調子ちょうし)” の例文
そのばんつきは、あかるかったのです。そして、地虫じむしは、さながら、はるおもわせるようにあわれっぽい調子ちょうしで、うたをうたっていました。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、いつも人をびあつめるこっけいな道化どうけたあいさつとは、まるっきりちがった調子ちょうしでした。見物人けんぶつにんたちはへんな気がしました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女房はそれから、お菊の髪をいはじめた。女も今は少し気が落ちついたらしく、おだやかな調子ちょうしで女房と話したり笑ったりした。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
利助りすけさんは、いままで調子ちょうしよくしゃべっていましたが、きゅうにだまってしまいました。そして、じぶんのほっぺたをつねっていました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
トッテンカン、トッテンカンと実に調子ちょうしよく木琴は鳴ります。三角帽さんかくぼうをかむり、道化役どうけやくの服を着た新吉は、そこで大きな声で歌います。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
これはかみなりがあんまり調子ちょうしって、くもの上をまわるひょうしに、あしみはずして、の上にちて、目をまわしたのでした。お百姓ひゃくしょう
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして冬撰鉱せんこうへ来ていたこの村のむすめのおみちと出来てからとうとうその一本調子ちょうしで親たちを納得なっとくさせておみちをもらってしまった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「きょうは、いつもよりへたじゃないか、オヤユビくん! 調子ちょうしがちっとも合ってないよ。きみの心はどこへいっちゃったの?」
アナトール・フランスは、また、世界で屈指くっし名文家めいぶんかです。文章は平明へいめい微妙びみょう調子ちょうしととのっていて、その上自然な重々しさをもっています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
酒場さかばのおやじが気のない調子ちょうしで言ったとたん、ばたばたと足音が近づき、ドアをさっとひらいて、あの浮浪者ふろうしゃのトーマスがとびこんできた。
見まわすまでもなく、広くもない座敷、片隅へ行ったお蓮様の口から、たちまち、調子ちょうしッぱずれのおどろきの叫びが逃げた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ある日、彼は祖父そふいえで、そりくりかえってはらをつきし、かかと調子ちょうしをとりながら、部屋へやの中をぐるぐるまわっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ひとこころこころって、いよいよ調子ちょうしづいたのであろう。茶代ちゃだいいらずのそのうえにどさくさまぎれの有難ありがたさは、たとえ指先ゆびさきへでもさわればさわどくかんがえての悪戯いたずらか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「おい、クマこう、いやにきげんのわるい顔をしてるじゃないか。いつもの陽気ようき調子ちょうしはどこへやっちゃった。」
蛾次郎がじろうは、卜斎ぼくさい顔色かおいろが、だんだんやわらいでくるのを見ると、あまッたれたような調子ちょうしでしゃべりだしてくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まあすべてがその調子ちょうしでした。震災しんさい以来いらい身体からだよわためもあったでしょうが蒐集癖しゅうしゅうへき大分だいぶうすらいだようです。
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
シューラはいつも不機嫌ふきげんな時によくするくせで、ちょっと顔をしかめながら、さもしゃくだというような調子ちょうし
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
れた、落附おちついた調子ちょうしでそうって、いたる妖精ようせいはつくづくとわたくしかおちまもるのでございました。
「わたしのうたう歌は、すこし調子ちょうしがちがっている。」と、マッチのそばにいた鉄なべがいいました。
やはり毎朝まいあさのようにこのあさ引立ひきたたず、しずんだ調子ちょうし横町よこちょう差掛さしかかると、おりからむこうより二人ふたり囚人しゅうじんと四にんじゅううて附添つきそうて兵卒へいそつとに、ぱったりと出会でっくわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
比田のいう事もやっぱり好い加減の範囲を脱し得ないうわ調子ちょうしのものには相違なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんだけが歌い、それにオルガンの調子ちょうしがあうまでにはだいぶ夜もふけた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
朝倉先生の言葉の調子ちょうしには、これまでになく力がこもっていた。次郎は、思わずまた荒田老の顔をのぞいた。荒田老は、しかし、その時には、もういつもの動かない木像の姿にかえっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
とても及ばぬ やさしい調子ちょうし
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
あまり、その調子ちょうしがくだけていて、自分じぶんたいする皮肉ひにくとはとれなかったので、おたけは、まえにいた女中じょちゅうのことだけに、ついつりこまれて
