その)” の例文
友染いうぜんきれに、白羽二重しろはぶたへうらをかさねて、むらさきひもくちかゞつた、衣絵きぬゑさんが手縫てぬい服紗袋ふくさぶくろつゝんで、そのおくつた、しろかゞや小鍋こなべである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのさまれに遠慮ゑんりよらず、やなときやといふがよし、れを他人たにんをとこおもはず母樣はヽさまどうやうあまたまへとやさしくなぐさめて日毎ひごとかよへば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
欣之介が予定してあつた春に、そのの林檎が花をつけた。その美しい淡紅色の花が、つて見たことのない村人の眼を驚ろかした。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
薄緑の芝生や、しなやかに昇る噴水で飾られたそのがある。処々しよ/\に高尚な大理石の像が立てゝある。木立の間には、愛の神をまつつたほこらがある。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
「おそのか。」とやさしく種彦は机の上に肱をついたまま此方こなたを顧み、「おッつけもう子刻ここのつだろうに階下したではまだ寝ぬのかえ。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから四時過ぎやや日蔭の出来るのを待って、九州ホテルにいとまを告げ、そのさんと共に島原にくだった。しかしそれは雲仙と別れたのではない。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「……あとには、そのが、うき思い、かかれとてしも烏羽玉うばたまの、世の味気なさ、身一つに、結ばれ、とけぬ片糸かたいとの、くりかえしたる独りごと……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
わたしたちは、そのこうがわを取りいているかきねのそばまで行ってみて、はじめてハンケチをふっている人を見つけた。
大宝寺町の大工庄蔵の弟子で六三郎ろくさぶろうという今年十九の若者が、南の新屋敷しんやしき福島屋の遊女おそのと、三月十九日の夜に西横堀で心中を遂げたのである。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ微笑びせうもつくるしみむかはなかつた、輕蔑けいべつしませんでした、かへつて「さかづきわれよりらしめよ」とふて、ゲフシマニヤのその祈祷きたうしました。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
舞台ぶたいはいふまでもなくさくらそのの女しゆ人ラアネフスカヤの邸宅ていたく廣間ひろまで、時ははる、その方の名家もやがて沒落ぼつらくといふかなしい運命うんめいの前にあるのだが
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そのうちに、大きなサクラのそのへ、さしかかりました。園の中には、小さな家が一けん、立っていました。そして、赤と青の、ふしぎな窓が見えました。
おかあさんは門をはいって、芍薬しゃくやく耘斗葉おまきそのに行きました。見ると窓にはみんなカーテンが引いてありまして、しかもそれがことごとく白い色でした。
すなわち、たとえば、酒屋の段のおそのが手紙をさして「ふ、う、ふ、と書いてある」というところがある。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あるときはそのはないたそのなかで、楽器がっきらしました。小鳥ことりは、その周囲しゅうい木々きぎあつまってきました。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「扶病歩園。従来遊戯作生涯。酔歩吟行少在家。病脚連旬堪自笑。扶筇纔看薬欄花。」その百日紅さるすべりがさいてゐたので、蘭軒は折らせて阿部邸の茶山が許に送つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
祝儀しうぎすむやそこ/\定紋の車幾臺大川端の家にとむかへり、あわれ病人やむひとやあつしくなりにしがあたゝかき息こもるうばらのそのうやさまよう、細き息の通ふばかりとや
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
エデンのそのかと思われるほど、きれいなところでした。たくさんの花が、にじのように咲きみだれて、じゅくした果物が、おいしそうにふさになって、なっていました。
しかし、その月光のその一刻ひとときは、長かったようで、ぐ終ってしまいました。それは、あなたの友達の内田さんが、船室の蔭から、ひょッこり姿を、現わしたからです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
エデンのそので、アダムの肋骨ろっこつを一本とってそれからイヴという美しい女を作り給うた、というのは、形式的には神様のなせるわざではあるようなものの、その考えは、無論
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
秀吉をめぐる女性群としては、松の丸どの、三条のつぼね、加賀の局、また、まだ少しあどけなさ過ぎるが、あの於茶々おちゃちゃだの、於通おつうだの、いまやその閨門けいもんそのも、色とりどりに
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知らぬものは真の文雅ぶんがとおもひ、とひよるさへも多ければ、たちま諸国しよこくにもそのの名をかほらせ、枝葉えだはさかえ、それのみか、根堅ねがた名園めいゑんのこして年々ねん/\繁昌はんじやう、なみ/\の智恵ちゑ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
