伊勢いせ)” の例文
知らぬ人も少なかろうがこの例を一つだけ挙げておこう。伊勢いせでは櫛田川くしだがわのほとりのある村で、可愛かわいい童子がの上にいるのを見て
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まずこれで伊勢いせは片づけた、——つぎには柴田権六しばたごんろくか、きゃつも、ソロソロくまのように、雪国のあなから首をだしかけておろう……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころ小野が結婚して、京橋の岡崎町に間借りをして、小綺麗な生活くらしをしていた。女は伊勢いせうまれとばかりで、素性すじょうが解らなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのほかの人形は——きょう伏見ふしみ奈良なら博多はかた伊勢いせ秋田あきた山形やまがたなど、どなたも御存知のものばかりで、例の今戸焼いまどやきもたくさんあります。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
凡ては忠相が一人で飲み込んで全事件をみ消したのだった。二人は、忠相の情で姿を変え、数刻すうこくおくれて、同じ東海道を伊勢いせへと発足ほっそくする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊勢いせの国、飯高郡いいだかごおりの民として、天明てんめい寛政かんせいの年代にこんな人が生きていたということすら、半蔵らの心には一つの驚きである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
右のアサマリンドウは、伊勢いせ〔三重県〕の朝熊山あさまやまにあるから名づけたものだが、また土佐とさ〔高知県〕の横倉山よこぐらやまにも産する。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それで命は、急いで伊勢いせにおくだりになって、大神宮だいじんぐうにお仕えになっている、おんおば上の倭媛やまとひめにお別れをなさいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
および私の故郷伊勢いせの国のことなどを考えて、だんだん深く、そして広く考えてゆきますと、ついにはこの一箇の私という存在は、全日本はおろか
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
伊賀いが上野うえのは旧藤堂とうどう侯の領分だが藩政の頃犯状はんじょうあきらかならず、去迚さりとて放還ほうかんも為し難き、俗に行悩ゆきなやみの咎人とがにんある時は、本城ほんじょう伊勢いせ安濃津あのつ差送さしおくるとごう
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
旗艦陸奥むつ以下長門ながと日向ひゅうが伊勢いせ山城やましろ扶桑ふそうが、千七百噸級の駆逐艦八隻と航空母艦加賀かが赤城あかぎとを前隊として堂々たる陣を進めて行くのであった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これから伊勢いせ北畠きたばたけを攻めにまいる。おまえにも兵を預けるからひと合戦してみろ。初陣ういじんに鶴千代では名が弱い。今日から忠三郎賦秀たださぶろうたけひでと名乗るがよい」
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
源氏の愛のたよりなさを感じている御息所は、斎宮の年少なのにたくして自分も伊勢いせへ下ってしまおうかとその時から思っていた。このうわさを院がお聞きになって
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
伊勢いせの鸚鵡石にしても今の物理学者が実地に出張して研究しようと思えばいくらでも研究する問題はある。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
聞てまゆひそめ信州と此熊本とは道程みちのり四五百里もへだたりぬらんに伊勢いせ參宮より何ゆゑ當國迄たうごくまでは參りしやと不審ふしん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ここで近畿きんき地方というのは便宜上、京都や大阪を中心に山城やましろ大和やまと河内かわち摂津せっつ和泉いずみ淡路あわじ紀伊きい伊賀いが伊勢いせ志摩しま近江おうみの諸国を包むことと致しましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
『華実年浪草』一上に引いた『髄脳抄』には才媛伊勢いせが子の日の松を引き来ってその家に植えたのが大木となり存した、能因法師そのこずえを見るなり車より飛び下り
まず四人同道で伊勢いせ参宮さんぐうのために京都を出る時に、道すがら三人の者がそれぞれ詩や歌をむと、道無斎がそれを聞いて、滔々とうとうとして次のごとき説法を始めるのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
神風かむかぜ伊勢いせくににもあらましをなにしかけむきみらなくに 〔巻二・一六三〕 大来皇女
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
伊勢いせ大廟たいびょうを二十年ごとに再築するのはいにしえの儀式の今日なお行なわれている一例である。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
出家は二十三歳のとき、崇徳すとく天皇の保延ほうえん六年で、真言宗しんごんしゅうである。出家後しばらく京都近くに居り、それから伊勢いせへ行ってしばらく住んだらしく、それから東海道を奥州おうしゅうまで旅した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
みぎ御神剣ごしんけんもうすのは、あれは前年ぜんねんわざわざ伊勢いせまいられたときに、姨君おばぎみからさずけられたにもとうと御神宝ごしんぽうで、みことはいつもそれをにしきふくろおさめて、御自身ごじしん肌身はだみにつけてられました。
頼朝よりとも公と不和になられた義経よしつね公が、弁慶べんけい亀井かめい伊勢いせ駿河するが常陸坊ひたちぼうの四天王を引きつれて陸奥みちのくへ下向される。一同は山伏に姿をやつしている。が、こうしたことは鎌倉に聞えている。
「お前さんの用事が済むまで、息子にはお伊勢いせ参りでもさせてやりましょうわい」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東北路は山形二十万石の保科ほしな侯に、それから仙台六十四郡のあるじ伊達だて中将、中仙道なかせんどう口は越前えちぜん松平侯に加賀百万石、東海道から関西へかけては、紀州、尾州、ご両卿りょうきょう伊勢いせ松平、雲州松平
六年生の秋の修学旅行は、時節じせつがらいつもの伊勢いせまいりをとりやめて、近くの金毘羅こんぴらということにきまった。それでも行けない生徒がだいぶいた。働きにくらべて倹約けんやく田舎いなかのことである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
