火事くわじ)” の例文
火事くわじをみて、火事くわじのことを、あゝ火事くわじく、火事くわじく、とさけぶなり。彌次馬やじうまけながら、たがひこゑはせて、ひだりひだりひだりひだり
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
火事くわじ見舞みまひ間際まぎはに、こまかい地圖ちづして、仔細しさい町名ちやうめい番地ばんち調しらべてゐるよりも、ずつとはなれた見當違けんたうちがひ所作しよさえんじてゐるごとかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ悲慘みじめせま小屋こやには藥鑵やくわん茶碗ちやわんとそれから火事くわじ夕方ゆふがたとなり主人しゆじんがよこしたあたらしい手桶てをけとのみで、よるよこたへるのに一まい蒲團ふとんもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みん万暦ばんれきはじめ閩中みんちゆう連江といふ所の人蛤をわりて玉をたれども不識みしらずこれをる、たまかまの中にあり跳躍をどりあがりしてさだまらず、火光くわくわうそらもゆ里人さとびと火事くわじならんとおどろき来りてこれを救ふ。
去歳こぞにくらべて長屋ながやもふゑたり、所得しよとくばいにと世間せけんくちより樣子やうすりて、をかしやをかしや、そのやうにばしてものにするぞ、火事くわじ燈明皿とうめうざらよりもものぞかし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかし、「う」のおかあさんが子供こどもとき近所きんじよ火事くわじがあつたんで、たべかけてゐたさかなを「うのみ」にしてにげだしたさうです。ほんとだかどうだかりません。うそだとおもつたら先生せんせいいてごらん。
往來わうらい煙草たばこつたもの、なかひと退けてすゝまうとしたもの、そんなのまでをとらへて、打首うちくびにするならば、火事くわじ半分はんぶんげんずるし、なか風儀ふうぎたちまあらたまるであらうとおもつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ぬすみ出し其上そのうへ臺所だいどころへ火を付何處いづくともなく迯失にげうせけり折節をりふしかぜはげしく忽ち燃上もえあがりしかば驚破すは火事くわじよと近邊大に騷ぎければ喜八はまご/\して居たりしが狼狽うろたへ漸々やう/\屋根よりはおりたれ共あしちゞみ歩行あゆまれず殊に金子と庖丁はうちやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鶏頭けいとうもいつぱい火事くわじになる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
のおなじ火事くわじに、靈岸島れいがんじまは、かたりぐさにするのも痛々いた/\しくはゞかられるが、あはれ、今度こんど被服廠ひふくしやうあとで、男女だんぢよ死體したい伏重ふしかさなつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎはたゞ勘次かんじ仕事しごとたすけてた。しかあひだにも念佛寮ねんぶつれうはこばれた卯平うへいわすれてはなかつた。おつぎは火事くわじつぎ勘次かんじへはだまつて念佛寮ねんぶつれうのぞいてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みん万暦ばんれきはじめ閩中みんちゆう連江といふ所の人蛤をわりて玉をたれども不識みしらずこれをる、たまかまの中にあり跳躍をどりあがりしてさだまらず、火光くわくわうそらもゆ里人さとびと火事くわじならんとおどろき来りてこれを救ふ。
小六ころく名義めいぎ保管ほくわんされべき財産ざいさんは、不幸ふかうにして、叔父をぢ手腕しゆわんで、すぐ神田かんだにぎやかな表通おもてどほりの家屋かをく變形へんけいした。さうして、まだ保險ほけんけないうちに、火事くわじけて仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんだ。なんだ。地震ぢしん火事くわじか、とさわぐと、うまだ、うまだ。なんだ、うまだ。ぬしのないうまだ。はなれうまか、そりや大變たいへんと、屈竟くつきやうなのまで、軒下のきしたへパツと退いた。はなうまには相違さうゐない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ腕組うでぐみをしながら、もうそろ/\火事くわじ半鐘はんしよう時節じせつだとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
井中よりにはかに火をいだし火勢くわせいさかんにもえあがりければ近隣きんりんのものども火事くわじなりとしてはせつけ、井中より火のもゆるを見て此井を掘しゆゑ此火ありとて村のものども口々に主人をのゝしうらみければ
麹町かうぢまち番町ばんちやう火事くわじは、わたしたち鄰家りんか二三軒にさんげんが、みな跣足はだし逃出にげだして、片側かたがは平家ひらや屋根やねからかはら土煙つちけむりげてくづるゝ向側むかうがは駈拔かけぬけて、いくらか危險きけんすくなさうな、四角よつかどまがつた
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
井中よりにはかに火をいだし火勢くわせいさかんにもえあがりければ近隣きんりんのものども火事くわじなりとしてはせつけ、井中より火のもゆるを見て此井を掘しゆゑ此火ありとて村のものども口々に主人をのゝしうらみければ
つゞいて、「中六なかろく火事くわじですよ。」とんだのは、ふたゝ夜警やけいこゑである。やあ、不可いけない。中六なかろくへば、なが梯子はしごならとゞくほどだ。しか風下かざしも眞下ましたである。わたしたちはだまつてつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そらぶ——火事くわじはげしさにまぎれた。が、地震ぢしん可恐おそろしいためまちにうろついてるのである。二階にかいあがるのは、いのちがけでなければらない。わたし意氣地いくぢなしの臆病おくびやう第一人だいいちにんである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しづかにつてゐるのでは火事くわじとほいよ。」「まあ、さうね。」といふ言葉ことばも、てないのに、「中六なかろく」「中六なかろく」と、ひしめきかはす人々ひと/″\こゑが、その、銀杏いてふしたから車輪しやりんごときしつてた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)