度毎たびごと)” の例文
その問題が、何か気まずい事の起る度毎たびごとに、私たち夫婦の間に持ち出されるようになった。もうこれは、だめなんだ、と私は思った。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いつの間にやらだんだん口がおごって来て、三度の食事の度毎たびごとに「何がたべたい」「かにがたべたい」と、としに似合わぬ贅沢を云います。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかもこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間すきまのないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎たびごとに驚きおどろいたものである。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
話の落ち行く先は大抵黒部ときまっていた。そして探検の度毎たびごとに同君のもたらし帰る新しい黒部の秘境に聞き入りつつ私の心は躍った。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もちろんそのような家鳴、震動の度毎たびごとに、麓の百姓に聞いてみても、そんな地震は一向知らぬという話。ナント面妖な話ではないかえ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
郷里とは言っても、岸本があの谿谷たにの間の道を歩いて見たことは数えるほどしか無かった。通る度毎たびごとふるい駅路の跡は変っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは貨幣鋳造の度毎たびごとに、分一と言うものを貰う(千分の十、即ち千両の鋳造で十両ずつの所得)ほか、いろいろの役得があって
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それに私はさっきから自分の印象をまとめようとしてそれにばかり夢中むちゅうになっていたので、そんな唸り声にふと気づく度毎たびごと
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
坑夫達はそんな風に言って、そこを通りかかる度毎たびごとに、青の鼻先へさわってやるのだった。併し青は、黒い鼻先をほんのかすかにうごめかすだけであった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ただのペンを用い出した余は、印気インキの切れる度毎たびごと墨壺すみつぼのなかへ筆をひたして新たに書き始めるわずらわしさにえなかった。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の意識はだん/\不明瞭になつたが、それでも咯血する度毎たびごとにその血を吐き出さずにみこんだ。而して激しくむせた。頭の毛をかきむしつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
不思議なことには証拠が一つ現れる度毎たびごとに、事件の真相が明かにはならないで、反対に益々ややこしく不明瞭なものになって行く様に思われるのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれ老躯らうく日毎ひごと空腹くうふくから疲勞ひらうするため食料しよくれう攝取せつしゆするわづか滿足まんぞく度毎たびごと目先めさきれてるかれらつしてところみちびいてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
修復しゆふく度毎たびごと棟札むねふだあり、今猶歴然れきぜんそんす。毘沙門の御丈みたけ三尺五六寸、往古わうご椿沢つばきざはといふ村に椿の大樹たいじゆありしを伐て尊像そんざうを作りしとぞ。作名さくめいつたはらずときゝぬ。
十八に家出いえでをしたまま、いまだに行方ゆくえれないせがれきち不甲斐ふがいなさは、おもいだす度毎たびごとにおきしなみだたねではあったが、まれたくさにも花咲はなさくたとえの文字通もじどお
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼は打たれたりられたりする度毎たびごとに、ごろごろ地上を転がりまわって、牛のえるような怒声を挙げた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、その度毎たびごとに、雪子女史の姿が影のようにつきまとっていたのは、むしろ悲惨であると云いたかった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
機関車が事故を起す度毎たびごとに、運転乗務員として必ず乗込んでいた二人の気の毒な男があったんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ペルシャの鹿の模様は暫く緞帳の襞の上で、中から突き上げられる度毎たびごとに脹れ上って揺れていた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして始終しじゅう、祭壇に燃える火を絶やしてはいけませんでした。ハムーチャは何度か力を落としましたが、その度毎たびごとに思いあきらめて、ともかく七年間の修行しゅぎょうを終えました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
曇った空は、いよいよ低く下りて来て、西東、何方どちらへ吹くとも知れぬ迷った風が、折々さっと吹き下りる。その度毎たびごとに、破れた蓮の葉は、ひからびた茎の上にゆらゆら動く。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
慈悲深き小松殿が、左衞門は善き子を持たれし、と我を見給ふ度毎たびごとのお言葉を常々人に誇りし我れ、今更乞食坊主の悴を持ちて、いづこに人にあはする二つの顏ありと思うてか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
普通ふつう住宅じゆうたくならば椅子いす衣類いるい充滿じゆうまんした箪笥たんす火鉢ひばち碁盤ごばん將棊盤しようぎばんなど、すべ堅牢けんろう家具かぐならばせるにてきしてゐる。これ適例てきれい大地震だいぢしん度毎たびごとにいくらも見出みいだされる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「おい、ちやああぶないぞ‥‥」と、わたし度毎たびごとにハラハラしてかれ脊中せなかたたけた。が、瞬間しゆんかんにひよいといて足元あしもとかためるだけで、またぐにひよろつきすのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
名譽めいよよりも地位よりも妻よりも娘よりも、また自分の命よりも大事な財産は、何か事業を起す度毎たびごとに幾らかづつ減つた。減る度に大きな歎息ためいきだ。それでも事業熱は冷めなかつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
机竜之助が存生ぞんじょうの者であるかの如く考えたり、そうでなくても、しかるべき系統を伝えて、竹刀しないの響を立てていることとばかり信じて立寄って来るのですから、その度毎たびごとに与八は
