さき)” の例文
とう時、わたしの一家は長さきんでゐた。その長さきには、下岡蓮杖おうならんで、日本寫しんかい元祖ぐわんそである上野彦馬おうが同じくんでゐた。
と、武田勝頼は、父祖数代の古府——甲府の躑躅つつじさきからこの新府へ——年暮くれの二十四日というのに、引き移ってしまったのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貞柳ていりうと云ひしが此者通仙と入魂じゆこんなりし故妻子の難儀を見兼ねて世話をなしける處あまさきの藩中に小野田幸之進をのだかうのしんと云人有りしが勘定頭かんぢやうがしら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
入江の出口から右の方に長く続いているさきはしが突き出ている、その先きの小島に波が白く砕け始めるようになって来ました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
新道しんだう春日野峠かすがのたうげ大良だいら大日枝おほひだ絶所ぜつしよで、敦賀つるがかねさきまで、これを金澤かなざはから辿たどつて三十八里さんじふはちりである。かに歩行あるけば三年さんねんかゝる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同じ歸りの列車に乘つた連中も或者は大磯やさき邊を通りがけに局長とか社長とかの別莊を訪問しやうとて下車したものも多かつた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「さののわたりに家もあらなくに」(わりなくも降りくる雨か三輪がさき)などと口ずさみながら、田舎いなかめいた縁の端にいるのであった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かくて、甲府城下の躑躅つつじさきの古屋敷でした時のように、一応刀を抜きはなして、それを頬に押当てて、びんの毛を切ってみました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼等は未来の健康のため、一夏ひとなつさきに過すべく、父母ふぼから命ぜられて、兄弟五人で昨日きのうまで海辺うみべけ廻っていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近くにのちしま、かなたにかがみさきも望まれて、いさましい漁師たちの船が青い潮に乗って行くのも、その島やみさきの間でしょう。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眉山の自殺してから間もなく、さき海岸の獨歩の病室で、「この龍土會の會員の中で、誰れが眉山の次ぎに死ぬだらう」
君の所要は、先月さきで物故した一文士に関する彼の感想を聞くにあった。彼は故人について取りとめもない話をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
帰りには極楽寺ごくらくじ坂の下で二人とも車を捨てて海岸に出た。もう日は稲村いなむらさきのほうに傾いて砂浜はやや暮れめていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
出雲いずもの国の御大みおさきという海ばたにいっていらっしゃいますと、はるか向こうの海の上から、一人の小さな小さな神が、お供の者たちといっしょに
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大阪に商売人が集るのもかまさき乞食こじきが集るのも、東京へ文芸が集るのも、支那に支那人が多いのも銀座にカフェが出来るのも十二階下に白首しろくびが集るのも
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あまさきから、あすこへ軍兵の押し寄せてくるのが見えるかしら」私は尼ヶ崎の段を思いだしながら言った。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いつも今ごろはもう妙高に雪がくるのですけれど そうすればきますが おととい貝をとりにいったら琵琶びわさきの入江に真鴨まがもが十羽ほどと鴛鴦もいました」
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
待て待て、さきはま鍛冶屋かじやばんばじゃの、海鬼ふなゆうれいじゃの、七人御崎みさきじゃの、それから皆がよく云う、弘法大師こうぼうだいし石芋いしいもじゃの云う物は、皆仮作つくりごとじゃが、真箇ほんとの神様は在るぞ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このおとこは三さき町人ちょうにんで、年輩としごろは三十四五の分別ふんべつざかり、それがなみだまじりにんなことをもうすのでございますから、わたくし可笑おかしいやら、どくやら、まったあきれてしまいました。
さきを過ぎて塩竈の杉の稍が遙かに見えて籬が島が舳にあらはれた時には船体の動搖は止んだ。さうして平らな蒼い水を蹴つて行く汽船の舷に近く白い泡が碎けて消える。
旅の日記 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ことにこの別荘地帯はさきでも早く開けた方で、古びた家が広々と庭を取って、ポツン/\と並んでいる上に、どれも之も揃って空家と来ているので、誰一人応ずる者はない。
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
拠無よんどころなく夕方から徒歩で大坂おおさかまで出掛でかける途中、西にしみやあまさきあいだで非常に草臥くたびれ、辻堂つじどう椽側えんがわに腰をかけて休息していると、脇の細道の方から戛々かつかつと音をさせて何か来る者がある
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
先ずあれにするには西京さいきょう真葛まくずはらの豆が一番上等です。大阪のあまさき辺の一寸豆いっすんまめもようございます。上州沼田辺の豆も大きいそうですが新豆のしたのなら一昼夜水へ漬けます。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
紀伊の国三輪みわさきに、大宅おおやの竹助という人がすんでいた。この人は、漁業で大いにもうけた網元で、漁師たちも大ぜいかかえ、手広く魚という魚を漁獲して、家ゆたかに暮らしていた。
勝沼かつぬままちとても東京こゝにての塲末ばすゑぞかし、甲府かうふ流石さすが大厦高樓たいかかうろう躑躅つつじさき城跡しろあとなどところのありとはへど、汽車きしや便たよりよきころにならばらず、ことさら馬車腕車ばしやくるまに一晝夜ちうやをゆられて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
拭掃除ふきそうじを致しますから、手足はひゞが絶えません、朝働いて仕まってからお座敷へ出るような事ですから、世間の評が高うございます、此の母親おふくろはおさきばゞあと申しまして慾張よくばりの骨頂でございます
