みつ)” の例文
が、それで彼女の気がすむなら、それもよかろう。おれはおれでもう少しの時間、このみつのような眠りをむさぼれればそれでいいのだ。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
山の手ではからすうりの花が薄暮の垣根かきねに咲きそろっていつものの群れはいつものようにせわしくみつをせせっているのであった。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やゝしばらくすると大きな無花果の少年こどもほゝの上にちた。るからしてすみれいろつやゝかにみつのやうなかほりがして如何いかにも甘味うまさうである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蜂の腹は、甘いみつの袋である。砂糖などの味を知らない少年の舌には、天地にこんな美味うまい物があろうかと思われるのだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこの昆虫がよい加減かげんみつを吸うたうえは、頭に花粉をつけたままこの花をし去って他の花へ行く。そして同じく花中へ頭を突き込む。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
お前はもう既に、夫人のみつのような言葉に乗ぜられて、散々な目にあったではないか。再びお前は、夫人から何を求めようとしているのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして何とはなく倉地をじらしてじらしてじらし抜いたあげくに、その反動から来るみつのような歓語を思いきり味わいたい衝動に駆られていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「あなたがたに、さしあげやうと思つて、谷間へみつを取りに行きましたが、はちにめつかつて、ひどい目にあひました。」
泣き虫の小ぐまさん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
みつ、酒、胡椒こしょう、味の素、ソースのたぐいを巧みに注ぎかけねばならぬところの、ちょっと複雑な操作を必要とするものは、私は美佐子に調理を頼んだ。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
……菩提樹ぼだいじゅの花のお茶か、イチゴのみつのお酒を、ちょいとあがっているうちに、すぐ元どおりになってしまいますよ。
手が花のみつでべとべとしているので、彼女は洗面所へ行って蜜を洗い落して、二階でちょっと顔を直してから出た。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きんいろのりんごだの、みつのお菓子かしだの、おもちゃだの、それから、なん百とも知れないろうそくだので、それはそれは、きれいにかざられていたっけ。
彼等かれらむちうたれつゝおもむくものであつた。たゞそのむちさきに、すべてをやすあまみついてゐることさとつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、また始まったね」と、その監視人は言い、バタパンをみつつぼに浸した。「そんな質問には返答しないよ」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
あの眼のあをはちの群は野原ぢゅうをもうあちこちにちらばって一つ一つの小さなぼんぼりのやうな花から火でももらふやうにしてみつを集めて居りました。
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
するとやはり猿爺さんが約束した通りに、澄みきった冷たい水がき出していて、みつ氷砂糖こおりざとうと雪とを交まぜたような、何とも言えないおいしい味でした。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さては薄荷はっか菊の花まで今真盛まっさかりなるに、みつを吸わんと飛びきたはちの羽音どこやらに聞ゆるごとく、耳さえいらぬ事に迷ってはおろかなりとまぶたかたじ、掻巻かいまきこうべおおうに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
迎えにいってもいいとか、たっぷりみつをきかせた甘いような調子で、すらすらと饒舌り、もしよかったら三両の金を持って、呼出しにいってもいいが、と云った。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども、この表面はみつのように甘い私の言葉の裏には、悪辣老獪あくらつろうかいの下心が秘められていたのである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれどもそれは意地悪女のっぱいみつから成ってる声だった。「人形をいただかないのかい。」
る所は陰風常にめぐりて白日を見ず、行けども行けども無明むみよう長夜ちようや今に到るまで一千四百六十日、へども可懐なつかしき友のおもてを知らず、まじはれどもかつなさけみつより甘きを知らず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
みどりいよ/\こまやかにして、夏木立なつこだちふかところやまいうさとしづかに、しかいまさかりをんな白百合しらゆりはなはだへみつあらへば、清水しみづかみたけながく、眞珠しんじゆながれしづくして、小鮎こあゆかんざし宵月よひづきかげはしる。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いているはなしんなかから、みつおうと、おおきな、くろいはちがはななかへはいった。かれは、そのはちをいじめてやろうと、あゆって、ふいに四ほうから花弁はなびらじてしまった。
するとありみつかおりをしたって、がりくねったあなみちとおって、さきさきへとすすんでいくから、それについていともこちらのあなからこうのあなまでつきけてしまうようになるのだよ。
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
