さて)” の例文
源右衞門を始め、同行は皆どうも怪しいと思つたけれど、さて文吾がどうして金と玉とを手に入れたか、見當の附けやうもなかつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
持つつもりでございますが、さて故郷というところは案外予言者を入れぬもので、襤褸ぼろを纏った私などはさぞ虐待されることでございましょう
書終りさていかに酒は來りしや大膳太夫だいぜんのたいふ殿と云へば露伴子ヂレ込み先刻さつき聞合せると云たばかりに沙汰なしとはひどい奴だと烈しく手を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さても従来の劇作家を数ふれば、故黙翁あり。学海、桜癡の二家あり、其他小説家中にて劇詩を試みたるものゝ数もすくなからず。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おこしけるはおそろしとも又たぐひなし寶澤は此事を心中に深くし其時は然氣さりげなく感應院へぞ歸りけるさてよく年は寶澤十二歳なり。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
訳が有って三藏どんがおらとけえ頭を下げて来て、さて作右衞門どん、うもの者に話をしてはとてらちが明かねえ、人一人は大事な者なれども
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さては穴倉へでも通じて居るのかそれとも下の室へ出られるのかと、下へ下へと降りて行くと突き当たる所に又戸がある。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
さてはと梅子の胸とどろくを、松島はづ口を開きつ「我輩が松島と云ふ無骨漢ぶこつものです——御芳名は兼ねて承知致し居ります」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
三四郎は此説を聞いて、大いに尤もな様な、又何所どこけてゐる様な気がしたが、さて何所どこけてゐるんだか、あたまがぼんやりして、一寸ちよつとわからなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さてうして家庭が貧困のうちあえいで居乍らも、金さえ這入れば私は酒と女に耽溺する事を忘れませんでした。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
さて、毒蛇に噛まれたら、身体はどんな状態を呈するかを事のつひでに述べて見よう。毒蛇に噛まれたとき其の歯の痕は正確に認めることのほとんど出来ない程小さい。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
這麼事こんなことおそれるのは精神病せいしんびやう相違さうゐなきこと、と、かれみづかおもふてこゝいたらぬのでもいが、さてまたかんがへればかんがふるほどまよつて、心中しんちゆう愈々いよ/\苦悶くもんと、恐怖きようふとにあつしられる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「まアどうしたと云うのだろう」お清はあきれて了った。老母と細君は顔見合して黙っている。真蔵はさて愈々いよいよと思ったが今日見た事を打明けるだけは矢張やはり見合わした。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
愉快そうに一笑を放ってから、さてとばかり郎党のひとりひとりへ、迅速につ明快な指揮をさずけてから、自分はすぐ身をひるがえして、主人小寺政職まさもと居室きょしつへ駆けて行った。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……さては今見たのは狐の嫁入よめいりでなかったろうか? あとな菜の花が芬々ぷんぷんと烈しく匂うていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
さて其容れ物なる籠も、時には形代なる観念の媒介を得て、神格を附与せられて依代となるので、粉河の髯籠・木津のひげこ、或は幟竿の先に附けられる籠玉は、此意味に於て
髯籠の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
逾越すぎこしと云へる「たね入れぬ麺包パンまつり」近づけり。祭司さいしをさ学者たち、如何いかにしてかイエスを殺さんとうかがふ。ただ民をおそれたり。さて悪魔十二のうちのイスカリオテととなふるユダにきぬ。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さてこの噉蓄の事たるや、夫々それぞれ宗旨社会に仏の制度、祖師の厳規のある有れば、元来政府より出令すべき事柄にあらざるに、遂に出令ありしは、その意旨を察するに、只僧侶に対し
洪川禅師のことども (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
当家こちらのお弟子さんが危篤ゆえしらせるといわれ、妻女はさてはそれゆえ姿をあらわしたかと一層いっそう不便ふびんに思い、その使つかいともに病院へ車をとばしたがう間にあわず、彼は死んで横倒よこたわっていたのである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
一同いちどう飛立とびたつて、四方しほう見廻みまわしたが、なにえない。さてこゝろまよひであつたらうかと、たがひかほ見合みあはとき、またも一發いつぱつドガン! ふと、大空おほぞらあほいだ武村兵曹たけむらへいそうは、破鐘われがねのやうにさけんだ。
さて先年来、御尽力被下候段、かたじけなく存候。則吾ガ為メニ尽候所、則、国家ニ尽ス所タルヤ明カナリ。仍而何歟よつてなにか之、吾所蔵致候、旧赤穂ノ家臣神崎則休遺刀無銘一口貴兄進上致候。
衣川ころもがは和泉いづみじやうをめぐりて、高館の下にて大河に落入る。康衡やすひらが旧跡は衣ヶ関を隔てて、南部口をさし堅めえびすをふせぐと見えたり。さても義臣すぐつて此城にこもり、功名一時のくさむらとなる。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(以上北越奇談の説)さてこゝ夜光珠やくわうのたま実事じつじあり。われ文政二年卯の春しも越後を歴遊れきいうせしをり、三嶋郡に入り伊弥彦やひこ明神ををがみ旧知識きうちきなれば高橋光則翁みつのりをうたづねしに、翁大によろこびて一宿いつしゆくゆるしぬ。
西鶴も「さて此所ここの私雨、恋をふらすかと袖ぬれて行ば」(『三代男』)「軒端はもろ/\のかづらはひかゝりてをのづからの滴こゝのわたくし雨とや申すべき」(『五人女』)などと使っている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「一昨夜大酔、久々にて散鬱候うつをさんじそろさて三木三郎君事、昼後は日々あとくり有之候様、公より御加鞭被下候様奉希候。後室よりは被申候ても不聞者に御坐候。此義乍御面倒奉煩候。不一。三郎。五郎様。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
