未練みれん)” の例文
他の人に見咎みとがめられなば一大事と二足三足さりかけしが又振返りさしのぞ嗚呼あゝ我ながら未練みれんなりと心で心をはげましつゝ思ひ極めて立去けり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一思いに退学しようと思ってもこんな事をいわれれば未練みれんが残り候う。家ではいかに思い候うや一日も早く帰れと申しきたり候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「いや、未練みれんがましいことは、もういうまい。この焼けのこりの文句から、全体の文章が持っている重大な意味を引出してみせる」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
高野こうやの道場にこもるおつもりなのか? ……そして浮世うきよ未練みれんをもたぬため、いさぎよく、わざとじぶんにも会わず、父とも名のらず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あゝ奇麗きれいになつた。うもつたあときたないものでね」と宗助そうすけまつた食卓しよくたく未練みれんのないかほをした。勝手かつてはうきよがしきりにわらつてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
現世げんせ生活せいかつにいくらか未練みれんのこっている、つまらぬ女性達じょせいたちことをいつまで申上もうしあげてたところで、そう興味きょうみもございますまいから……。
己は恥しながら、然りと答える勇気はない。己が袈裟に対するその後の愛着の中には、あの女の体を知らずにいる未練みれんがかなり混っている。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それをお前は知ってるくせに。おろか者! 未練みれんなわしよ。あゝわしはもう自分に頼る気もなくなった。どうしてわしは死んでしまわないのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
やがて未練みれんらしく立留つて見たが、男の追掛けて來る樣子はない。先程つまづいた松の木の梢に梟か何かの鳴く聲がしてゐる。
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかしいざこうときめてしまってみると、たちきれぬ未練みれんがむくむくと頭をもたげてまいりまして、わたしの後髪うしろがみを力づよくひくのでありました。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
コトリと動き出して、京子の窓が三間ほど向うへ行った時千世子は何の未練みれんもない様にいつもの通りの歩きつきでサッサッと停車場を出て仕舞った。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
駒次郎がお袖に充分未練みれんがあつたことは、近所の人達もよく知つて居ります。押かけ嫁の祝言が近くなつて、駒次郎は最後の手段を取つたのでせう。
けてさむからうと、深切しんせつたにちがひないが、未練みれんらしいあきらめろ、と愛想尽あいさうつかしをれたやうで、くわつかほあつくなる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うらみにでもおもふだけがおまへさんが未練みれんでござんす、裏町うらまち酒屋さかやわかものつておいでなさらう、二やのおかくしんから落込おちこんで、かけさきのこらず使つか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きめていたんだ。朝倉先生が別れぎわに言われた言葉だけでは、まだいくぶん未練みれんを残していたがね。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おうさまは、おかんがえになりました。なにかこれには、子細しさいのあることかもしれない。ともすると、きさきたましいが、このたいして、ふか未練みれんをもっているからかもしれない。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、今度こんど仕事しごとばかりァそうじゃァねえ。この生人形いきにんぎょうさえ仕上しあげたら、たとえあすがへどをいてたおれても、けっして未練みれんはねえと、覚悟かくごをきめての真剣勝負しんけんしょうぶだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかたがないので、しまった戸の前に行って、未練みれんらしく力いっぱいそれをおしてみました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
火をわざわいといいましたろう、あのくらい、隔てなく愛するものはこの世にはありません、ひとたび火の洗礼をこうむった人には、微塵も未練みれんというものが残らないではありませんか
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いいながら、返答いかに? と思わず栄三郎、口ではとにかく、まだたっぷりと未練みれんがあるものか、あきらかに弱い不安を面いっぱいにみなぎらせて中腰にのぞきこんだとき
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
食事後しよくじご気分きぶんまえよりも一そう打寛うちくつろいだものであつたが、彼等かれら或者あるものなお未練みれんがましく私達わたしたちそばつてて、揉手もみてをしながら「キヤンニユスピイク、イングリシユ?」を繰返くりかえした。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……こうしてページの上をさすっていると、いろいろな文章がつぎつぎ記憶の中によみがえって来て、ちょうど眼で読んでいるような気持になれるのです。……未練みれんだと思うかも知れないけれど
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『もう何事なにごとさりますな。わたくしも、日出雄ひでをも、此儘このまゝうみ藻屑もくづえても、けつして未練みれんたすからうとはおもひませぬ。』と白※薇はくさうびのたとへばあめなやめるがごとく、しみ/″\と愛兒あいじかほながめつゝ
すると、岬の村がいっそうなつかしくなり、思わず未練みれんがましくいった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
