勿体もつたい)” の例文
旧字:勿體
卑しい傀儡くぐつの顔を写しましたり、不動明王を描く時は、無頼ぶらい放免はうめんの姿をかたどりましたり、いろ/\の勿体もつたいない真似を致しましたが
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、良寛禅師の書を、あんな風におもていさらしておくのは、勿体もつたいないことです。あれは、おしまひになる方が、いいと思ひます。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
その石けんはラツクスといつて、人間でもめつたには使はない上等の石けんですから、お猫さんのうちなんかで使ふのは勿体もつたいないぐらゐです。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
風情ふぜいのなま/\に作り候物にまでお眼お通し下され候こと、かたじけなきよりは先づ恥しさに顔あかくなり候。勿体もつたいなきことに存じ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今となつてみると、新雪の輝やく富士山がよく見えぬからと言つて、出洒張でしやばつた杉木立の梢をうらんだのは、勿体もつたいない気がする。
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
 目がめてから考へれば、実に馬鹿馬鹿しくつまらぬことが、夢の中では勿体もつたいらしく、さも重大の真理や発見のやうに思はれるのである。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
あたしだつて人間だもの、まさかお前の心のめていないでもなかつたけれど、そこにア、それ……、かういつちや勿体もつたいないけどまつたくさ。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
話の波が、また中央まんなかかへつて来た。が、頭を青々と剃立そりたてた生若なまわかい坊さんは、勿体もつたいぶつた顔にちよいと微笑を浮べただけで何とも答へなかつた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
ならひが出來できたれば此次このつぎにはふみきてせ給へと勿体もつたいない奉書ほうしよう半切はんきれを手遊おもちやくだされたことわすれはなさるまい
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新画の高い今時、そんな勿体もつたいない事があるものかと、鉄斎が外出そとでをする時には、途中が危いからと言つて、屹度きつと附人つきびとを一人当てがふ事にしてゐる。
なにも、家伝かでん秘法ひはふふて、勿体もつたいけるでねえがね……祖父おんぢいだいからことを、やう見真似みまねるでがすよ。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勿体もつたいないこつちや、勿体ないこつちや、これも将棋を指すおかげだす。」と言つたといふくらゐ、総檜木ひのき作りの木のも新しい立派な場所であつた。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
だつて貴方あなた度々たび/″\の事ですから一らつしやいな、あんま勿体もつたいけるやうに思はれるといけませんよ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうしたんでせうねえ。勿体もつたいないわ、貴方方に。」などとお糸さんは私に同情してくれる丈であつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
宿に帰つて、早速亭主を呼んで訊いて見ると、案の如く天理教はまだ入込んでゐないと言ふ。そこで松太郎は、出来るだけ勿体もつたいを付けて自分の計画を打ち明けて見た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お常婆は雨の降りしきる或晩、弓張提灯ゆみはりぢやうちんなど勿体もつたいらしくつけて、改まつて家へ来た。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
後家ごけを立て通すが女性をんな義務つとめだと言はしやる、当分は其気で居たものの、まア、長二や、勿体もつたいないが、おやうらんで泣いたものよ——お前は今年幾歳いくつだ、三十を一つも出たばかりでないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さういふ時には勿体もつたいないと思つてそこだけ取はづすことなどもあつた。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「実はたきゞにしたいんでお願ひに来たんですが譲つておくんなさいな。あゝして打つちやらかして置いちや勿体もつたいなうござんす。今に木の子が立つちやあ薪にもつかへやしませんぜ。どうでせう……」
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子しゆすの服を着て、勿体もつたいらしく、どんぐりどもの前にすわつてゐました。まるで奈良ならのだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のやうだと一郎はおもひました。
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一ばん大きいは、もう夕御飯のお米まで、ちやんと今朝といで学校に行つてくれたし、お菜もつくつてはいけないと云ふし、わたしは、なんにもすることがなくつて、あアあ、ほんとに勿体もつたいなくて
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
さて残つたのを捨てる訳にもいかず、犬に呉れるは勿体もつたいなし、元の竹の皮に包んで外套ぐわいたう袖袋かくしへ突込んだ。斯うして腹をこしらへた上、川船の出るといふ蟹沢を指して、草鞋わらぢひも〆直しめなほして出掛けた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
