たくみ)” の例文
是等これらわば従であり人が主であるから、必要に迫らるれば、随分無理をして、といっても、たくみに自然を利用することを忘れないで
(新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その他、鮨の材料を採ったあとのかつお中落なかおちだの、あわびはらわただの、たいの白子だのをたくみに調理したものが、ときどき常連にだけ突出された。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼はたしかに老人ではない、変装しているのだ。そう思って見ると、いかにもたくみに地の毛のように見せかけてはあるが、どうもかつららしい。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
鮎子が右に左に通せんぼうをするのを、たくみにかいくぐって、尻尾しっぽの二郎美少年をつかまえる遊戯だ。陸上の「子を取ろ、子取ろ」である。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この人はよはひぼ我と同じくして、その家は貴族なり。心爽かにして頓智あり、會話もいとたくみなれば、人皆その言ふところを樂み聽けり。
竹田は詩書画三絶を称せられしも、和歌などはたくみならず。画道にて悟入ごにふせし所も、三十一文字みそひともじの上には一向いつかうき目がないやうなり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
過去はぼんやりしたものです。そうして何処どこかになつかしい匂いを持っています。あなたはそれをたくみに使いこなして居るのでしょう。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
句風以外の特色をいはんか、鳥取の俳人は皆四方太しほうだ流の書体たくみなるに反して、取手とりで下総しもうさ)辺の俳人はきたなき読みにくき字を書けり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
如何に相手に真剣の愛を注いでいる如く如何にたくみに装っているにしても、同時に一方に一件の事を思い出さぬわけには行きませぬ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すぐれたところをあげれば、才もあり智もあり、物にたくみあり、悟道のえにしもある。ただ惜むところはのぞみが大きすぎて破れるかたちが見える。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
知識人は大宅壮一のたくみな表現によれば、急テンポに半インテリに化されつつある、それは本当です、作家が、そこにおらくについている。
紙細工かみざいく薔薇ばらの花、この世にあるまじき美をたくみにも作り上げた紙細工かみざいく薔薇ばらの花、もしや本當ほんたうの花でないかえ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それも響、動をトヨムと訓むことにしての例である。そうして見れば、「入江響むなり」の用例は簡潔でたくみなものだと云わねばならない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ただし市井の新聞記事から、たくみに材料を選び出して、作の基調にするという、そういう際物的やり方には評者は大いに賛成する。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金銀きんぎん珠玉しゆぎよくたくみきはめ、喬木けうぼく高樓かうろう家々かゝきづき、花林曲池くわりんきよくち戸々こゝ穿うがつ。さるほどに桃李たうりなつみどりにして竹柏ちくはくふゆあをく、きりかんばしくかぜかをる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鈴木春信は可憐なる年少の男女相思の図と合せて、また単に婦人が坐臥ざが平常の姿態を描きたくみに室内の光景と花卉かきとを配合せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おれは辞退してその女と一緒に歩いたことは無かつたが、おれはその女のたくみに素早く化粧する所をれの部屋で見せて貰つたことなどもあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先ずお国柄だから、当局がたくみかじを取って行けば、殖えずに済むだろう。しかし遣りようでは、激成するというような傾きを
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お糸の態度は明かに金次郎をかばつてゐるに違ひありませんが、かうたくみにいひのがれられると、まさか若い娘を縛り上げるわけには行きません。
土手の甚藏がお賤の宅へ参りましたのは、七日も過ぎましてから、ほとぼりの冷めた時分くのはたくみの深い奴でございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其の様を見るに三尺児といへどなほ弁ずべきを、頑然首を差伸べて来る。古狸たくみに人をたぶらかし、其極終に昼出て児童の獲となること、古今の笑談なり。
むかし延長えんちやうの頃、三井寺に興義こうぎといふ僧ありけり。絵にたくみなるをもて名を世にゆるされけり。つねゑがく所、仏像ぶつざう山水さんすゐ花鳥くわてう事とせず。
才分に富んだ女が真実に自己を発揮したならば、『源氏物語』のようなたくみな作がこの後とても出来ないとは限りません。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
れが悲みもれが涙もれが失望の絶叫もすべいとたくみなる狂言には非ざるや、藻西太郎の異様なる振舞も幾何いくらか倉子の為めにれるには非ざるや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
是以こゝをもつて君をはいして親王を立、国柄こくへいを一人の手ににぎらんとの密謀みつぼうあり 法皇ほふわうも是におうじ玉ふの風説ふうせつありとことばたくみざんしけり。時に 延喜帝御年十七なり。
黒い蜂が蜘蛛をとりにきてたくみに巣からとってゆく日があった。また蝙蝠こうもりの飛ぶ夕べがあった。雨の日も、雷の日も。
