みょう)” の例文
見慣みなれない小鳥ことりみょうふしまってうたをうたっていました。むすめは、いままでこんな不思議ふしぎうたをきいたことがありません。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
聞えないかい?……時々、あちこちから、かさかさ、かさかさってみょうな音が、まるで神秘な息づかいのように聞えて来るんだ。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
うしたときにはまたみょう不思議ふしぎ現象ことかさなるものとえまして、わたくし姿すがたがそのみぎ漁師りょうしつま夢枕ゆめまくらったのだそうでございます。
「うそでしょう。……おやおや、みょうとうがある。それからまんじゅうみたいなものが、あちこちにありますね。あれは何ですか」
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うんと云ったが、うんだけでは気が済まなかったから、この学校の生徒は分らずやだなと云ってやった。山嵐はみょうな顔をしていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
助手格の貝原が平気な顔で見張船の用意に出かけたりする働き振りにみょう抵抗ていこうするような気持が出て、不自然なほど快活になった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
村長むらおさの話をきけば、数日前に、このうちへとまって飄然ひょうぜんったというみょうな老人というのこそ、どうやら果心居士であるような気がする。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくみょうな顔をして、それに聞入っていた後、彼は、何だか彼の言葉の意味がわかるような気がする、と、傍の者に言った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「ああ、おゆるしがでないとあたしたちもいただけやしないからね。それに、」と、女中はみょうな顔をして笑いながらいいました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
その僧侶はただちに退寺を命ぜられるのに、とにかくこういう場合に限り、二度取っても三度取っても擲ぐられる位の事にて済むのはみょうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そのころ、僕たち郊外こうがいの墓場の裏に居を定めていたので、初めの程は二人共みょう森閑しんかんとした気持ちになって、よく幽霊ゆうれいゆめか何かを見たものだ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「パーヴェル・パーヴロヴィチ、本當にどうしていらっしゃらないのよ。あなたこそ驚くに堪えたるみょうなかたじゃなくて!」
それともまた、その裏の林のなかで山鳩やまばとでもいたのだろうか? ともかくも、その得体えたいの知れぬアクセントだけがみょうに私の耳にこびりついた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あなたはまだ、あたしという女を御存じないけれど、あたし、とってもみょうな女なのよ。あたしはね、いつも本当のことだけ言ってもらいたいの。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おばあさんは、きっとあのリスはみょうに気が立っているにちがいない、光が強いために眠れないんだろう、と、思いました。
けれども緒方の書生は原書の写本に慣れてみょうを得て居るから、一人ひとりが原書を読むと一人はこれを耳にきいて写すことが出末る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
がさめてのちきさきは、のどの中になにかたくしこるような、たまでもくくんでいるような、みょうなお気持きもちでしたが、やがてお身重みおもにおなりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
老と病とは人生にみつかれた卑怯者を徐々に死の門に至らしめる平坦なる道であろう。天地自然の理法はすこぶるみょうである。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
乳母のおはまには、郷里では久しく文通をおこたっていたが、いざ上京というときになって、ふと彼女かのじょのことを思いおこし、みょうに感傷的な気分になった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
奥の壁つきには六字名号みょうごうふくをかけ、御燈明おとうみょうの光ちら/\、真鍮しんちゅう金具かなぐがほのかに光って居る。みょうむねせまって来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さてあさになって、ゆうべはいってみょう訪問者ほうもんしゃはすぐ猫達ねこたちつけられてしまいました。ねこはごろごろのどらし、牝鶏めんどりはクックッきたてはじめました。
今はむかし、もうずっとの昔のことですが、北海道にコロボックンクルという、みょうな神様が住んでおられました。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
二十七日正午、ふね岩内を発し、午後五時寿都すっつという港に着きぬ。此地ここはこのあたりにての泊舟はくしゅうの地なれど、地形みょうならず、市街も物淋ものさびしく見ゆ。また夜泊やはくす。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『運が好かつたんですよ。』と鸚鵡おうむがへしに答へながら、主人はすこし真面目になつた。『それがねえ、旦那。なんだかみょうなんですよ。まあ、お聴きください。 ...