実に勿体もつたいなくも有がたき事ならずや……
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やれ、いたや、勿体もつたいなや
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「第一、勿体もつたいないやね。こんな上等な土地を玩具おもちやにするなんて、全くよくないこつた! それにはつと広過ぎるよ。」
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
朝日あさひかげたまだれの小簾をすにははぢかヾやかしく、むすめともはれぬ愚物ばかなどにて、慈悲じひぶかきおや勿体もつたいをつけたるこしらごとかもれず、れにりてゆかしがるは
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしわたしにかういふいゝことををしへてくだすつた母様おつかさんは、とさうおもときふさぎました。これはちつともおもしろくなくつてかなしかつた、勿体もつたいないとさうおもつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勿体もつたいなくも御水を頂かれた上からは、向後かうご『れぷろぼす』を改めて、『きりしとほろ』と名のらせられい。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春には花が咲き、秋には紅葉もみぢがわしの眼を、たのしませてくれる。何といふ有難いことだ。何一つ世の中のために出来なかつた、わしのやうなものには、ほんたうに勿体もつたいない位だ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
私よくは存ぜぬことながら、私の好きな王朝の書きもの今に残りをり候なかには、かやうに人を死ねと申すことも、おそれおほく勿体もつたいなきことかまはずに書きちらしたる文章も見あたらぬやう心得候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「ボタン遊びさ。」と、あひるさんが勿体もつたいぶつて答へました。
耳長さん と あひるさん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
阿母おつかさん、勿体もつたいない、悪く取るなんてことあるものですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
勿体もつたいない事であつたれど知らぬ事なればゆるして下され、まあ何時いつからこんなことして、よくそのか弱い身に障りもしませぬか、伯母さんが田舎へ引取られておいでなされて
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さあ、正直に白状おし。お前は勿体もつたいなくもアグニの神の、声色こわいろを使つてゐるのだらう。」
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ものもらひとは勿体もつたいない
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
母親はヽおやわかれにかなしきことつくしてはらわたもみるほどきにきしが今日けふおもひはれともかはりて、親切しんせつ勿体もつたいなし、殘念ざんねんなどヽいふ感念かんねん右往左往うわうざわうむねなかまわしてなになにやらゆめ心地こヽち
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
菜売の媼 勿体もつたいない事を御云ひでない。ばちでも当つたら、どうおしだえ?
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勿体もつたいなきこととはりながららうへの待遇もてなしきのふにはず、うるさきとき生返事なまへんじして、をとこいかればれもはらたゝしく、おらぬものなら離縁りゑんしてくだされ、無理むりにもいてはとたのみませぬ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勿体もつたいらしくしやがんでゐる。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よし人目ひとめにはこひともこヽろくるはねばと燈下とうか對坐むかひて、るまじきこひおもひをるしさ、さとしはじめよりの一ねんかたり、めてはあはれとのたまへとうらむに、勿体もつたいなきことヽて令孃ひめ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
六三ろくさいとまつたくより、こヽろむすぼほれてくることく、さて慈愛じあいふかき兄君あにぎみつみともはでさし置給おきたま勿体もつたいなさ、七万石ひちまんごくすゑうまれておやたまとも愛給めでたまひしに、かはらにおとる淫奔いたづらはづかしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
りてまへではなんでありしやら兄弟きようだいにもなき親切しんせつこののちともたのむぞやこれよりはべつしてのことなにごともそなた異見いけんしたがはん最早もういまのやうなことふまじければゆるしてよとわびらるゝも勿体もつたいなくてば甘露かんろと申ますぞやとるげにへど義理ぎりおもそで
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もこがすなる勿体もつたいなけれど何事なにごとまれお腹立はらだちて足踏あしぶみふつになさらずはれもらにまゐるまじねがふもつらけれど火水ひみづほどなかわろくならばなか/\に心安こゝろやすかるべしよし今日けふよりはおにもかゝらじものもいはじおさはらばそれが本望ほんまうぞとてひざにつきつめし曲尺ものさしゆるめるとともとなりこゑ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)