いち)” の例文
昨夜ゆうべもすがらしづかねぶりて、今朝けされよりいちはなけにさまし、かほあらかみでつけて着物きものもみづからりしを取出とりいだ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ダンディ埠頭クエイにはもうおそらく帰れぬだろうなあ。今度という今度は、いよいよいちばちかだ。われわれの北の方には鯨がいたのだ。
しかし、いち自動車じどうしや手負ておひごときは、もののかずでもない、たゝかへば驕將けうしやうは、張中ちやうちうせつれなかつた。ゆうなり、またけんなるかな。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年から年中日がないちああしてあの奥の間へ通ずる障子の隙間から、まるで何者かを期待するかの様に表の往還を眺め暮している事。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
統計とうけいによれば、餘震よしんのときの震動しんどうおほいさは、最初さいしよ大地震だいぢしんのものに比較ひかくして、その三分さんぶんいちといふほどのものが、最大さいだい記録きろくである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それは松脂まつやにの蝋でり固めたもので、これに類似した田行燈というものを百姓家では用いた。これは今でもいちせき辺へ行くとのこっている。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
“——かねの茶わんに、竹の箸、いちぜん飯とは情けない——”その一ぜん飯さえ食えなかった庶民史の方こそ、じつは歴史の主流なのだ。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下等船客かとうせんきやくいち支那人シナじんはまだ伊太利イタリー領海りやうかいはなれぬ、ころよりくるしきやまひおかされてつひにカンデイアじまとセリゴじまとのあひだ死亡しぼうしたため
どうせやるなら、みんなにいちどきにわけてやつて、時の間にさうした目ざわりのものをこのあたりから亡くして了ふ方が好い。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
汝信ずらく、汝の思ひは第一の思ひより我に移り、そのさまあたかもいちなる數の知らるゝ時五と六とこれより分れ出るに似たりと 五五—五七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「そうだ、おせんちゃん。けえときにゃ、みんなでおくってッてやろうから、きょういち見世みせはなしでも、かしてくんねえよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
其の西応房は尾州びしゅう中島郡なかじまごおりいちみやの生れであったが、猟が非常に好きで、そのために飛騨ひだの国へ往って猟師を渡世にしていた。
女仙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
野々宮君の妹と、妹の病気と、大学の病院を一所にまとめて、それに池の周囲まはりつた女を加へて、それをいちどきにまはして、驚ろいてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かの子 ただ何となく垢抜あかぬけした感じがします。あれは散々さんざん今の新しさが使用しつくされた後のレベルから今いちだん洗練をた後にうまれた女です。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今や、闇をつんざく電光の一閃いっせんの中に、遠い過去の世の記憶きおくが、いちどきによみがえって来た。彼のたましいがかつて、この木乃伊に宿っていた時の様々な記憶が。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
殊に相手はおいと云っても、天下のいちひとであり、昭宣公の跡を継いで摂政せっしょうにも関白かんぱくにもなるべき人であるのが、さすがに骨肉こつにくの親しみを忘れず
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貝塚土器かひづかどき破片はへんが、わづかに二三ぺん見出みいだされたが、かひ分量ぶんりやうから比較ひかくしてると、何億萬分なんおくまんぶんいちといふくらゐしかにあたらぬ)
深山しんざんにある紅葉もみぢはまた種類しゆるいちがひ、いちばんうつくしいのは、はうちはかへでで、それは羽團扇はうちはのようで、ながさが二三寸にさんずんもあるおほきなものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
このままじっとしていたら、め殺されるばかりだ。どうせ死ぬ命なら、この怪物を道連れに、いちばちか、命がけの冒険をやってみようと決心した。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いちみやの渡を渡って分倍河原に来た頃は、空は真黒になって、北の方で殷々闐々ごろごろ雷が攻太鼓をうち出した。農家はせっせとほし麦を取り入れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また新石器時代しんせつきじだいのつゞいた年代ねんだい舊石器時代きゆうせつきじだいくらべてたいへんみじかく、舊石器時代きゆうせつきじだい十分じゆうぶんいちにもりないくらゐです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「もゝつたふ」の歌、残された飛鳥の宮の執心びと、世々の藤原のいちひめたたる天若みこも、顔清く、声心く天若みこのやはり、一人でおざりまする。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
十月十五日に保は旧幕臣静岡県士族佐野常三郎さのつねさぶろうじょ松をめとった。戸籍名はいちである。保は三十歳、松は明治二年正月十六日うまれであるから十八歳であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
