一昨日をとゝひ)” の例文
一昨日をとゝひ笹野新三郎から用意のために手渡された金、將軍樣の命にかゝはらうと言ふ場合ですから、物惜ものをしみなどをして居る時ではありません。
昨日きのふも芋一昨日をとゝひも芋で今夜も芋だ。おれは芋は大好きだと明言したには相違ないが、かう立てつゞけに芋を食はされては命がつゞかない。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、またいまきず一昨日をとゝひ昨夜ゆうべ怪我けがをしたものとはえぬ、綺麗きれいえて、うまれつき其處そこだけ、いろかはつてえるやうなのに悚然ぎよつとした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れは其樣そんものもらひたくない、おまへそのうんといふはつまらぬところかうといふのではないか、一昨日をとゝひ自家うち半次はんじさんが左樣さうつてたに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もう、あのモデルの方をお使ひになつた画は二枚ともお仕上げになつたやうでございます。女の人は一昨日をとゝひからもう入らつしやいません。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
莫斯科モスコオまであとがもう五晩いつばんあると思つて溜息をいたり、昨日きのふ一昨日をとゝひも出したのに又子供達に出す葉書を書いたりして居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そして、「陳述書」を五分も十分もかゝつて讀んでしまふと、「馬鹿野郎。一昨日をとゝひ來い!」と、どなつて、それを石山の膝に投げかへしてよこした。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
三藏は一昨日をとゝひ手紙を鶴子さんに手渡しする時初めて自分の使が格段な意味のものであることを了解したやうな譯で、思はず手を頭にやつて恐縮する。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
貴女あなたに話すのを忘れてゐた。此間中頭が重いので、一昨日をとゝひ、近藤に診て貰ふと、神経衰弱の気味らしいと云ふのだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一昨日をとゝひの晩も『浪の家』から、電話ぢやく解らないツてんで態々わざ/\使者ひとまで来たぢやないか、何が面白くて湖月などにグヅついてたんだ、帰つたともや
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
見兼ての深切しんせつ先年の恩報おんがへしなりとて一昨日をとゝひ夕方ゆふがたに廿五兩と云金子を調達てうだつして持參致されし譯ゆゑ何も別に不審ふしんに思はるゝ事は是なしと金の出所を白地あからさまはなすを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きのふも一昨日をとゝひも仕事を休んでゐたのですけれど、もうかぞになつて來て、お出入先から毎日の催促があるので、今日はたうとう朝から仕事に出て行つたんですよ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
昨日きのふ一昨日をとゝひはこの町にある榊神社の祭禮で、近年にない賑ひでした。
たゝんとするに左の足痛みて一歩も引きがたしコハ口惜くちをしと我手にもみさすりつして漸やく五六町は我慢したれどつひこらへきれずして車乘詰のりづめの貴族旅となりぬ雨は上りたれど昨日きのふ一昨日をとゝひも降り續きたる泥濘ぬかるみに車の輪を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一昨日をとゝひの晩だつたかしら、和蘭屋敷で。あそこにはそれはほしいものがうんとあつてよ。あいつ等は狒々ひゝだから、妾達がほしいと云へば垢だらけの襦袢とだつて何でも交換してくれるわ。此指輪だつてさうよ。」
男優C 僕は、一昨日をとゝひの晩、あれ見に行つたよ。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
もつと一昨日をとゝひは遠方から入る金があつて、よひに一寸開けましたが——え、え、それはもう前からわかつてゐたことで御座いますとも
和田垣博士と僕とが氏の出立前しゆつたつぜんその飛行場へ一度案内して貰ふ約束をして置いたので一昨日をとゝひの午後風の無ささうな空を見込んで氏の下宿を尋ねると
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
坂井さかゐ一昨日をとゝひばん自分じぶんおとゝひやうして、一口ひとくちに「冒險者アドヹンチユアラー」とつた、そのおんいま宗助そうすけみゝたかひゞわたつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我夫あなた仮睡たぬきなどキメ込んでる時ぢやありませんよ、一昨日をとゝひもネ、わたし、兄の所で松島さんにお目に掛かつてチヤンと御約束して来たんです、念の為と思つたから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なんぞやあともかたもこひいそあはびの只一人ひとりものおもふとは、こゝろはんもうらはづかし、人知ひとしらぬこゝろなやみに、昨日きのふ一昨日をとゝひ雪三せつざう訪問おとづれさへ嫌忌うるさくて、ことばおほくもはさゞりしを
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
家ではつい一昨日をとゝひあたりまであきが少し熱があつて、学校も二三日休んで寝てたんですよ。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