身動みうごきもせずじつとして兩足をくんすわつてると、その吹渡ふきわた生温なまぬくいかぜと、半分こげた芭蕉の實や眞黄色まつきいろじゆくした柑橙だい/\かほりにあてられて、とけゆくばかりになつてたのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼は松明たいまつの炭を踏みながら、霧を浮かべたそのの中で、つつみのように積み上げられた鹿の死骸の中を通っていった。彼の眠りの足らぬ足は、鹿の堤から流れ出ている血の上ですべった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
後ろを振り向くと、これは地味な洋装の新島にひじまその子が、何時の間にかそこに立つてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
主人が座に就くと童は這ひ寄つて、膝に接吻して主人と一目、目を見合せようとした。フロルスは口笛を吹いて大きい毛のもぢや/\した狗を呼んだ。主人と童と狗とが又そのに出た。
お城をとりまわしているそのの中に、たくさんの高い木やひくい木が、もっさりとしげりだして、そのあいだには、いばらや草やぶが、びっしり鉄条網てつじょうもうのようにからみついてしまいましたから
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
これでいくらか清々した……今日は阿部の老爺おぢいさんに手紙を書いて、斯う自分の身の周囲まはりのことを報告しようと思つてサ……おそのさん(亡くなつたをひの妻)もいよいよ東京へかたづいで来たし
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二三人の新聞記者に囲まれて、華やかな笑顔を向けたのは、その花枝という同じ大東京新報の婦人記者、筆の立つのと素性のわからないのと、それよりもズバ抜けて美しいので有名な女でした。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「シヲンのその」と聖書風に読まなくてはいけないので、山川の庭では、花そのものにまで信仰の結晶が見られるわけだったが、夏の朝など、あじさいや庚申薔薇が風にそよいでいたあたりには
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、私が結婚したのは、やっぱり同じ女学校を出た、仲間では第二流の美人、イヤ今じゃ美人どころか、手におえないヒステリィ患者ですが、当時はまあまあ十人並だった御承知のおそのなんです。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うつせみは弥陀仏のそのに遊ぶかと思ほゆるまでこころなぎをり
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
朝はやき日比谷ひびやそのむくみたる足をぞさす労働はたらきびとひとり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かぎられしその配置はいちにほめき、靄に三つ四つ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
エデンのそのが天女の顔でたのしいなら
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
わたくしは故郷のそのにいながら
そのの菊を枝炭えだずみごと灰白はいじろませ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのに聞く人語新し野分跡のわきあと
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
真夏まなつそのの花のいろ/\
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なみだの谷やえみその
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そのあるじみちびかれ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
なかいたやうな……藤紫ふじむらさきに、浅黄あさぎ群青ぐんじやうで、小菊こぎく撫子なでしこやさしくめた友染いうぜんふくろいて、ぎんなべを、そのはきら/\とつてた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とほざかるが最期さいごもうゑんれしもおなじことりつくしまたのみもなしと、りすてられしやうななげきにおそのいよ/\心細こヽろぼそ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私は午後の三、四時までを九州ホテルで休養した上、夕暮ゆうぐれ、上野さんやそのさんと、白雲はくうん池から白雲牧場の方を散歩して見た。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
かれ微笑びしょうもっくるしみむかわなかった、軽蔑けいべつしませんでした、かえって「このさかずきわれよりらしめよ」とうて、ゲフシマニヤのその祈祷きとうしました。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「六三郎……いきな名前だな。その六三郎におそのが用があると云って牽引しょぴいて来てくれ。いや、冗談じゃねえ。御用だ」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その拍子にふと見れば、こはそも如何いかに男は間違まがかたなく若旦那柳絮りゅうじょ、女はわが家に隠匿かくまったおそのではないか。しまった事をした。情ない事をした。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
アントン・チエエホフの名戯曲ぎきよくさくらその」のだいまく目の舞台ぶたいの左おく手には球突塲たまつきばがある心になつてゐる。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
石切り場にねむろうとして失敗しっぱいして、それからあとの始末を一とおり話しかけて、やっと五分たつかたたないうちに、そのに向かっているドアを引っかく音が聞こえた。
われは友を顧みて、拿破里は最早こゝより見ゆるかと問ひしに、友は笑ひて、まだ見えず、されどヘスペリアは見ゆるなり、アルミダのしきそのは見ゆるなりと答へき。