滑稽こつけい)” の例文
紋服を着た西洋人は滑稽こつけいに見えるものである。或は滑稽に見える余り、西洋人自身の男振をとこぶりなどは滅多めつたに問題にならないものである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
滑稽こつけいなのは、日本にほん麻雀道マージヤンだうのメツカのしようある鎌倉かまくらではだれでもおくさんが懷姙くわいにんすると、その檀那樣だんなさまがきつと大當おほあたりをするとふ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
カンテラのひかりためかへつ眼界がんかいせばめられた商人あきんど木陰こかげやみかられば滑稽こつけいほどえずしかめつゝそとやみすかしてさわがしい群集ぐんしふる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
年季職人ねんきしよくにんたいを組みて喧鬨けうがうめに蟻集ぎしうするに過ぎずとか申せば、多分たぶんかくごと壮快さうくわいなる滑稽こつけいまたと見るあたはざるべしと小生せうせい存候ぞんじそろ(一七日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
わたくしは前に壽阿彌の托鉢たくはつの事を書いた。そこには一たび假名垣魯文かながきろぶんのタンペラマンを經由して寫された壽阿彌の滑稽こつけいの一面のみが現れてゐた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
若旦那わかだんなつてい」と宗助そうすけ小六ころくつた。小六ころく苦笑にがわらひしてつた。夫婦ふうふ若旦那わかだんな小六ころくかむらせること大變たいへん滑稽こつけいのやうにかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
には、滑稽こつけいがあるけれども、西鶴ものには無限の哀韻があり、雷鳴を機縁とした人生の悲劇を描写してゐるのも、西鶴の地金の一面であつただらう。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この擬ひアストラカンの冬帽子をかぶつた男が、うまくもない珈琲を、むつかしさうな顔をしてめてゐるのは多少誰にでも滑稽こつけいなものかも知れないと思つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
これは熊が人をおそふときの癖をよくのみこんで、アイヌが発明した滑稽こつけいなやうで、大胆不敵な狩猟法です。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
此人そつはなるゆゑみづか双坡楼そつはろう家号いへなす、その滑稽こつけい此一をもつて知るべし。飄逸へういつ洒落しやらくにしてよく人にあいせらる、家の前後にさかありとぞ、双坡そつはくだて妙なり。
ところが、その言ひ方が妙に哀れつぽくて殊更ことさららしく滑稽こつけいだつたので、みんなが一斉にどつと笑ひ出した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
松藏の怒りは際限もなく發展しますが、それが少しばかり滑稽こつけいに、そして物哀れにさへ見えるのでした。
Aさんの取りなしで、自分の惹き起した事柄がうまく滑稽こつけいな出来事に変へてもらへたのが楽しかつた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
この観察は勿論滑稽こつけいなところがあるが、絶えず飽和してゐる気圧の中に住つてゐる住民の心理は、乾燥した空気の中にゐる住民よりも、忍耐心の強くなる事は事実である。
琵琶湖 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
きしうへあつまつた一たいは、それこそ滑稽こつけい觀物みものでした——とり諸羽もろは泥塗どろまみれに、動物けもの毛皮もうひ毛皮もうひ膠着くツつかんばかりに全濡びしよぬれになり、しづくがたら/\ちるのでからだよこひねつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いづれも五分十分にて中止を命ぜられしなりと云ふ、ことに最も滑稽こつけいなりしは、菱川が登壇開口、「戦争で第一に金儲かねまうけするのは誰だか、諸君、知つてますか」の一語いまだ終らざるに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たとへば六觀音くわんのん元々もと/\大化物おほばけものである、しかその澤山たくさんかた工夫くふうによつて、その工合ぐあひ可笑おかしくなく、かへつてたうとえる。けつして滑稽こつけいえるやうな下手へたなことはしない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
