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安産
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あんざん
なし夫より
國許へ歸れば間もなく
兩人の妻
安産なし金屋の
方は女子にて名をお
菊と呼び
井筒屋の
方は男子にて吉三郎と
名付互ひの
悦び大方ならず
豫て
約束の如く
夫婦にせんと末を
其年九月のはじめ
安産してしかも男子なりければ、
掌中に
珠を
得たる
心地にて
家内悦びいさみ、
産婦も
健に
肥立乳汁も一子に
余るほどなれば
小児も
肥太り
可賀名をつけて
千歳を
寿けり。
その
日も
暮れ
近く
旦那つりより
惠比須がほして
歸らるれば、
御新造も
續いて、
安産の
喜びに
送りの
車夫にまで
愛想よく、
今宵を
仕舞へば
又見舞ひまする、
明日は
早くに
妹共の
誰れなりとも
致し候に
翌年三月
安産せしが其夜の中に
小兒は
相果娘も
血氣上りて是も其夜の
曉に死去致し候に付き
近邊の者共
寄集り相談するも
遠國者故
菩提所も
無依て私しの寺へ頼み
葬むり遣し候其後お三婆は
狂氣致し
若君樣を
ぞ
取結ばせける夫より夫婦
間も
睦しく暮しけるが
幾程もなく妻は
懷妊なし嘉傳次は
外に
家業もなき事なれば
手跡の指南なし
傍ら
膏藥など
煉て
賣ける月日早くも
押移り
十月滿て頃は寶永二年
戌三月十五日の
夜子の
刻に
安産し玉の如き男子
出生しける嘉傳次夫婦が
悦び大方ならず
程なく
七夜にも成りければ名を