握飯にぎりめし)” の例文
この乞食こじきが三日もめしを食わぬときにいちばんに痛切に感ずるものはである。握飯にぎりめしでも食いたいというのが彼の理想である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
はなるゝはかなしけれど是も修行しゆぎやうなれば決して御案おあんじ下さるなとて空々敷そら/″\しく辭儀じぎをなし一先感應院へ歸り下男げなん善助に向ひ明朝あした早く出立すれば何卒握飯にぎりめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
眞中まんなか卓子テエブルかこんで、入亂いりみだれつゝ椅子いすけて、背嚢はいなうかず、じうひきつけたまゝ、大皿おほざらよそつた、握飯にぎりめし赤飯せきはん煮染にしめをてん/″\につてます。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
するとしょうがないから上げないのに、何故なぜ持って来て食わせるんだえ、私共は浪人しても武士だよ、納豆売風情ふぜい握飯にぎりめしを母へくれるとは失礼な人だ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
弁当の握飯にぎりめしのことはいつも話に出るのですが、毎朝母がそれを作られるのを見ますと、たての御飯を手頃の器に取って、ざっと握って皿に置きます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
帰りはドウセ夜に入ると云うので、余はポッケットに懐中電燈かいちゅうでんとうを入れ、案内者は夜食の握飯にぎりめし提灯ちょうちんを提げて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おつぎは手桶てをけそここほつた握飯にぎりめし燒趾やけあとすみおこして狐色きつねいろいてそれを二つ三つ前垂まへだれにくるんでつてた。おつぎはこつそりとのぞくやうにしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
握飯にぎりめしほどな珊瑚珠さんごじゅ鉄火箸かなひばしほどな黄金脚きんあしすげてさゝしてやりたいものを神通じんつうなき身の是非もなし、家財うっ退けて懐中にはまだ三百両あれどこれ我身わがみたつもと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いわゆる顔役——そんな時に、人を担いで顔をうっている区内の政治好きが、楠本氏に草鞋わらじ穿かせ、はかまのももだちをとって連れてきた。握飯にぎりめしも持っているのだという。
長吉ちやうきち釣師つりしの一人が握飯にぎりめしを食ひはじめたのを見て、同じやうに弁当箱べんたうばこを開いた。開いたけれどもなんだかまりが悪くて、たれか見てゐやしないかときよろ/\四辺あたり見𢌞みまはした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平八郎は難波橋なんばばし南詰みなみづめ床几しやうぎを立てさせて、白井、橋本、其外若党わかたう中間ちゆうげんそばにをらせ、腰に附けて出た握飯にぎりめしみながら、砲声のとゞろき渡り、火焔くわえんえ上がるのを見てゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此時こゝろづきて腰をさぐりみるに握飯にぎりめし弁当べんたうもいつかおとしたり、かくては飢死うゑじにすべし、さりながら雪をくらひても五日や十日は命あるべし、その内には雪車哥そりうたこゑさへきこゆれば村の者也
また握飯にぎりめしはオジャンとなったので朝食あさめしの世話もないが、今日の行程は七里以上、何も食わずでは堪らぬと、昨夜ゆうべのどを渇かしたにも懲りず、またしても塩からいコーンビーフにいささか腹を作り
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
三人は、そこで持ってきた握飯にぎりめしをたべ、水筒から水をのんで元気をつけた。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駄餉だしょうとも雑餉ざっしょうともこれをいって、めし屯食とんじきという握飯にぎりめしで、しるは添わなかったようであるが、そのかわりにはいろいろのご馳走ちそうひつ長持ながもちで持ちはこばれ、上下じょうげ何十人の者が路傍の森のかげなどで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さきに老爺が開きかけた竹の皮包の握飯にぎりめしを引き出して口々にほおばってしまうと、今度は落ち散っていた手頃の木の枝を拾って、何をするかと思えば、刀を差すようなふうに腰のところへあてがい
今しも台所から出て来たこの家の下男の一作が、赤飯せきはん握飯にぎりめしを一個遣って追払おうとするのを、女はイキナリ土の上に払い落して、大きく膨脹ぼうちょうした自分の下腹部したはらを指しながら、頭を左右に振った。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
