やす)” の例文
彼はこの人工の翼をひろげ、やすやすと空へ舞ひ上つた。同時に又理智の光を浴びた人生の歓びや悲しみは彼の目の下へ沈んで行つた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひろく事を知り、銘々の身分に相応すべきほどの智徳を備えて、政府はそのまつりごとを施すにやすく、諸民はその支配を受けて苦しみなきよう
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
優美なお新の風俗は人の眼を引きやすかった。湯治場行の客らしい人達の中には二人の方を振返って、私語ささやき合っているものも有った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
真実のところを言えば、あらゆる詩人は女性的で、神経質で、物に感じやすい、繊弱な心をもったセンチメンタリストにすぎないのだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
傾けられて大膳は氣後きおくれし然らば拙者は病氣と披露ひろうして貴殿面會し給はれと云ふに伊賀亮夫は何よりやすけれども平石次右衞門と手札を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夫のように頑健がんけんで抵抗力の強い人は自分達のような華奢きゃしゃで病気に罹りやすい者の気持が分らないのだと云う考があり、貞之助の方には
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兜の鉢はすべて張子でした。概して玩具に、鉄葉ブリキを用いることなく、すべて張子か土か木ですから、玩具のこわやすいこと不思議でした。
我楽多玩具 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顏色かほいろ蒼白あをじろく、姿すがたせて、初中終しよつちゆう風邪かぜやすい、少食せうしよく落々おち/\ねむられぬたち、一ぱいさけにもまはり、往々まゝヒステリーがおこるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どうもそれにしても、ポルジイは余り所嫌わずにそれを連れ歩くようではあるが、それは兎角そうなりやすならいだと見れば見られる。
そのことはいかに習慣がデカダンスに陥りやすいかを示すものである。多くの奇怪な芸術が存在するように多くの奇怪な習慣が存在する。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
水をわたすがたたるゆゑにや、又深田ふかたゆくすがたあり。初春しよしゆんにいたれば雪こと/″\こほりて雪途ゆきみちは石をしきたるごとくなれば往来わうらい冬よりはやすし。
たとへば相模平野さがみへいやおこ地震ぢしんおいては、其地方そのちほう北西方ほくせいほうおい氣壓きあつたかく、南東方なんとうほうおいてそれがひくいと其地方そのちほう地震ぢしん誘發ゆうはつされやすい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「北流する水を利して進むは、入るにやすい道には違いないが、ひとたび退こうとするときは、流れを溯上さかのぼるの困難に逢着するであろう」
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんずるよりはむがやすいとはよく云ったものです。寝惚ねぼけた遠藤は、恐ろしい毒薬を飲み込んだことを少しも気附かないのでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「暇なく上下すればそのが疲れやすい。一連では念仏を申し、一連では数をとって積る処の数を弟子にとれば緒が休まって疲れません」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人の心を以て畜生の心を測るのやすからぬは、荘子と恵子が馬をての問答にもいえる通りで、正しく判断してるはすこぶる難い。
それはかんなか空氣くうき侵入しんにゆうしてくさやすいが、直接ちよくせつ土中どちゆううづめるとき空氣くうきにくいので、かへってよく保存ほぞんされるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
故に仏を奉ずる者の、三先生に応酬するがごとき、もとこれ弁じやすきの事たり。たんを張り目を怒らし、手をほこにし気をさかんにするを要せず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しか比較的ひかくてき※去くわこの三ねんわたくしためにはしのやすかつたよ、イヤ、其間そのあひだには隨分ずゐぶん諸君しよくんには想像さうざう出來できないほど面白おもしろこと澤山たくさんあつた。
これが傍に坐し、左の者の傍には、恩を忘れ心つねなくかつそむやすき民マンナに生命いのちさゝへし頃かれらをひきゐし導者坐す 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「そんなところで働く方がいいわ。しかし一体、戦争は始まるのかしら。そして空襲されるとしたら、一番どこからされやすいの」
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
本能という言葉が誤解をまねきやすい属性によってわずらわされているように、愛という言葉にも多くのゆがんだ意味が与えられている。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「帰るのはやすい。だが、またはずかしめを見るだけのことではないか? 如何いかん?」言葉半ばにして衛律が座にかえってきた。二人は口をつぐんだ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
たゞ、瑠璃子夫人に対する——夫人の移りやすきこと浮草のごとき不信に対する憎みと、恨みとで胸の中が燃え狂っていたのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ひとるはかたくしてやすく、みずかるはやすくしてかたし、ただまさにこれを夢寐むびちょうもっみずかるべし、夢寐むびみずかあざむあたわず」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし文書の性質上、官報のような感じを与えやすいので、それをもっと読み易い形にすることも、意味のあることと思われる。