風の吹きさらしにヤタいちの客よりわるいかっこうをして釣るのでありまするから、もう遊びではありません。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
隣の座敷では二人の小娘が声をそろえて、嵯峨さがやおむろの花ざかり。長吉は首ばかり頷付うなずかせてもじもじしている。お糸が手紙を寄越よこしたのはいちとりまえ時分じぶんであった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
建物いったいのアパートは、台所口が全部この階段に向かっていて、しかもほとんどいちあけ放されているので、むんむんするようないきれが立ちこめていた。
正雄がある朝十時ごろに、いちを訪ねて行くと、お庄は半襟はんえりのかかった双子ふたこの薄綿入れなどを着込んで、縁側へ幾個いくつ真鍮しんちゅうの火鉢を持ち出して灰をふるっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
冷然たる医者はいち二語にご簡単な挨拶をしながら診察にかかった。しかし診察は無造作であった。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この町人のいちまきはそれだけではない、後ろを見ると、十余名の芸妓、雛妓すうぎたぐいがついている。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いちでも早く立ちたいんでせうよ。年寄のくせに気のいら/\した女ですからね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ほとんど破産にひんしたいち騎兵大佐きへいたいさにすぎず、母よりも六つも年下であるばかりか、その性格も冷やかで、弱気で優柔ゆうじゅうで、おまけにすこぶる女好きな伊達者だてしゃであったと伝えられています。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
僕が大学を卒業した年の夏、久米正雄くめまさを一緒いつしよ上総かづさいちみやの海岸に遊びに行つた。
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は気味が悪かったが、眼をふさいで口の中でいちッ、ッとかけ声を出して、みずから勇気をはげまして駆け出した。私の下駄の力の入った踏み音のみが、四境あたりの寂しさを破って響いた。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わが必然のいちといふ係數のあとに幾多のれいがつづく如き無數無限の星影を映さむのみ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
それより以前にも一度、汽車で白河しらかわを越し、秋草のさきみだれているのを車の窓からながめて、行って、仙台よりも先のいちせきというところにある知り人をたずねたこともあります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一、官の学校は、官とその盛衰をともにして、官に変あれば校にも変を生じ、官、たおるれば校もまた斃る。はなはだしきは官府いち吏人りじんの進退を見て、学校の栄枯をぼくするにいたることあり。
仕事の手が放せないのをいいことに、栄二はずっと会わなかったが、毎月いちの日が休みということがわかったのだろう、八月の十一日に来たときは、また岡安喜兵衛に呼ばれたので会った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
間といふものが重要な一つのリズムのいちモメントだといふことがあつて、小説の場合と全然違ふけれども、さうかといつて小説の会話といふのは、非常に小説がリアリスティックなものならば
対話 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
知らない。君たちは、たつたいま、いちの鳥居をくぐつただけだ。
ダス・ゲマイネ (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
須貝 僕は親切でないのか、今日はいち遊んでやったんだぞ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
きゅうに涼しさと寒さとがいちどきに体温にかんじられた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
二日ふつかいち輿丁よちやうのうた声になびくならひの紫丁香かな
いちんちどじばかり踏んで、どうしただよ。生員。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
知らじや、われはわだつみの船盜人ふなぬすびといちの者
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
さかつくり搾り出だししいちの酒。見よその彼等
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
天地あめつちにこよなきまことみわたるいちの信義は
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「静かに坐れエ! いちツ、ツ!」
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
みんながびくびく、いちにいさん
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手はえずいちから図を引け
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
どうぞやいちペンニイ
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)