きゝ上州よりたれも來るはずなしさては吉三郎たづね來りしならん此方こなたとほせとて吉三郎に對面たいめんし其方は何用なにようりて來りしやと云に吉三郎は叮寧ていねい挨拶あいさつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さて、斯うして巨財を贈わった。本条純八は、是迄の貧しい生活を捨てて、栄誉栄華に日を送る事を、何より先に心掛けた。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
グツト睨み置きさて風呂にりて銘々一閑張いつかんばりの机を借り受け駄洒だじや中止紀行に取りかゝる宿の人此体このていを見て不審がる二時間ほどにして露伴子づ筆を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さて、足利の町から三十一町、行道山ぎょうどうざんかたへ参ります道に江川えがわ村と云う所が有ります。此処に奧木佐十郎おくのぎさじゅうろうと云って年齢とし六十に成る極く堅人かたじんがございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さてこそと私は折り返へして、「何か喰べたいものでもあれば、遠慮なく言つて來て下さい。直ぐ送ります」
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さては秀子の服と思われる彼の日影色の被物から出た名刺に大場連斎とあったのが全く此の悪医者だなと
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
是は屹度きつと別の音が大根卸だいこおろしの樣に自分に聞えるのに極つてゐると、すぐ心のうちで覺つたやうなものゝ、さてそれなら果して何處から何うして出るのだらうと考へるとぱり分らない。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『申し上ぐるも背汗の至りに存じますが、本所林町に店借たながりして、わびしく浪人暮しをいたしておりまするが、さて、仕官の口も見あたらず、ただ無為な日を過して居りまするばかりで』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて其次席につらなれる山木梅子が例の質素の容子ようすを見て、しば躊躇ためらひつ「山木様は独立で、婦人社会の為に御働おはたらきなさらうと云ふ御志願で、こと阿父おとつさんは屈指の紳商でいらつしやるのですから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
アンドレイ、エヒミチはイワン、デミトリチの顏付かほつき眼色めいろなどひどつて、如何どうかして若者わかもの手懷てなづけて、落着おちつかせやうとおもふたので、其寐臺そのねだいうへこしおろし、ちよつかんがへて、さて言出いひだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(以上北越奇談の説)さてこゝ夜光珠やくわうのたま実事じつじあり。われ文政二年卯の春しも越後を歴遊れきいうせしをり、三嶋郡に入り伊弥彦やひこ明神ををがみ旧知識きうちきなれば高橋光則翁みつのりをうたづねしに、翁大によろこびて一宿いつしゆくゆるしぬ。
さて、それからの私は、妻の日常生活——些細な外出先から其の一挙手一投足に至る迄、萬遺漏無き注視の眼を向ける事を怠りませんでした。問題の眼鏡に就いて確めた事は云う迄もありません。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
ははァさては神田の半七、ドイルの探偵物でも読んだかな? などと疑問点を打ちくなる。だが十九歳のうい働きだ。そうそう突っ込むにも及ぶまい。
半七雑感 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
能々拜見はいけんしてさて申やう此御短刀は私しのぞみ御座なく候何卒君の常々つね/″\手馴てなれし方をいたゞき度むね願ひければ君も御祕藏ごひざうの短刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
踏み出し足溜りをこしらへてはまた踏み固め二間餘のところ道をつけさて立戻り蝙蝠傘かふもりがさの先を女にしかと掴ませ危うくも渡り越して互にホト息して無事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さて、お話も次第に申し尽し、種切れに相成りましたから、何かい種を買出したいと存じまして、或お方のお供を幸い磯部いそべへ参り、それから伊香保いかほの方へまわり
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武器、装束しょうぞく、一切はすでに安兵衛の浪宅まで密かに船上げしてあるし、こうすべての準備は、何日いつでもというように出来たが、さて、最後のたった一つの探りだけが何うしても掴めない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上の境内には待合や料理屋の如きものは在る筈はありません。さては暖かいので散歩と洒落しゃれるのか、と思いつつ、私も急ぎ車を捨てて二人が上り切った頃を見計って石段を駈け上って行きました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
日曜にちえうになつたら、あさはやきてなによりもだい一に奇麗きれい首丈くびたけつかつて見樣みやうと、つねかんがへてゐるが、さてその日曜にちえうると、たまにゆつくりられるのは、今日けふばかりぢやないかとになつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
旦那の泊りに來なかつたことが、めてもの有り難さであつたけれど、さて今こゝで旦那に棄てられたら、この家は何うなるであらうかと、二番鷄の歌ふ頃には、そんなことをもちら/\考へて來た。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さて自身じしんにはいまだ一戀愛れんあいてふものをあぢはふたこといので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さて同行十二人、まづ草にしていこふ時、すで下晡なゝつさがりなり。
さてはそういう幽霊であったか。杖を遺したのが誤りであったが、夫れも止むを得ない因縁なのであろう」
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さて其の次の日は、吉田監物家来下河原園八郎がお呼出しに相成り、縁側の処へ上下かみしも無刀で出て居ります。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さては、遊学かな。いい事じゃ。若い者はどしどしと、中央へ行って、日本が今、世界の中でどう動いているか、又いかに我が国が今——又将来、多事多難な時代の潮に向いかけておるか。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)