同一おなじ)” の例文
ひげある者、腕車くるまを走らす者、外套がいとうを着たものなどを、同一おなじ世に住むとは思わず、同胞はらからであることなどは忘れてしまって、憂きことを
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに、同一おなじ家柄の郷士に、五味左衛門という者があり、忠右衛門と不和であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この事実は、翌早朝、金杉の方から裏へ廻って、寮の木戸へつけて、同一おなじ枕に死骸を引取って行った馬車と共によく秘密が守られた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思いのほか、声だけは確であったが、悪寒がするか、いじけた小児こどもがいやいやをすると同一おなじすくめた首を破れた寝ン寝子の襟にこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
びらの帷子かたびらに引手のごとき漆紋の着いたるに、白き襟をかさね、同一おなじ色の無地のはかま、折目高に穿いたのが、襖一杯にぬっくと立った。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人は我が身体からだの一部分を、何年にも見ないで済ます場合が多いから……姿見に向わなければ、顔にも逢わないと同一おなじかも知れぬ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひと身體からだ一部分いちぶぶんを、何年なんねんにもないでます場合ばあひおほいから……姿見すがたみむかはなければ、かほにもはないと同一おなじかもれぬ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またそれはへいとふべし、然れどもこれを花片はなびらの場合と仮定せよ「木の下はしるなますも桜かな」食物を犯すは同一おなじきも美なるがゆゑに春興たり。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小親と同一おなじ楽屋に居て、その顔見つつありては、われ余りに偏して、ただものに驚かせたまいしよと思い棄つるようになりがちなればぞ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大跨おおまたに下りて、帽を脱し、はたと夫人の爪尖つまさきひざまずいて、片手を額に加えたが、無言のまま身を起して、同一おなじ窓に歩行あゆみ寄った。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっと顔を見ると、明の、まなじりの切れた睫毛まつげの濃い、目の上に、キラキラとした清い玉は、同一おなじ雨垂れに濡れたか、あらず。……
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同一おなじ早饒舌はやしゃべりの中に、茶釜雨合羽ちゃがまあまがっぱと言うのがある。トあたかもこの溝の左角ひだりかどが、合羽屋かっぱや、は面白い。……まだこの時も、渋紙しぶかみ暖簾のれんかかった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同一おなじ色なのが、何となく、戸棚のおおいに、ふわりと中だるみがしつつも続いて、峠の雪路ゆきみちのように、天井裏まで見上げさせる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくしてくにも、なんなかも、どんなはこ安心あんしんならず……じやうをさせば、此處こゝ大事だいじしまつてあると吹聽ふいちやうするも同一おなじります。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まことに、つみな、まないことぢやあるけれども、同一おなじ病人びやうにんまくらならべてふせつてると、どちらかにかちまけがあるとのはなしかべ一重ひとへでも、おんなじまくら
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
隣家となりと、お稲ちゃんとこと、同一おなじのは、そりゃいけれど、まあ、飛んでもない事……その法学士さんのうちが、一つ髪結さんだったんでしょう。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
靄がれれば、ここと向い合った同一おなじような崖下でありますけれども、途中が海で切れとるですから、浜づたいに人の来る処ではありません。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし、仏の像の前で、その言行を録した経を読むと同一おなじです。ここでお夏さんの話をするのは。まあ、お聞きなさい。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襦袢はわざと、膚馴はだなれたけれど、同一おなじその段鹿子を、別に一組、縞物しまものだったがついに揃えて、それは小女こおんなが定紋の藤の葉の風呂敷で届けて来た。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人気もおだやかなり、積んだものを見たばかりで、鶴谷様御用、と札の建ったも同一おなじじゃで、誰も手のはござりませぬで。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「蔦吉さんが、どんなになんしたって、私が知らない顔をしていればかったのですけれど、思う事は誰も同一おなじだと、私、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろからわめくと、間近に、(何。)とか云う鮨屋すしやの露地口。いたちのようにちょろりと出た同一おなじ腕白。下心あって、用意の為に引込んでいたらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一個ひとり洋服の扮装いでたちにて煙突帽をいただきたる蓄髯ちくぜんおとこ前衛して、中に三人の婦人を囲みて、あとよりもまた同一おなじ様なる漢来れり。渠らは貴族の御者なりし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ごうとなったのが、ちょうど九時半、ちとすぎ、かれこれ十時とも申しまして、この山の取着とッつきから海岸まで、五百に近い家が、不思議に同一おなじ時刻。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麹町こうじまちの人だがね、同一おなじその安政年度に、十五人の家内でたった一人寄席へ行っていて助かったものがありますわい。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日も同一おなじ電車に乗らないように、招魂社の中にしばらく居たら、男の書生さんがそばへ来て附着くッついて歩行あるくんですもの。