むら)” の例文
にわとりはたけさがしてあるいていたり、はとが地面じめんりてむらがってあそんでいたりしまして、まことにのどかな景色けしきでありました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
君のまはりには多くの騎馬武者むらがりて押しあふごとく、またその上には黄金こがねの中なる鷲風にたゞよふごとく見えたり 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
僕は夜は「百本杭」の河岸かしを歩いたかどうかは覚えてゐない。が、朝は何度もそこにむらがる釣師の連中を眺めに行つた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
菊坂の富五郎とその下っ引達、町役人まで顔を揃え、むらがる野次馬を追い散らしておりましたが、平次の顔を見ると、富五郎はホッとした様子です。
何者とばかり放す手を止め声のした方をきっと見ると、ひとむら茂った林の中から裸体はだかの壮漢が飛び出して来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガサガサ畳を撫で廻すような音を立てて、一同は、剣を取ってむらがり立ったが、しかし、大いに不思議である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人は松と桜と京人形のむらがるなかにい上がる。幕とつらなるそでの下をぐって、松の間を渡月橋に出た時、宗近君はまた甲野さんの袖をぐいと引いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
足も行かれぬ崖の上や巌の腹などに、一むら々々咲いて居るのが、山の春は今だ、と言はぬばかりである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
それで兵馬に縄をかけようとむらがって来た時に、その中から分別ありげな武士さむらいが一人出て来ました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十俵でも禄米のたかを取ろうというのが、ここにむらがれる藩の子弟の唯一の目的であるかに見えた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてわたしはいつもの場所へ出かけて、かこいのなわを回してしまうと、さっそく曲をひき始めた。見物はぞろぞろほうぼうから集まって来て、なわりの外にむらがった。
隣の大豆畑にむらがったカナブンの大軍が、大豆の葉をば食いつくして、今度は自家うちの畑に侵入しんにゅうした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船蟲ふなむしむらがつて往來わうらいけまはるのも、工場こうぢやう煙突えんとつけむりはるかにえるのも、洲崎すさきかよくるまおとがかたまつてひゞくのも、二日ふつかおき三日みつかきに思出おもひだしたやうに巡査じゆんさはひるのも
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はばひろ石段いしだん丹塗にぬり楼門ろうもんむらがるはとむれ、それからあのおおきなこぶだらけの銀杏いちょう老木ろうぼく……チラとこちらからのぞいた光景ありさまは、むかしとさしたる相違そういもないように見受みうけられました。
そのむらがりかさなってたおれた人の一ばん下になっていたために、からくもたすかって息をふきかえし、上部の人がすっかり黒やけになったのち、やっともぐり出たという人が二
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
百人町の一帯は、どの屋敷も、高さ五、六間もある杉丸太の先へ、杉の葉へ包んだ屋根を取り付けて、その下へとうろうを掲げてあることとて、さながらむらがるほしのように美しかった。
山の端に味鳬あぢむらさわぎ行くなれど吾は左夫思恵サブシエ君にしあらねば (巻四。四八六)
『さびし』の伝統 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そうすると思わず落日の美観をうることがある。日は富士の背に落ちんとしていまだまったく落ちず、富士の中腹にむらがる雲は黄金色に染まって、見るがうちにさまざまの形に変ずる。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いろいろ工面してその後につづけたのが文房具などを売る店であった。それまで村では近くの町まで行かねばそういう店がなかったので、村の子供たちは学校の行き帰りを店へむらがってきた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
其處で私は先頭になつて瀑の頭から崖頭にむらがる木の間を左に辛くも切り拔けて、左の小澤との間を下つて行く、傾斜は隨分急であつたが、しなやかな木の枝から枝へと傳ひ、笹の莖を握つて
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
事共なさず半四郎は力に任せて打合うちあへども死生知らずの雲助ども十七八人むらがり立此方は助る味方もなく只一人の事なれば大力無双の身なれども先刻せんこくよりの打合に今は勢根せいこん盡果つきはてたれば傍邊かたへあぜ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日の光みてすずしきむらぐさによき蟲のこゑのほそく立ちたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
深い深い疑惑の雲となって、むらがり立つのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むら鳥の三〇 が群れなば
二日ふつかめです。暴風ぼうふうしずまってしまうと、みなとじゅうにむらがっていたふねたちは、いつのまにか、おもおもいにいずこへとなくていってしまいました。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
