透間すきま)” の例文
「いやだね、全くいやな気持のする人だ、一目見ただけでゾッとする人だ、あんなのは、キット戸の透間すきまからでも入って来る人ですぜ」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが庵門はただ一すじの透間すきまをあけたのみで、黒狗が飛び出すことはないと見たので、近寄ってくと、そこに一人の老いたる尼がいた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
骨まで朽ちた潰れ小屋を足元の笹の中に見出したのはそれから一時間の後であった。行手は透間すきまもなく黒木と笹とに掩われた毘沙門山である。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
物の透間すきま仄白ほのじろくなって、戸の外に雀の寝覚が鈴の鳴るように聞える頃は、私はもう起きて、汗臭い身体に帯〆て、釜の下を焚附たきつけました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お玉の家では、越して来た時掛け替えた青簾あおすだれの、色のめるひまのないのが、肱掛窓ひじかけまどの竹格子の内側を、上から下まで透間すきまなく深くとざしている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は今朝けさの目覚めに戸の透間すきまからさす朝の光りを眺めて、早くうぐいすが夢をゆすりに訪れて来てくれるようになればよいと春暁の心地よさを思った。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
虫ばんだが一段高く、かつ幅の広い、部厚ぶあつ敷居しきいの内に、縦に四畳よじょうばかり敷かれる。壁の透間すきま樹蔭こかげはさすが、へりなしのたたみ青々あおあおと新しかった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両側の店はのきのある限り提灯をつるして居る。二階三階の内は二階三階の檐も皆長提灯を透間すきまなく掛けて居る。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この時自分は、浜のつつみの両側に背丈よりも高い枯薄かれすすき透間すきまもなく生え続いた中を行く。浪がひたひたと石崖いしがけに当る。ほど経て横手からお長が白馬を曳いて上ってきた。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
うちふしすぎて、かぶと頂辺てっぺんを射られるな。水のうえにて身づくろいすな。物の具に透間すきまあらすな。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし残して行った透間すきまが広過ぎたので、春子さんはうっかり覗くと見つかるおそれがあった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五郎、太刀の柄ばかり握って、既に危く見えけるを、弟六郎と宗六透間すきまもなくたすきたる。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
折から透間すきまかぜ燈火ともしび動き明らかには見えざるにさえ隠れ難き美しさ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その仕方しかたは夏のすゑより事をはじめて、岸根きしねより川中へ丸木のくひたてつらね横木よこきをそえ、これに透間すきまなく竹簀たけすをわたしてかきのごとくになし、川の石をよせかけてちからとなす。長さは百けん二百間にいたる。
この珍妙ちんみょうな形でもって、透間すきまを通して窓の中を覗いた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どの茅屋わらやの戸の透間すきまからも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
曲輪くるわうらかい眼隱めかくし板の透間すきまよりほのかに見ゆる家毎やごとあかしお安は不審いぶかり三次に向ひ爰は何と申所にやまたあのにぎやかのは何所なりととはれて三次は振返ふりかへあれあれがお江戸の吉原さお文さんは那内あのうちに居られるのだしてお富さんの居るお屋敷もたんとははなれて居らぬ故二人に今夜はあはせてあげんといはれてお安は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれども、紙撚をこしらえていた奇異なる武士は直ぐにそれを聞きつけて、坐ったまま耳をその羽目の合せ目の透間すきまへ着けてしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戸の透間すきまも明るく成った。一番早く眼をさますものは子供で、まだ母親が知らずに眠っている間に、最早もう床の中から這出はいだした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その、十二光仏の周囲には、玉、螺鈿らでんを、星の流るるが如く輝かして、宝相華ほうそうげ勝曼華しょうまんげ透間すきまもなく咲きめぐっている。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒木立が透間すきまもなく生え茂っているので、あの中が通れるだろうかと疑わしめる。最高点を少し西にはずれて後から頂上だけを覗かせているのは根名草山である。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あるもあるも四、五間の間は透間すきまもなきいちごの茂りで、しかも猿が馬場で見たようなやせいちごではなかった。嬉しさはいうまでもないので、餓鬼がきのように食うた。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
表通はちゅうくらいの横町で、向いの平家の低い窓が生垣の透間すきまから見える。窓には竹簾たけすだれが掛けてある。その中で糸を引いている音がぶうんぶうんとねむたそうに聞えている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
落付き払った武者振只者に非ずと、利家諸鐙もろあぶみを合せて追掛けると、彼の武者また馬のこうべを返した。透間すきまもなく切り合い火花を散して戦っているうち、利家高股たかももを切られて馬から下へ落された。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
黒い椎の葉の透間すきまから二階の灯が見えた時は殆どすべり込みの要領だった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
去歳こぞの春すがもりしたるか怪しき汚染しみは滝の糸を乱して画襖えぶすま李白りはくかしらそそげど、たてつけよければ身の毛たつ程の寒さを透間すきまかこちもせず、かくも安楽にして居るにさえ、うら寂しくおのずからかなしみを知るに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
