-
トップ
>
-
安産
なし夫より
國許へ歸れば間もなく
兩人の妻
安産なし金屋の
方は女子にて名をお
菊と呼び
井筒屋の
方は男子にて吉三郎と
名付互ひの
悦び大方ならず
豫て
約束の如く
夫婦にせんと末を
其年九月のはじめ
安産してしかも男子なりければ、
掌中に
珠を
得たる
心地にて
家内悦びいさみ、
産婦も
健に
肥立乳汁も一子に
余るほどなれば
小児も
肥太り
可賀名をつけて
千歳を
寿けり。
その
日も
暮れ
近く
旦那つりより
惠比須がほして
歸らるれば、
御新造も
續いて、
安産の
喜びに
送りの
車夫にまで
愛想よく、
今宵を
仕舞へば
又見舞ひまする、
明日は
早くに
妹共の
誰れなりとも