あと)” の例文
かねると、生徒せいとらは、さきあらそって廊下ろうかからそとへとかけしました。そのとき、りょう一は、先生せんせい教員室きょういんしつへいかれるあとったのです。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
他の一人ひとりは帽子が飛ぶと同時に飛んだ帽子の事だけ考へて、夢中になつてそのあとを追ふ。自転車にぶつかる。自動車にかれかかる。
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私がかれこれ半歳も入院したあとだつたので、行李の中の二人のものが一つもなくなつてゐるやうな貧しさも、私にひがみを起させた。
金魚 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
それを見た荷車曳きの爺さんは、またあとがへりをしてきて、子供たちの前に立ちはだかりました。そして前とは打つて変つて丁寧に
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それはじぶんが捨てて来た唖の女ではないか。石川は急いで車に乗って一行のあとを追ったが、ひどい熱が出て芝居ができないようになった。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
婆さんはあとから来て休みもせずどんどん先へと歩いて行く人達の後姿をぼんやり見送っていたが、すぐには立上ろうともしなかった。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十一二のあみさげで、そでの長いのが、あとについて、七八ツのが森の下へ、うさぎと色鳥ひらりと入った。葭簀ごしに、老人はこれを透かして
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はまた同時に車夫に帰つて、私のうちの父や番頭の大阪行を引いて来たあとを、銀場ぎんばいたで向ひ合つて食事などをして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あとになってから非常に有利な事がある実例を知っていたので、コンナにヘトヘトになるまで、悲鳴をあげて抵抗し続けたのであった。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是公はもとよりゼントルメンのあとを何とかつけなければならない。ところがゼントルメン以外の英語があいにく一言ひとことも出て来なかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頃柳橋やなぎばしに芸者が七人ありまする中で、重立おもだった者が四人、葮町よしちょうの方では二人、あとの八人はい芸者では無かったと申します。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼等はさきに我ひとりあとよりゆけり、我は彼等のかたる言葉に耳を傾け、詩作についての教へをきくをえたりしかど 一二七—一二九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「だつて、三年のあとでこんなところで御目にかゝつたんですものね。よく忘れずにゐて下すつたのね? 私がわるかつたのに——」
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
半七は時々うしろを見かえりながら善光寺門前へさしかかると、源次は怱々そうそうに仕事を片付けたと見えて、やがてあとから追って来た。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども、グラント・マンロー氏は、もどかしそうに、ぐんぐん歩いて行った。そして私たちも、出来るだけ早く彼のあとに従った。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
「はッ、御用に御座りまするか」と徒歩女中には口を利かせず、直ぐ駕籠あとに立った老女笹尾ささおが、結び草履の足下を小刻みに近寄った。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
平生へいぜいは一ぽんきりしてゐないけれども、二本帶ほんさしてある資格しかくつてゐて、與力よりき京武士みやこぶしあとまはらなくてもいいだけの地位ちゐになつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
船頭はやはり二人で、さおをつつッと突張つっぱるや否や、あとのがべそを調べると、櫓をからからとやって、「そおれ出るぞぉ」である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
(お嬢様は、萩乃がこうしておあとを慕って来ているとは、夢にも御存じないであろう。……ああ早く行き会いたいが)と、念じた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして結局は容れてくれるとしても、今私は大学の三年ですから、あと一年たって卒業したら、期限つきで許してくれるかも知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
さてそれから少しあとのことであった。今まで狩猟などをもよろこんでいたことであるから定基のところへ生き雉子きじを献じたものがあった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仏蘭西フランス語の調子アクサンの変な所を思ふと英国の貴婦人で、ロダン翁の弟子として翁の身の廻りの世話をして居るのだらうとあとで曙村が云つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
じいさんがはからず大福運を得たすぐあとに、きっともう一度悪い爺さんがうらやんで真似そこなって、ひどい失敗をする段が伴なっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わしは、お前さんの道楽で長い間、苦しまされたのだから、あとに残る宗太郎やおみね(私の父と母)だけには、この苦労はさせたくない。