嫉視しっし、迫害、批難攻撃は二人の身辺を取りまいた。抱月氏の払った恋愛の犠牲は非常なものだったが、寂しみに沈みやすいその心に、透間すきまのないほどに熱をきつけていたのは彼女の活気であった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ほとんど透間すきまもなく、やっと掻巻かいまきから抜け出したばかりのお銀様の腰を立て直す隙もあらせず、神尾が突っかけて来る槍は凄いばかりです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戸の透間すきまが明るく成った。お雪は台所の方へ行って働いた。裏口を開けて屋外そとへ出てみると、新鮮な朝の空気は彼女に蘇生いきかえるような力を与えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
右左透間すきまのねえ混雑なんで、そいつあみんな火事場の方へ寄せるんでしょう、私あ向うへ抜けようとするんでしょう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或所では日光黄菅が透間すきまもなく咲き匂って、森の奥の草原にさし込んだ日光のように明るく、或所では丸葉岳蕗まるばだけぶきが乱咲して、あたかも夕日に燃えて金茶色に焦げた山の一角を望むようだ。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
とにもかくにも二本まで腹へさわられて大兵の男はいらだって、めん籠手こて、腹のきらいなく盛んな気合で畳みかけ畳みかけ、透間すきまもなく攻め立てる。
月の明り畳にせて、透間すきまりしの葉の影、浮いてあがるようにフト消えて見えずなりぬ。一室ひとまの内ともしびくまなくはなりたれど、夜の色こもりたれば暗かりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲武信の頂上から望見した所では、距離も近く登り降りも少ないので、容易に達せられそうに想えるが、さて木立の中に這入ると、白檜の若木が透間すきまもなく生えているので、通過に困難だ。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一年半足らず暮して見た離座敷の南側にある窓の雨戸の透間すきまの薄明るくなったのが彼の眼に映った。まくらの上でくと、何処どこから伝わって来るともなく虫の鳴声がする。それが秋雨の音の中で聞える。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この透間すきまなき宣伝利用法は大いにきました。淀の下り船から八軒屋に至るまで、旅人の口に「のろま」の名が上らないということはありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
清水のおもてが、柄杓ひしゃくこけを、琅玕ろうかんのごとく、こずえもる透間すきまを、銀象嵌ぎんぞうがんちりばめつつ、そのもの音の響きに揺れた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よしと、あしとが行手をさえぎる。ちっと方角に迷うた時は、蘆荻ろてき透間すきまをさがして、爪立って、そこから前路を見る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仰げば節穴かと思うあかりもなく、その上、座敷から、し入るような、透間すきますこしもないのであるから、驚いて、ハタと夫人の賜物たまものを落して、その手でじっとまなこおおうた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残る十余人はやや退いて、透間すきまもなく遠巻きにしていると、土方が取り直した太刀は矢の如く、いわとおれと貫いた——が、やっぱり手答えもなんにもない。
えんかどはしらに、すがりながら、ひと氣取きどつてつと、爪尖つまさきが、すぐに浴室よくしつ屋根やねとゞいて、透間すきまは、いはも、くさも、みづしたゝ眞暗まつくらがけである。あぶなつかしいが、また面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
格子こうし透間すきまからお君のおもてにまで射し込んでいるので、夢よりはいっそうせつないわが身に返りました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くれないなる、いろいろの旗天をおおひて大鳥の群れたる如き、旗の透間すきまの空青き、樹々きぎの葉のみどりなる、路を行く人の髪の黒き、かざしの白き、手絡てがらなる、帯の錦、そであや薔薇しょうび
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また薙刀なぎなたをつかうと同じように使って、敵を左右へ刎退はねのけ、突きのけることもできます。面と、腕と、膝との三段を、透間すきまもなく責め立てて敵を悩ますこともできます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一方を当てて夜ごとには彼方かなた此方こなたを垣したる、透間すきま少し有りたる中より、奮発はずみたるまりのごとく、くぐり出でて、戸障子に打衝うちあたる音すさまじく、の内に躍り込むよと見えし
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隣屋となりはこのへんむねを並ぶる木屋きや大家たいけで、のきひさし、屋根の上まで、ひしと木材を積揃つみそろえた、真中まんなかを分けて、空高そらだかい長方形の透間すきまからおよそ三十畳も敷けようという店の片端が見える
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こちらの奇異なる武士は、いよいよ近く羽目の透間すきまへ耳をつけた時に
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
裏庭うらにはとおもふあたり、はるおくかたには、のやゝれかゝつた葡萄棚ぶだうだなが、かげさかしまにうつして、此處こゝもおなじ溜池ためいけで、もんのあたりから間近まぢかはしへかけて、透間すきまもなく亂杭らんぐひつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さっと揺れ、ぱっと散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀しろがね黄金こがね、水晶、珊瑚珠さんごじゅ透間すきまもなくよろうたるが、月に照添うに露たがわず、されば冥土よみじの色ならず、真珠のながれを渡ると覚えて
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
透間すきまのない人立ひとだちしたが、いずれも言合せたように、その後姿を見送っていたらしいから、一見赤毛布あかげっとのその風采ふうで、あわただしく(居る、)と云えば、くだんおんな吃驚びっくりした事は、往来ゆききの人の
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)