くき)” の例文
旧字:
くきは直立して三〇センチメートル内外となり、心臓状円形で葉裏帯紫色の厚いやわらかな全辺葉ぜんぺんよう互生ごせいし、葉柄本ようへいほん托葉たくようそなえている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ふとくきが、あたりまえなら、ほそくきよりつよくて、はなしてしまうのですけれど、ていると、ぜんちゃんのったほそいのがつよくて
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その家の前のくりの木の下に一人のはだしの子供こどもがまっ白な貝細工かいざいくのような百合ゆりの十の花のついたくきをもってこっちを見ていました。
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
よくするためには蘡薁えびづるという蔓草つるくさくきの中に巣食すく昆虫こんちゅうを捕って来て日に一ぴきあるいは二匹ずつ与えるかくのごとき手数を要する鳥を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると石の下からはすに自分の方へ向いて青いくきが伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沼にはあしやよしの黄色いくきれてかさなりあっているところや、青黒い水が、どんよりと深くよどんでいるような場所ばしょがありました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
矢筈草はちよつと見たる時その葉よもぎに似たり。覆盆子いちごの如くそのくきつるのやうに延びてはびこる。四谷見附よつやみつけより赤坂喰違あかさかくいちがいの土手に沢山あり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてその根からくきや葉までなまでも煮ても喰べられるという利便があるので、兵の軍糧副食物としては絶好の物だったらしい。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南家の郎女は、一くきの草のそよぎでも聴き取れる暁凪あかつきなぎを、自身擾すことをすまいと言ふ風に、身じろきすらもしないで居る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
それからある海草のくき火切臼ひきりうす火切杵ひきりぎねという物をこしらえて、それをすり合わせて火を切り出して、建御雷神たけみかずちのかみに向かってこう言いました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それほどだから、くきをつまんで人のからだに近づけてやれば、必ずしも、根を押しつけなくても、自分から吸い着いてゆく。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どこかそこいらの道傍みちばたから引抜いて来たらしい細い草のくきを折曲げた間に、短かい金口の煙草を挟んで、さも大切そうに吸っているのであった。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くき錫紙すずがみ巻きたる、美しきすみれの花束、きらきらと光りて、よもに散りぼふを、き物得つとかの狗、踏みにじりては、くわへて引きちぎりなどす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
六月にはいると、麦は黄熟こうじゅくして刈り取られ、胡瓜きゅうりくきみじかきに花をもち、水草のあるところにはほたるやみを縫って飛んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こうした生々した様子になると、赤茶色の水気多い長々と素なおなくきを持ったひしはその真白いささやかな花を、形の良い葉の間にのぞかせてただよう。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
近寄って見ると、まるで玉蜀黍とうもろこしくきのようにやせた百五六十歳の老人が、日射病にやられて苦しんでいるのですヨ。
此蹴綱に転機しかけあり、まつたつくりをはりてのち、穴にのぞんで玉蜀烟艸たうがらしたばこくきのるゐくまにくむ物をたき、しきりにあふぎけふりを穴に入るれば熊烟りにむせて大にいか
幼年学校生は、それをねだり取って、ウドの太いくきを折ると、それでふえけずりあげ、ぴゅうぴゅうき出した。オセロもやはり、ちょっと吹いてみた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
なにをかこゝろむる、とあやしんで、おこみぎはつて、枯蘆かれあしくきごしに、ほりおもてみつめた雪枝ゆきえは、浮脂きらうへに、あきらかに自他じた優劣いうれつきぎけられたのを悟得さとりえて、おもはず……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まるで女と申していいでしょうか、それとも童子といっていいでしょうか? お色の白さは蒲公英たんぽぽくきから出る乳のようで、弱々しくて優しいお色でございました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
六月の梅雨のころになると、花壇や畑にはくきつるがのび、葉や枝がひろがって、庭一面に濡れていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしは海面よりもずっと下に生えているめずらしい植物を見ることができました。それらは森の中の巨木きょぼくのように、幾尋いくひろもあるくきをわたしのほうへさし上げていました。
インド人は今、地面に種をまいたかと思うと、みるみる、それが芽を出し、くきがのび、葉がはえ、花が咲くというようなことは、朝飯まえにやってのける人種だからねえ。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この県で力を入れたものに「花莚はなむしろ」があります。浅口郡西阿知にしあちが本場であります。いろどりと模様のある茣蓙ござで、いぐさくきを材料にしたものであります。織方おりかたで色々なしまを出します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