和尚さんはかつて行っていた伊勢いせの話を得意になって話し出した。主僧は早稲田を出てから半歳はんとしばかりして、伊勢の一身田いしんでんの専修寺の中学校に英語国語の教師として雇われて二年ほどいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
右兵衛佐うひょうえのすけ殿(斯波義敏しばよしとし)の御曹子おんぞうしで、そののち長禄の三年に、義政公の御輔導役伊勢いせ殿(貞親さだちか)の、奥方の縁故にかされての邪曲よこしまなお計らいがもとで父君が廃黜はいちゅつき目にお遇いなされた折り
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
戦艦『長門ながと』『陸奥むつ』『日向ひゅうが』『伊勢いせ』『山城やましろ』『扶桑ふそう』『榛名はるな』『金剛こんごう』『霧島きりしま』。『比叡ひえい』も水雷戦隊にかこまれているぞ。『山城』『扶桑』は大改造したので、すっかり形が変っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
然れども山水としてその最も上乗じょうじょうなるものは伊勢いせ二見ふたみうら日出ひのでけい、または Gillotジョオ 蒐集板画目録中に載せられたる三枚続にして、樹木茂りし丘陵の彼方かなたはるかに雪の富士巍然ぎぜんとしてそび
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そも松澤まつざは新田につたらが祖先そせんきこえしは神風かみかぜ伊勢いせひとにてつと大江戸おほえどこゝろざし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あじきなく暮らすうちみち産声うぶごえうるわしく玉のような女の子、たつと名づけられしはあの花漬はなづけ売りなりと、これも昔は伊勢いせ参宮の御利益ごりやくすいという事覚えられしらしき宿屋の親爺おやじが物語に珠運も木像ならず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
討手うって追撃ついげきを受けて宮は自害し給い、神器のうち宝剣ほうけんと鏡とは取り返されたが、神璽しんじのみは南朝方の手に残ったので、楠氏越智おち氏の一族さらに宮の御子みこ二方ふたかたほうじて義兵を挙げ、伊勢いせから紀井きい
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は十一、二歳から歴史と文学書とが好きで、家の人に隠して読みふけったが、天照大御神あまてらすおおみかみの如き処女天皇の清らかな気高けだかい御一生がうらやましかった。伊勢いせ斎宮さいぐう加茂かもの斎院の御上おんうえなどもなつかしかった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
伊勢いせの国までおちのびて
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
伊勢いせの道者か
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
すなわち、伊勢いせ滝川一益たきがわかずますをうった秀吉ひでよしが、さらにその余勢よせいをもって、北国の柴田軍しばたぐんと、天下てんか迎戦げいせんをこころみたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父親は早目にその日の旅籠はたごへつくと、伊勢いせ参宮でもした時のように悠長ゆうちょうに構え込んで酒や下物さかなを取って、ほしいままに飲んだり食ったりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伊勢いせへ、津島へ、金毘羅こんぴらへ、御嶽おんたけへ、あるいは善光寺への参詣者さんけいしゃの群れは一新講とか真誠講とかの講中を組んで相変わらずこの街道にやって来る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして途中で伊勢いせのお宮におまいりになって、おんおば上の倭媛やまとひめ再度さいどのお別れをなさいました。そのとき命はおんおば上に向かっておっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ここが年号使用圏の東のはしであり、そのうえに伊勢いせ春日かすがとも対立するほどの、有力な信仰の中心があったのだから、その想像には若干の根拠なしとしない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玄宗げんそう皇帝と楊貴妃ようきひの恋を題材にした白楽天の長恨歌ちょうごんかを、亭子院ていしいんが絵にあそばして、伊勢いせ貫之つらゆきに歌をおませになった巻き物で、そのほか日本文学でも、支那しなのでも
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大和やまと伊勢いせ紀伊きい河内かわち和泉いずみがその勢力範囲であって、大和アルプスを脊椎せきついとした大山岳地帯全体が海洋に三方を取りまかれて、大城廓をなし、どうにも攻め様がなかったのと
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
◎先年伊勢いせへ赴き、二週間ばかり滞在した事があった、ある夜友人に招かれて、贄崎にえさき寿楼ことぶきろうで一酌を催し、是非ぜひ泊れといったが、少し都合があって、同所を辞したのは午前一時頃である
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
道場の一隅に、上村うえむら弥兵衛と伊勢いせ万作の二人が、幹太郎と重四郎の稽古を見ていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
させて呉れよと云ども某は承知せず近江あふみ泥坊どろばう伊勢いせ乞食こじきといふ事あれば江州の者に油斷ゆだんはならず連はきらひなりと申せしかどたつて供を致し度し申に付據處よんどころなく同道致せしわけ拙者も些少いさゝか油斷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
右兵衛佐うひょうえのすけ殿(斯波義敏しばよしとし)の御曹子おんぞうしで、そののち長禄の三年に、義政公の御輔導役伊勢いせ殿(貞親さだちか)の、奥方の縁故にかされての邪曲よこしまなお計らひがもとで父君が廃黜はいちゅつき目にお遇ひなされた折り
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
筒井氏の調査によると、冬季降雪の多い区域が、若狭わかさ越前えちぜんから、近江おうみの北半へ突き出て、V字形をなしている。そして、その最も南の先端が、美濃みの、近江、伊勢いせ三国の境のへんまで来ているのである。
伊吹山の句について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「品川で遺言をする伊勢いせ参り——」
ひとりの男の子はまだッけえうちに、伊勢いせまいりにいった途中とちゅうでかどわかされ、たったひとりのこっていたむすめは……その娘は……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)