なか)” の例文
私がなかにはいってめた苦労の十が一だって、あなたには察しができやしません。私はどれほど皆から責められたかしれないのですよ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
次第に黒くなりまさるうるしの如き公園の樹立こだちなかに言ふべからざる森厳しんげんの趣を呈し候、いまにも雨降り候やうなれば、人さきに立帰り申候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
播磨はりまの伊藤といへば往時むかしからの百万長者、随分むつかしい家憲もあれば家風もある。気の毒にもそんななかに生れ落ちたのが今の伊藤長次郎氏。
それから何と言うかと思うと、おれは日本鉄道の曽我とは非常に懇意のなかだ、何か話しがあるならば曽我に挨拶しようと言う。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「実はと申すと、あなたのお母さん始め、私また民子の両親とも、あなたと民子がそれほど深いなかであったとは知らなかったもんですから」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
何一つ御不足ということが旦那様と奥様のなかには有ません。唯御似合なさらないのは御年です。ある日のこと、下座敷へ御客様が集りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
古日ふるひを恋ふる歌」(巻五・九〇四)にも、「世の人の貴み願ふ、七種ななくさの宝も我は、なにせむに、我がなかの生れいでたる、白玉の吾が子古日ふるひは」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
甲走かんばしったその声が、彼の脳天までぴんと響いた、作は主人の兄にあたるやくざ者と、どこのものともしれぬ旅芸人の女とのなかにできた子供であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あなたをよく思わせたのですよ、殿様はなか/\凛々りゝしいお方ですから、貴方あなたと私とのなかが少しでも変な様子があれば気取けどられますのだが、ちっとも知れませんよ
家督かとくとし近村よりおやすといふよめもら親子おやこ夫婦のなかもよくいとむつまじくかせぎけり斯てあに作藏は勘當の身と成しを後悔こうくわいをもせず江戸へ出で少しの知己しるべ便たよりて奉公の口を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其貝層そのかいそうのシキまで掘下ほりさげてると、萬鍬まんぐわつめなかうまくゞつて、つちなかから、にゆツと突起物とつきぶつ
同商売の者は成るべくトラスト流に合同して大資本を作つて大きな商売をして貰ひたいのだが、日本人同志のなかではけちな利慾心が邪魔をするからとても相談が纏まらない。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
たがひなかあつたかとこがあツて欲しいといふことなんだ………が、おれの家では、お前もひとりなら、俺もひとりだ。お互に頑固に孤獨を守ツてゐるのだから、したがツてお互にひやツこい。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
此地こつちへ来るまでは、僕は十分信じてをつた、お前さんに限つてそんな了簡りようけんのあるべきはずは無いと。実は信じるも信じないも有りはしない、夫婦のなかで、知れきつた話だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其麽そんななかに立つてゐる温和おとなしい静子には、それ相応に気苦労の絶えることがない。実際、信吾でも帰つて色々な話をしてくれたり、来客でもなければ、何の楽みもないのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一 言葉を慎みておおくすべからず。仮にも人をそしり偽を言べからず。人のそしりきくことあらば心におさめて人に伝へかたるべからず。そしりを言伝ふるより、親類ともなか悪敷あしくなり、家の内おさまらず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「大体だけじゃない、すっかり分ってるさ。それにきまってるよ。それにねえ、横田さん夫婦は、君が想像するような水臭いなかじゃない。僕はそのために一寸困ったことがあるんだ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あれさ、ためといって佃の方の店で担人かつぎをしていた者でね、内のが病気中、代りに得意廻りをさすのによこしてもらったんだが、あれがまた、金さんと私のなかを変に疑ってておかしいのさ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
児童こどもなかの遊びにも片親無きは肩すぼる其の憂き思を四歳よつより為せ、六歳むつといふにはまゝしき親を頭に戴く悲みを為せ、雲の蒸す夏、雪の散る冬、暑さも寒さも問ひ尋ねず、山に花ある春の曙
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
たまたま家と家とのなか絶えて、流れ込む街燈の光に武男はその清人しんじんなるを認めつ。同時にものありて彼が手中にひらめくを認めたり。胸打ち騒ぎ、武男はひそかに足を早めてそのあとを慕いぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
で、この夫婦養子のなかに間もなく出来たのが、今の重右衛門。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
又は牧場まきばなかに立つ数ある街の一つなれば
たちまち、しゆの波のなかに吸はれる。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
賄賂わいろを取るときまつたその頃の役人のなかで、これはまた打つて変つた潔白者けつぱくもので、他人ひとからの進物といつては何一つ手にしなかつた。
すかして見ると、灰色の浪を、斜めに森のなかにかけたような、棟の下に、薄暗い窓の数、厳穴いわあなの趣して、三人五人、小さくあちこちに人の形。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追ひ駈けて来た未亡人の母親と番頭のためになかを裂かれて、半歳余りの夢も粉々に砕かれてしまつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