頭をかきむしッたような『パアポロトニク』(わらびたぐい)のみごとなくき、しかもえすぎた葡萄ぶどうめく色を帯びたのが、際限もなくもつれからみつして目前に透かして見られた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
路傍の車前おおばこくき折曲おりまげて引懸ひっか引張ひっぱり、またはすみれの花の馬の首のようになった部分を交叉こうさして、むしろその首のたやすくもげて落ちるのを、笑い興ずるようになっているが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「赤いくきに丸い毛のある葉が出て、白い小さい花の咲く——井戸草いどぐさとも言いますが」
と腹の中でめながら、なお四辺を見て行くと、百姓家の小汚こぎたな孤屋こおくの背戸にしいまじりにくりだか何だか三四本えてる樹蔭こかげに、黄色い四べんの花の咲いている、毛の生えたくきから
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
飢餓うえが目前に迫っている。木の根木の皮草のくき松笠までも食い尽くした。伊那の高遠の十里四方には生色あるものは一つもない! ——怨めしいのは伊那のご領主伊那五郎盛常殿じゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの黄金色に輝く花が、緑の縮緬ちりめんのような、すがすがしいくきの上に、可愛らしいあの明るい顔をもたげると、私達は去年から重ねて来た着物を、一枚へらさねばならないことを感ずるのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
生々いきいきとして居た甘藷の蔓は、唯一夜に正しく湯煎うでられた様にしおれて、明くる日は最早真黒になり、さわればぼろ/\のこなになる。シャンとして居た里芋さといもくきも、ぐっちゃりと腐った様になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
脂は、鳥の羽のくきのような形をして、四分ばかりの長さにぬけるのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
河の小波さざなみきしにひたひた音をたてていた。クリストフはがぼうとしてた。目にも見ないで、草の小さなくきをかみきっていた。蟋蟀こおろぎが一ぴきそばで鳴いていた。かれねむりかけてるような気持きもちだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
堀江川入江の蓮は五月雨に花もよひしてくき伸ぶる見ゆ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
あわれみとる蒲公たんぽぽくきみじかくして乳をあませり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
あしくきでも笛をこしらえました。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いきがしづかにくき尖頭さきふるはす。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くき右往左往菓子器のさくらんぼ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雨上りの初夏の空がいつまでも明るい光を地の上に投げているので、その太い蕗のくきがすいすいと薄暗い中に青く描かれていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間、日吉は無聊ぶりょうな顔して、ふところからきびくきみたいな物を出してはポリポリかじっていた。その茎の汁は青臭いなかに甘い味があった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉は広くて、長葉柄ちょうようへいそなえ、茎に互生ごせいしており、広卵形こうらんけいで三大脈を有して、葉縁ようえん粗鋸歯そきょしがあり、くきともにざらついている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
白いくきの中に一すじ赤く血を吸い上げているのが見える。その血を受けて、毒々しい真紅まっかな花が今や咲きかけているのだ!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二郎じろうは、ぼんやりとってながめていますと、そのなかの、いちばんくきながあかはなは、どこかでおんなひとおもさずにはいられませんでした。
赤い船のお客 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たけよりたかい一めん雑草ざつさうなかに、三本みもと五本いつもとまた七本なゝもとあはむらさきつゆながるゝばかり、かつところに、くきたか見事みごと桔梗ききやうが、——まことに、桔梗色ききやういろいたのであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沢桔梗のくきからは乳のような白い汁が出て、それは劇しい毒をもっているので、ここらでは孫左衛門殺しといって、子供でも決して手を触れないことにしているのです。
山椒魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いままでもトマトのくきをかじったりけちらしたりしたのはおまえだろう。行ってしまえ。ねこめ。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「これごらんなさい」と、袂の紅絹もみ裏の間から取りだしたのは、くきの長い一輪の白い花である。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
一年ひとゝせ四月のなかば雪のきえたるころ清水村の農夫のうふら二十人あまりあつまり、くまからんとて此山にのぼり、かの破隙われめうろをなしたる所かならず熊の住処すみかならんと、れい番椒烟草たうがらしたばこくきたきゞまぜ
イガホオズキまたは鬼酸漿おにほおずきという名まえは、くき刺毛とげがあるところからつけられたのだが、それよりも小さい天然観察者たちには、この点がもっと注意を引いていたのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしの光は弱く、わたしのまるい顔も、くきからもぎとられて何週間も水の上をただよっているスイレンの葉のように、青ざめていました。北極光のかんむりが、もえさかっていました。