水をかすめて去来する岩燕いわつばめを眺めていると、あるいは山峡やまかい辛夷こぶしの下に、みつって飛びも出来ないあぶ羽音はおとを聞いていると、何とも云いようのない寂しさが突然彼を襲う事があった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おゝ、これが電光いなづまはれようか?……おゝ、戀人こひびとよ! 我妻わがつまよ! そなたいきみつつくした死神しにがみも、そなた艶麗あてやかさにはたいでか、その蒼白あをじろ旗影はたかげはなうて旗章はたじるしあざやこのくちびるこの兩頬りゃうほゝ
私の魂を平静に堅固に愉快になしてくれた音楽よ——私の愛でありさちである者よ——私は汝の純潔なる口に接吻せっぷんし、みつのごとき汝の髪に顔を埋め、汝のやさしいたなごころに燃ゆる眼瞼まぶたを押しあてる。
その者は窮貧の生活を営み、みつ十三ろうをやしないて渡世をなしおれりとぞ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
みつを一方の口の穴に塗っておき、ありの足に絹糸きぬいとをゆわえて、こっちの穴から入れてやれば、蜜のに引かれてきっといっぽうへ抜けて出る。その糸をだんだん太くすればよいと教えてくれた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なんて楽しいおまつりでしょう。ちょうちょうたちは木のまわりを大きなぼたん雪のようにとびまわって、つかれると白い花にとまり、おいしいみつをおなかいっぱいごちそうになるのでありました。
木の祭り (新字新仮名) / 新美南吉(著)
駿府の城ではお目見えをする前に、まず献上物が広縁ひろえんならべられた。人参にんじん六十きん白苧布しろあさぬの三十疋、みつ百斤、蜜蝋みつろう百斤の四色よいろである。江戸の将軍家への進物しんもつ十一色に比べるとはるかに略儀りゃくぎになっている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あなた様は人の世の恋人同志が、月の夜の木蔭に寄り添うて語り交す、みつのように甘い言葉をお聴きなされたことがおありですか。彼と彼女とは心臓に手を当て合うて、愛の誠を証すので御座います。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この山の中で林檎りんごを試植したら、地梨じなしの虫が上って花のみつを吸う為に、実らずに了った。これは細君が私達の食事する側へ来ての話だった。赤犬は廻って来て、生徒が投げてやる鳥の骨をシャブった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
持ちたまえ。だって、君、今のわれわれにゃ金はみつ以上だからね
酒の泉やみつの池があふれてるというのか?
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
甘くもくさ百合ゆりみつ、はた、もやぼかし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寒からぬ露や牡丹の花のみつ 同
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
瑠璃なすみつに酔うごと
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
屹度きつとみつ薔薇ばらの夢
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
パンとみつをめしあがり。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
みつにあらず
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
声のみ聞こえて、風呂の中にいる万太郎に、その姿は分りませんが、双方から寄って行ったらしい二人の話し声が、恋仲のようにみつでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、夫人から、みつのような甘い言葉を、幾度となく聴いた。彼は、夫人が自分を愛していて呉れることを、疑う余地は、少しもなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たくさんのたくさんの眼のあをはちの仲間が、日光のなかをぶんぶんぶんぶん飛び交ひながら、一つ一つの小さな桃いろの花に挨拶あいさつしてみつや香料をもらったり
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ハチみつのはいったお菓子かしや、おもちゃや、それから、何百っていうろうそくで、きれいにかざられていたよ!
今、ちょうが来て高雄蕊低花柱こうゆうずいていかちゅうの花に止まったとする。すなわちその長いくちばしをさっそく花に差し込んで、花底かていみつを吸う。その時そのくちばし高雄蕊こうゆうずいの花粉をつける。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼また曰く女子とは何ぞ。友愛の敵にあらずや。避くべからざる苦しみにあらずや、必然の害にあらずや、自然の誘惑にあらずや、みつに似たる毒にあらずや。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなものはみじんに無くなってしまっていた。倉地を得たらばどんな事でもする。どんな屈辱でもみつと思おう。倉地を自分ひとりに得さえすれば……。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ツミの対語は、ミツさ。みつの如く甘しだ。腹がへったなあ。何か食うものを持って来いよ」
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこで若者は、何の気もなく泉の水を一すくいして飲んでみますと、びっくりして眼を白黒させました。おいしいの何のって、みつ氷砂糖こおりさとうと雪とをまぜたようなたまらない味でした。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)