな声で
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
むかうに見える劇場の内部は天井てんじやうばかりがいかにも広々ひろ/″\と見え、舞台は色づきにごつた空気のためかへつて小さくはなはだ遠く見えた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此子これため、我が為、不自由あらせじ、憂き事のなかれ、少しは余裕もあれかしとて、朝は人より早く起き、はこの通り更けての霜に寒さをこらへて
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しらみひねる事一万疋に及びし時酒屋さかや厮童こぞうが「キンライ」ふしを聞いて豁然くわつぜん大悟たいごし、茲に椽大えんだい椎実筆しひのみふでふるつあまね衆生しゆじやうため文学者ぶんがくしやきやう説解せつかいせんとす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
その子弟に教授して居たが、前にもう通り大阪の書生は修業するために江戸に行くのではない、行けば教えに行くのだと云うおのずから自負心があった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
頃者このごろ年穀ねんこく豊かならず、疫癘やくらいしきりに至り、慙懼ざんくこもごも集りて、ひとりらうしておのれを罪す。これを以て広く蒼生さうせいためあまね景福けいふくを求む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
吾々に代わって社会の安全を保持するために、一部少数のものは武器を持つことを許されその故に吾々は法規によって武器を持つことを禁止されている。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
ところで、その中、今もなお記誦きしょうせるものが数十ある。これを我がために伝録していただきたいのだ。何も、これにって一人前の詩人づらをしたいのではない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何が自分のためになり、何が自分の害になるか、の自分自身の観察が、健康を保つ最上の物理学であるということには、物理学の規則を超えた智慧ちえがある。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
そのくせ、何かをモウレツに書きたい。心がそのためにはじける。毎日火事をかかえて歩いているようなものだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
中にはためにするところあって、人為的じんいてき形式的に定めたと思わるる決勝点なきにしもあらぬ。たとえば相撲すもうのごときも一つの形式で勝敗を定むるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まあすべてがその調子ちょうしでした。震災しんさい以来いらい身体からだよわためもあったでしょうが蒐集癖しゅうしゅうへき大分だいぶうすらいだようです。
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたし子供心こどもごゝろに、父親のことを考へた。国のために死んだえらい父親! その墓のあるところはどんなところだらうと思つた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もっとも出発のときの理由は、水戸城に籠城したおため派鎮圧のためということになっている。が、実は——。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
あへて往路を俯瞰ふかんするものなし、荊棘けいきよくの中黄蜂の巣窟すうくつあり、先鋒あやまつて之をみだす、後にぐもの其襲撃しうげきを被ふるもあへて之をくるのみちなし、顔面ためれし者おう
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
七八年過ぎてから人の話に聞けば、お松は浜の船方の妻になったが、夫が酒呑で乱暴で、お松はそのために憂鬱性の狂いになって間もなく死んだという事であった。
守の家 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのために若し佐川二等兵の技術的な進歩に影響があったら一大事だと考え、ちっとぐらいよけい使ってもいいじゃないか、なにも故意にやってるわけでもないし
その水溜りはのちに小さき池になりて、今も家のかたわらにあり。家の名を池の端というもそのためなりという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ええ、そのような世迷いごとに、聴く耳は持たぬわ。この島ののりは、とりも直さず妾自身なのじゃ。とくと真実まことを打ち明けて、来世を願うのが、ためであろうぞ」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
御存知の通り文三は生得しょうとくの親おもい、母親の写真を視て、我が辛苦を艱難かんなんを忍びながら定めない浮世に存生ながらえていたる、自分一個ひとりため而已のみでない事を想出おもいいだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その子がつまらぬものになったからといって弱められるものでもなく、子が恩を忘れても消えるものではない。彼女はあらゆる安楽を犠牲にして子のためをはかるのだ。