ぼくの姓は坂本ですが、七番の坂本さんと間違まちがやすいので、いつも身体からだの大きいぼくは、侮蔑ぶべつ的な意味もふくめて、大坂ダイハンと呼ばれていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして、生命力の薄い、物にうかやすい兄は、到底弟のこの本能の一徹な慾求を理解もし負担もしてやる力はないのだと思つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
広きみやこに知る人なき心やすさは、なかなかに自活のわざの苦しくもまた楽しかりしぞや。かくて三旬ばかりも過ぎぬれど、女史よりの消息なし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
舟よりあがる囚人のうちワイアットとあるは有名なる詩人の子にてジェーンのため兵をげたる人、父子同名どうみょうなる故まぎやすいから記して置く。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼慨然として答えて曰く、「時宗、秀吉はまことに及びやすからず、しかれども義律エリオット伯麦ブレマ馬里遜モリソン陋夷ろういの小才のみ、何ぞともかくするに足らんや」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「我が家は内藤家の二番家老、門地高ければ憎まれやすい。お前の性質は鋭ど過ぎ、これまた敵を作り易い。それを避けるには昼行灯に限る」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
れがすゞしいなつをんなをとこときには毎日まいにちあせよごやすいさうしてかざりでなければらぬ手拭てぬぐひ洗濯せんたくひまどるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ホホホ。つまりエチオピアへお出でになりたいからダイナマイトをくれって仰言おっしゃるんですね。おやすい御用ですわ。ホホホ」
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これは国が僻在へきざいしておって守旧に便利なのと、「スラーブ」民族が元来政治思想に乏しきが故であるが、その地勢が守るにやすく攻むるにかた
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
すべての谷は埋られ、諸の山と崗とはたいらげられ、屈曲まがりたるは直くせられ、崎嶇けわしきやすくせられ、諸の人は皆神の救を見ることを得ん
やすきにつこうとしたそしりはあるとしても、それはさめきらぬ婦人の無自覚から来た悲しい錯誤であると言わなければならない。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これは子規しきが、説明せつめいのわかりやすいようにつくつてたゞけで、もとよりたとへにすぎません。子規しきのは三十一字さんじゆういちじのたゞの文章ぶんしようで、うたではありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
さて二人は松戸へ泊り、翌廿二日の朝立とうと致しますると、秋の空の変りやすく、朝からどんどと抜ける程降りますから立つ事が出来ませんで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何處をどう歩いたのだらう、私が最後に立つたのは丸善まるぜんの前だつた。平常あんなに避けてゐた丸善が其の時の私にはやす々と入れるやうに思へた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
兎角とかく男は不愉快らしく、人家の壁に沿うて歩いていて、面白げに往来ゆききする人達ひとたちに触れないようにしているので、猶更なおさら押し隔てられやすいのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
此処はただ草のみ生ひて、樹はまれなれば月光つきあかりに、路の便たよりもいとやすかり。かかる処に路傍みちのほとりくさむらより、つと走り出でて、鷲郎が前を横切るものあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
邪気おのずからはだえを襲うて、ただは済みそうにもない、物ありげに思い取られるので、お雪は薄気味悪く、やすからぬ色をして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森下雨村氏から歴史的探偵小説について何か書かないかといわれて、はい、よろしいとやす受合いをしたものの、さて書こうと思うと何にも書けない。
歴史的探偵小説の興味 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そして、いゝ寫眞器しやしんきたいする憧憬は日に日に高まるばかりだつたが、さう手やすつてもらへるはずのものでもなかつた。
認めてくれて、他の生徒がつかえると、『橘高君、何うだ?』と指名するんだ。少しも意に介していない。それでくみやすしと見たのが悪かったんだ
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八五郎の物を信じやすい心にも、四方あたりの贅澤な空氣と對照して、主人の言葉の曖昧さが、大きな謎のかたまりになるのでした。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
だからイエスはパリサイ人に向かって、「汝の罪赦されたりと言うと、起きよ床をとりて歩めと言うと、いずれかやすき」
結局富士は、探検家の山でなくて、女でも、子供でも、老人でも、心やすく登れる全人類の山だ。殊に旅人の山だ。私も旅人として富士を讃美する。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
越えた、指図はゆるしません。あなたたちは、興奮しやすくていけません。ハムレットはまた、何だって私たちを、気の毒だの何だのと、殊勝な事を
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)