このたびのは、一昨日をとゝひあさからかゝつた仕事しごとで、ハヤそのなかばいた。たけ間半けんはん小口こぐちじやくまはり四角しかくくすのき眞二まつぷたつにらうとするので、與吉よきちは十七の小腕こうでだけれども、このわざにはけてた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はなすべしと云に女房にようばうお政はをつとの歸りしを見て是は好所よきところへ御歸りなり今久兵衞さんが來られて餘り無法むはふな事を言懸いひかけらるゝにより思はず大きな聲を出せしなり其譯そのわけ一昨日をとゝひ良人あなた質物しちもつの日延を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「お忘れになつたの? 一昨日をとゝひの晩のことですよ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一昨日をとゝひの夕方小屋の外で俺を呼留めたのは、それを言ふつもりだつたらしいが、俺の顏を見ると氣が變つて默り込んでしまつた。
一昨日をとゝひの晩晶子をれて画家の江内えうちと一緒に僕が行つた時は、土曜の夜だけあつて九時過ぎにう客が一ぱいに成つて居た。あとから来た客は皆立つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一昨日をとゝひ佐伯さへきからとゞけてれた。御父おとうさんのつてたもので、おれののこつたのは、いまぢやこれだけだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雪子ゆきこくりかへすこと昨日きのふ今日けふ一昨日をとゝひも、三月みつき以前いぜん其前そのまへもさらにことなことをばはざりき、くちびるえぬは植村うゑむらといふ、ゆるしたまへと言葉ことば學校がくかうといひ、手紙てがみといひ、我罪わがつみ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見て成程某のつれなりきやつ護摩灰ごまのはひならんによりたゞし呉れんと思ひし處とう/\今宵引捕ひつとらへたり一たい此奴こやつ某が連にはあらねども一昨日をとゝひ戸塚とつかざかひの燒持坂より連に成りたいとてつけきたりし者なるが生國しやうこくは近江の由なれど江戸へ商ひに出し歸りにて是より名古屋へまはり其後京大坂へ仕入しいれのぼるにより供を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一昨日をとゝひの晩あの人混みの中で、曲者が捨てた匕首の鞘なんか、橋の上に何時までも逗留とうりうしてゐるわけはないぢやありませんか。
てば甘露かんろといふけれどれなんぞは一日々々いちにち/\いやことばかりつてやがる、一昨日をとゝひ半次はんじやつ大喧嘩おほげんくわをやつて、おきやうさんばかりはひとめかけるやうなはらわたくさつたのではないと威張ゐばつたに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「えゝやうやくね、あなた。一昨日をとゝひばんかへりましてね。それでつい/\御返事ごへんじおくれちまつて、まことにみませんやうわけで」とつたが、返事へんじはうそれなりにして、はなしまた安之助やすのすけもどつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「それぢや、一昨日をとゝひの晩、店の者か、通ひの若い衆で、外へ泊つた者はないだらうか。ちよつと調べて貰ひたいが——」
めづらしやおたかさま今日けふ御入來おいで如何どういふかぜふきまはしか一昨日をとゝひのお稽古けいこにも其前そのまへもおかほつひにおせなさらずお師匠ししやうさまもみなさまも大抵たいていでないおあんがな一日いちにちうはさしてをりましたとうれしげに出迎でむか稽古けいこ朋輩ほうばい錦野にしきのはなばれて醫學士いがくしいもと博愛はくあい仁慈じんじきこえたかきあに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それぢや、これだけ聞かしてくれ、——一昨日をとゝひのあの時刻に、三千兩の結納が馬で來るのを知つて居たのは誰と誰だ」
「あつ、成程、こいつは參つた、——もう一つ、一昨日をとゝひの晩、お前達二人は、兩國橋へ花火を見に行つたんだつてね」
「旦那樣が夜中にお歸りになつたのは、先月の十日と二十三日と二十八日と、今月になつてから三日と七日、それから一昨日をとゝひの晩だけでございますよ」
「御用人樣、金太郎樣一昨日をとゝひの御召物に、何にかお氣付のことはございませんか——今お召しになつてゐるのではなく、その前のでございますが——」
一昨日をとゝひの晩夜中近い頃、母屋の此方こつち寄りの部屋——土藏に一番近いところに寢て居る主人が、變な物音がするやうだと言つて、寢卷の上に袢纒はんてんを引つかけて
一昨日をとゝひの晩、お孃さんが此家へ泊つたのは、叔母さんの望みだつたらしいが、あの時何んか打ち開けた話があつたに違ひない、それを打ち開けて下さいな」
「父さん、皆んな申上げた方が宜いでせう。どうせわかることだし、兄さんは一昨日をとゝひから居ないんだから」
外へ御出ししない事になつて居たのぢや。昨日も一昨日をとゝひも、その前の日も、若殿樣は表裏の門を一歩も外へ出られなかつたことは、我々首にけて誓言しても宜い
一昨日をとゝひの晩、自分の部屋から、雨戸をそつと開けて外へ出てゐる。奉公人達は皆んな知つて居るが、傳七郎は亥刻よつから先時々自分の部屋をあけることがあるさうだ。
「え、そ、さうですよ。何うして一昨日をとゝひなくなつた私の紙入れが、そんな所に落ちて居たんでせう」
「すると、この墓は早くて一昨日をとゝひはうむつたんだが、昨日の大夕立の後で、又掘り返して居ますぜ」
一昨日をとゝひ一と晩伊三郎の後を追つて死なうとして、繼母のおとりを手古摺らせたくらゐですから、その靜かで上品な外貌は、思ひの外なる熱烈な性格を包んでゐることは疑ひもありません。
一昨日をとゝひの夕方炭屋から持つて來た炭俵の中に隱してあつたんだから文句はありません。——その炭俵を音羽の長屋の者にやるとか何んとか言つて、自分で持出したは宜いが、中に千兩箱を
一昨日をとゝひの晩は、内儀の心盡しでねぎらひの酒が出て、島五六郎はほろ醉機嫌で宵のうちに指ヶ谷町の自宅に歸つたが、後には用人川前市助が殘つて、主人千本金之丞と共に、床の間に据ゑた品々を
一昨日をとゝひの大夕立の眞最中、往來には人つ子一人ゐず、家と言ふ家は、雨戸も窓も皆んな閉めきつてゐる時、自分の家の物干から屋根へ飛び降り、踊り舞臺の足場を渡つて、この路地へ飛び込み