かむ)” の例文
かはつてかへつてたのはくま膏薬かうやく伝次郎でんじらう、やちぐさんだかさかむたぬき毛皮けがはそでなしをて、糧切まぎりふぢづるでさや出来できてゐる。
武蔵自筆のものにも、二天藤原玄信にてんふじわらもとのぶとあるとおり、彼自身も藤原氏をかむせていたが、この墓石の紋は、菅家紋かんけもんといわれる梅鉢であった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は上野うえのの戦争の絵を見るびに、官軍のかむった紅白の毛甲けかぶとを美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵きょうこうきへいかぶとを連想する。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
卑怯に類した手段ではあったが……姉にも妻にも故意わざと一言も言わないまま立ち上って、今一度、玄関に出て帽子をかむった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鍔広つばひろなる藍鼠あゐねずみ中折帽なかをれぼう前斜まへのめりかむれる男は、例のおもてを見せざらんと為れど、かの客なり。引連れたる女は、二十歳はたちを二つ三つも越したるし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
比較解剖学とか比較発生学とか、すべて比較という字をかむらせた学科はみなこの見方によって研究を進めているのである。
生物学的の見方 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
金襴でしころがわりに装飾よそおった投頭巾なげずきん輪頭形りんどうがたの冑の頂上に、雄猛子の鬚をつけたいかつい冠もの、そのような冠ものをかむった方は数多く見えましたが
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白花という名をかむらせるくらいだから白くはあるが、花冠の脊には、岩魚いわなの皮膚のような、薄紅うすべにの曇りがし、花柱を取り巻いた五裂した花冠が
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「若旦那行って来い」と宗助が小六ころくに云った。小六は苦笑にがわらいして立った。夫婦は若旦那と云う名を小六にかむらせる事を大変な滑稽こっけいのように感じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿爺おとっさんが天狗になってお囃子はやしってるのじゃないかと思うと、急に何だか薄気味うすきび悪くなって来て、私は頭からスポッと夜着よぎかむって小さくなった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女の子はパツとした、赤や、青や、黄や、紫の、ただ胸だけかくす薄い水着を着、頭には色さまざまの袋のやうな、きれいなゴムの帽子をかむつてゐます。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
雑兵共に踏入られては、御かばねの上の御恥もいとわしと、かむ落しの信国が刀を抜いて、おのれがももを二度突通し試み、如何にも刃味しとて主君に奉る。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大きな帽子をかむってその上をうつむいて歩くなら、影法師は黒く落ちましたし、全くもうイギリスあたりの白堊はくあの海岸を歩いてゐるやうな気がするのでした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
だから帽子なぞも世間にあり触れたのでは気に入らないで、いつもなかに鏡の仕掛けのあるのをかむつてゐた。
そういう大規模の中幕なかまく「浦島」の竜宮での歓楽と、乙姫との別れの舞踊劇は、浦島のかむりものとか、くつとかあまりに(奈良朝期の)実物通りによく出来たので
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私の姿を見ると、廷丁ていていは私のために被告席を用意し始めた。その間私は、かむっていた深編笠ふかあみがさを手に、部屋の入口のところに黙って立っていなければならなかった。
深川の桜館さくらかんでそれをかむって四谷怪談をやったところで、前晩まで三四百人来ていた客が、次の晩には十四五人になり、その翌晩は、木戸で喧嘩が起って血の雨が降った。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『いいえ、帽子もかむらず、頭からショールを被っていますから、顔はよく解りませんが……』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
草がくれのこみち遠く、小川流るる谷間たにあい畦道あぜみちを、菅笠すげがさかむりたる婦人おんなの、跣足はだしにてすきをば肩にし、小さきむすめの手をひきて彼方あなたにゆく背姿うしろすがたありしが、それも杉の樹立こだちりたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて水田へかかると、はじめのうちは大した泥濘でいねいでもなかつたが、中途からだんだんぬかりだして、しまひには水がかむつて道の見えぬところさへ出てきた。少年は後悔した。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
みんな頭から緑と黄のだんだん染の網をかむって、二人、三人ずつで機関銃をかついでいた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「人相も名前もわかりません。作り聲の鼻聲で、おまけにほゝかむりをしてゐた相で」
楽焼らくやき煎茶せんちゃ道具一揃ひとそろひに、茶の湯用のうるし塗りのなつめや、竹の茶筅ちゃせんほこりかむつてゐた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
更けたりという程にはあらず。長き黒き天鵞絨の上着を着し、顔の周囲まわりに白きレエスを付けたる黒き天鵞絨の帽子をかむりおる。白き細き指にレエスの付きたる白き絹の紛帨ハンカチイフを持ちおる。
次にこれも仮面めんにて猿田彦に扮たるもの一人、麻にて作りたる幌帽ほろばうしやうの物をかむり、手杵てきねのさきを赤くなして男根なんこん表示かたどりたるをかたぐ。三ばんに法服はふふく美々びゝしくかざりたる山伏ほらをふく。
いつでも黒の山高をきちんとかむって、洋杖ステッキを小脇にはさんで橋の上を歩いて行くのだったが、妙に蒼白い皮膚と、痩せた肩つきとが際立って見え、朝日に影をいた姿は妙にさびしかった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