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雑誌の盟主であるR先生の相模さがみさきの別荘に、その日同人の幹部の人達が闘花につめかけてゐるので、私は一刻も早く一部始終を報告しようと思つて、その足で東京駅から下り列車に乗つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
其頃、江戸の、今の水道橋内すゐどうばしうちさきちやうの所に講武所といふものがあつた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
謙信の智將宇佐美貞行うさみさだゆきが、謙信の爲めに謀つて、謙信の姉聟長尾政景ながをまさかげの謀反を未然に防ぐために、二人して湖水に船を浮べ、湖上のもみさきといふ所まで出た時に、水夫に命じ船底へ穴を開けさせ
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
この小山のすそ馬見まみさき川(最上もがみ川の上流)が流れているのだが、それを眼下にみおろし、山形の街、桜桃畑、野、田畑とひろびろとした盆地を眺めつつ、柔い春風のなかで昼寝したものである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
(ロイド・ジョージ演説中の一句、うちさき作三郎さくさぶろう君の訳による)。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
音次郎の娘は両方の眼が綺麗で、名前もおさきとか言うそうで——
さき湯室ゆむろの庇四端よつまり夕凪にあるか入江向ひに
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
同 同 同 大字酒蔵字ひょうさき
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
古城ふるじろの方へ参るのでございます、古城は、躑躅つつじさきは神尾主膳様のお下屋敷まで、これからお見舞に上ろうというんでございます
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もつとも、加州かしう金石かないはから——蓮如上人れんによしやうにん縁起えんぎのうち、よめおどしの道場だうぢやう吉崎よしざきみなと小女郎こぢよらう三國みくにつて、かなさきかよ百噸ひやくとん以下いか汽船きせんはあつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「入江と、拙者とは、若いころ、さき十松じっしょうの門で一緒に修業していたことがある。むろん、拙者の方が、はるかに末輩だが」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして叔父からいろ/\をしへをけると同時に、いよ/\長さきかへるといふ時に、さん/″\母にせびつてやうやつてもらつたのが二円五十錢の
建御雷神たけみかずちのかみはそれを聞くと、すぐに天鳥船神あめのとりふねのかみ御大みおさきへやって、事代主神ことしろぬしのかみんで来させました。そして大国主神に言ったとおりのことを話しました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
たいして山深くはいる所ではないが、松がさきの峰の色なども奥山ではないが、紅葉もみじをしていて、技巧を尽くした都の貴族の庭園などよりも美しい秋を見せていた。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
高崎から平久里へぐりに滞在してさき、白浜、野島の嶮路けんろ跋渉ばっしょうして鏡ヶ浦に出るやはるかに富岳を望み見た。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余はほとんどがけと共にくずれる吾家わがやの光景と、さきで海に押し流されつつある吾子供らを、夢に見ようとした。雨のしたたか降る前に余はさいに宛てて手紙を出しておいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しろお前、あのさきはしの暗礁へ乗り上げたので、——それで村中の漁夫りょうしがその大暴風おおしけの中に船をおろして助けに行ったのだが、あんな恐ろしいことはおらァ覚えてからなかった。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
長岡郡ながおかぐんの国府に在任していた国司などが、任期を終えて都へ帰って往くには、大津おおつさきと云う処から船に乗って、入江の右岸になったこの地をさして漕いで来て、それから外海そとうみに出て
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
震災記念というところから、小山家ではさきにある製糸工場内の庭に喜代野さんの胸像を置き、その台石にこのことばを刻みつけて、いささかなき人をしのぶたよりとしたものです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勝沼かつぬまの町とても東京ここにての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦たいか高楼、躑躅つつじさきの城跡など見るところのありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車くるまに一昼夜をゆられて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
追拂おひはらはれ京都に住居すまひの時留守宅るすたくへ忍び入衣類をうばひ取大津おほつ立越たちこえ賭博をうち佐七平四郎と兄弟分になり上方かみがたより東海道とうかいだうかせぎ折々をり/\は江戸へも立出候處あまさき家中の侍士さふらひ金用にて出立と馬士まごの咄を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さんぬる六月十五日の夜同所北割下水大伴蟠龍軒の屋敷へ忍び込み、同人舎弟なる蟠作並びに門弟安兵衞やすべえ、友之助妻むら、同人母さき殺害せつがいいたし、今日こんにちまで隠れ居りしところ、友之助が引廻しの節
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
躑躅つつじさき城館しろたちのうちに一宇いちう伽藍がらんがある。毘沙門堂びしゃもんどうといって、信玄入道の禅室でもあり、政務所でもあり、時には軍議の場所ともなった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
てる絶壁ぜつぺきしたには、御占場おうらなひばがけつて業平岩なりひらいは小町岩こまちいは千鶴ちづるさき蝋燭岩らふそくいはつゞみうら詠続よみつゞいて中山崎なかやまさき尖端とつさききばである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)