うつくし)” の例文
英吉君、あたうべくは、我意を体して、よりうつくしく、より清き、第二の家庭を建設せよ。人生意気を感ぜずや——云々の意をしたためてあった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我等は天地萬物をうつくしうする神の微妙の御働みはたらきを見、諸天の影響を下界に及ぼしこれを導いて向上せしめ給ふ神の善き攝理を認む
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
始終のうきやつれたる宮は決してうつくしき色を減ぜざりしよ。彼がその美しさを変へざる限は夫の愛はくべきにあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少年の父も唸るような吐息を洩しながら眺めていると、舞台の上の色や形はさまざまのうつくしい錦絵をひろげてゆく。
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
われは彼女主人のうつくしかりしをおもひ出で、又彼海神ポセイドンほとりなる瞽女ごぜの美しかりしをおもひ出でしが、その背後には心と身と皆美しかりしアヌンチヤタありて
ゆゑに縐布しゞみぬのといひたるを、はぶきてちゞみとのみいひつらん。かくてとしるほどに猶たくみになりて、地をうつくしくせんとて今のごとくちゞみは名のみにのこりしならん。
うつやすうつくしさを、うつさずに据ゑて置く手段が、もう尽きたと画家から注意された様にきこえたからである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
学円 何が今まで我慢が出来よう、鐘堂つりがねどうも知らない前に、このうつくしい水を見ると、逆蜻蛉さかとんぼで口をつけて、手で引掴ひッつかんでがぶがぶと。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
い、好い、全く好い! 馬士まごにも衣裳いしようふけれど、うつくしいのは衣裳には及ばんね。物それみづからが美いのだもの、着物などはどうでもい、実は何も着てをらんでも可い」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さそくに後をひしと閉め、立花はたなそこに据えて、ひとみを寄せると、軽くひねった懐紙ふところがみ二隅ふたすみへはたりと解けて、三ツうつくしく包んだのは、菓子である。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
「それぢやお連様がいらしつて見て、お年寄か、お友達ならよろしう御座いますけれど、もしも、ねえ、貴方あなた、おうつくしい方か何かだつた日には、それこそ旦那は大変で御座いますね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
素顔に口紅でうつくしいから、その色にまがうけれども、可愛いは、唇が鳴るのではない。おつたは、皓歯しらは酸漿ほおずきを含んでいる。……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ、あのやなぎに、うつくしにじわたる、とると、薄靄うすもやに、なかわかれて、みつつにれて、友染いうぜんに、鹿しぼり菖蒲あやめけた、派手はですゞしいよそほひをんなが三にん
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その英吉が、金のしょう、お妙が、土性であることは、あらかじめお蔦がうつくしい指の節から、寅卯戌亥とらういぬいと繰出したものである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月の光が行通れば、晃々きらきらもすそが揺れて、両の足の爪先つまさきに、うつくしあやが立ち、月が小波ささなみを渡るように、なめらかに襞襀ひだを打った。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はだおほうたともえないで、うつくしをんなかほがはらはらと黒髮くろかみを、矢張やつぱり、おなきぬまくらにひつたりとけて、此方こちらむきにすこ仰向あをむけにつてます。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何しろ、うつくしい像だけは事実で。——俗間で、みだりに扱うべきでないと、もっともな分別です。すぐに近間ちかまの山寺へ——浜方一同から預ける事にしました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅くて一面だから、見た処は沼の真中まんなかへ立った姿で、何だか幻の中をく、天の川でも渡るようで、その時ふとまたうつくしい色が、薄濁った水に映った——
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅茸べにたけと言うだあね、薄紅うすあこうて、白うて、うつくしい綺麗な婦人おんなよ。あれ、知らっしゃんねえがな、この位な事をや。」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある晩、腕車くるまでお乗込み、天上ぬけにうつくしい、と評判ばかりで、私等わしらついぞお姿も見ませなんだが、下男下女どもにも口留めして、かくさしったも道理じゃよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅客は娘に引添うて、横から胸を抱くように、うつくしい手袋で、白い前掛を払いながら、親身のいもとに語るごとく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただくがは貴い。けれども、我が海は、この水は、一うねりの波を起して、その陸を浸す事が出来るんだ。ただ貴く、うつくしいものはほろびない。……中にも貴女は美しい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程なるほど近々ちか/″\ると、しろちひさなはなの、うつすりと色着いろづいたのがひとひとツ、うつくし乳首ちゝくびのやうなかたちえた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにね、いまから、二三ねんうだねえ、れこれ四ねんにはるづらか。東京とうきやうからなさつたな、そりや、うも容子やうすたら、容色きりやうたら、そりやうもうつくしわか奥様おくさまがな。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はあ、はあ、旦那様も夫人おくさまも御存じ。あの鳩のようなうつくしい目をした、さよう。手前などへも、手のります時は、ちょいちょいお給仕の手伝いに参りますが、腕白でな。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「嘘をくもんでェねえ。なにうつくしい水があんべい。井戸の水は真蒼まっさおで、小川の水は白濁りだ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それをこうながめた時、いつもとろとろと、眠りかけの、あの草の上、樹の下に、うつくしい色の水を見る、描いたるごとき夢幻ゆめうつつの境、前世か、後世か、ある処の一面の絵の景色が
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝手かつて木像もくざうきざまばきざめ、天晴あつぱ出来でかしたとおもふなら、自分じぶんそれ女房にようぼうのかはりにして、断念あきらめるが分別ふんべつ為処しどころだ。見事みごとだ、うつくしいと敵手あひてゆるは、其方そつち無理むりぢや、わかつたか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うつくしをんな木像もくざうまた遣直やりなほすだね。えゝ、お前様めえさま対手あひて七六しちむづヶしいだけに張合はりえゝがある……案山子かゝしぢやんねえ。素袍すはうでもてあひたま輿こしつて、へい、おむかへ、と下座げざするのをつくらつせえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにか、うつくし魔法まはふで、みづませてしたがへさへ出来できさうに、銀鍋ぎんなべなんとなくバスケツトのうちひかりを、友染いうぜんのつゝみにうけて、そで月影つきかげうつすかとおもふ、それも、おもへばしめやかであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この路をあとへ取って返して、今へびったという、その二階屋にかいやかどを曲ると、左の方にの高い麦畠むぎばたけが、なぞえに低くなって、一面にさっと拡がる、浅緑あさみどりうつくし白波しらなみうっすりとなびなぎさのあたり
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
粧飾めかす時に、うっすらと裸体に巻く宝もののうつくし衣服きものだよ。これは……
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちゝところ巡廻じゆんくわいしたせつ何処どこ山蔭やまかげちひさなだうに、うつくし二十はたちばかりのをんなの、めづらしい彫像てうざうつたのを、わたくし玩弄おもちやにさせうと、堂守だうもり金子かねつて、とものものにたせてかへつたのを、ほか姉妹きやうだいもなし
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
公子 いや、住居すまいをしている。色彩は皆活きて動く。けれども、人は知らないのだ。人は見ないのだ。見ても見ないふりをしているんだから、決して人間のすべてを貴いとは言わない、うつくしいとは言わない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やさしくうつくしく書いたのがあった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)