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
大原君、僕は日本人の肉食をさかんにするため豚の利用法を天下に広めたいと思う。豚の肉は牛肉よりもやすくってたくみに調理すると牛肉より美味うまくなる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
締めるように、相手と同じレベルに下って、幼稚な感情や思索の動きにたくみにバツを合せて行かなければいけません
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「どうしても事務外の事務のたくみなものは違ッたものだネ、僕のような愚直なものにはとてもアノ真似は出来ない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こゝいてか滿座まんざこと/″\拍手はくしゆ喝釆かつさいしました、それはしん王樣わうさま其日そのひおほせられたうちもつとたくみみなるお言葉ことばでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
日本人のまなこを以て見れば王子もまたただ不浄の畜生たるに過ぎず云々うんぬんとて、筆をたくみに事細かにかいやったことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
うるしの花だなも」で、たくみさおを操るともの船頭である。白のまんじゅう笠に黒色あざやかに秀山霊水と書いてある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
たくみすぎた落ちがある。完成され切ったいやらしさ。そう感ずるのも、これも、私の若さのせいであろうか。
富士に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
寛蓮たくみに帝の御いたづらの裏をかき、かねて別の枕を用意しておいて井戸へ投げこみ、自分はそつと引返してまんまと真物ほんものは我家へ持帰つてしまつたのである。
醍醐の里 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
手を振り声を潜め眼を円くして、古城で変な足音の聴えた事や、深林に怪火あやしびの現われた事など、それかられへとたくみに語るので、娘達はこわければ恐い程面白く
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
二六 柏崎の田圃たんぼのうちと称する阿倍氏はことに聞えたる旧家なり。この家の先代に彫刻にたくみなる人ありて、遠野一郷の神仏の像にはこの人の作りたる者多し。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この英・米の対立競争をたくみに利用したところに陸奥宗光むつむねみつ外交が不平等条約の改正に成功した秘密がある。
黒船来航 (新字新仮名) / 服部之総(著)
なお進めば落葉の下を潜る露の雫をもなづけて河といえるようなもので主義の本などいうことも、殆ど言葉のたくみなる用法によりて如何いかようにも説明されるけれども
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ことに背の低い山県行三郎やまがたかうざぶらうといふのは、自分の漢詩にたくみであることを知つて、喜んでその自作の漢詩を示し、好くその故郷ふるさとの雪の景色を説明して自分に聞かせた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
◯一節—十節のこの呪詛のろいの語のいかに深刻痛烈なるよ。その中二、三の難解の語を解せんに、八節に「日を詛う者、レビヤタンを激発ふりおこすにたくみなる者、これを詛え」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
鋏がその巣を荒すと、蜘蛛は曲芸師のたくみさで糸を手繰たぐりながら逃げて行く。それを大きな鋏が追駆ける。
すゝみ其は旅籠屋の下女がたくみならん貴樣の方にくしはなしとはかりたるに先には鼈甲べつかふの櫛の幾個いくらもあらんにより指替さしかへ似寄によりの品を出して貴樣をあざむき歸せしなるべし其女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかも放埒な性質のため、たくみな詐欺手段で有名なロンドンの商人から、莫大なお金を取ったのだった。
われ曹くより爾が罪を知れり。たとひ言葉をたくみにして、いひのがれんと計るとも、われ曹いかで欺かれんや。重ねて虚誕いつわりいへぬやう、いでその息の根止めてくれん
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
また明治の初年には龕燈提灯がんどうちょうちんという、如何に上下左右するも中の火は常に安定の状態にあるように、たくみに造られたものがあったが、現に熊本県下にはまだ残存している。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
「それといはぬはあつちのたくみ、維盛様御夫婦の路用にせんと盗んだ金、おめえを証拠に取りちがへ」
おつぎは十八じふはちというても年齡としたつしたといふばかりで、んな場合ばあひたくみつくらふといふ料簡れうけんさへ苟且かりそめにもつてないほどめんおいてはにごりのない可憐かれん少女せうぢよであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲイアラスコト、なお蛆虫うじむし胡桃くるみノ固キから穿うがチテ、中ノ実ヲたくみニ喰イツクスガごとシ」と、ナブ・アヘ・エリバは、新しい粘土の備忘録にしるした。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
紀州に光明寺といふ黄檗わうばくの寺がある。が、そこの開山かいさんは円通といふ草書にたくみな坊さんだつた。
既に解剖した屍體をすら平氣で而もたくみに縫合はせる位であるから、其がよし何樣どんな屍體であツても、屍體を取扱ふことなどはカラ無造作むざうさで、鳥屋が鳥を絞めるだけ苦にもしない。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)