がん)” の例文
飛んでゐる五六羽の鳥はとびだかがんだか彼れの智識では識別みわけられなかつたが、「ブラツクバード」と名づけただけで彼れは滿足した。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
此の空地を斜に横ぎツて、四十人に餘る生徒が、がんが列を亂したやうになツて、各自てんでん土塊つちくれを蹴上げながら蹴散らしながら飛んで行く。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ええ、毎日注文があります。しかしがんの方が、もっと売れます。雁の方がずっとがらがいいし、第一手数がありませんからな。そら。」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
がんの卵がほかからたくさん贈られてあったのを源氏は見て、蜜柑みかんたちばなの実を贈り物にするようにして卵をかごへ入れて玉鬘たまかずらへ贈った。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
殊にがんからすとはちがって、いかにそれが江戸時代であっても、仮りにも鷲と名のつくほどのものが毎日ぞろぞろとつながって来る筈がない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と徳利を突出した、入道は懐から、鮑貝あわびがい掴取つかみとって、胸を広く、腕へ引着け、がんの首をじるがごとく白鳥の口からがせて
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二葉亭ふたばていの『浮雲』や森先生の『がん』の如く深刻緻密ちみつに人物の感情性格を解剖する事は到底わたくしの力のくする所でない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
モドキは「よく似ているもの」のことだから、あるいはがんの味がするとでもいったのであろう。このくらいの誇張は商品にはありがちである。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鳥類でも、がん、鴨というふうに大きいのは時間をおいた方がよく、小鳥等はやはり獲りたてに近い新鮮な方がよいのです。
やがて、あなたが、きた故郷こきょうげなさるときには、このゆきも、がもも、がんもあなたのおともをして、いっしょにいってしまうのでしょう。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんなおしゃべりをしていますと、突然とつぜん空中くうちゅうでポンポンとおとがして、二がんきずついて水草みずくさあいだちてに、あたりのみずあかそまりました。
えりの寒さに又八道心は雲を見あげた。時雨しぐれもようの陽であった。がんが二、三羽、翼の裏を見せてそこらの近いへ下りた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小舎こやかへつてからもなほ、大聲おほごゑきながら「おつかあ、おいらはなんで、あのがんのやうにべねえだ。おいらにもあんないいはねをつけてくんろよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
真冬の二月は頬白ほおじろ目白めじろも来てくれないので、朝はいつもかわらないすずめ挨拶あいさつと、夜は時おり二つ池へおりる、がんのさびしい声をきくばかりだった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
がんであった。——空飛ぶ雁をゴミのようだったと私が言うのを、読者はあるいは私の下手へたな作り話、大げさな言い方と笑いはせぬかと、私は恐れる。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
恐らく牛王院山(御殿岩)の北側を通ってがん峠の路へ合し、雁坂峠の新道へ出て栃本へ下るのではあるまいかと思う。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
池は心の字の形なり。がんかも鸂鶒けいせき群集し鯉鮒游泳して人の足声を聞て浮み出づ。島ありて雁の巣ありといふ。三橋を架す。社地は古の安楽寺の地なり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
およそ陸鳥りくてうは夜中めくらとなり、水鳥すゐてうは夜中あきらか也。ことにがんは夜中物を見る事はなはだ明也。他国はしらず我国の雁はおほくはひるねふり、夜は飛行とびありく。
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
夕焼け赤きがん腹雲はらぐも、二階の廊下で、ひとり煙草を吸ひながら、わざと富士には目もくれず、それこそ血のしたたるやうな真赤な山の紅葉を、凝視してゐた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
きじ、山鳥、がんは七日目ないし八日目です。鹿、いのしし、熊、猿、白鳥、七面鳥は八日目以上を食べ頃としたものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
せんがんずといえども、一雁を失わず、一計双功を収めずと雖も、一功を得る有り。永楽帝のあにあえて建文をもとむるを名として使つかいを発するをさんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その日にはこの界隈にくる豆腐屋もラッパを吹いたあとで、「とうふイ、生揚なまあげがんもどき、こんちはうまの日。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
群は、前後に、いくつかのかたまりになって、無数のがんの群がとんでいるのと、どこか似たところがあった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
煕々ききとして照っていた春のはいつかはげしい夏の光に変り、んだ秋空を高くがんわたって行ったかと思うと、はや、寒々とした灰色の空からみぞれが落ちかかる。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「歌を詠む参考に水鳥の声をよく聞いときなさい。もう、かもがんも北の方へ帰る時分だから」と言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