然るに君、黒船以来毛唐の種が段々内地雑居を初めてから、人間様のなかでも眼色めいろの変つた奴が幅を利かしたが、俺達犬社会では毛唐だねらされてイヤモウ散三な目に遇つた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
何故高橋が、それから後、松永に對してれだけの親切を盡したか? それは今だに一つの不思議として私の胸に殘つてゐる。松永と高橋とは決して特別の親しいなかではなかつた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
本当ほんたうに困るぢやアないかね、わたし義理ぎりあるなかだから小言こごとへないが、たつた一人のにいさんを置去おきざりにしてかへつてるなんて……なに屹度きつと早晩いまにぶらりとかへつてるのがおちだらうが
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
社長の曽我とも知己しりあいなかでこの間の失敗しくじりを根に持ってよほど卑怯な申立てをしたものと見えて、始めは大分事が大げさであったのを、幸いに足立駅長が非常に人望家であったために
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
これ程自分の思つてゐるのに対しても、も少し情があつくなければならんのだ。或時などは実に水臭い事がある。今日の事なども随分ひどい話だ。これが互に愛してゐるなかの仕草だらうか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つけよきやうにしてくれられんと男泣をとこなきに泣ながら氣のどくさうに言けるにぞ女房にようばうのおやすうらめしげにをつと十兵衞の顏を見つゝ餘りの事になみだこぼさずたゞ俯向うつむいて居たりける茲に十兵衞夫婦がなかに二人の娘ありあね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところで周三が家庭に於ける立場である。自體じたい彼は子爵ししやく勝見家かつみけに生まれたのでは無い。成程ちゝ子爵ししやくは、彼のちちには違ないが、はは夫人ふじんは違ツたなかだ。彼は父子爵のめかけの]はらに出來た子で、所謂庶子しよしである。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
打捨て置かば女は必ず彼方此方の悲さに身を淵河にも沈めやせん、然無くも逼る憂さ辛さに終には病みて倒れやせん、御仏の道に入りたれば名の上のえにしは絶えたれど、血の聯続つらなりは絶えぬなか、親なり
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
烏麦からすむぎ繁つたなかの立ちばなし
植民地には人間の贋物にせものが多いやうに、骨董物にもいかさまな物が少くない。そんななかを掻き捜すやうにして馬越氏は二つ三つの掘出し物をした。
……片側かたかはならべて崖添がけぞひに、およそ一けんおきぐらゐに、なかめて、一二三堂ひふみだうふ、界隈かいわい活動寫眞くわつどうしやしんてた、道路安全だうろあんぜん瓦斯燈がすとうがすく/\ある。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あなたのやり方がまずいんですもの、深山さんとなかたがいなどしなくたってよかったのに……。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一寸ちょっとお前此処こゝへ来な……お梅はん、お繼が逃げたからう是までじゃア、詮事しょことがない、さアわしも最早命はない、お前も同罪じゃでなア、七兵衞さんはお前とわしなかを知って五十両金の無心
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを迷惑とも何とも思はないからこそ、世間を狭くするやうななかにも成りさ、又かう云ふ……なあ……訳なのぢやないか。それをうそにも水臭いなんていはれりや、俺だつてくやしいだらうぢやないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ひらいた書物のなかに突立つて
取結とりむすばせける夫より夫婦なかむつましく暮しけるが幾程いくほどもなく妻は懷妊くわいにんなし嘉傳次はほか家業なりはひもなき事なれば手跡しゆせきの指南なしかたは膏藥かうやくなどねりうりける月日早くも押移おしうつ十月とつき滿みちて頃は寶永二年いぬ三月十五日のこく安産あんざんし玉の如き男子出生しゆつしやうしける嘉傳次夫婦がよろこび大方ならずほどなく七夜しちやにも成りければ名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
西部戦線では敵味方の間に色々面白い事柄が起きるが、或日の事英軍と独軍との塹壕のなかにある空地に、一匹の牝牛めうしがひよつくり飛び出して来た。
聞きも果てず、満面に活気を帯びきたった竜田は、飜然ひらりと躍込み、二人のなかと立って、卓子テイブルに手をいたが、解けかかる毛糸の襟巻の端を背後うしろねて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部屋にはもう電燈がついて、その晩の食物たべものこしらえるために、お島は狭い台所にがしゃがしゃ働いていた。印判屋の婆さんとも、狎々なれなれしい口を利くようななかになっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こんなことでは世帯しよたいがもてないと、なかにたつて客をはゞみだしたのがむすこの桃華氏で、桃華氏が亡くなつてからは、その未亡人がこの役割を勤めてゐた。
これは卓子台ちゃぶだいせるとかった。でなくば、もう少しなかいてすわれば仔細しさいなかった。もとから芸妓げいしゃだと離れたろう。さき遊女おいらんは、身を寄せるのにれた。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辰之助の妹婿むこの山根がついこのごろまでおひろと深いなかであったことで、恋女房であった彼の結婚生活が幸福であった一面に、山根はよくおひろをつれて温泉へ行ったり
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「はい、寄付やらなにやらで、出版費はちやんとまとまつて調達出来てゐましたんでございますが、なかに立たれたお方に悪い人がございましてね……」
早瀬に過失あやまちをさすまいと思う己の目には、お前の影は彼奴あいつに魔がしているように見えたんだ。お前を悪魔だと思った、己はかたきだ。なかをせいたって処女きむすめじゃない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)