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
正午ひるになると毎日まいにち警察署長けいさつしょちょうが、町尽頭まちはずれ自分じぶんやしきから警察けいさつくので、このいえまえを二頭馬車とうばしゃとおる、するとイワン、デミトリチはその度毎たびごと馬車ばしゃあまはやとおぎたようだとか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
翌五年に忠之は、參府の度毎たびごとに大阪と領國との間を航行するためだと云つて、寶玉丸と云ふ大船を造らせた。又十太夫の組下に附けると云つて、江戸へ屆けずに足輕三百人を募つた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その頃、正三は持逃げ用の雑嚢ざつのうを欲しいとおもいだした。警報の度毎たびごとに彼は風呂敷包を持歩いていたが、兄たちは立派なリュックを持っていたし、康子は肩からさげるカバンを拵えていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ことに自分は児童の教員、又た倫理を受持っているので常に忠孝仁義を説かねばならず、善悪邪正を説かねばならず、言行一致が大切じゃと真面目まじめな顔で説かねばならず、その度毎たびごとに怪しく心が騒ぐ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
請る而已のみすこしも取上らるゝ事などなく又差添さしそへの村役人共も其度毎たびごとに九助の仕業しわざに之なき趣きを申立れども證據しようこなき故取あげられず皆々歎息たんそくの外なかりしにひとり三五郎は譜代ふだい主筋しうすぢ故何分九助が無實むじつの災難を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その頭るる度毎たびごと
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何度も/\、彼女が頻繁に呼び続けると、その度毎たびごとにリヽーは返辞をするのであつたが、こんなことは、つひぞ今迄にないことだつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然し謎はついに解かれた。如何なる想像の大飛躍をも妨げなかった謎の秩父奥山は、旅行の度毎たびごとに輪廓だけを朧げに残して次第に消え失せた。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
……出来過ぎた処がある……ダレた処がある……ああでもない、こうでもいけない……と演出される度毎たびごとに洗練され、煎じ詰められて来る。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一つ書き上げる度毎たびごとに、それを持って、勢い込んで私のところへやって来る。がらがらがらっと、玄関の戸をひどく音高くあけてはいって来る。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんな噂を聴く度毎たびごとに、美しい下女のお竹は、店中からも世間からも、妙な眼で見られるようになって行ったのです。
しかもそれは一晩のうちに何回となく繰り返された。彼はその度毎たびごとにぞっとしながら、いつも眠った真似をしていた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
台所の板の間でひとふるえていても一向いっこう平気なものである。吾輩の尊敬する筋向すじむこうの白君などは度毎たびごとに人間ほど不人情なものはないと言っておらるる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何か奇人らしい珍妙な手段を考えては、賊の裏をかこうとするのだが、その度毎たびごとに賊の為に又その裏をかかれて、失敗を繰返しているといった調子でね
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
陣痛が起る度毎たびごとに産婆は叱るように産婦を励まして、一分も早く産を終らせようとした。然ししばらくの苦痛の後に、産婦はすぐ又深い眠りに落ちてしまった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
修復しゆふく度毎たびごと棟札むねふだあり、今猶歴然れきぜんそんす。毘沙門の御丈みたけ三尺五六寸、往古わうご椿沢つばきざはといふ村に椿の大樹たいじゆありしを伐て尊像そんざうを作りしとぞ。作名さくめいつたはらずときゝぬ。
しかるに事實じじつはさうでなく、あのような悲慘ひさん結果けつか續發ぞくはつとなつたのであるが、これをとほ海外かいがいからながめてみると、日本につぽんおそろしい地震國ぢしんこくである。地震ぢしん度毎たびごと大火災だいかさいおこくにである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
春秋はるあき時候の変り目に降りつゞく大雨たいう度毎たびごとに、しば麻布あざぶの高台から滝のやうに落ちて来る濁水は忽ち両岸りやうがんに氾濫して、あばらの腐つた土台からやがては破れたたゝみまでをひたしてしまふ。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もっともきみ子はあの家の歴史を書いていなかった。あれを建てた緒方某おがたぼうは千住の旧家で、徳川将軍が鷹狩たかがりの時、千住で小休みをする度毎たびごとに、緒方の家が御用を承わることにまっていた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのきめのこまかい皮膚は、魚のようにねっとりとしたつやとピチピチした触感しょっかんとを持っていた。その白い脛が階段の一つをのぼる度毎たびごとに、緋色ひいろの長い蹴出けだしが、遣瀬やるせなくからみつくのであった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それ/″\の作家さくかに就て度毎たびごとに議論をし合ひますが、三人の意見が、例へば前に擧げた四つの作では完全くわんぜんに一して居ながら「和解」に於ては全くちがつてゐて、今でもまだ議論ぎろんをし合ひます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その度毎たびごとに、おせんのくびよこられて、あったらたま輿こしりそこねるかと人々ひとびとしがらせて腑甲斐ふがいなさ、しかもむねめた菊之丞きくのじょうへのせつなるおもいを、ひととては一人ひとりもなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
浮き出す度毎たびごとに、その無恰好ぶかっこうに大きな頭の赤毛の揺れっぷり、苦しがって潮を吹く口元、きょろきょろと見廻す眼鏡の巨大なのと、その奥の眼の色の異様なのも、物それを少しも怖ろしくしないで
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はその後、始終ナオミとダンスに行くようになりましたが、その度毎たびごとに彼女の欠点が鼻につくので、帰りみちにはきっと厭な気持になる。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)