物音はただ白薔薇しろばらむらがるはちの声が聞えるばかりです。白は平和な公園の空気に、しばらくはみにくい黒犬になった日ごろの悲しさも忘れていました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
菊坂の富五郎とその下つ引達、町役人まで顏を揃へ、むらがる彌次馬を追ひ散らして居りましたが、平次の顏を見ると、富五郎はホツトした樣子です。
文学者を国家の装飾のようにもてはやす西洋の事だから、ダヌンチオはその席にむらがるすべての人から多大の尊敬と愛嬌あいきょうをもって偉人のごとく取扱かわれた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東岸一帯は小高いおかをなしておのずから海風かいふうをよけ、幾多の人家は水のはたから上段かけて其かげむらがり、幾多の舟船は其蔭に息うて居る。余等は弁天社から燈台の方に上った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船虫ふなむしむらがって往来を駆けまわるのも、工場の煙突えんとつけむりはるかに見えるのも、洲崎すさきへ通う車の音がかたまって響くのも、二日おき三日置きに思出おもいだしたように巡査じゅんさが入るのも
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前後を照らす明りをうけた盛観は、むしろ夜行やぎょう鬼女きじょむらがりかとも凄かったのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにあのとき空模様そらもようあやしさ、赭黒あかぐろくもみねが、みぎからもひだりからも、もくもくとむらがりでて満天まんてんかさなり、四辺あたりはさながら真夜中まよなかのようなくらさにとざされたとおももなく
あの風車といっしょにうずらがおかの絵もかきたい——セン・テレーヌ寺の庭にむらがっていたせんたく女もえがきたい。それから川の水をよごれくさらせていた製革せいかく工場もかきたい——
さうしてとう/\、里らしい家むらの見える小高い岡の上に上つた時は、も著物も裂けちぎれて居た。空には夕月が光りを増して来てゐる。嬢子はさくり上げて来る感情を声に出した。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
捕へしやとぶ如くに馳戻はせもどむらがる中へ切入ど彼方は名におふあれくれども手に/\息杖棒いきづゑぼうちぎり打合ふ折から又四五人どてかげよりあらはいで疊んで仕舞へとのゝしり前後左右を追取卷打込棒は雨よりしげく多勢を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日の光みてすずしきむらぐさによき虫のこゑのほそく立ちたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かぎろひの一〇 燃ゆる家むら
ところが、そのむらがったなかから、したように、ぽつ、ぽつと、まちをはなれて、いくつかずつさびしい野原のはらの一ぽうっていくのでした。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
伝吉は短い沈黙のあいだにいろいろの感情のむらがるのを感じた。嫌悪けんお憐憫れんびん侮蔑ぶべつ、恐怖、——そう云う感情の高低こうていいたずらに彼の太刀先たちさきにぶらせる役に立つばかりだった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
源吉の鹽辛しほから聲を聞くと、お菊の死骸にはへのやうにむらがつた彌次馬は、一ぺんにパツと飛散ります。
どうかもう一遍将軍の顔が見たいものだと延び上ったが駄目だ。ただ場外にむらがる数万の市民が有らん限りのときを作って停車場の硝子窓ガラスまどれるほどに響くのみである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そののち白に関する甲州だよりは此様な事を報じた。笛吹川ふえふきがわ未曾有みそうの出水で桃林橋が落ちた。防水護岸の為一村いっそんの男総出で堤防にむらがって居ると、川向うの堤に白いものゝ影が見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたしは二つの道の一つをえらばなければならなかった。わたしはフォンテンブローへの道を選んだ。リュウ・ムッフタールの通りへ来かかると、山のような記憶きおくむらがって起こった。
むらがっていた人数が二ツに割れた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっしょにむらがってゆくのです。たかく、たかく、そらけてゆくのです。人間にんげんおそろしいから、人間にんげんにつかないように、らえられないようにをつけるのです。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
疊屋の裏木戸を入つて、むらがる彌次馬を掻き分けるやうに井戸端へ近づくと、井戸と物置の間の朝顏の垣根の中に、疊屋の息子の駒次郎が、あけに染んで倒れて居るのでした。
宗助そうすけはまたかんがはじめた。すると、すぐいろのあるもの、かたちのあるものがあたまなかとほした。ぞろ/\とむらがるありごとくにうごいてく、あとからまたぞろ/\とむらがるありごとくにあらはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助はすぐ風呂場へ行つて水をびた。朝飯あさめしはずに只紅茶を一杯飲んだ。新聞を見たが、殆んど何がいてあるかわからなかつた。読むに従つて、んだ事がむらがつて消えてつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
べつちゃわんへかけごえ一つでうつしたりして、むらがるひとたちにみせていました。
春風の吹く町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みんなの希望きぼうまで、自分じぶん生命せいめいなか宿やどして、大空おおぞらたかえだひろげて、幾万いくまんとなくむらがったの一つ一つに日光にっこうびなければならないとおもいましたが、それはまだとおいことでありました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)