よし来たとその綱を引張る。所が握飯にぎりめしくわせる、酒を飲ませる。如何どうこたえられぬ面白い話だ。散々酒を飲み握飯をくって八時頃にもなりましたろう。れから一同塾にかえった。所がマダ焼けて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いま握飯にぎりめしつたばかりだ。御飯ごはんぢや無い。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
くだん麻袋あさぶくろくちけて、握飯にぎりめしでもしさうなのが、一挺いつちやう小刀こがたな抽取ぬきとつて、無雑作むざうさに、さくりとてる、ヤまたれる、えだはすかりとふたツにつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ただ呼吸いきするだけならパンだけでもよい、パンでなくとも、握飯にぎりめしでも麦飯むぎめしでもよいけれども、この世に生きている甲斐かいには、なにか理想がなくてはならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
となりはほんのりとそらをぼかした。となりにはには自分じぶん村落むらから村落むらから手桶てをけ飯臺はんだいれたにぎめし數多かずおほはこばれた。消防せうばうちからつくした群集ぐんしふしろ握飯にぎりめしむさぼつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人夫がふきの葉やよもぎ熊笹くまざさ引かゞってイタヤのかげに敷いてくれたので、関翁、余等夫妻、鶴子も新之助君のせなかから下りて、一同草の上に足投げ出し、梅干うめぼしさい握飯にぎりめしを食う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
長吉は釣師つりしの一人が握飯にぎりめしを食いはじめたのを見て、同じように弁当箱を開いた。開いたけれども何だか気まりが悪くて、誰か見ていやしないかときょろきょろ四辺あたりを見廻した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いとはずたどり行に漸々と紀州加田浦かだのうらいたる頃は夜はほの/″\と明掛あけかゝりたり寶澤は一休ひとやすみせんと傍の石にこし打掛うちかけ暫く休みながらむかうを見れば白きいぬぴき臥居ふしゐたり寶澤は近付ちかづき彼の握飯にぎりめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(一二)汗臭い握飯にぎりめし
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
……あれ、あんなあの、握飯にぎりめしこさえるような手附をされる、とその手で揉まれるかと思ったばかりで、もうたまらなく擽ったい。どうも、ああ、こりゃ不可いけねえ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おつぎはいた握飯にぎりめしを一つ枕元まくらもとにそつといてげるやうにかへつてた。老人としよりさと到頭たうとうひらかなかつた。卯平うへいつかれたこゝろしづまつてやうや熟睡じゆくすゐしたところなのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
炭焼君すみやきくんの家で昼の握飯にぎりめしを食って、放牧場ほうぼくじょうはしから二たび斗満上流じょうりゅう山谷さんこくを回顧し、ニケウルルバクシナイに来ると、妻は鶴子をいて駄馬だばに乗った。貢君みつぎくん口綱くちづなをとって行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いまのカーライルの言にあるとおり、いかなるいやしい、路傍ろぼう乞食こじきでも、腹がいているときに握飯にぎりめしを与えると、「三日も食わずにいたが、これは結構」といってありがたく頂戴ちょうだいする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
翌朝あけのあさはや握飯にぎりめしこしらへ、たけかはつゝみにて、坊様ばうさま見舞みまひきつけ…もやなかかげもねえだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このさるは、だれ持主もちぬしといふのでもない、細引ほそびき麻繩あさなは棒杭ばうくひゆわえつけてあるので、あの、占治茸しめぢたけが、腰弁当こしべんたう握飯にぎりめし半分はんぶんつたり、ばつちやんだの、乳母ばあやだのがたもと菓子くわしけてつたり
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女房はしきりに心急こころせいて、納戸に並んだ台所口に片膝つきつつ、飯櫃めしびつを引寄せて、及腰およびごし手桶ておけから水を結び、効々かいがいしゅう、嬰児ちのみかいなに抱いたまま、手許もうわの空で覚束おぼつかなく、三ツばかり握飯にぎりめし
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紙に乗せて、握飯にぎりめし突込つッこんでくれたけれど、それが食べられるもんですか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)