するとね、これから滑稽こつけいがあるんだが……その女房かみさんの、これをかたときいはくさ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くりはなからして提灯ちやうちんをぶらさげたやうに滑稽こつけいでしたし、どうかするとあを栗虫くりむしなぞをおとしてよこして、ひとをびつくりさせることのきなでしたが、でもとうさんのきなでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
望生ぼうせいとは徒歩とほである。幻花げんくわ佛骨ぶつこつ自轉車じてんしやである。自轉車じてんしやの二よりも、徒歩とほ余等よらはうきへゆきいたなどは滑稽こつけいである。如何いかに二がよたくりまはつたかを想像さうぞうするにる。
ところが大概たいがいの男は此の無能力者に蹂躙じうりんされ苦しめられてゐる………こりやむしろ宇宙間に最も滑稽こつけいな現象とはなければならんのだが、男が若い血のさわぐ時代には、本能の要求で女に引付けられる。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こんなに滑稽こつけいな偶然と見える必然が世界にある。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あゝ、滑稽こつけいなこつた滑稽なこつた。
当時の日夏君の八畳の座敷は御同様借家しやくやに住んでゐた為、すつかり障子しやうじをしめ切つたあとでも、とこの壁から陣々の風の吹きこんで来たのは滑稽こつけいである。
「仮面」の人々 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「まあたすかつた」とづかしつた。そのうれしくもかなしくもない樣子やうすが、御米およねにはてんからちた滑稽こつけいえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此人そつはなるゆゑみづか双坡楼そつはろう家号いへなす、その滑稽こつけい此一をもつて知るべし。飄逸へういつ洒落しやらくにしてよく人にあいせらる、家の前後にさかありとぞ、双坡そつはくだて妙なり。
近頃は庭に張りめぐらした鳴子やわなは取拂ひましたが、戸締りの嚴重さと、奉公人の腕つ節の強さは、留吉が傳馬町の大牢と形容したのが、全く適切過ぎて滑稽こつけいな位でした。
覚束おぼつかない、極めて不調法の手附きで、しかも滑稽こつけいほど真面目まじめな顔附をしてカチヤン/\と使ひつけないナイフを動かしてゐると、どうしたはずみにか余計な力がその手に這入はひつて
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
勘次かんじいへには突然とつぜんどう驚愕きやうがくせしめた事件じけんおこつた。それはこともなくんでさうしてあまりに滑稽こつけい分子ぶんしまじへてた。與吉よきち夕方ゆふがたかみつゝんだ食鹽しよくえんひとぬすんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此書これ有名いうめいなレウィス、キァロルとひとふでつた『アリス、アドヴェンチュアス、イン、ワンダーランド』をやくしたものです。邪氣あどけなき一少女せうぢよ夢物語ゆめものがたり滑稽こつけいうちおのづか教訓けうくんあり。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「ヤ、相手が珍報社の丸井隠居ぢや、これこそ天然てんねん滑稽こつけいぢや」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
滑稽こつけいだぞ
玩具の賦:昇平に (新字旧仮名) / 中原中也(著)
けれどもおやからつたはつた抱一はういつ屏風びやうぶ一方いつぱういて、片方かたはうあたらしいくつおよあたらしい銘仙めいせんならべてかんがへてると、このふたつを交換かうくわんすること如何いかにも突飛とつぴかつ滑稽こつけいであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
グリフォンはすわみ、兩眼りやうがんこすつて、えなくなるまで女王樣ぢよわうさま見戍みまもり、それから得意とくいげに微笑ほゝゑみました。『なん滑稽こつけいな!』とグリフォンは、なか自分じぶんに、なかあいちやんにひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
他人の頭蓋骨に感激したゲエテは勿論滑稽こつけいに見えるであらう。しかしその頭蓋骨がなかつたとしたらば、ゲエテ詩集は少くとも「シルレル」の一篇を欠いてゐたのである。(十一月二十日)
続澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あはれにも滑稽こつけいなことでした。
この理想主義を理解せざる世間は藤岡をもくして辣腕家らつわんかす。滑稽こつけいを通り越して気の毒なり。天下の人はなんと言ふとも、藤岡は断じて辣腕家らつわんかにあらず。だまかし易く、欺かされ易き正直一図いちづの学者なり。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)