覚悟かくご)” の例文
旧字:覺悟
ひとたびは、覚悟かくごしたものが、こうして毎日まいにち、おだやかなうみるうちに、どうかしてきたいという希望きぼうえたのでした。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宍戸備前守ししどびぜんのかみは、わずかに八人に守られて、もうにの覚悟かくごで戦っている。そこへ、かけつけたのは清兵衛せいべえで、大声にさけんだ。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
そしてその結論としての国民の覚悟かくごについて述べだしたが、もうそのころには、かれはかなり狂気きょうきじみた煽動せんどう演説家になっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
防者は皆打者の球は常に自己の前に落ちきたる者と覚悟かくごせざるべからず。基人ベースマンは常に自己に向って球を投げらるる者と覚悟せざるべからず。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
手綱たづなにそうとう要意ようい覚悟かくごをもてば、自分とて、こんなところをり落とすことができないではないが、帰る場合ばあいにどうしよう?
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが彼が帰化を決心し、日本の土となることを覚悟かくごした時、言い知れぬ寂しさとやるせなさが、心の底にうずつきせまるのを感じたであろう。
楢夫はもう覚悟かくごをきめて、向うの川を、もう一ぺん見ました。その辺に楢夫の家があるのです。そして楢夫は、もう下に落ちかかりました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
死ぬ覚悟かくごさえつけば、何の恐るるところもない。そこで三人は負傷している佐々記者をかついで、黄金の階段の方へ引返していったのだった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もはや諦めてすで覚悟かくごていであった昭青年が、この眼に出会って思わず心にき出た力がありました。それは自分だけの所罰しょばつなら何でもない。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
初めから覚悟かくごしてゐた事なので長吉ちやうきちは黙つて首をたれて、何かにつけてすぐに「親一人子一人」とあはれツぽい事を云出いひだす母親の意見を聞いてゐた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その晩、それを思い出すと、腹がたってたまらず、よし、おれでも、大人なみの遊びをするぞと、覚悟かくごをきめていた訳です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
よろしい、わたしいまじつもっにっちもさっちもかん輪索わな陥没はまってしまったのです。もう万事休矣おしまいです覚悟かくごはしています。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こう覚悟かくごをきめると、それからはもう為朝ためともはぴったりだまんだまま、しずかにてきせてくるのをっていました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
少々せう/\怪我けがぐらゐはする覚悟かくごで、幻覚げんかく錯視さくしかとみづかあやしむ、そのみづいろどりに、一だんと、えだにのびて乗出のりだすと、あま奇麗きれいさに、くらんだのであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こいつの云う事は一々しゃくさわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日夜警戒けいかいしてかれらの襲撃しゅうげきをふせぐのが上策じょうさくであるが、かれらは凶悪無慚きょうあくむざん無頼漢ぶらいかん七人で、諸君は数こそ多いが、少年である以上、苦戦は覚悟かくごせねばならぬ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ぐ目的で丁稚奉公に住み込んだ身の将来これを本職にしようという覚悟かくごも自信もあったのではなかったただ春琴に忠実である余り彼女の好むところのものを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
で、マア、その娘もおれの所へ来るという覚悟かくご、おれも行末はその女と同棲いっしょになろうというつもりだった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もともとぬる覚悟かくごったのでございますから、ということはわたくしにはなんでもないものでございましたが、ただ四辺あたりくらいのにはほとほとよわってしまいました。
老夫らうふいはく、人の心は物にふれてかはるもの也、はじめ熊にあひし時はもはや死地こゝでしす事と覚悟かくごをばきはめ命もをしくなかりしが、熊にたすけられてのちは次第しだいに命がをしくなり
覚悟かくごはすっかりできていたけれど、さてどういう行動に出たものか、それだけが心がかりだった。『どこへ行くのだ? 止れ! 白状しないと、殺しちまうぞ!』
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかるに脱走だっそうの兵、常に利あらずしていきおいようやせまり、また如何いかんともすべからざるに至りて、総督そうとくを始め一部分の人々は最早もはやこれまでなりと覚悟かくごを改めて敵の軍門にくだ
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ如来にょらいのはからいに任せて自然の解決を待つと、心を長くするの覚悟かくごが何よりたいせつと存じ候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
胸中すでに成竹ある千々岩は、さらに山木を語らいて、時々川島家に行きては、その模様を探らせ、かつは自己——千々岩はいたく悔悛かいしゅん覚悟かくごせる由をほのめかしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ついに覚悟かくごをして、あとは母親の熱意ねついで、小さな竹行李たけごうりと、風呂敷一つに衣類や毛布を包み込んだ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
そこで、覚悟かくごをきめて、強盗の仲間のような顔をして、強盗について行き、盗品をわけるところへ行って、強盗の顔を見定め住家もつきとめてやろうと云う気になった。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大病たいびやうでも自分で死ぬと覚悟かくごをし、医者いしや見放みはなした事も知つてり、御看病ごかんびやうは十分にとゞき、自分もう死ぬとあきらめがいてしまつても、とろ/\と病気びやうきづかれで寝附ねついた時に