肉がもう全く無いと見てぱっと未練みれんげも無く、その三羽も飛び立つ。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
となお未練みれんを云うている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
未練みれんな牡丹がまたひらく。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
未練みれんのこるといつたよに
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
大「なアに未練みれんがある」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
致すか汝は存じの外未練みれんやつぢや汝が懇意こんいにせしと云願山が其方并に靱負ゆきへの事まで殘らず白状はくじやうに及びたるぞ其方と靱負ゆきへ兩人にて勘解由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それゆえにこそこのとおり、礼をただして迎え、自害をすすめ、本分をとげさせんといたすものを、さりとは未練みれんなことば」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて未練みれんらしく立留って見たが、男の追掛けて来る様子はない。先程つまずいた松の木の梢にふくろうか何かの鳴く声がしている。
或夜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あぶない。出ますよ」と云う声の下から、未練みれんのない鉄車てっしゃの音がごっとりごっとりと調子を取って動き出す。窓は一つ一つ、余等われわれの前を通る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気候は海へはいるには涼し過ぎるのに違いなかった。けれども僕等は上総かずさの海に、——と言うよりもむしろ暮れかかった夏に未練みれんを持っていたのだった。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さりながら先祖せんぞたいいへたいするかう二人ふたりいのちなりてゝはえあるぞとおもへば何處いづくのこ未練みれんもなしいざ身支度みじたく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「私は坊主になつた氣で働きますよ、——賀奈女にもいよ/\これで縁切りだ。心の隅に殘つた未練みれんも、さつぱりとなくなつてしまひました。それぢや親分」
ちからかたむつくさぬうち、あらかじ欠点けつてん指示さししめして一思ひとおもひに未練みれんてさせたは、むしすくなからぬ慈悲じひである……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こう、くと、わたしのいままでのほこりとよろこびは、たちまちきえてしまいました。しかしちちはこういったけれど、まだ時計とけいたいして、いくらか未練みれんっているようでした。
時計と窓の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はたしてこころ平静へいせいたもてるであろうか、はたしてむかしの、あのみぐるしい愚痴ぐちやら未練みれんやらがこうべもたげぬであろうか……かんがえてても自分じぶんながらあぶなッかしくかんじられてならないのでした。
いかにも酒井氏の申さるること、道理至極、死すべき時に死せざれば死するにまさる恥がある。今はとても中山殿のお跡を慕うこともなり難し、いわんやまた、いまさらに妻子眷族に未練みれん
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしくまで夫人に未練みれんをもつ彼は、夫人が意に従わないときはあの映画を公開するといっておびやかしたのです。夫人はすべてを観念し、とうとう新宿のプラットホームからとびこまれたのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
座敷ざしきよといわれれば、三に一出向でむいてって、笑顔えがおのひとつもせねばならず、そのたびごとに、ああいやだ、こんな家業かぎょうはきょうはそうか、明日あすやめようかとおもうものの、さて未練みれん舞台ぶたい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
われの未練みれん
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
致し斯成かくなるうへ重置かさねおかれ二ツにせらるゝとも致し方無く思ひきつて云ひけれど忠兵衞儀は妻に未練みれんの有る處より私しばかり殺すわけにも相成あひならず其場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
友軍の荒木村重は何の未練みれんもなく、すでに書写山へ先発している。秀吉はしんがりを残して、徐々、後退を開始した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医師が余を昏睡こんすいの状態にあるものと思い誤って、忌憚きたんなき話を続けているうちに、未練みれんな余は、瞑目めいもく不動の姿勢にありながら、なかば無気味な夢に襲われていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
未練みれんなどがあることかはをとこ一疋いつぴきながら虚弱きよじやくちからおよばずたゞにもあらでやまひに兩親ふたおやにさへ孝養かうやう
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
少しばかり未練みれんもあつて、身上をわけてやる相談と言つて、お春をこの部屋に呼び寄せたが、その代り、その晩叔母のとこへ泊る筈だつたお玉が殺されてしまつた
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「姫はもう十二になった筈じゃな。——おれも都には未練みれんはないが、姫にだけは一目会いたい。」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またそれがためにいきほひし、ちからることは、たゝかひ鯨波ときげるにひとしい、曳々えい/\!と一齊いつせいこゑはせるトタンに、故郷ふるさとも、妻子つまこも、も、時間じかんも、よくも、未練みれんわすれるのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)