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うそおもふなら、退屈たいくつせずに四日よつか五日いつかわし小屋こや対向さしむかひにすはつてござれ、ごし/\こつ/\と打敲ぶつたゝいて、同一おなじふねを、ぬしまへこさへてせるだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふりおのと、一ちょう剃刀かみそり、得物こそ違え、気象は同一おなじ、黒旋風紋床の愛吉。きちがいみずは過している、懐にはふてている。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空は同一おなじほど長方形に屋根を抜いてあるので、雨も雪も降込ふりこむし、水がたまつてれて居るのに、以前女髪結おんなかみゆいが住んで居て、取散とりちらかした元結もっといつたといふ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何のお前様、見たばかりじゃ、訳はござりませぬ、水になったのは向うのあの藪までで、後はやっぱりこれと同一おなじ道筋で山までは荷車が並んで通るでがす。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後で、常さんと語合かたりあうと……二人の見たのは、しかもそれが、錦絵をはんに合わせたように同一おなじかったのである。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山路やまじは一日がかりと覚悟をして、今度来るにはふもとで一泊したですが、昨日きのう丁度ちょうどぜんの時と同一おなじ時刻、正午ひる頃です。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめから、かたちひ、毛色けいろひ、あまつさそれが、井戸川ゐどがははし欄干らんかんで、顏洗かほあらひをつてねこ同一おなじことで、つゞいては、おはる可愛かはいがつたくろにもる。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あとで、つねさんと語合かたりあふと……二人ふたりたのは、しかもそれが、錦繪にしきゑはんはせたやうに同一おなじかつたのである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
衣服もわざと同一おなじなりで、お縫が附添い、身を投げたのはここからという蓬莱橋から、記念かたみの浴衣を供養した。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何もそう幽霊に親類があるように落着いていてくれるこたあねえ、これが同一おなじでも、おばさんに雪責にされて死んだとでもいう脆弱かよわ遊女おいらんのなら、五助も男だ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、芥のにおいでもすることか、海松布みるの香でもすることか、船へからんで散ったのは、自分と同一おなじ鬢水びんみずの……
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何処いずこ同一おなじ、雪国の薄暗い屋造やづくりであるのに、ひさしを長く出した奥深く、すすけた柱に一枚懸けたのが、薬の看板で、雨にも風にもさらされた上、古び切つて、虫ばんで
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私の領分に入った女の顔は、白い玉が月の光に包まれたと同一おなじに、いよいよ清い。眉は美しく、瞳は澄み、唇の紅はえて、いささかもやつれない。憂えておらん。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いえなん貴僧あなた。おまいさん後程のちほどわたし一所いつしよにおべなさればいゝのに。こまつたひとでございますよ。)とそらさぬ愛想あいさう手早てばや同一おなじやうなぜんこしらえてならべてした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ともの優しい、客は年の頃二十八九、眉目秀麗びもくしゅうれい瀟洒しょうしゃ風采ふうさいねずの背広に、同一おなじ色の濃い外套がいとうをひしとまとうて、茶の中折なかおれを真深う、顔をつつましげに、脱がずにいた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こと炬燵こたつ出来できたからわたしそのまゝうれしくはいつた。寐床ねどこう一くみ同一おなじ炬燵こたついてあつたが、旅僧たびそうこれにはきたらず、よこまくらならべて、のない臥床ねどこた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
後で伝え聞くと、同一おなじ時、同一おなじ所から、その法学士の新夫人の、行方の知れなくなったのは事実とか。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは化かすという意味ではない、油揚あぶらげにも関係しない、芸妓が拝むというでもないが、つい近所の明治座最寄もよりに、同一おなじ名の紋三郎というお稲荷様があるからである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしい、しんとした中に手拍子てびょうしそろって、コツコツコツコツと、鉄槌かなづちの音のするのは、この小屋に並んだ、一棟ひとむね同一おなじ材木納屋なやの中で、三個さんこの石屋が、石をるのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしい、しんとしたなか手拍子てびやうしそろつて、コツ/\コツ/\と、鐵槌かなづちおとのするのは、この小屋こやならんだ、一棟ひとむね同一おなじ材木納屋ざいもくなやなかで、三石屋いしやが、いしるのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……ひと為業しわざなら、同一おなじさぎぐにして、ふねひかりはなつて、ふわ/\くもなか飛行ひぎやうするだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やっぱり、はあ、真白まっしろはだ薄紅うすべにのさした紅茸だあね。おなじものでも位が違うだ。人間に、神主様も飴屋もあると同一おなじでな。……従七位様は何も知らっしゃらねえ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その声は見越入道が絶句した時、——紅蓮ぐれん大紅蓮とつけて教えた、目に見えぬものと同一おなじであった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、手帳がある、それから鉛筆、これはね、お前の胸にかけたものと、同一おなじ紫の色なんだから。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)