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが、今度こんど仕事しごとばかりァそうじゃァねえ。この生人形いきにんぎょうさえ仕上しあげたら、たとえあすがへどをいてたおれても、けっして未練みれんはねえと、覚悟かくごをきめての真剣勝負しんけんしょうぶだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
不良だからつまらないことばかり研究している。温厚な正三君もこうなると自衛上やむをえない。覚悟かくごをきめて身がまえた。しかしその時、かねを鳴らしおわった小使いの関が
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
モンクスはいよいよ、覚悟かくごをきめたらしい。足踏あしぶみしながらすきをうかがっていたが、相手がいつまでも動かないので、思いきってだッと飛びみ、富田とみただんほおへものすごい横打スイング
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
われわれは最後の瞬間まで勇士としての覚悟かくごを失いますまい。勇士の子孫としてのほこりを。あなたはあまりに衰えました、わしたちがいかにあなたに信頼しているかを思ってください。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そしてそのため自分もやはりしかられるものと覚悟かくごしているらしく思われた。
手ぜまなのは、覚悟かくごのまえさ。越したところで、どうせ今度の家も広くはないよ。あるいは、ここよりも窮屈きゅうくつになるかもしれん。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼女かのじょが、手術しゅじゅつけることを覚悟かくごしたとったときに、彼女かのじょあんじた周囲しゅういひとたちは、それは、よく決心けっしんしたといって、よろこんだのでした。
世の中のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は覚悟かくごめて、安全硝子ガラスの貼ってある窓の傍に駈けつけた。そのとき下から、三等水兵が、真赤な顔をして上ってきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目をつぶって、覚悟かくごをしろ、逃げようとしても、それは無駄むだだぞ——と、おそろしい威迫いはくの目をもって、胴田貫どうたぬきの大刀を面前にふりかぶった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦地で、覚悟かくごを決めた月光も明るい晩のこと、ふっと、あなたへ手紙を書きましたが、やはり返事は来ませんでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
覚悟かくごのことで、あし相応さうおう達者たツしや、いやくつせずにすゝんだすゝんだ。すると、段々だん/″\またやま両方りやうはうからせまつてて、かたつかへさうなせまいことになつた、ぐにのぼり
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おれは生徒をあやまらせるか、辞職するか二つのうち一つに極めてるんだから、もし赤シャツが勝ちを制したら、早速うちへ帰って荷作りをする覚悟かくごでいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうち船はもうずんずん沈みますから、私はもうすっかり覚悟かくごしてこの人たち二人をいて、うかべるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを待っていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひめ最初さいしょからこころかた覚悟かくごしてられることとて、ただの一愚痴ぐちめきたことはおくちされず、それにおからだも、かぼそいながらいたって御丈夫おじょうぶであった
「いや、弟の罪は兄の罪だ、ぼくがはじめこの計画をたてたとき、ぼくはすでに、覚悟かくごしていたのだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
味方みかたのこらずにと覚悟かくごをきめたりしたこともありましたが、そのたびごとにいつも義家よしいえが、不思議ふしぎ智恵ちえ勇気ゆうきと、それから神様かみさまのような弓矢ゆみやわざてき退しりぞけて
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
チイッと覚悟かくごをし直してこれからの世をわたって行きゃあ、二度とてめえに銭金の苦労はさせねえ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
受けよう怒罵どば打擲ちょうちゃくも辞する所にあらずという覚悟かくごの上で来たのであったがそれでも長くしのんだ者は少く大抵は辛抱しんぼう出来ずにしまった素人しろうとなどはひと月と続かなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
糟谷かすやころすの一ごんを耳にして思わず手をゆるめる。芳輔よしすけは殺せ殺せとさけんで転倒てんとうしながらも、しんに殺さんと覚悟かくごした母の血相けっそうを見ては、たちまち色をえてげだしてしまった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ことに啓吉は、その女が死後の嗜みとして、男用の股引ももひき穿いているのを見た時に悲劇の第五幕目を見たような、深い感銘かんめいを受けずにはいなかった。それは明かに覚悟かくごの自殺であった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あなた方は、わたしを取巻いて、わたしの一言一句を重んじて、わたしの足もとで死ぬ覚悟かくごでいらっしゃる。つまりわたしは、あなた方の生死を、わたしの手ににぎっているわけです。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
『そのようなあわれな話、して下さるな。そのようなこと、決してないのです』と夫人が言うに対しても、『心からの話、真面目まじめのことです』と言い、『仕方ない!』と死を覚悟かくごしていた。
もらつたが、橋本先生はしもとせんせいいたゞいてもむづかしいとはれた、さういふ御名医方ごめいゝがた見放みはなすくらゐの病気びやうきだから、ぼく覚悟かくごをしてたけれども、少し横になつてうと/\られると思つたら
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)