勝負事 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その意味で我々は単なる「秩序」であるギリシャと、単に「衝動」であるロマンティクをあとに見ながらより彼方へその進路を向けている。
スポーツの美的要素 (新字新仮名) / 中井正一(著)
先方へ延びずにあと退さがり、西飛の癖として、火先へ延びず、逆に尻火に延び、反対に退却した形になって仲町から田原町へと焼けて来た。
そのあとより続いて出てお出でなさるはいずれも胡麻塩ごましお頭、弓と曲げても張の弱い腰に無残やから弁当を振垂ぶらさげてヨタヨタものでお帰りなさる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蔽い被せるようです。運命が……と思う頃には、もうあとにも先にも恐ろしいものが見透しのつかないほど深く立ち籠めています。
囚われ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
三尺ほど高く床が張ってあって、へりなしの踏むあとからへこんで、合わせ目から虫の這い出そうなボコボコの畳が黒く八畳ほど敷いてある。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
『ああ、いい塩梅あんばいちやがつた。自分じぶん眼玉めだまふなんて阿呆あほうがどこにゐる。ペンペの邪魔じやまさえゐなけりや、もうあとはをれのものだ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
といって、ある日そっとむすめあとから一間ひとまはいってきました。そしてむすめ一心いっしんかがみの中に見入みいっているうしろから、けに
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
実は自分は梅子さんもらいたいと兼ねて思っていたのであるから、井下伯に頼んで梅子さんだけめて置いてあとから交渉して貰う積りでいた
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「お前、新米じゃが、特別に、明日の組に入れてやった。ありがとう思え。それで、ちょっと、相談があるけ、あとに残ってくれ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それだからこそまた、あとからこの集会部屋にはいってきたんだわ。いつもはそんなことはしないし、いわば禁じられてもいるんですけれど
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
百瀬しのぶは、その時は黙つていたけれども、彼が工場の門を出ようとすると、あとを追いかけて来て、みちみちこんな風に話しかけた——
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
あとから清子も行くことになる前に、音楽家の北村氏夫妻が、新劇団体をつくるのに、女優にならないかと勧められて、清子の心は動いた。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はとうとうお婆さんに追い付きまして共に話しつつ行きますとそのお婆さんは「あの二人の人たちはよほどあとですか」という。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あるひまたひらいたままにのこつた地割じわれもあつたが、あと檢査けんさしてると、其深そのふかさは計測けいそくすることが出來できないほどのものであつたといふ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
このドクダミははなはだ抜き去りがたく、したがって根絶こんぜつせしめることはなかなか容易でなく、抜いても抜いてもあとからえ出るのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
やがてとうさんは伯父をぢさんのあといて、めづらしい初旅はつたびのぼりました。とうさんがあるいてみち木曽路きそぢとも、木曾街道きそかいだうともいふみちでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
客殿きやくでんの格子戸をひらけば、なまぐさき風の一九五さと吹きおくりきたるに恐れまどひて、人々あとにしりぞく。豊雄只一九六声を呑みて嘆きゐる。
「ふふふふ。みっともねえ。こんなことであろうとおもって、あとをつけてたんだが、おかみさん、こいつァ太夫たゆうさんのはじンなるぜ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
帽子屋ばうしやは、福鼠ふくねずみつて、あとからつゞいて法廷ほふていはいつてた三月兎ぐわつうさぎて、『三ぐわつの十四だつたとおもひます』とひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そこで、外國人ぐわいこくじん吾等われら立去たちさつたあとで、このしま上陸じやうりくして、此處こゝ自分じぶんが、第一だいいち發見はつけんしたしまだなんかと、くだひたつて無益だめもうすのだ。
始めに第一流の人物を交換したのではあとが六ずかしい、始めは二流、三流、もしくば四流で交換してはドウかと返事を出した。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
赤裸々の醜をさらけ出して、皆を座に堪へぬまで赤面させ自分はあとで指弾と、冷罵と、憫笑とを、播いた収穫として投げ返されると知つて
愛人と厭人 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そして自分の能力をためすことは不精げにあと回しとして、まず内心に咲き乱れてる花に誇らかに酔って、陶然としてしまった。
全く莫迦ばか々々しい話だが、其の時の泥酔したやうな変な気持をあとで考へて見ると、どうやら私は一寸熱帯の魔術にかかつてゐたやうである。
夾竹桃の家の女 (新字旧仮名) / 中島敦(著)