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はじめのうちは、調子ちょうしがそろわないので、ひとつところであばれているばかりでした。が、そのうちに、三人は同じ方へ水をけりました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その日にやけた年とったかおには、いつにない若々わかわかしい元気がうかんでいました。かれひたいあせをにじましながら、つよい調子ちょうしでいいました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それよりむこうのくだものの木の踊りのをごらんなさい。まん中にてきゃんきゃん調子ちょうしをとるのがあれが桜桃おうとうの木ですか。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この家へきたときからこのくらいか、あるいはいつごろから調子ちょうしがよくなったかとうのであった。安藤はしんの花前のともである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ばたきに調子ちょうしをあわせて、いつものように、「きみはどこだい? ぼくはここだよ! きみはどこだい? ぼくはここだよ!」
そこでいちばんおしまいに、中でもふんべつのありそうなあたまの白いねずみががりました。そしてちついた調子ちょうし
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そうして遠くからきこえて来る楽隊の音は、また何ともいえない、やわらかいしずかないい調子ちょうしとなってひびいて来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
もちろん、お祖父じいさんが伴奏ばんそうをつけたし、また歌の調子ちょうし和声ハーモニーを入れておいた。それから……(彼はせきをした)……それから、三拍子曲ミニュエット中間奏部トリオをそえた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
蛾次郎、ますますお調子ちょうしづいて、いまや、その身が竹童の般若丸はんにゃまるッ先に、まねきせられているとは知らずに、ノコノコとすぐうしろへまで近よっていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たった一人ひとり江戸えどうまれて江戸えどそだった吉次きちじが、ほか女形おやま尻目しりめにかけて、めきめきと売出うりだした調子ちょうしもよく、やがて二代目だいめ菊之丞きくのじょういでからは上上吉じょうじょうきち評判記ひょうばんき
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人間にんげん世界せかいは、主従しゅじゅう親子おやこ夫婦ふうふ兄弟きょうだい姉妹等しまいなど複雑こみいった関係かんけいで、いろとりどりの綾模様あやもようしてりますが、天狗てんぐ世界せかいはそれにきかえて、どんなにも一ぽん調子ちょうし
おれようのあるのがえんのか。いや過去かこおもしますまい。』とかれ調子ちょうしを一だんやさしくしてアンドレイ、エヒミチにむかってう。『さあきみたまえ、さあどうか。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
主人しゅじんは、あわれなほどきさけびました。けれども、主人が大きな声でさけべばさけぶほど、こんぼうはその泣き声に調子ちょうしをあわせて、ますます力をいれてなぐりつけるのです。
ふなのりがうたぐりぶかい調子ちょうしでいうと、わかいなかまは、不平ふへいそうにほおをふくらし
もしやと思って、あんに心配していた彼の掛念けねんの半分は、この一語いちごで吹き晴らされたと同じ事であった。夫人はいつもほど陽気ではなかった。その代りいつもほどうわ調子ちょうしでもなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可哀かわいそうなエチエンヌも、やっぱり自分のあし相応そうおうあるいているのです。調子ちょうしそろはずがありません。エチエンヌははしります。いきらします。声を出します。それでもおくれてしまいます。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
少しわきのほうには、讃美歌さんびか器用きようにこなす子供たちがならんでいて、そのなかの一人はいつもうたす前に、そっといろいろな声でうなるような真似まねをする——これをしょうして、調子ちょうしめるというのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ちょうどそのこえは、ぶなのがざわざわとからだすってうたうのに、調子ちょうしわせて、頓狂とんきょう拍子ひょうしでもるようにきかれたのでした。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほんとうにその返事へんじ謙遜けんそんもうけのような調子ちょうしでしたけれども私はまるで立ってもてもいられないように思いました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこで、ニールスは、この調子ちょうしでは、いつかはつかまえられるかもしれないぞ、と、だんだん心ぼそくなってきました。
いつかのように、この国でまれた人間ですからというような調子ちょうしに、人世上じんせいじょうのことになんらか考えてやしまいか。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さるはだんだん心配しんぱいになって、しきりにきたがります。くらげはよけいおもしろがって、しまいにはお調子ちょうしってさるをからかいはじめました。さるはあせって
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
まっさきの一寸法師から、最後の旗持ちまでは百五十メートルほどもあり、その長い行列は、楽隊がくたいき鳴らす行進曲こうしんきょくで、何ともいえない気持ちよい調子ちょうしにつつまれ
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
牧場まきばの中には、美しい調子ちょうしふえのようながまのなく声が聞えていた。蟋蟀こおろぎするどふるえ声は、星のきらめきにこたえてるかのようだった。かぜしずかにはんえだをそよがしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ひどく調子ちょうしが悪く、ときどき、ぐわッと大きくかみついて、とることもどうすることもできなくなってしまうようなしまつでしたので、ふたりは、家でかみをかることを
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)