虫の音なんかも聞こえず、がんのこえなんかもしない。妻はいつの間にか幽かな息をしながら寝入ったらしい。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その鵞筆がぺんと云うのは如何どう云うものであるかと云うと、その時大阪の薬種屋やくしゅやか何かに、鶴かがんかは知らぬが、三寸ばかりにきった鳥の羽の軸を売る所が幾らもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私信ですけれども差支さしつかえがないと思いますから次に載せます。文中の緒方氏は森鴎外先生の「がん」という小説の中に「岡田」という姓で書かれている医学生です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
林を縫って細流が蛇行し、板塀いたべいの外へと流れ出ている。板塀の外は「沼」と呼ばれる湿地で、蘆荻ろてきがまが密生してい、冬になるとかもがんしぎばんなどが集まって来る。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宿しゆくを通してまちの中に清き流れありてこれを飮用のみゝづにも洗ひ物にも使ふごとし水切みづぎれにて五六丁も遠き井戸にくみに出る者これを見ばいかに羨しからん是よりがんとり峠といふを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しばらくは無言でぼんやり時間を過ごすうちに、一列のがんが二人を促すかの様に空近く鳴いて通る。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
宿々のとまりで、罨方あんぽうしたり冷したり、思いつく限りの手当をぬかりなくやってみたが、ふぐり玉は一日ごとにふくれむくみ、掛川の宿では、とうとうがんの卵ほどに成上り
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自分の家でもこの女から油揚あぶらあげだのがんもどきだのを買う。近頃は子息むすこも大きく成って、母親おっかさんの代りに荷を担いで来て、ハチハイでもやっこでもトントンとやるように成った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
晩餐の卓に就いて居た時、動き出さうとする汽車を目懸めがけて四羽のがんの足を両手で持つて走つて来る男があつた。再び汽車が止まると食堂のボオイが降りてそのがんを買つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ほら、この湖には、白鳥や、がんや、かもが棲んでいましたし、土地の古老の話によると、あらゆる種類の鳥が無慮無数に群棲ぐんせいしていて、まるで雲のように空を飛んでいたそうです。
新しい近江八景を選ぶのもいゝが、何処かに一つづつがんや雨やをあしらつて欲しいものだ。
「冬は北の方の山から来るわね。がんがさきぶれをして黒い車にのって来るといの」
玩具の汽缶車 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
近いうちに裏の田んぼでがんをつる約束がしてあったのです、ところがその晩、おッアと樋口は某坂なにざかの町に買い物があるとて出てゆき、政法の二人は校堂でやる生徒仲間の演説会にゆき
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
迷亭にがんが食いたい、雁鍋がんなべへ行ってあつらえて来いと云うと、かぶこうものと、塩煎餅しおせんべいといっしょに召し上がりますと雁の味が致しますと例のごとく茶羅ちゃらぽこを云うから、大きな口をあいて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がんやつばめの去来は昔の農夫には一種の暦の役目をもつとめたものであろう。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あたかも欧米に沙翁学シェキスペリアナを事とする人多く、わずか三十七篇の沙翁の戯曲の一字一言をもゆるがせにせず、飯を忘れ血を吐くまでその結構や由来を研究してやまず。がんが飛べば蝦蟆がまも飛びたがる。
先ず客を招く準備として、襖絵ふすまえ揮毫きごう大場学僊おおばがくせんわずらわした。学僊は当時の老大家である。毎朝谷中やなかから老体を運んで来て描いてくれた。下座敷したざしきの襖六枚にはあしがん雄勁ゆうけいな筆で活写した。
先にたつものにならうがんのように、みんなも同じほうを見た。小ツルが歩きだすとまた歩く。やがて、いつのまにかみんなの視線しせんは一つになって海の上にそそがれ、歩くのを忘れてしまった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
以上いじようとほり、われ/\は内外ないがい活火山かつかざんをざつと巡見じゆんけんした。そのたがひ位置いち辿たどつてみるとひとつの線上せんじようならんでゐるようにもえ、あるひがん行列ぎようれつるようなふうにならんでゐる場合ばあひ見受みうけられる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
が、寒潭かんたんを渡るがんのように、その影が去ると、元の平静に返ります。
がん腹摺山はらすりやま」という名の如何にも古朴にして芸術味に富んだ事
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
がんの群今かへるらし雪のこる遠山ゑんざんの空をわたりて過ぎぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
がんが来た、雁が来た、田甫たんぼの上に雁が来た
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
がいかにもアツト・ホームながん
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)