土偶中には裸体らたいの物有り、着服ちやくふくの物有り、素面すめんの物有り、覆面ふくめんの物有り、かむり物の在る有り、き有り、穿き物の在る有り、き有り、上衣うわぎ股引ももひきとには赤色あかいろ彩色さいしきを施したるも有るなり
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
水鉄のおじさんはと見れば、墨染すみぞめの衣を着て浅黄縮緬あさぎちりめん頭巾ずきんかむり、片手に花桶片手に念珠ねんじゅ、すっかり苅萱道心かるかやどうしんになり澄ましていたが、私を見ると、「や、石童丸が来た、来た。」と云った。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
或はその中に、人道的と云ふ形容詞をかむらせられるやうなものもまじつてゐるかも知れません。が、それはどこまでも間接な要求です。私は始終しじゆう、平凡に、通俗に唯書きたいから書いて来ました。
「帽子はかむっていましたか?」
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
おまけに、自国の陸軍を常勝軍と誇称こしょうし、主力艦隊に無敵の名をかむせ、世界中の憎まれっを以て自認しつつ平気でいる。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
若旦那わかだんなつてい」と宗助そうすけ小六ころくつた。小六ころく苦笑にがわらひしてつた。夫婦ふうふ若旦那わかだんな小六ころくかむらせること大變たいへん滑稽こつけいのやうにかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さびに馬上の身を旅合羽たびがっぱにくるませたる旅人たびびとあとよりは、同じやうなるかさかむりし数人の旅人相前後しつつ茶汲女ちゃくみおんなたたずみたる水茶屋みずちゃやの前を歩み行けり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あとにをんな亭主ていしゆかへつてたならばませようと思つて買つて置いた酒をお客にましてしまつたのですから、買つて置かうと糸立いとだていて手拭てぬぐひかむ
日が強くるときは岩はかわいてまっ白に見え、たてよこに走ったひびれもあり、大きな帽子ぼうしかむってその上をうつむいて歩くなら、影法師かげぼうしは黒くちましたし
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一室のうちで、善信は法衣ころもを脱いだ。朽葉色の直垂衣ひたたれに着かえ、頭には、梨子打なしうち烏帽子えぼしかむる——。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われらが本文の表題に理想的という文字をかむらせたのも、全くこの意味であって、苔虫類に見るごとき完全なる団体生活は、現在の人間にとってはとうてい不可能である。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
草がくれのこみち遠く、小川流るる谷間たにあい畦道あぜみちを、菅笠すげがさかむりたる婦人おんなの、跣足はだしにてすきをば肩にし、小さきむすめの手をひきて彼方あなたにゆく背姿うしろすがたありしが、それも杉の樹立こだちに入りたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女中にされた私は、家事万端ばんたんをしなければならなかった。冬の寒中に米もとげば、手拭てぬぐいかむってオンドルの下に火もたいた。ランプのホヤきから、便所の拭き掃除までもした。
余は本篇の初めに於て身体しんたい裝飾の事を云ひ、次で衣服、かむり物覆面ふくめん、遮光器、の事を述べ、飮食、より住居、器具きぐに移り、夫より日常生活せいくわつ、鳥獸魚介の採集、製造、美術、分業、貿易、交通、運搬
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
間も無く林が途切れまして空の明るい月光が、一面に地面へ散り敷いた美しい空地へ出ましたので、二人とも切株へ腰をかけ、明日は雨でも降ると見えて、かさかむった満月を暫く黙って見ていました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
芳年の頭上に振りかむった一刀は宙に飛んで
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そうして銀次とからみ合ったまま玄関の石段を真逆様まっさかさまに転がり落ちると、小女は独りでムックリと起き上って、頭から引っかむせられた銀次の着物と帯をはねけた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頭巾ずきんかむり手に数珠じゅずを持ちつえつきながら行く老人としより門跡様もんぜきさまへでもおまいりする有徳うとくな隠居であろう。小猿を背負った猿廻しのあとからはつつみを背負った丁稚でっち小僧が続く。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実用の二字をかむらせられた時、女は——美くしい女は——本来の面目を失って、無上の侮辱を受ける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
成程なるほど、そこで寿老神じゆらうじんは。甲「安田善次郎君やすだぜんじらうくんよ、茶があるからおつな頭巾づきんかむつて、庭をつゑなどをいて歩いてところは、まる寿老人じゆらうじんさうがあります。乙「シテ福禄寿ふくろくじゆは。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私はただ、苛立いらだたしい心を抱いて立っているよりほかはなかった。と、前の桑畑から、肥桶こやしおけを担いだ一人の百姓男が膝のぬけた股引を穿菅笠すげがさかむってやって来て、家の中に這入ろうとした。
天真爛漫てんしんらんまんともいい、「天にいつわりはなきものを」ともいうて、天には偽りはないものと、すでに相場が定まっているようであるが、その天の字をかむらせた天然界はいかにと見渡すと、ここには詐欺
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
かれ高野山かうやさんせきくものだといつた、年配ねんぱい四十五六しじふごろく柔和にうわな、何等なんらえぬ、可懐なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしや角袖かくそで外套ぐわいたうて、しろのふらんねるの襟巻えりまきめ、土耳古形とるこがたばうかむ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのような人々は済ないがモウ一度シャッポをかむり直して、脳髄局の大玄関に引返してくれ給え。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)