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
柘榴口ざくろぐちからながしへ春重はるしげ様子ようすには、いつもとおりの、みょうねばりッからみついていて、傘屋かさや金蔵きんぞう心持こころもちを、ぞッとするほどくらくさせずにはおかなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
掛引かけひきみょうを得たるものなれども、政府にてはかかるたくらみと知るや知らずや、財政窮迫きゅうはく折柄おりから、この申出もうしいでに逢うてあたかわたりにふねおもいをなし、ただちにこれを承諾しょうだくしたるに
病院びょういんです、もううから貴方あなたにもいただきたいとおもっていましたのですが……みょう病人びょうにんなのです。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちょうの目からも、余りふわふわして見えたでござろう。小松の中をふらつく自分も、何んだかその、肩から上ばかりに、すそも足もなくなった心地、日中ひなかみょう蝙蝠こうもりじゃて。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文句は薩張さっぱり分らぬが、如何にも深い思いがあるらしく、誰かをさして訴うるらしく、銀の様な声をあげては延ばし、延ばしては収め、誰教うるともない節奏せっそう自然しぜんみょうって
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
大小二人の変物が、みょうちきりんな生活をこの家に送っている……蒲生泰軒とチョビ安兄哥あにいと。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのラッカアりの船腹が、仄暗ほのぐらい電燈に、丸味をおび、つやつやしく光っているのも、みょうに心ぼそい感じで、ベランダに出ました。遥か、浅草あさくさ装飾燈そうしょくとうが赤くかがやいています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
最初にひと水の中に漬かっている赤い手を見た時から、みょうにその娘が気に入ったんだ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二日そうしてち、午頃ひるごろ、ごおッーとみょうな音がして来た途端に、はげしくれ出した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
心附こころづけたが、その婦人はさもそのへんのことは承知のごとく、みょうな顔をして
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし何となく陰気に薄暗うすぐらくじめじめして、みょうに気味の悪いいやな感じがしたので、夫人が直覚的に反対したにもかかわらず、ヘルンは一見して大いに気に入り、『面白いの家』『面白いの家』と
同時に後ろの方で照常てるつね様の英語訳解が読みのところをみょうにせきこんだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
みょうな事をするな——と思って、赤とんぼはその指先を見ていました。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
芭蕉は間もなくいくつかの森を形取って植えられ、彼はその下をくぐりぬけ生々しい緑を見上げたが、その緑がペンキのようになま新しくて、みょうに落ちつきがなくそわそわしたものばかりであった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「だけどね、私、みょうな夢を見ちゃったの」
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
独りみょうくまなく八方を見廻しぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
おおせまでもなく、に応じ、変にのぞんで、昌仙しょうせん軍配ぐんばいみょうをごらんにいれますゆえ、かならずごしんぱいにはおよびませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、学校がっこうのお習字しゅうじは、どうしても右手みぎてでなくてはいけませんので、お習字しゅうじのときはみょうつきをして、ふでちました。
左ぎっちょの正ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何と何だって、たしかにあるんだよ。第一爪をはがすのみと、鑿をたたつちと、それから爪をけずる小刀と、爪をえぐみょうなものと、それから……」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その後間もなくシャクはみょう譫言うわごとをいうようになった。何がこの男にのり移って奇怪きかいな言葉を吐かせるのか、初め近処の人々にはわからなかった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
みょうなところから、地下をて送りこまれたのだ。これも時計屋敷の最初の主人公ヤリウスの秘密の設計なのであろうか。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宗十郎夫婦はその前は荻江節おぎえぶし流行はやらない師匠ししょうだった。何しろ始めは生きものをいじるということがみょうおそろしくって、と宗十郎は正直に白状した。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かくに幕府が最後の死力を張らずしてその政府をきたるは時勢に応じて手際てぎわなりとて、みょうに説をすものあれども、一場いちじょう遁辞とんじ口実こうじつたるに過ぎず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それに四辺あたりみょう薄暗うすくらくて滅入めいるようで、だれしもあんな境遇きょうぐうかれたら、おそらくあまりほがらかな気分きぶんにはなれそうもないかとかんがえられるのでございます。
ちょっとほのめかしてみたことがあるにはあるんですが、……何だかみょう工合ぐあいになってしまいましてねえ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
いつも自分で行李こうりめていた一人の時の味気あじけなさが思い出されてきて、「とにかく二人で長くやって行きたい」とこんなところで、——みょうにあまくなってゆく。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)